26 妊娠
来年の春には、佐織に弟か妹が出来る。
母親から妊娠したと聞かされたのは、一週間ほど前のことだった。病院から帰った
母親が頬を紅潮させながら話してくれた。
「こういうときは女の子が頼りになるわ」
母親に頼られる存在になって、佐織は誇らしかった。それ以来、家の雰囲気が変わ
った。ママは子供のことが負担になっていたのだ。妊娠して明るくなった。
主婦が明るく振る舞えば、その家は明るくなる。それだけではない、ピリピリとし
ていた佐織に対する視線まで柔らかく感じられるのだ。
佐織は、背後に感じていた母親の監視や、お仕置きの恐怖から解放された。
純と佐織はスポーツセンターに入り浸りだった。なにしろ、教育センターの方では
受講する講義がもはやないのである。
二人とも、言い訳のように一時間ずつ講義を残しているが、追い出されるのは時間
の問題なのだ。
上のクラスに進むことは嬉しいことなのだが、純と佐織は進む先が違うのだ。専門
コースに進学すれば、多少なりともお金がかかる。
選ぶ先で、その金額は大きく違ってくる。佐織の進みたいところは、経済的に純の
家庭では進学させられない。
お互いに、その事が分かっているだけに、その話題を避けている。そして、いつま
でも惰性でスポーツセンターに通い続けているのだ。
特別に筋力トレーニングをしているわけではないが、二人の体はアマゾネスのよう
に筋肉がついていた。
「そろそろ卒業したらって、ママに言われたよ」
純が横を向きながら、何気なくつぶやいた。
「無理ないわね。同じようなことをママも言うわ」
「これ以上引き延ばすのは無理かな。受講しちゃおうか」
「そうね、自動的にカードが更新されて、此処に来る意味はなくなるのね」
「こういうのを、年貢の納め時、って言うんだろうね」
「今日、受講しちゃおうか」
「ああ、それが駄目なんだ。明日にして」
「いいわよ純、午後は何かあるの?」
「ほら、あの有名になった所長さんが家に来るんだって」
「あの、矯正施設の・・・なぜ?」
「えぇ、何だか知らないけどさ、純に表彰状をくれるんだって」
「すごいじゃない。今度の事件の功労者ね」
「そんなのこじつけだよ。誤認逮捕の謝罪のつもりなのよ。でも、表彰状じゃね」
「それだけ、当然、金一封があるんじゃない」
「本当! いくら?」
「知らないわよ。でも、お役所だからね、お小遣い程度かな」
「なあんだ、でもいいや、二人で遊んじゃおう」
「純のおごりだよ」
「賞金の範囲内でね」
二人は笑いながら食堂を出て家に向かった。
佐織が家に戻ると母親がニコニコと出迎えた。
「純ちゃん表彰されるんですってね。良かったわね」
「なんだ、ママ知っていたのか」
「お母様からメイルをいただいたの。副賞もあるんですって」
「うん、金一封が出たら奢りなさいって言っといたわ」
「そんな小さなものではなさそうよ」
「へえ、あいつ何やったんだ」
「佐織、言葉遣いが悪いのね」
「ごめんなさ・・・」
「この次はお尻から教えますよ」
「はい、気をつけます・・・」
佐織は慌てて自分の部屋に逃げ帰った。
純の誤認逮捕事件は思わぬ方向に進んだのだ、勉強を教えてもらっていたお姉さん
は、麻薬密売組織の青年部幹部の恋人だった。
その幹部も逮捕され、次々と芋ずる式に組織が解明され、全世界規模の麻薬密売組
織が壊滅させられたのだ。密造工場は国連軍によって破壊され、今世紀最大の成果と
して報道もされた。
その、きっかけを作った矯正施設の所長は、国連の大会に招待され称賛を浴びた。
ニュースが流れたとき、純はこう言った。
「この人、友達なんだ。見所のあるやつだと思っていたよ」
誰もが、純の大風呂敷だと思っていた。
「佐織、ニュースが始まるわよテレビ見なさい」
何のニュース?・・・佐織は首を傾げながら立体テレビのスイッチを入れた。
いきなり、純がそこに立っていた。
「・・・・・従って、真の功労者は、この若いお嬢さんなんです。私を励まし、叱咤
激励して今回の麻薬組織壊滅作戦に駆り立ててくれたのです・・・」
佐織は呆然と見ているしかなかった。こんな大きなニュースだったとは・・・であ
る。
賞状が渡され、副賞の説明になった。
「今回の功労に対して、政府は生涯教育の無料パスを副賞として贈ります」
小さな包みが所長から純に手渡された。生涯教育の無料パス・・・
脇から邪魔なレポーターが出てきたのを機会に、佐織は母親の部屋に走った。
「すごいね純・・・」
「良かったわね、これからも同じキャンパスで勉強できるわ」
「そういうことなの?」
「望むなら、何処にでも行けるパスよ。素敵なプレゼントね」
「明日、受講しようって純と話していたんだ。これで、しばらくお別れかと思ってい
たのに・・・良かった・・・」
「おめでとうのメールを出したら?」
佐織はうなずいて自分の部屋に戻った。
メールを書きながら明日は大変なことになると思った。
佐織の予想通り、純は何処でも称賛の的だった。友達は無論のこと、知らない子ま
で声をかけてきた。
「スターだね。私は護衛役」
「どこか静かなところに行こうよ」
結局、二人はスポーツクラブのロッカールームに逃げ込んだ。午前中の教科が始ま
ったばかりなので誰もいない。
「ふうう、どうする佐織、着替える?」
「今からじゃね・・・でも、このままの格好で此処にいるのは変よ、取りあえず着替
えておこうよ」
いつもと同じように、空いたロッカーを捜して着替えを始めた。
トレーナーを穿くために佐織が前屈みになったとき、純がピシャッとお尻を叩い
た。
「何するの! 痛いじゃない」
「最近、叩かれてないでしょ」
「うん、ママ赤ちゃんが出来たら急に優しくなったからね。でも、昨日は言葉遣いが
乱暴だって叱られた。この次はお尻だって」
「あたしもね、誤認逮捕だの表彰だのとママを驚かせているからさ、お仕置きの事な
んて頭にないらしいよ。これ以上驚かさないでって言われた」
「表彰されたんだもの、当分はお仕置き免除だよ」
「それほど甘くはないけどね」
着替えを終えた純が、佐織の体を後ろから抱きしめた。
「あぁぁ純・・・此処は危険よ」
ロッカーは一直線に並んでいる。見通しがよく、隠れ場所がない。
「チアガールの部屋が空いているわ」
「戻ってきたらどうするのよ」
「昨日から遠征。訓練だから新入りも全員行っているわ」
「だって、鍵が閉まっているでしょ」
「試してみる価値はあるわ」
純は、さっさと歩いていった。ハンドルに手をかけると扉は音もなく開いた。内部
は掃除が行き届いて磨き上げられていた。戸棚やロッカーには厳重に鍵がかけられて
いたが、椅子もテーブルもあった。
「初めて中に入ったわ・・・」
「そりゃそうよ、チアガールの資格なしには入れない部屋ですものね」
「見つかったら大変よ・・・」
「大丈夫、チアガールはいないのよ」
「でも、他の生徒に見られたら告げ口されるでしょ」
「見つからない。この部屋を覗く人なんていないもの。誰かが戻ったら、居なくなる
まで此処にいればいいの」
上級生用の奥の部屋にはベッドもあった。シーツや毛布はないが、マットレスはそ
のままだった。たしかに、純の言うとおり、此処まで覗きに来る生徒は居ない。
二人はベッドの上で絡み合い、お互いの手がトレーナーの中に忍び込んでいた。純
の口が佐織の口をふさいだ。
かすかに、ベッドがきしんで音を立てていた。何度かロッカールームで音がして、
その度に二人はビクッと体を緊張させたが、やがて、足音は遠ざかって行くのだ。
二人は、次第に大胆になっていった。すでに、トレーナーのパンツは膝のところま
で下がっていて、おしゃれパンティーもお互いに脱がせてしまっていた。キュッと締
まった佐織の筋肉質のお尻には鞭跡ひとつなかった。
「あーらら、何しているのかな?」
佐織と純は飛び上がった。
奥の部屋の戸口にアンジェラ・クラドックが腕を組んで立っていた。
誰も来ないと思いこんでいた二人の格好は、現場を押さえたアンジェラでさえ頬を
紅潮させていた。
佐織と純は首の付け根まで真っ赤に染め、パンティーを引き上げ、ベッドから降り
てトレーナーを穿いた。
「さっき、更衣室の方に降りて行く二人を見たのよ。純に、おめでとうを言いたかっ
たから待っていたの。それなのに、いつまで経っても来ない、ちょっと気になって見
に来たら・・・」
「ごめんなさい、アンジェラさん、もう・・・こんなこと・・・」
「お願い、もう二度としませんから・・・」
「見つかるとまずいから、とにかく出なさい!」
アンジェラは二人を外に連れ出した。
「もう、二度としない? 何を・・・、チアガールの部屋に入ったこと? それと
も、国家が禁じているレズ行為のこと? 私にどんな権限があると思っているの!
見たことを報告しなかったら、苦労して得た一切の権利が消滅するのよ。ああ、見な
ければ良かった・・・」
「ごめんなさい・・・」
さすがに佐織も青くなった。純も唇を震わせ、うつむいてしまった。
アンジェラの目が、キラッと光った。
「もし、私が正直に報告したらどうなる? マッチョな体育教師による鞭打ち、当
然、予告して、公開されるでしょうね」
それが、アンジェラの脅しでないことは二人とも良く承知していた。
「そんなことで、私が同情すると思ったら大間違いよ。悪いことしたんだからお仕置
きは当然なんですからね。思い切り痛い目に遭えばいいんだわ」
多分、今日から拘束され、家には帰れないだろう。両親が呼び出され、懲罰は、明
日か明後日に行われるだろう。尻打ち台に縛り付けられて・・・
佐織も純も、そういう光景を何度か見たことがある。自分達とは無縁のことと思っ
ていた。それが、いきなり現実になった。
想像が膨らむと、体が震えだした。カチカチと歯が鳴った。
「明日になれば、チアガールも遠征訓練から戻るわ。自分達の部屋が汚されたと知っ
たら・・・この部屋の前で、腫れ上がったお尻を剥き出しにされて一日中立たされる
でしょうね」
それも、あり得ることだった。佐織と純が、ほとんど同時に両手で前を押さえた。
恐怖でお漏らしをしたらしい。
アンジェラは笑いをかみ殺していた。
『まだ子供なんだ・・・』
「それも結構、思い切り恥ずかしい目に遭えばいいのよ。チアガールのお姉さん達が
出入りするたびにお尻を抓ってくれるわ。涙が枯れるまで泣けばいいのよ。そんなこ
と、私・・・気にしないけど・・・」
アンジェラはこれからの展開を考えていた。この二人の運命は、私が握っているの
だ。そう思うと胸がドキドキするほど興奮した。
「おまえ達のお尻がどうなろうと、気にはしない、でも・・・それだけじゃ済まない
のよ。わかっているの!」
アンジェラはたっぷりと間を取り、ポツリとつぶやいた。
「純のご褒美も取り上げられるでしょうね」
その言葉に、二人はハッとなって顔を上げた。
「事情は分かっているわ。同じところに進学するはずだったんでしょ」
その言葉の重さに、純は呆然としていた。
「お願い! アンジェラ、どんな罰でも受けます。だから、報告しないで」
佐織が真剣な顔でアンジェラに迫った。
「佐織、自分の言っていることが分かっているの? それは、私に規則違反をしろと
言うことなのよ」
佐織も純も、両手で顔を覆い泣き出してしまった。アンジェラは深刻な顔をしなが
ら楽しんでいた。
生徒のミスをすべて報告するわけではない。むしろアンジェラは生徒を規則で縛る
ことを嫌っていたのだ。でも、今日は違う。お気に入りの二人が自分の掌中にある。
このチャンスを逃すなんて・・・
「私も苦労して勉強しているから、純の仕合わせを奪い取るようなことはしたくな
い、でも・・・・」
「お願いアンジェラ、秘密は守ります。もちろん純も。三人が黙っていれば絶対に分
からないことでしょ。お願い! 罰はアンジェラさんから受けます。それで許してく
ださい」
「少し、考える時間をちょうだい。あなた達はシャワーを浴びていらっしゃい。トレ
ーナーのお尻、濡れているわよ」
再び、頬を染めた二人を残してアンジェラは階段を上っていった。
このチャンスを最大に楽しむには、それなりの準備が必要なのだ。何が出来るか、
どうすればよいのか、アンジェラは指導員事務所に戻った。
まず、自分のスケジュール、それから・・・・
アンジェラは自分のコンピューターでこの地域の教育施設総合案内を呼び出した。
そして、懲罰室の情報を読み込んだ。
どの施設にも当然のように懲罰室は設置されている。このスポーツセンターにも大
小6室の懲罰室がある。
ただ、スポーツセンターの場合、休日でも一部の施設が開放されるため、無人にな
ると言うことがない。図書館も年中無休・・・メインの教育施設も講師の都合でどこ
かの教室が使用されている確率が高い。
アンジェラが探しているのはメインの教室ではない・・・
「あった。ここよ・・・生涯教育、ホビー館。ええと・・・休日は・・・・で、使用
許可は、事務局で・・・でも、懲罰室なんてあるのかな?」
対象は大半が大人であるため、アンジェラは懲罰室の存在が気になった。しかし、
懲罰室はあった。
そう言えば、アンジェラも子供の頃に一度だけ、お菓子作りの教室に行ったことが
ある。子供が集まるところなら、懲罰室があって当然なのだ。
一番小さな教室の使用願いをメイルで送ると、五分もしないうちに承諾の返事が来
た。スポーツセンター補助指導員の名前で堂々と申し込んだ。
マスターキーの受け渡しには、こちらから取りに行くと答えておいた。
アンジェラは大急ぎで書類を作った。その書類は佐織と純が犯した罪を克明に記録
した物だった。三枚複写を作り、事務所を出た。
待っていた二人に書類を読ませ、有無を言わせずにサインさせた。
「もし、甘いことを考えていたら、この書類を提出しますからね」
その書類が、二人の罪を認めると同時に、アンジェラの罪も告発していることまで
考えは及ばなかった。
アンジェラは三日後にホビー館に来るように命じた。
「着替えを用意して来るのよ。たっぷりお仕置きしてあげるから覚悟しておきなさ
い」
佐織と純はうんざりした顔でスポーツセンターを後にした。
「アンジェラは本気だと思う?」
「そんなに酷いことはしないと思うけど・・・甘いかなぁ」
「佐織にはコンプレックス感じているんだよ」
「なんで私に?」
「お嬢様には分からないよ。でも、私には分かる。アンジェラは私にはすごく親切だ
った。でも、今度の賞で私も佐織と同じ嫉妬の対象になった。もし、私がスポーツを
選考して資格を取れば、将来スポーツセンターに戻るとアンジェラの上司になってし
まう。そういうことなのよ」
「だって、そんなこと私の責任なの?」
「佐織は・・・違うけど・・・でも、そう感じても仕方ないのよ。今度のお仕置きは
きついと思うよ・・・」
一時間だけ残していた講義は同時に受けた。当たり前のことだが、受講後にカード
を差し込むと新しいカードが出てきた。
このカードはもうここの教育センターでは使えないのだ。
「なんだか寂しいね」
「でも、新しいキャンパスに行ける」
「そうだね、前向きに考えないとね」
「明日、憂鬱だね」
「うん、家では絶対に良い子にしていないとね。ダブルでやられたらたまんないよ」
「お互いに気をつけましょう。明日、遅刻なんてしないでね」
「OK,バイバイ」
この日、アンジェラはマスターキーを受け取るためにホビー館に来ていた。鍵は配
送もしてくれるのだが、アンジェラは現場を見ておきたかったのだ。この館は、旧時
代に建てられた建物で、個人の屋敷だったらしい。
受付で名前を告げると鍵は用意してあった。
「帰るときに鍵を閉めたらこのマスターキーのカードは持ち帰って下さい」
「持ち帰るんですか?」
「特別な暗証が記憶されていますから、使えるのは明日一日だけなのです。でも、途
中で捨てたりすると深夜までは有効時間ですから、事故のおそれがあるんです。つま
り、深夜12時までは貴方の責任」
「ああ、そう言うことですか。分かりました責任を持ってお預かりします」
アンジェラはキーを預かり、施設の見学を申し出ると、何処でも自由にご覧下さい
と言って、簡単な図面をくれた。
「申し込まれた教室以外、必要なら談話室、休憩室、食堂、あるいは懲罰室などお使
いいただいて結構です。使い終わったら、必ず施錠して下さい。あとは常識の範囲内
で・・・」
「ありがとうございます」
アンジェラは廊下に出ると図面を広げた。借りた教室はN-3、小さな教室を選んだ
ので、北側の一番はずれだった。しかし、図面を見るとその真下の地下室に懲罰室が
あるのだ。
アンジェラは取りあえず借りた教室を見て、すぐに階段を下りた。薄暗い廊下に面
して、分厚いドアがあり、『懲罰室』と書いてあった。
ドアの脇のランプが赤く灯り、使用中であることを知らせていた。
アンジェラは一瞬ためらったが、駄目で元々とドアをノックした。
応答があってからしばらくしてドアが細めに開いた。
「何でしょう?」
「実は、私はスポーツセンターで補助指導員をしておりますが、まだ勉強中で、こち
らのようにヴェテランの指導者の居る施設で勉強させていただいています。もし、お
邪魔でなければ見学させていただきたいのですが」
ヴェテラン指導員と言われた女は、満更でもなさそうな顔でアンジェラを上から下
まで観察した。
「そうね、若いお嬢さんだし、いいでしょう」
「ありがとうございます」
「一応、その前に身分証を見せて下さい」
嘘をつかなくて良かった、アンジェラは身分証を提示した。
初老の指導員に促されて中に入ったアンジェラは、その部屋の様子に目を見張っ
た。
「これが・・・懲罰室! 古代の牢獄みたい」
「ふふふ、古代は大袈裟ね。まあ、古いことは古いけど、中世以降、近代になっても
こういう造りの部屋はあったのですよ」
アンジェラが見ているのは、1800年代の旧家の折檻部屋なのだ。下男や女中、時に
はお屋敷の子供達もこの部屋に連れてこられたのだろう。
様々な懲罰具が装飾品のように飾られていた。
部屋の中央に重厚な木で出来た椅子が置かれ、その椅子に若い女が座っていた。年
齢はアンジェラよりも上だろう。
「あなたは・・・そうね、そこのベンチにでも掛けていて下さい」
指示されたベンチにアンジェラが腰を掛けると、何事もなかったように指導員は最
前の続きを始めた。
「つまり、貴方はこういう施設を利用して怠け放題に怠けている。遊ぶための口実に
受講しているだけじゃないですか! 何を学んでも、何一つ身に付かない。叱られる
と別の講座に変わってしまう。その履歴がこれなんですね」
指導員は書類の束を振り上げていた。
「この一週間の行動記録があります。これは、ご両親に報告した書類のコピーです」
指導員がそう言うと、若い女は鼻にしわを寄せうんざりしたような顔をした。
「矯正施設に行きたいのですか!」
その言葉に、若い女は、ふふんと鼻で笑った。
一体、どういう神経なのかしら? そんなにアバズレには見えないけど、この落ち
着きは何なの? アンジェラの頭は混乱していた。
「今までに、施設の話は何度もあったそうですね。でも、ご両親の承諾が得られなか
った。しかし、今回は違うのですよ。これをご覧なさい」
指導員が渡した一枚の紙を若い女は読んだ。読んでいる途中で手が震えだした。読
み終わると、その紙を破り捨てた。
「嘘よ! こんなの嘘に決まっているわ!」
「もう一枚あるけど、破きますか? どうせコピーですから何度でも破いていいの
よ。選択肢は二つ。このまま施設につれて行くか、ここで、もう一度チャンスを与え
るために必要な懲罰を行うか。私の、個人的な意見では、施設に行った方がよいと思
います。単なる懲罰ではなしに、生活の基礎訓練が必要だと思うからです。ここで
は、そこまでは出来ませんからね。ご両親もそれを望んでいるのですよ。ね、行きま
しょう」
「嫌だ! 私に触らないで! 施設なんて絶対に行きませんからね」
初老の指導員ではちょっと無理かしら、若い女が猛烈に暴れ出した。アンジェラが
腰を浮かしたとき、指導員の手が若い女の腕に掛かった。
その様子を見て、アンジェラは笑みを浮かべ座り直した。
腕の掴み方を見ただけで、体術の有段者だと分かる。あっという間に後ろ手錠がか
「時々、こういう手に負えない我が儘さんがいるの。もっとも、その責任の大半は両
親にあるんですけどね。原因は甘やかしですから治療は簡単なのよ。有無をいわせず
に施設で再教育していただいた方がよいのだけど、私とは以前からの知り合いで、今
度だけは私に任せるって、そう言うもんですからね・・・」
穏やかに話しているようだが、話しながら娘の体から衣服をはぎ取っていた。脱が
せるのではない。切り取ってしまうのだ。いささか乱暴だが、両腕が拘束されている
ので仕方がない。その間、若い女は声を限りに叫び続けていたのだ。スキンガードは
着用しているのだろうが、訓育用の下着は身につけていなかった。甘やかされている
子はみんなそうだ。
アンジェラがその事をいうと、指導員は笑いながらうなずいた。
「でも、ここを出るときは着せてしまうのよ。新しい訓育用の下着が両親から届けら
れているの。新しい機能が追加されて、両親が設定した場所以外の方向に行こうとす
ると警告が発せられ、それを無視すると鞭で叩かれるんですって。つまり、家とここ
を往復していれば問題は起こらないけど、寄り道したり遊びに行ったりは出来なくな
るわけよ」
「ふう、どんどん進むんですね。早く卒業して良かった」
「あら、あなたもう訓育用の下着はつけていないの?」
突然訊かれ、アンジェラは顔を赤らめてしまった。
「私、スポーツが専門ですからね。多分、父親でもコントロール出来ないでしょう。
当然、母親は体力で私を支配することは出来ないんです。だから、もう必要ないの
に・・・」
指導員はニコニコ笑いながら自分の仕事を進めていた。小部屋から器具を持ってき
た、その器具を見てアンジェラが腰を上げた。
「お手伝いしましょうか?」
「そうね、お願いします。暴れると危険ですから」
器具はかなり古い型の浣腸器だった。この部屋の備品で、いつも小部屋に置いてあ
るらしい。アンジエラはその事を記憶した。
二人が会話している間も、縛られた娘は不平不満を叫び続けていた。
厳しい懲罰を行う前に浣腸することは、どこでもやることなのだ。それなのに、こ
の娘は、『病気でもないのに、何故そんなことをするの!』と叫んでいる。つまり、
今までこういう処置すらされたことがないのだ。
足を蹴り上げ抵抗した。
「足を縛ってしまいましょうか?」
アンジェラがそう言うと指導員はうなずいて一本の棒をアンジェラに渡した。その
棒の両端には革ひもが付いていた。
二人で、同時に足首を掴み、思い切り広げると棒の先端の革ひもに縛ってしまっ
た。その頃から、娘の怒りの叫びが、涙声に変わっていった。
「嫌だぁ〜やめてぇ〜家に帰して、パパ、ママ、助けて〜」
「生意気そうな顔をしていても、結局、これがこの子の本質なのよ。可哀想と言えば
可哀想なんですけどね。浣腸できる? そう、じゃあお願いします。私は導尿します
から」
その言葉で、娘は最後の抵抗をした。と言っても出来るのは大きく腰を振ることぐ
らいだったが・・・
指導員が腰を抱えお尻を叩いた。なんと、スナップの効いた手慣れた叩き方である
ことか、お仕置きには慣れているアンジェラが舌を巻いた。しかも、スキンガードを
着用したお尻を素手で叩いている。
「手が痛くないですか?」
それには答えず、チラッと手の平を見せた。
「ヒィィイ痛い! やめて! ああっ、痛いよぉ」
「素直に出来ますか? 暴れない? 約束できる?」
娘はヒイヒイ泣きながら、もう暴れないと約束した。お尻からは湯気が出るほど赤
くなっていた。
何事もなかったように指導員はアンジェラをうながし、自分も作業を進めた。
古い型といっても、やることは同じ、アンジェラはカテーテルを娘の肛門に挿し込
んだ。中間に丸い玉がある。多分、そこまで挿せば良いのだろう。
アンジエラは薬液の注入を始め、カテーテルを手で支えていた。
細い導尿管から尿が流れ出て透明の瓶にたまって行く。
「あら、この器具を使うのは初めて?」
「はい、何か間違っていましたか?」
「間違いじゃないけど、こうするのよ」
指導員はアンジェラの支えていたカテーテルに手を添え、丸い玉を娘の肛門に押し
込んでしまった。
「時間がかかるから、手で持っていなくていいの」
最近開発された薬液なら、注入は数秒で終わる。この薬液は穏やかな効き目で、そ
のために大量に注入するのだという。
「最近は使うことも少ないけど、以前はこういうお仕置きがあったんですよ。娘に
は、時として鞭よりも辛いわ」
これも使える。アンジェラは心の中でつぶやいていた。思いがけない状況にアンジ
ェラは興奮していた。
置いてある奇妙な器具について、あれこれと質問した。三角の木馬のような器具は
何かで見た記憶がある。
「これは跨らせてお尻を叩く器具ですね」
「ええそうよ、いずれあの娘もこの器具でお仕置きされるわ」
「隣の小部屋も見学していいですか」
「ええ、どうぞお入りなさい」
そこは、医務室のように出来ていた。本来なら、浣腸はこの部屋で行うのだろう。
奥のトイレに扉は無かったが、近代的な設備に変えられていた。
小部屋のドアが閉じた。アンジェラが振り向くと、厳しい顔の指導員が目の前に立
っていた。
「アンジェラといいましたね。スカートを捲って、前に手を着きなさい」
「えっ・・・なぜ?」
「言われたとおりにしなさい。早く!」
抗しがたい威厳があった。アンジェラは仕方なく言われたとおりにした。
「足を開きなさい」
アンジェラが足を開くと指導員の手が股間に伸びた。アンジェラは唇を噛み顔を真
っ赤に染めた。興奮して濡らしていることは自分でも知っていた。
指導員はパンティーを脱がせると、あの手で思い切りアンジェラのお尻を叩いた。
「自分で言うとおり未熟ね。恥ずかしくないの」
「ごめんなさい、いつもは十歳前後の子供が担当で、大人の女のお仕置きなんて初め
ての経験でしたから・・・自分自身のお仕置きを想像して、すごく恥ずかしくなりま
した。それで・・・」
半分は本当で、半分は嘘だったが、素直な告白が指導員の気持ちを和らげたよう
だ。
「まあ、若いから仕方ないけど。興奮すると感情的になりますからね。いくらスキン
ガードを着用しているからと言って、やりすぎは危険です。子供を担当しているな
ら、なおさらですよ。可哀想だけど、少し興奮を冷ましてあげましょうね」
もう、とっくに冷めています。そう言いたかったが、許される状況ではなかった。
指導員の手にはすでにケインが握られていた。
床に手を着くように命じられ、アンジェラのお尻は思い切り突きだした。
こんなポーズでお仕置きされるのは久しぶりのことだ。
ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ!
歯を食いしばり、悲鳴だけは漏らさないようにしたが、焼け付くような痛さが全身
を駆けめぐっていた。
一瞬、間を空けてアンジェラに深呼吸する時間を与えた。お仕置きはまだ続くらし
い。アンジェラの呼吸が整うと再びケインがお尻にあてがわれた。
アンジェラは目を閉じて次の打擲を覚悟した。
ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ!
「あっ、あっ、あぁぁぁぁ・・・・・」
耐えきれずに声が漏れた。目頭にジワッと涙が浮かんだ。床に着いた手がガクガク
と震え、今にも立ち上がって逃げ出しそうになった。
「さすがに強いのね。素直にお尻が出せたから、これくらいにしておきます。立ちな
さい」
立つときが、又、痛い。思わず両手がお尻を掴んでしまう。
「汚したパンティーは燃焼シューターに入れてしまいなさい。家に帰るまではこれを
着用するのよ」
渡されたのは、使い捨てのオムツだった。アンジェラは黙って受け取り、それを身
につけた。あて布を前に回して留めた時、それまでこらえていた涙が、ポロッと頬に
流れた。
「意地悪なお婆ちゃんね」
指導員はそう言って優しくアンジェラを抱いてくれた。アンジェラはその肩に顔を
埋めて泣いた。
「さあ、そろそろ時間だわ。顔を拭いて、落ち着いたらお手伝いしてくださいね」
「はい、ありがとうございます。興奮するなんて、未熟ですね」
「若いから、体が反応してしまう。でも、理性で押さえ込むんです。意志を強くお持
ちなさい。貴方なら出来ます。さて、外にいる困った子を訓育するのは一仕事だわ」
「これから、訓練するんですか?」
「いいえ、今日だけではとても無理だわ。眠らせて、自宅の地下室につれて行きま
す。せめて一週間は訓練しないと・・・」
「自宅の! あっ、貴方はその資格をお持ちなんですね」
自宅に訓育施設を持っていると言うことは、国家が認定したスペシャリストである
ことを意味していた。その存在は知っていたが、会うのは初めてだった。
「この地区には、まだ三人しか居ません。とてもそれでは足りないのです。貴方のよ
うな若い人が挑戦してくれると良いのですが」
「ああ、私なんて、とても無理です。多少、運動が出来ますから、それで補助教員に
していただいているんですもの」
「教員資格とは別の資質です。貴方にはその資格があると私は思います。もし、その
気になったら私のところに来なさい、お手伝いしますよ」
「ああ、本当ですか。でも、今の勉強と両立できるでしょうか?」
「それは問題ありません。これは手を取って教えることではないからです。このコー
スに入ると、貴方の行動はすべて記録されます。なにが正しく、何が間違っていた
か、厳しく指導されるのです。すべての行動を監視される、それは、息苦しく感じる
こともあります。しかも、間違った行動は鞭で矯正されます。自分に厳しくなければ
成功は望めません」
「はい、分かりました。覚悟が出来たら、お訪ねします」
「貴方はきっと来ます。待っていますよ」
我が儘娘は、全身から脂汗を流していた。器具が外されると、医務室の便器に跨っ
トイレはそのままシャワールームになっていて、娘は全身をシャワーで洗われた。
トイレの器具もビショビショに濡れていたが、温風があっという間に乾燥させた。
呆然と立ちすくむ娘を、処置ベッドに寝かせると、手早く肛門から座薬を挿入し
た。睡眠薬である。
裸のまま円形の車付きバッグに詰め込まれた娘は、もう夢の世界だった。アンジェ
ラはそのバッグを押して、指導員の後に続いた。
リフトでもう一階下まで降りると、そこは駐車場だった。その車には、このバッグ
を収納するスペースが設置されていた。
「ありがとう。期待していますよ。送りましょうか?」
「いえ、あそこに私の車があります」
「あら、可愛い車ね」
「自分が移動するだけで、何も積めないんですよ。積みすぎると高速エリアに入れな
いんです」
指導員は軽く手を振って自分の車に乗り込んだ。アンジェラもすぐに自分の車に乗
り込んだ。
「いぃぃぃ痛い・・・」
お尻が飛び上がるほど痛かった。それでも我慢して指導員の車の後を追った。曲が
りくねった駐車場の坂道を、巧みなハンドル捌きで走っている。
外に出ると、加速エリアでいったん車を止め、アンジェラに手を振った。そして、
加速された車は、ふわっと空中に浮かび、瞬く間に高速エリアに突入していった。
スペシャリストになれば、こういう車に乗れるんですよ。と言っているように思え
た。
アンジェラの車は、浮かび上がるまでの距離が違う。何度もボコボコと車体を跳ね
上がらせ、その度にお尻が猛烈に痛んだ。アンジェラが泣きそうになっいたころ車体
が浮いた。
「もう! ボロ車なんだから・・・」
腰を動かすと、カサコソと使い捨てのオムツが肌に触れた。介護用のオムツなら、
もっと肌触りの良いものがいくらでもある。これは、お仕置き用のオムツに違いな
い。嫌でもその存在を意識してしまう。
スペシャリスト、その言葉に大きな魅力を感じていた。しかし、同時にそれが甘く
ないことも充分に認識していた。そこにたどり着くまでに、何年かかるのか。それま
でに、あのお婆ちゃんに、どれだけ鞭打たれるのだろう。途中で挫折すれば、それま
での努力など、何の足しにもならない。しかし、成功すれば、佐織や純に負けないス
テータスを手にすることが出来る。
アンジェラにはもう答えが分かっていた。自動運転に切り替え、周回道路をフライ
トしていた、この時間は、アンジェラの心の中に覚悟を決める時間だったのだ。何度
同じ道を回ったか、腹をくくり、アンジェラはギアを引きタイヤを出すと一般道に降
りた。降りた衝撃でお尻が痛んだが、もう、気にならなかった。それにしても、あの
館の懲罰室、気に入ったわ。
つづく