父母の教え

by ayumi

 私はどうかしていたのです。
 主人が急な仕事で出張することになって、朝から口喧嘩をしてしまいました。それも、
私のわがままが原因だったのです。でも、父と母から教えられるまで、そのことに気がつ
きませんでした。

 主人とは、今度の土曜日に娘と三人でディズニーランドに行く約束をしていて、娘も私も
楽しみにしていたのです。
 それなのに、主人が急な仕事で出張することになってしまったのです。私は、他の人に代
わってもらうように言ったのですが、主人は 「仕事なんだから、しかたないじゃないか」 
と言って、逆に叱るような言い方をしたんです。
 それで、私はすっかりフクレテしまい、お昼になっても機嫌がなおりませんでした。
それで、つい娘に八つあたりしてしまいました。娘は小学校の一年生なのです。
 その日、娘は学校の帰りにお友だちの家で遊んでいて、一時を少し過ぎて帰ってきました。
学校は子供の足でも家から10分ぐらいで行けるところなので、すぐに帰ってくれば十二時ご
ろには帰ってくることが出きるのです。いつもだったら何でもなかったのですが、私は主人に
叱られた腹いせを娘にぶつけてしまいました。

「何時だと思ってるの、寄り道しちゃいけないって言ってるでしょ!」
 私は娘が帰ってくると、ランドセルをひきむしるようにして膝におさえつけて、パンツを膝ま
でおろすと物差しでお尻をぶちはじめました。
 娘はあまりのことに、火がついたように泣き叫びました。でも、私は自分の怒りをぶつけるよう
に、夢中になって物差しを振り下ろしました。

「バカッ! 何してるのッ!」
 不意に母の声がして、私は振り上げた手首をつかまれました。母はつきとばすようにして私を
押しのけると娘を膝から奪い取りました。

「オーかわいそうに、痛かったろう、もうダイジョブだよ。バーバといっしょに遊びに行こうね」
 母は私をにらみつけてから、真っ赤に腫れあがった娘のお尻を撫でながら外に出て行きました。
私は放心状態のまま、いつまでも玄関の板の間に座っていました。

 しばらくすると母が戻って来ました。
「美貴ちゃんはお隣の奥さんに頼んできたからね、父さんが呼んでるから二階においで!」

 私は座卓をはさんで、両親の前に座らされました。私の家は、私の両親と私たちの二世帯家族
でした。

「自分のわがままを棚にあげて、娘に八つあたりするやつがあるか!」
 父の大きな声がしました。
「………」   
「自分の子が可愛くないの!」 母が呆れかえったように言いました。
「……だって……」
 私は、それでもまだ、主人が約束を破ったことを言おうとしていました。
「父さんも母さんも、一度だってお前に手をあげたことは無いぞ!」
「甘やかし過ぎたのかしらね……」
「………」
 父と母の言うとおりでした。私は兄二人の下に生まれた末っ子で、しかも、女の子だということで、
子供のころから叱られた記憶がありませんでした。
「いまさら手おくれかも知れんが、母さんとも相談して性根を叩きなおすことにした」
 父はそう言うと、いきなり身体をのばして、私の両手首をつかんで引っ張りました。
「イヤァーッ!」
 不意の出来事で、私は思わず叫んでしまいました。でも、そのときには座卓の上に腹ばいにさせれて
いました。

「美貴がどんなにみじめな思いをしたか、お前に教えてやるからね」
母は、私のスカートをスリップごとまくりあげてウエストに挟みこむと、パンストとショーツを膝まで
おろして、お尻をむき出しにしました。

「イヤァーッ! ヤメテーッ!」
 私は、何とかして父の手を振りほどこうとしました。いくら相手が両親でも、二七才にもなって子供
みたいにお尻をむき出しにされるのは恥ずかしくて耐えられませんでした。
「健二さんがお前のわがままを、どれだけ我慢しているか、今日はじっくり教えてやるからね」
母は、整理ダンスの上に飾ってあった歌舞伎役者の人形が貼りつけてある羽子板を右手に持って、私の
横に立ちました。
 パシッ! 羽子板がお尻に叩きつけられました。
「ヒィーッ!」 お尻をむき出しにされている恥ずかしさなぞ、最初のひと打ちでふき飛んでしまいました。
 パシッ! パシッ! パシッ! パシッ!
「ヒィーーーッ! イタイヨーーー!」 私はあまりの痛さに泣き叫び、必死になって父の手を振りほどこうとしましたが、父の力にはとうていかないませんでした。
「美貴の痛さがわかったの!」
 パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! 「ヒィーーーッ! ワ、ワカリマシタァーーー!」
「二度としないねッ!」
 パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! 「ヒィーーーッ! シ、シマセーーン! ゴメンサーーイ!」
「健二さんにも、わがまま言わないね!」
 パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! 「ヒィーーーッ! い、言いませーーん! ホンとですーー!」
「口ごたえもしないね!」  
 パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! 「ヒィーーーッ! シ、シマセーーン! ゴメンナサーーイ! イタイヨーー!」

 お尻は大火傷をしたみたいに、ヒリヒリズキズキしていました。でも、ぶたれるたびに痛さが増して来るのです。
「ゴメンナサァーーーイ! イイ子にしますゥーーー!」
 私は、羽子板がお尻に振り下ろされるたびに、髪を振り乱し、足を蹴り上げて泣き叫びながら、何度も何度もゴメンナサイを繰り返しました。
「こんど健二さんにわがままを言ったり口ごたえをしたら、うんと熱いお灸をすえるからね!」
 母は念を押すようにお尻に羽子板を叩きつけました。私はそのたびに泣き叫びながらゴメンナサイを繰り返しました。
ようやく父が手を離してくれました。そうして、私は涙と鼻水で顔をグシャグシャにして、火であぶられたように真っ赤に腫れあがったお尻をむき出しにしたまま、両親の前に両手をついてお詫びと反省の言葉を言わされました。
 その日は、あんまりお尻が痛いのでパンストもショーツも着けないで夕食のしたくをしました。それでも、スリップがこすれるたびに、お尻がヒリヒリして涙がなかなかとまりませんでした。
 父は何でもなかったように、美味しそうに晩酌をして、母は孫の美貴を膝に乗せて平気な顔で食事をしていましたが、私はお尻にひびかないように、ソロソロと座らなければなりませんでした。
「ママ、どうしたの?」
 娘の美貴は、自分がお尻をぶたれたことなんかスッカリ忘れて、私が顔をしかめるたびに、心配そうに顔をのぞき込んだりしました。
 お尻の痛みが完全に消えるまでには、それから四日ぐらいかかりましたが、それ以来、私は主人にわがままを言ったり、口ごたえをすることがなくなりました。もちろん、娘に八つあたりすることもなくなりましたから、お尻にはお灸の痕もありません。
 父と母が、出来そこないでわがままな娘の、悪いお尻を懲らしめてくれたおかげで、良い奥さんで優しいママになることが出来たんだと思います。

 これからも、お灸の痕なんかつけられないように頑張りたいと思っています。

≪おわり≫

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