第31話 by 多香美じかん

顔面蒼白の京一郎が自宅のソファに座っている。
海外出張から帰ってきたら、愛する妻と可愛い娘が家出し
てしまっていたのだから、無理も無い。
最初、京一郎は、奥様とお嬢様が家を出た、という道代の
言葉を信用しようとはしなかったが、実際に静江と由梨子
の姿がなく、衣類などの荷物がなくなっているところへ、
静江の筆による手紙が届いたので、今にも泡を吹いて倒れ
そうな状態になってしまったのだ。
もちろん、その手紙は、悟たちが静江に無理矢理書かせた
もので、京一郎が帰宅する少し前に、悟が届けにきたので
ある。
手紙の大まかな内容はわかっていたが、実際に書いてある
文章を読むと、脅されながらこんな手紙を書かされた静江
の姿が目に浮かび、思わず吹出しそうになってしまう道代
であった。

白川京一郎 様

突然、それもあなたの留守中に姿を消してしまう無礼を
お許し下さい。
私と由梨子には以前からお付き合いしていた男の人がい
ました。元々は由梨子の恋人だった方なのですが、いつ
しか私も年がいもなく恋に溺れてしまい、いけない事と
は思いつつ、ずるずると今日まで来てしまいました。
あなたにはずっと隠していましたが、私には妙な性癖が
あったのです。
スパンキングというものを御存知ですか。お尻を叩いて
快楽を得るものです。私は実はお尻を叩けれないと性欲
が満たされない変態だったのです。ですから、あなたと
のSEXは常に不満でした。でも、そんな恥かしい事、
お尻を叩いてほしい、などという事はどうしても口に出
せず苦しんでおりました。そんな私を満たしてくれたの
が彼だったのです。彼は女性のお尻を叩く事に快楽をお
ぼえる性癖の持ち主で、お尻を叩いてほしい私にはピッ
タリの男性だったのです。
実は由梨子も私の血をひいていて、お尻を叩かれないと
満足出来ない変態でした。彼と由梨子の特殊な性生活を
知った私はどうしても我慢出来ず、彼と由梨子に胸の内
を打ち明け、奇妙な三角関係が始りました。あなたの目
を盗んでは今まで由梨子と二人、彼の元でスパンキング
プレイを楽しんでいたのですが、由梨子と充分に話合っ
た結果、彼の元で暮らす事に決めたのです。
あなたには大変申し訳ないと思っていますが、私も由梨
子も、もう、自分たちが変態である事を隠して生活する
のは耐えられないのです。どうか、お許し下さい。
こんな事を突然言われても信じてもらえないかもしれな
いので、プレイ中の写真を同封します。
どうか、私たちを探さないで下さい。そっとしておいて
下さい。私も由梨子も、これから一生、彼の犬として、
生きてゆきます。
今まで私と由梨子を愛してくれて、ありがとう。
さようなら。
静江

京一郎はこの手紙を握り締めたまま、遠くを見るように
ソファに座っている。
同封されていた写真は、静江と由梨子がスパンキングさ
れているものや首輪につながれた静江が、ちんちんした
り、おしっこのポーズしたりしているものであった。

「申し訳ありません、旦那様。」

道代が頭を下げる。

「奥様とお嬢様に男の人がいる事は存じていたのですが、
旦那様には言うな、と奥様とお嬢様から口止めされて
いまして・・・。
でも、まさか、こんな事になるなんて・・・。
しかも、奥様やお嬢様がこんな変態だったなんて・・・。」

道代はわざとそんな言い方をして、京一郎の神経を逆撫でる。

「うるさいっ!さがってろ!」

八つ当たり気味に怒鳴る京一郎。
道代は心の中で舌を出しながら、部屋を出た。
廊下に出た道代の気持ちは澄み切っていた。
これで全てうまくいった。
息子の命も救えた。今まで自分をこき使ったり、八つ当た
りの対象にしてきた静江と由梨子に復讐も出来た。
大成功である。
今まで自分が白川母娘よりも上の立場に立つなどという事
は夢にも考えなかった道代であるが、息子の悟と宇田川の
おかげで、実は自分があの母娘を憎んでいた事に気づかさ
れたのだ。
静江と由梨子があの地下の店に監禁されている事は、自分
たち3人以外誰も知らない。
これからは、あの憎い母娘を好きなようにいたぶりながら
生きてゆけるのだ。
時折、自分のしている事が恐ろしくなるが、あの母娘が大
切な息子を殺そうとしていた事を思うと、自業自得だ、自
分たちが悪いのだ、あんな目にあわされて当然なんだ、と
妙に納得してしまう道代であった。
京一郎のために風呂を沸かし、夕食をこしらえ、いつもの
ようにお手伝いとしての仕事を終え、道代は白川家を後にし
た。自宅で待っていた悟の車で、再びアジトへ向かう。
あの母娘を、次はどんな目にあわせてやろうか、悟と話し
合いながら。
由梨子と静江にとって、生き地獄の日々がスタートしたのだ。

つづく

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