「珍犬物語」

by チロの飼い主

私は珍犬を飼っている。
どのくらい珍犬かと言うと、犬の図鑑、動物図鑑でも今まで見たこともない種類の犬
だ。
私はご多分に漏れず、ごく平凡な家庭に生まれた男の子だから、ごく平凡に小さいと
きから犬を飼いたいと思った、ごく平凡にそこらにいる男の子のように、名犬ラッシー
やリンチンチンを従えて広野を走り回り、愛犬と共に意図もたやすく、そう30分以
内に悪漢を退治するのだ。途中CMも入るが。
そして結局、犬を飼うと散歩に連れて行かなくてはならないし、食事の世話や排泄物
の始末をしなくてはならない。悪漢退治ばかりしていられないと言ったことに気が付
く。それに気付かせて、どうせお鉢の回ってくるであろう犬の世話を回避したのが私
の母親の生涯唯一成功した策略だった。
そんなわけで、今まで犬を飼ってみたいと思っていたが、世話がめんどくさいとの先
入観があり、犬を飼ったことはなかった。それがなぜ今、犬を飼うことになったのか。
それも珍犬を。
飼おう思ったわけでもなく、もちろん買ったわけでもない。ただ、何となく住み着い
てしまったのだ。
ただ、ただ、初めはどこにでもいるような、かわいい目をした女の子だった。女の子
といってもハタチ前後らしいので女性と言うべきか。ちょっと小柄なのとハタチには
見えない、成長段階の体つきなので「女の子」でもいいように思える。まあ、、今で
はどちらでもいいことだが。
要するに、彼女の話では、物心ついたころから、犬に愛着をもっていて、犬を何匹も
飼ったそうだ。このへんの話までは私もずっと犬を飼いたかった。犬が好きだ。と言っ
た内容で彼女とは妙に話が合った。彼女曰く、犬を飼うという事はその犬の主人に、
又は飼い主になることになる。通常はそうなるのだが、彼女の場合にはそれに違和感
を感じてずっと拭いきれなかったらしい。
世に女の子の流行として首に巻くチェッカーなるものが一時流行った。これに彼女は
はまったらしい。寝る時でさえも外したことはなく、他の人よりやや大きめのものが
好みだったと話してくれた。周囲の人や友人から犬の首輪みたいと、からかわれてい
たらしい。そんな時分、古典小説の「タイムマシン」を探して、ある町の古本屋に探
しに立ち寄ったところ、ようするにH本専門古本やだったらしい。表の陳列棚には古
びた文芸書の一冊100円コーナーなどがあったので、店の中に入ってしまった。場
違いに気がつき、思わず顔を赤くして店を出ようとしたその時、首輪をして引き回さ
れるSM本の表紙が目に入ってしまった。彼女の頭は真っ白になり、どうやってその
店を出て、つまりこの店、つまり町中からちょっとはずれた、つまりちょっと小汚い
場末風のバーのこの店に来たのか途中の記憶がないというのだ。話の続きは要するに
彼女の考えるところ、つまりだ、私はSMのMなのではないかと言うことらしい。ま
あ、Mといってもいろいろあるし、犬を連れている人はみんなSだったりしてナハハ、
、なんだらかんたらで、深層心理とかなんたらの、、、話はまあ、こっちに置いとい
て、「さっきの犬を飼ってた話サ」、、、と私は話を変えたつもりだった。

彼女が何でタイムマシンの原点そのもののH・G・ウエールズの小説「タイムマシン」
を探していたのか、今になっては謎になってしまった。そして、ソファーに座ってた
ばこを吹かす私の足元に彼女はいる。やめろと言うのもきかずに、また私の古ぼけた
スリッパを噛じっている。
お仕置きものだ、お仕置きをされるのを待っているのかもしれない。かまわれたいの
だろう。どちらでもいい。犬の躾は飼い主の責任だ。犬の訓練むちをくわえてこさせ
よう。
そんな訳で、私は珍犬を飼っている。


この作品は、「課題」に対して応募されたものですが、多少、内容がズレていること

は、作者も私(平)も承知しております。

ただ、内容が特異なので、掲載しました。すでに、続編も届いています。

後日、投稿のコーナーに掲載するつもりです。(平)


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