煙草 工場

平 牙人

 スペインの煙草工場。

 窓から差し込む光線の中に黄色い粉が舞っていた。

 その光の下で、女達が黙々と働いている。朝からすでに5時間近く働きづめだった。

 光線の角度が鋭角になり、ヴェテランの女工は正確に時間を知る事が出来た。

 疲れ切った顔をした少女が、葉煙草を撚り高級葉巻を作っている。

 新入りの少女だが、手先が器用なので葉巻づくりを仕込まれていた。

 蒸し釜の蒸気を利用した笛が、耳障りな音を響かせた。

 女達は、一斉に作業を中断させ、背中を伸ばして立ち上がる。ようやく、少しだけ休む

ことが出来る。

 12時間労働の中に、1時間だけ休憩時間があった。食堂で粗末な昼食を食べ、あとは思

い思いに工場の敷地に腰を下ろし体を休める。

 1班から順番に工場の外に出る。出口で監視人が女の数を数える。全員、外に出したら

工場には鍵をかけてしまう。葉煙草の盗難を恐れているのだ。

 厳重に監視しても、葉煙草を持ち出す女工はあとを絶たない。金に変えるわけではない、

愛する男への貢ぎ物なのだ。

 抑圧された女工達の反抗であり、唯一の娯楽と言うこともできた。

 それだけに、監視も厳しく、持ち出しが発覚すれば、例外なく鞭打ちの懲罰になる。

 工場から出ると、二人の監視人の間を抜けて食堂に行く。

 女達の背後でドアが閉まり、員数は合っていたらしい。その時、声が聞こえた。

「お嬢ちゃん、ちょっとお待ち。ホラ、スカートを捲るんだよ」

 器用に葉巻を巻いていた少女が、監視の女に髪の毛を捕まれていた。

 スカートが捲り上げられると、少女の穿いていた下着に葉煙草が三枚ほど隠されてい

るのが見えた。

「色気づきやがって、この年で、もう男漁りかい!」

 言葉と同時に少女の頬に平手打ちが飛んだ。

「こっちに来るんだよ、身体検査だからね」

 別に、珍しいことではないが、新入りの少女だったことが女達の話題になった。

 食事を終えて外に出ると準備は出来ていた。

 懲罰板と呼ばれるものは、2メートルくらいの分厚い板で、笞打たれる女は両端から延び

たロープでその板に手足を縛られるのだ。

 体を思い切り伸ばした格好で固定されると、板が工場の壁に立てかけられる。たとえ、少

女といえども、この懲罰から免れることは出来ないのだ。

 食事を終えた女達が外に出てくるのを待っていたように、少女が板にくくりつけられた。

 板が持ち上がり、誰の目にも少女の体が見えた。

 スカートが捲り上げられ、ドロワースが下げられ、可愛いお尻が剥き出しになった。

「葉煙草を持ち出したらどうなるか、よく見て置くんだね」監視人の女が声を張り上げた。

 男が、枝笞を持って構えていた。女達がその周りを取り囲んだ。

「見たことのないお尻だね」

「新入りだからね、子供のくせに良い度胸だよ」

「先が思いやられるね、名前は?」

「たしか、カルメンて言ったかしら」

「ふうん、カルメンねぇ」

 笞が振り下ろされ、少女は体を縮めたが、声は出さなかった。

 すれっからしの、あばずれ女でも、5.6発打たれれば悲鳴が出る。それなのに、少女はた

だ呻くばかりだった。

「あの子、声が出ないのかい?」

「話せるよ、声だって出るんだよ・・・」

 小さなお尻に12本の鞭跡が刻まれたが、少女は悲鳴を上げなかった。

 大きく見開いた目に、うっすらと涙を溜めただけだった。

 女達が歓声を上げていた。男が、忌々しそうに舌打ちをして笞を投げ捨てた。

 塀の外を、二人の兵士が巡邏していた。

「何の騒ぎだ?」

「鞭打ちさ。彼奴らには、それが娯楽なんだ。レベルの低い人種さ」

「ホセはエリート志向だからな。あんな女達には興味もないか・・・」

 塀の中からは、「ブラボー! カルメン」という歓声が聞こえていた。

 ドン・ホセとカルメンが運命的な出会いをするのは数年後のことである。

おわり

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