掌編小説投稿作品 テーマ「クリスマス」

Christmas きりん 

 とある平日の午後、秋川由美子は高校時代の同級生だった山野朝美と電話で話していた。今は二人とも結婚し、専業主婦をしている。
「ねぇ、来週の日曜日なんだけど、朝美、なんか予定入ってる? 」
「ううん、何もないけど、なんで? 」
「うちでクリスマスパーティーをやろうと思っているんだけど」
「いいわね。美加も呼ぼうよ」
「そのつもり。で、せっかくだから健一さんもいっしょにどうかな」
「わかった。話しておくわ。子供は母が面倒見てくれると思うし」
「じゃあ、決まりね」
「楽しみにしてるわ」
 そして、翌週の日曜日、秋山家に山野夫妻、それに同じく高校時代の同級生だった美加とその夫がやってきて、クリスマスパーティーが行われた。
 由美子は手料理で友人とその夫たちをもてなし、朝美が持ってきた高級なワインが開けられ、パーティーは盛り上がった。食事が一段落し、全員が居間で寛いでいると、朝美が「ゲームをやりましょうよ」と提案した。みんな、それに賛成し、ブリッジをすることに決まった。
 さて、ゲームを始めようか、という時になって、朝美の夫である健一が言った。
「どうせなら、罰ゲームを決めませんか? 」
「いいわね。歌でも歌う? 」
 朝美が賛同する。
「それじゃあ、面白くないわよ。お尻で字を書くとか……」
 由美子が言いかけた時、すかさず健一が言った。
「お尻を叩くというのはどうかな? チーム制にして、夫婦で一チームということにしてさ。負けた人は自分のパートナーからお尻を叩かれる。どうですか、奥村さん? 」
 健一は美加の夫に同意を求めた。
「いいんじゃないですか、それは面白そうだ」
 その横で、美加が少し不満そうな表情を浮かべる。健一はそれを見逃さなかった。
「美加さんは? 」
 美加は急に話し掛けられてドキッとしたが、すぐに作り笑いを浮かべて言った。
「いいと思います」
 健一はそれを聞いて、パンと手を叩いた。
「よし、決まりだ。さっそくはじめよう」
 一回戦は健一の圧勝。負けたのは由美子だった。
「じゃあ、秋川さんは奥さんのお尻を叩いて下さい」
 健一はカードを集め、シャッフルしながら言った。
 由美子は戸惑いながらも、夫の膝の上にうつ伏せになる。
「やだなぁ。こんなことされるの小学生の時以来よ」
「いくぞ」
 由美子の夫は黒いロングスカートに包まれた妻の尻を平手でぴしゃんと叩いた。
「いたっ」
 由美子は思わず声を上げる。
「由美子さん、嘘をついちゃいけないな。その程度で痛いはずないでしょう? 秋川さん、今のはノーカウントで、あと10発、きちんと叩いて下さいよ」
 健一は残酷な笑みを浮かべながら言った。
「がんばれ、由美子」
 朝美が声をかける。
 パン、パン、パン、パン、パン、パン……
 秋川はさっきよりも強く由美子の尻を叩いた。
「痛ぁ。今度は絶対、負けないんだから」
 由美子は立ち上がると、目を潤ませながらお尻をさすった。
 二回戦。今度は朝美が負けた。
 健一は慣れた感じで朝美を膝の上に乗せる。そして、妻のスカートを捲り上げてしまった。これにはその場にいた全員が驚く。しかし、健一は平気な顔をして言った。
「うちでは朝美が悪いことをするとお尻を叩いてやるんですよ。本当は下着も脱がせるんですが、今日はみんなの前ですから」
 そして、黒いセクシーな下着の上から妻の尻をかなり強く平手打ちした。叩かれた朝美もけろっとした態度で、
「やっぱパンティーの上からだと少しは楽だわ」
なんて軽口を叩いたりしている。
 三回戦、四回戦と続けて、またしても由美子が負けた。
「それじゃあ、ウチも公平に……」
 酒が入っているせいか、秋川も由美子のスカートを捲って叩く。三回目の罰ゲームでは「手が痛くなった」と言って、スリッパで由美子の尻を打った。平手打ちに比べ、すごい音がする。
「いいですなぁ。なかなか手慣れてきましたよ、秋川さん」
 健一が賞賛する。
 五回戦目。今度は朝美が最下位だった。由美子と朝美、この二人は今日、とことんツキに見放されている。
「そろそろ、本式にやるか」
 そう言って、健一は朝美の下着を脱がす。朝美も慣れたもので抵抗しなかった。他のメンバーも酔いが回ってきたせいか、それを見て、ヤンヤヤンヤと囃し立てる。
「ひとぉーつ」「ふたぁーつ」……
 一発ごとに大合唱。その様子をただ一人、美加だけが青い顔をして見ていた。
 かなり強い叩き方のため、20発にして、朝美の尻は赤く腫れ上がっている。
 六回戦目。由美子、四度目の罰ゲーム。「重いから」という理由で、秋川は由美子を脇に抱え込んで、立ったままお尻を叩いた。もちろん、健一に倣って、お尻はむき出しだ。由美子の尻もかなり赤みが広がっている。
 七回戦目にして、初めて美加が負けた。
「さぁ、奥村さん、お手並み拝見しますよ」
 健一がニヤニヤしながら言う。
 美加の夫はぎこちない仕種で、妻の手を掴んで、膝の上に乗せようとした。しかし、美加は強く抵抗し、泣きながら首を横に振って言った。
「おねがい、私、イヤ!!」
 それを見た健一が
「おやおや、美加さん、みんなやっているんだから、一人だけ逃れようったって、そうはいきませんよ」
と妙に優しい口調で言う。しかし、目は笑っていなかった。
「ごめんなさい。他のことならなんでもしますから、許して……」
 美加はなおも抵抗を続けた。奥村は困り果てた顔をしている。
 すると、健一が急に立ち上がって、美加の腰をひょいと抱えあげてしまった。
「美加さん、わがままは許さないよ」
 そう言って、あっという間もなく、美加のスカートを捲り上げ、ピンクのショーツを下ろして、びたんびたんと生のお尻に平手打ちを加えはじめた。
 美加はもはや抵抗する気力もなく、歯を食いしばって、声を上げずに泣いた。
 30発ほど叩いて、健一はやっと美加を下ろし、下着を穿かせた。
「奥村さん、すみません。勝手な真似をして。でも、時にはこうやって厳しく奥さんを躾てあげた方が、彼女のためにもなると思うんです」
 こうして、パーティーはお開きになった。後片付けをみんなが協力して行ない、朝美たちは帰ることにした。
「どうもありがとう。いろいろあったけど、楽しかったわ。健一が調子に乗ったことをしてごめんなさいね」
「いいのよ。たまにはこんなバカ騒ぎも悪くないわ」
「秋川さんにもいろいろとご迷惑をおかけしました」
「いえ、ご主人の考えに深く感銘を受けました。これからは由美子も悪いことをしたらお尻をひっぱたいてやりたいと思います」
「ゲッ」
 由美子夫妻の掛け合いにみんなが大笑いした。
「それじゃあ、お気を付けて」
「今日はごちそうさま」
 玄関を出て、いとまの挨拶が続く中、健一は美加を呼び止めて言った。
「美加さん、どうして僕がこんなことをしたかわかってもらえますよね。罰ゲームが嫌だったら、最初に言ってくれれば良かったんです。ちょっと手荒な真似をしてしまったことは僕も反省してますけど」
 美加は俯いたまま、首を横に振った。
「いいんです。私が悪い子だったんだから。ごめんなさい。叱ってくれてありがとう」
 こうしてみんなが帰った後、秋川家の居間にはクリスマスツリーだけが静かに佇んでいた。

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