2000年そして友情
平 牙人
ケリイとローダ、それに私、ドリス・フリーマンは仲の良い
三人組だ。
遊ぶのもいつも一緒。学校の成績も似たようなものだし、だ
から、叱られるときも一緒。
昨日だって帰りが遅くなって、あやうくお仕置きになるとこ
ろだった。時代はもうミレニアムだって言うのに、ママは13歳
にもなった女の子のお尻を叩くというのだ。
そんなことまで、三人の家庭は似ている。ケリイもローダも
家ではお尻を叩かれている。その事をお互いに知っているから
仲が良いのかもしれない。
昨日のことがあったので、今日は早めに帰った。
「あぁ、ドリス、お婆ちゃんが何か話があるんですって」
ママに言われて、私はお婆ちゃんの話を聞いた。
それは、想像もしなかった話だった。
「今のおまえと同じように仲の良い三人組だったんだけどね」
「もう、みんな亡くなってお婆ちゃんだけなのね」
「本当は、私が掘り出さなくてはいけないのだけど・・・」
80歳過ぎのお婆ちゃんはベッドに寝たきりなのだ。
お婆ちゃんの話では、私と同じ年頃に、仲の良い三人でタイ
ムカプセルを埋めたのだという。
それは、2000年になったら開かれることになっていたのだ。
お婆ちゃんは、私に古い手書きの地図を渡した。変色した
紙、色の変わったインク、それでも地図は丁寧に書かれてい
た。いつも遊んで居る公園の裏山。今ではクロスカントリーの
コースになっている。
「大丈夫、あのコースからは外れているよ。大きな木があるか
らすぐに分かるよ。その木から南に10歩、深さは3フィートく
らいだよ」
「3フィート、結構深いのね。一人では掘れないわ」
「ケリイとローダに手伝ってもらいなさい。でも、公園なんだ
から昼間は駄目よ。夜、こっそりとね」
「うーん、夜の外出はママがうるさいんだ・・・」
「それはもう手紙を書いてあるよ。ケリイとローダの分もある
からね。それに、マイケル・クラドックが同行してくれるよ」
さすがにお婆ちゃん、マイケルは元警官でお婆ちゃんの従弟
に当たる。老人だが元気だ。それならママも納得する。
ケリイとローダは興奮に目を輝かせていた。公認の夜遊び、
しかも宝探し。その日が来るまで口を閉じているのが苦痛だっ
た。顔を見合わせては、ニヤニヤ笑っていた。
当然の成り行きだが、私たちもタイムカプセルを埋めようと
言う話になった。
「でも、あまり長くては駄目よ。せいぜい2050年ね」
「それなら63歳、生存の可能性は高いわね」
「50年後か、何しているのかな?」
「何をしていても、私たちは親友よ」
「お婆ちゃんが埋めたのは手紙だけなの?」
「ええ、三人がお互いに二人の友達に手紙を書いたんですっ
て」
「私たちは、写真も入れない?」
ローダが提案して、みんな賛成した。
待ちに待ったその日が来た。それまでに、何度も確認してい
た場所を掘り始めた。土が固く掘り出すまでに1時間以上かかっ
た。それでも、その場所にタイムカプセルは埋めてあった。
古いゴムのレインコートに包まれた木箱、中には軍隊毛布に
包まれた金属の箱、更に麻布で包まれた紅茶の缶、それこそが
お婆ちゃんの埋めたタイムカプセルなのだ。
パラフィンで密封された缶は布で拭くと当時のままの光沢を
放った。
中には、お婆ちゃんの話したとおり6通の手紙が入っていた。
差出人を、AA,BB,CC,に分け、私が、AB,ローダが、BC,
そしてケリイがCA,を持ち帰ることにした。
Aがお婆ちゃんなのだ。家に帰るとお婆ちゃんはもう眠って
いた。私は自分の部屋で胸をときめかせながら手紙を読んだ。
お婆ちゃんが、デラという女の子に宛てた手紙だ。
デラ、貴方がこの手紙を読むのは80歳を過ぎてからね。
だから、何もかも本当のことを書くわ。
貴方ほど、生意気で高慢な女の子を他には知らないわ。
たしかに、お父様は名士だけど、それを鼻にかける娘なんてう
んざりよ。
私が貴方と仲良く振る舞うのは貴方が風除けになってくれるか
らなの。なぜか、我が家では貴方と遊ぶことに関しては寛大だ
わ。本質的にはクラス1の不良娘なのにね。
お酒もタバコも貴方の家で初体験だったわ。あの時、私はタバ
コなんて吸っては駄目と止める振りをした。
そして、3本のタバコを自分のポケットに忍ばせた。しかも、
その1本に火をつけ、貴方のドレスのポケットに入れてから火を
叩き消しておいたの。
数日後、女中がそれを発見してお母様に報告したんでしょ。
翌日、貴方は学校を休んだわね。甘やかされて育ったお嬢様も
あの時ばかりは酷いお仕置きだったのね。
病人のような顔をして学校に出てきたけど、授業中もお尻が痛
くて泣いていたわね。お父様にも叩かれたって言っていたけ
ど、貴方の家では手で叩くだけでしょ。
15歳にもなって笞の味を知らないのは貴方だけなのよ。
さて、デラお嬢様。貴方は今、新しい学校のことを自慢してい
るわね。そりゃあ、名前だけ聞いたら私だって羨ましいと思う
けど、あの学校の本当の目的をご存じなのかしら?
お金持ちの娘しか通えない学校。でも、あの学校の真の目的
は、家柄や財産を鼻にかけるお嬢様を徹底的に叩き直すことに
あるのよ。
私、断言いたしますけど、デラお嬢様は入学して一週間以内に
厳しいお仕置きを受けることになるわ。
高慢に膨れ上がったお尻を、9番目のお猫さんと呼ばれる恐ろし
い鞭で叩かれるのよ。
その鞭は、叩かれたあとが猫の爪で引っ掻かれたようになる
の。そりゃあ痛いのよ。
まあ、楽しみにしていなさい、これから3年間、貴方はその鞭で
うんざりするほどお尻を叩かれるんだわ。
貴方がこの手紙を読むとき、立派なレディーに成長しているこ
とを心から期待して・・・
サインは紛れもなくお婆ちゃんのものだった。
お婆ちゃんてずいぶん意地悪なのね。こんな手紙をケリイや
ローダに読ませたくはなかった。
次の手紙は、デラの書いたものだった。もう一人の、グレー
スという女の子に宛てたものだが内容は残酷で悪意に満ちてい
た。それは、女王様が家来に出したような手紙だった。
腰巾着と罵り、厄介者、と決めつけ、貴方と付き合っている
のは学校でのイタズラが発覚したとき、スケープゴートに使え
るからだと言っていた。
「私のお尻を保護するために、貴方のお尻が笞打たれるべきな
のよ」とデラは書いていた。
翌日、私たち三人は、6通の手紙すべてに目を通した。読み終
わっても誰も口を開かなかった。
お婆ちゃんとデラに宛てたグレースの手紙の内容も似たり寄っ
たりだった。
私たちも埋めようと言っていたタイムカプセルの話は、いつ
の間にか立ち消えになった。
最近は、ケリイやローダと遊ぶ機会も少なくなった。表向きは
ボーイフレンドが出来たからと言うことになっているが、2000
年を迎えた年に、私たちの友情は終わった。