<The Fanciful Story>

竜巻岬《16》
【第三章:童女の日課】
K.Mikami

《悪戯オンパレード》<3>

四人の童女たちにとってその冬のクリスマスは味気ないものになった。数々
の悪戯がペネロープの不評をかってクリスマスパティーに呼ばれなかったのだ

パティーのご馳走もケーキもプレゼントもすべては夢の彼方へと消え去り、
かろうじてイヴの日のミサへの出席が許されただけだった。

「あ〜あ、つまらないなあ。去年のXマスプレゼントは狐のハーフコートだ
ったのよ。アン、あなただってツイードのドレスもらったじゃない」

「そうよ、でもあんなものいつ着て行くの。クリスマスかせいぜい復活祭の
時だけよ」

「いいじゃないの、それでも。女の子はたった一日のために三百六十四日を
犠牲にできるんですからね。ところがどうなの、今年は。ロールケーキ一巻と
チョコレートの小箱がひとつだけ。私達は子供じゃないのよ」

「何言ってるの。私達は子供じゃない」

「そりゃあそうだけど。クリスマスぐらい大人になって祝いたいわ。少女達
だってこの日はドレスを着てレディー達と対等な口をきいてパーティーに出席
できるのよ。去年は私達だってそうだったじゃない」

「仕方がないでしょう。誰かさんが派手に悪戯をしかけるから」

「何言ってるのよ。だってけしかけたのはあなたたちでしょうが。こっちは
ない知恵絞ってあれこれ悪戯を考えてるのに」

「どうだか。あんたのは単なる思いつきじゃないの」

「言ったわね。私だってひとりならあんなことしないわよ」

「もういいじゃないアン。ケイトもやめて。私達はすでに先生たちの間では
四人組として一つのグループとして悪名を馳せてるの。いまさらケイト一人が
抜けてみてもそれも四人組の仕業と思われるだけだわ。それより、これから私
Xマスパーティーの買い出しに行くんだけど付き合わない」

リサが思いがけない話を持ち出す。

「買い出しってどこへ」

「食料倉庫よ。私の勘に間違いがなければ極上のハムとウインナー、それに
シャンパンが残ってるはずよ」

「でもねえ……今度見つかったらただじゃあすまない気が…」

「何言ってるの今までだってただすんだことなんて一度もないじゃないの。
アンはどう…いやなの」

「いいわ、つきあってあげる。どのみちこの四月には結論が出るんだもの。
良い子になるのはそれからでも遅くないわね」

アンが腰をあげるとケイトも同調した。

三人はドアの方へ。でも一人足りない。

「アリス、あんたもいらっしゃい。抜け駆けはだめよ」

アリスは気がすすまなかった。単なる悪戯ではなく泥棒という行為が彼女を
逡巡させていたのだ。が、積極的に反対することもままならない。結局これも
四人で行動することになった。

しかし、もしこの時アリスを一人残していけば事態は変わっていたかもしれ
ない。

「やったあ。大漁、大漁」

食料倉庫は大バーゲン中だった。クリスマスと新年をひかえて保存食を中心
に買い溜めしてあるのだ。パーティーに浮かれて人が寄り付かないこともあり
買い出しは順調に進んだ。

生ハムやウインナーはリサが、林檎やバナナはアリスが、シャンパンはケイ
トがそれぞれ担当する。

「アン。それも持っていくの」

「これは上物のブランデーだわ。きっとご領主様のお使いものね」

「だったらやばいんじゃない」

「いいじゃないの。こんなチャンスめったにないのよ。どうせ明日はお休み
だし…私、これ持っていくわ」

こうして四人は意気揚揚自室へと引き揚げてきた。

すると……

「ん???」

部屋の電気がついている。

「アリス、部屋の電気は消しなさいって言ったでしょう」

「いやあね、消してきたわよ」

四人が怪訝な面持ちで部屋に入ってみると

「…!…!…!…!…」

顔見知りの婦人が部屋の奥にどっかと腰を降ろしているではないか。しかも
それだけではない。今まで何もなかったはずのテーブルにはローストビーフや
フルーツポンチ、シャンパンなどがのっている。

「Xマスおめでとう。今夜はみなさんとささやかなパーティーを開こうと思
って準備したけど、どうやら徒労だったみたいね」

 ペネロープは呆れてものが言えないといったふうだった。

と、その時後ろのドアが閉まる。すでにコリンズ先生もこの部屋に入ってい
たのだ。四人はあっという間に袋の鼠になった。

「…………………………」

こうなってしばしの沈黙が過ぎた。ペネロープは自制しようとつとめるのだ
が、そう思えば思うほど余計に鼻息が荒くなって四人をさらに萎縮させてしま
う。四人は抱えてきた荷物さえ置けないままにその場に立ち尽くすだけだった

やがてコリンズ先生が仲裁に入る。四人組にまず荷物を床に置くように促す
と、アリスに向かって

「懺悔なさい」

「でも、許してくれる?」

アリスはいつになく弱気になっていた。

「許していただけるかどうかにかかわりなくそれが礼儀よ」

コリンズ先生に背中を押されるように進み出たアリスはペネロープの足元で
両膝をついて胸の前で手を組むいつものポーズをとったが、ペネロープのあま
りに鋭い視線につい目をそらしてしまう。しかも

「今日はせっかくのクリスマスなのに……これじゃあ淋しいってみんなが、
……それで、食料倉庫へ行って……」

途切れ途切れの懺悔にペネロープが一喝

「アリス、誰にむかって話してるの。私の目を見て話しなさい」

アリスは恐怖心のあまり身動きがとれないのだ。見かねたコリンズ先生が、
アリスの顔を起こしペネロープの方へ向けて支えてやる。こうしてやらなけれ
ば彼女はまたすぐに下を向いてしまうのだ。

「今日はせっかくのクリスマスなのに食事が淋しかったので、食料倉庫から
食物を取ってきてしまいました。ごめんなさい」

「だらしないわね。先生に支えていただかなければ懺悔一つまともにできな
いの。ま、それはいいでしょう。私はねアリス、あなただけはこんな事をする
子じゃないと思っていたからとっても残念だわ」

「………………」

「コリンズ先生。その子を連れていらっしゃい。どうせ一人では私の膝まで
辿り着けないでしょうから」

アリスはコリンズ先生に抱えられるようにしてペネロープの膝にうつぶせに
なるとネグリジェの裾を捲りあげられた。

「……パン」

ワンフットスティクと呼ばれる小振りの枝鞭は小さな反動でもよくしなって
的確にアリスの丸い膨らみをとらえた。とはいえ、所詮七十に近い老人の力で
ある。しかもアリスはショーツを穿いたままだ。

「パン………パン………パン………パン」

ゆっくりとした調子で控えめに響く鞭の音は傍目には小学生ぐらいまでしか
効果がないようにさえ思えた。ところが、一ダース半をこえたあたりからアリ
スが暴れだす。

両足を蹴りあげ、体をよじってもがき苦しむのだ。コリンズ先生があわてて
アリスの両手と頭を押さえるが、おしまいの頃には

「ごめんなさい。もう悪さはしません。二度と盗みはしませんから。良い子
になります。やめて、もうだめ。痛い、痛い、痛いんだったばあ…あ〜〜」

アリスが子供のような懺悔を始めたのである。

「さあ、もういいわ。これ以上は私の方が重くてやってられないもの」

アリスは結局二ダース半で解放されたが、膝から降ろされても歯の根はあわ
ず、嗚咽も止まらない。それはアリスが鞭に慣れていないことを差し引いても
驚きだった。だから

「私はもう疲れたわ。あとはあなたがやってちょうだい」

ペネロープがこう言った時は正直他の童女たちはほっとしたに違いない。

四人が均等に前菜を消化すると、次はいよいよメインディシュだがそれには
準備がいる。

四人は自分達のベッドに仰向けに寝かされると、まず枕側のポストに両手を
万歳するような形で縛り付けられた。続いてその両足も短い紐を足首に結わい
着けて、右足は右手の左足は左手のポストに固定される。

早い話、赤ちゃんがおむつを取り替える時のあのポーズ。女の子にとっては
最も恥ずかしいあの姿勢でこの料理は食さなければならないのだ。

「アン、それにケイト。あなたたちがそんなにお酒が飲みたいとは知りませ
んでした。本来なら許されないところですが、今日はクリスマスですから特別
に許してあげましょう。ただし、ベッドにはこぼさないようにね」

ペネロープの挨拶が終わると、さっそくコリンズ先生によって二人にお酒が
振舞われた。ただしそれは口から飲むのではない。グリセリンと混ぜてピスト
ン式の浣腸器で肛門という名の口から流し込まれたのだ。

「……<あああ〜>……」

二人の下腹が一瞬にしてか〜っと熱くなる。揉みこまれるような締め付けら
れるような大腸の動きはそれまでにないものだったし、なにより悪酔いしたよ
うな状態で排泄を我慢するのは最悪だった。

おまけにこれまでなら我慢しなければならないという気持ちで心が一つなの
に、直腸から吸収されたアルコールのせいで頭が半分マヒしてしまいそれほど
切羽詰まった状態でもないのに時折このまま出したら気持ちいいかなと思って
しまう。

二人はこの不思議な凌虐感に苛まれながら寝ることもできずクリスマスの夜
を過ごさなければならなかった。

これに対しリサとアリスの未成年組はもっと単純だった。

「あなたたちは未成年ですからお酒は遠慮なさい。その代わり私があなた達
にプレゼントをあげましょう。これはずっとあなたたちのそばを離れないし、
重くないから荷物にもならないわね」

ペネロープはそう言うと得意のもぐさを取り出す。しかも今回はその大きさ
が違っていた。

お灸はごく小さなものなら熱いと感じる時間も短く、灸痕が残ったとしても
よほど目を近付けて見なければわからないほど些細なものだが、ある一定以上
に皮膚を焼いてしまうとその火傷の痕ははっきり残ってしまう。

ペネロープはあえてそれをやろうとしたのだった。目標となった地点は肛門
とヴァギナの間。ここに一センチ大の艾を七個、十字の形にのせて一つずつ火
をつけようというのだ。

「……<んnnn>……」

猿轡をされコリンズ先生ががっちりとその体を押さえているにもかかわらず
リサのベッドは地震のように揺れる。しかもそれが終わったにしてもお仕置き
はまだ全体の七分の一でしかないのだ。アリスは卒倒しかける自分の意識を繋
ぎ止めるだけで精一杯だった。

「アリス、あなたにこんなことはしたくありませんでしたが、仕方がありま
せん。恨むなら私を恨みなさい」

ペネロープの言葉が終わるとあのおしゃぶりが口の中へ、あとはどうやって
我慢したのかわからないほどの熱さ痛さだった。

二人の寝台がそれぞれ七回ずつ揺れペネロープは大仕事を終えて帰って行く

四人がやっと終わったと思ったのも束の間、その帰りしなペネロープはコリ
ンズ先生にこの四人の恥ずかしい格好を写真に撮るように指示していたのだ。

「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ
(バシャ)」

やがてシャッター音とともにフラッシュが焚かれ四人組は定められた格好の
まま記念写真に収まる。しかも、彼らはこの後もこの恥ずかしい格好のままで
夜明ししなければならなかった。

成年組はお浣腸を我慢し続けなければならないし、未成年組もお灸の痕に薬
を塗ってもらったものの患部をこすってはいけないということで、このままの
格好を強いられたのだ。

いずれにしても四人にとっては散々なクリスマスだった。いや、そう言って
はなるまい。この場合はコリンズ先生こそが一番迷惑を被ったのだろうから。

四人組に対するデザートは次の日の昼近くになって振舞われた。

ペネロープの呼び出しに従って行ってみると昨夜の痴態がすでにパネルとな
って張りだしてある。

「どうかしら、なかなかの出来栄えじゃなくて。せっかくだからお城のみん
なが見える所に飾りましょうか」

ペネロープのこの本気とも冗談ともつかない言葉に四人は返す言葉ない。昨
日の今日だから何と言っていいのかわからないのだ。

「あなた方が少女になりたくて色々運動しているらしいことは聞きました。
でも、あなた方は時々やり過ぎるみたいね。今回のもそうです」

「ごめんなさい、お母さま」

アリスが言うと他の子も

「ごめんなさい」「お母さま御免なさい」「ごめんなさい」

口をそろえる。すると、ペネロープは満足そうにほほえむ。

「私は今でもあなたたちを愛していますよ。私はね、あなたたちを愛したい
から助けたんです。目的はたったそれだけ。一般の人にはきっと奇異に聞こえ
るでしょうけど、本当に目的はそれだけなの」

ペネロープは座っていた籐椅子から腰を浮かすとアリスの手を取り再び座り
なおした自分の膝に乗せる。そして、アリスの服を一枚一枚脱がせ始めたのだ

「お金や財産目当ての人に言うことをきかせるのは簡単よ。でもそれじゃあ
嫌なの。子供は可愛いけど、けっこう残酷なことも平気で言うし、何よりお婆
ちゃんには育てるのが大変だわ」

アリスはとうとう下着姿になった。しかし、それも…

「アリス、恥ずかしい?」

「いいえ、お母さま」

ペネロープはアリスの体全体、局部や胸の膨らみまでも丹念に撫でまわす。

「どう、気持ちいいかしら」

「………はい」

「よろしい。あなたは私の愛を受け入れる準備ができているみたいね。安心
したわ。服を着なさい。次はケイトいらっしゃい」

こうしてペネロープは次々に四人を裸にするとその敏感な部分を含め体全体
を愛撫していく。そして、それが終わるとこう言うのだった。

「四人ともあんなにきついお折檻をしたのに、私の愛を受け入れる気持ちは
変わっていないみたいね。あなたたちの愛が変わらなければ私も同じよ。この
パネルを掲げる話はなかったことにしましょう」

「……ふう…」

期せずして四人から一様にため息が……

「このパネルは持ち帰りなさい。ただし、捨ててはいけません。今度あなた
たちが悪さをした時はこれをお城のどこか目立つ所に掲げますからそのつもり
でいなさい。いいですね」

「はい、お母さま」

こうして四人組に対するクリスマスディナーはお開きとなった。

その帰り道、ケイトが、

「う〜、今でも虫酸が走るわ。あんなの恐いからおとなしくしてただけじゃ
ない。どうしたらあんなお婆さん愛せるのよ」

「ケイト、聞こえるわよ」

「聞こえたっていいわよ。あんな婆さんに愛されるくらいなら、私は今でも
竜巻岬から身を投げたほうがまだましよ」

「そうかしら、私にはあなたが一番お母さまの愛を受け入れる気があるよう
に見えたけど……違う……」

アンがこう言うと、ケイトは

「馬鹿なこと言わないでよ」

言下にはねつけたもののなぜかそれ以後は何一つ口を開こうとはしなかった

さすがにあのパネルは童女達にとって悪戯に対する大きな抑止力となった。

女の子にとって体を苛めるだけの体罰より見せしめ系の罰は効果的なのだ。
たとえ異性がいない場所であっても自分の性器が写った写真が張り出されでも
したら『女』としては自殺行為に等しい。

四人はすっかりおとなしくなり、冬場は何も問題を起こさず、季節はやがて
春を迎えようとしていたとある日曜日。

四人は暖かさに誘われて湖へ来ていた。ここは城主が飲料水の確保を目的に
作らせたもので湖といっても直径百メートルほどしかない小さな池だが水温む
頃には村人のボートが出て賑わう。

ただ、この時はシーズンには少しばかり早かった。

「まだ、誰もボートなんて漕いでないわね」

「ちょっと早すぎたのよ」

「じゃあ帰る?」

「嫌だあ〜、せっかく外出許されたのに、今度はいつお城の外に出られるか
わからないのよ」

「だってボートがないのよ」

「あるわよ。ほら」

リサは陸揚げされているボートを指差す。それは真新しいペンキが塗られ、
オールも付いていた。

「大丈夫なの、これ」

「だってこれペンキ塗りたてよ。沈むような船にペンキなんて塗るはずない
じゃない。それに、お母さまがボート屋さんが営業してたらお母さまの名前を
出して借りていいっておっしゃったのよ。みつかったらその時断ればいいわ」

「でも、誰が漕ぐの。私達みんなボートなんて漕げないのよ。第一そのお話
はエルマンじいさんがそこにいるから乗せてもらいなさいってことでしょう」

「私、漕げるわよ」

「え、だってさっきは漕げないって」

「さっきはあんまり経験ないし自信がなかったからそう言っただけ。こんな
の簡単よ」

リサの言葉に説得力などない。だが、彼女の幼女のように駄々をこねる姿に
負けて他の三人はボートに乗ることを承諾したのである。

リサの目的は湖の真ん中にある小島。そこの白い水仙に彼女は目を奪われて
いたのだ。

「さあ、みんな手を貸してね」

当然のことながら張り切るリサ。女の子四人でボートを水辺まで持っていく
とそれはものの見事に浮く。水も入ってこないようだ。

「ほらごらんなさい。何の問題もないじゃない」

たしかにその時は何の問題もなかったのだが。

リサは二人乗りのボートにお客を一人ずつのせて島をめざす。かなり危なっ
かしいオールさばきでなかなかボートを桟橋につけられず、思いのほか時間が
かかったが、とにかく全員を島に上陸させることができた。

「わあ、すごくきれい。想像以上よ」

「こんなところがあったのね。誰がお手入れしてるのかしら」

「まるでお城の中庭みたいよ。でも、これは自然の公園ね」

「どう、みんな。私のおかげよ。尻込みしてたら何もできないんだから」

リサは鼻高々だった。

「ねえ、この花摘んでいきましょうよ」

アリスの提案に誰も異を唱えない。

四人は手に持ちきれないほどの白水仙の束を抱えるとボートに帰ろうとした
……ところが、

「ボートが沈んでるわよ」

見ると船の半分までが水に浸かっているではないか。

「やっぱりこの船使えなかったのよ」

これまで辛うじて持ちこたえていた補修用の板が外れてそこから水が入って
きたのだ。

彼女たちは慌てて水を掻き出そうとしたが、あいにくそこにはバケツのよう
な物が何もない。今度はボートを岸まで引き揚げようとしたが、空のボートを
水辺へ引いてくるだけでもやっとだった彼女たちにそんな力が備わっている訳
がなかった。

「どうすんのよ。どうやって帰るつもり」

「あんたがどうしてもボートに乗るんだって駄々こねなきゃこんなことには
なってないのよ」

「あ〜あ、これでまたしばらくは外出は無理ね」

非難はたちまちリサに集中する。

「大丈夫、そのうち誰か向こう岸を通るわよ。大声だせば気がつくわ」

リサは悔しまぎれに言い返したが、一時間たっても、二時間たっても人っ子
ひとりこの湖に人影は現われなかった。夕暮れが迫るなか、

「このままじゃ野宿ね」

アンがいうとリサが

「私はいやよ、野宿なんて」

と答えるので、さすがに温厚なアンも怒って

「何言ってるの。あんたのせいでしょう。早く薪拾ってらっしゃしゃいよ」

と怒鳴ることになる。四人のなかに一時険悪な雰囲気も流れた。

ところが、ケイトが隠れて煙草を吸うためにくすねておいたライターでその
薪に火をつけると、助け船は意外に早くやってきたのだ。

普段火の気のないところから煙が上がっているを不審に思った村人が様子を
見に湖へ降りてきてくれたのだった。

「おじさ〜ん」

黄色い声を張り上げて泣き叫ぶ四人組に野太い声が返ってくる。

「待ってろ、今、そっちへ行ってやるから」

ちょうどその頃、お城の方でも帰りの遅い四人を気遣ってコリンズ先生を中
心に捜索隊が出発していた。

 「ちょうどよかったよ先生」

村人が救援のための船を出すところへその捜索隊がやってくる。

湖の岸辺は時ならぬお祭り騒ぎになっていた。野次馬を含め、大勢の村人と
お城から来た捜索隊が手に手に松明を持って桟橋に集まり、小島で焚かれてい
たものとは比べものにならないほど大きな焚火が四人の子供たちの到着を待ち
焦がれていたのである。

やがてバタバタという音とともにエンジン付きのボートに乗せられたお祭り
の主賓が篝火の燃え盛る岸へと帰ってくる。

「よかった、よかった」

上陸した彼らに期せずして拍手が起こった。誰の顔もこれで一件落着という
安堵感でいっぱいの笑顔だったのだ。

ところが、そんな中で一人だけ恐い顔のまま仁王立ちしている女性がいた。
コリンズ先生である。彼女の顔は揺れる松明や焚火の炎の中にあってより凄味
が増し、子供たちにとってはこれから先の身の上を暗示しているかのようだ。

案の定、彼女は再会した子供たちにいたわりの言葉をかけることがなかった

「弁解することはなにかある?」

これが四人を前にした彼女の第一声だったのだ。

「……………」

それがないとわかると、

「アン、あなたケイトの手を持ちなさい。ケイトはアンのお腹に頭を入れる
のよ。リサ、あなたはアリスを手伝いなさい」

コリンズ先生のてきぱきとした指示に従ってアンとリサがお友達のお仕置き
の準備をすると、先生は何の躊躇もなく二人のスカートの裾をそのくるぶしの
あたりから一気に捲り上げる。

すると、彼女たちはいずれもショーツを穿いていなかった。それは彼女たち
の好みというではなく、外出着としてメイドが用意してくれたこの前近代的な
ファッションにははじめからショーツなど付いていなかったのだ。

当然、二人の剥出しのお尻は村人や捜索隊の人たちの前に晒される事となる
燃え盛る焚火にほてったお尻が松明の炎の中で怪しく揺らぐなか、

「ピシッー」

手慣れた鞭の軌跡が鮮やかなラインを刻む。いつもの手順、いつもの風景だ
ただ、鞭打たれて初めて、

『恥ずかしい』

という感情がケイトとアリスにわき起こった。恐怖心が過ぎ去り初めて我に
返ったというべきかもしれない。気がつけばこのお仕置きはいつもの身内での
折檻ではないのだ。見ず知らずの人たちに自分たちはお尻を晒しているのだ。

そう思うと、一刻も早くこの場を逃げ去りたい気持ちで一杯になった。

その心は自分たちを支えてくれている友達にも伝わる。

彼女たちもまた、両手とお腹から伝わってくる友達の異常な身震いにはっと
我に返ったのだろう。

だから友達の一ダースの折檻が終わった後、リサは無理を承知で頼み込む。

「お願いです。私へのお仕置きはお城へ帰ってからにしてください。その時
は鞭の数が二倍になってもかまいませんから」

しかし、そんな願いが受け入れられるはずがない。

「だめよ。ここでの鞭はお城での十倍も効果があるんだから。あなたも明日
からは少女になるんだし、いつまでも聞き分けのないことを言ってちゃいけな
いわね」

コリンズ先生の言葉は四人にとってはまさに青天の霹靂だった。

「私、少女になれたんですか」

恐る恐るリサが尋ねると

「そうよ。今日、あなた方が行方不明になる前に四人まとめて少女になる事
が決まったの」

「お母さまのお許しも得たんですか」

「もちろんそうよ。でも、ひょっとしたら今回の事件でお流れになるかもし
れないわね。さあ、そうならないためにも少女らしくちゃんと罪の償いをなさ
い」

四人は希望と不安を胸にお城へ帰ったが、結局、決定は覆らなかった。

アリスが童女になって一年余り、四人は待ちに待った少女としての暮らしを
やっとスタートさせることができたのである。

                           <了> 

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