ロバート・ドナット男爵家には、妻のミルドレッド、娘のヴィオラ、それに二人の召使いが住んでいることは前にお話ししました。ほかに庭番の老人がいましたが、別棟に住んでいます。男爵は、以前に話したように質素な生活をしていましたが、そうはいっても、主人のほかは全くの女人の館で、四季おりおりの花や美しいカーテンなどが甘いムードを作ります。
男爵はこの間、国会の玄関で足をすべらせて腰を打ってしまいましたね。でも、二日もすると、ベッドをはなれ、次の日には、以前のように元気になられました。
あの時は、朝からいろいろなことがあった日ですが、男爵のケガで、ほかのことはすっかり忘れられてしまいました。とはいうものの、それは外面的なことで、それぞれの当時者にとっては、けっして、すぐに忘れられるようなことではありませんでした。
とくにナタリーとジョゼットは、あの時のことをまだしばらくは忘れることができないでしょう。そして、二人はとても注意深くなっていました。なにしろ、あのことが奥様に見つかって、そのために二人とも目が回るほど笞で折檻されたのですから、もう二度と、昼間のうちに二人でベッドにはいって秘密の楽しみをするようなことはありませんでした。
しかし、全くしなくなったわけではありません。あんなにしかられたくせに、二人の召使いは、夜になると、こっそり一つのベッドにもぐり込んだりしていたのです。その時も奥様の目を盗んでいると思うと、なおさらスリルを感じるのです。
一方ミルドレッドのほうは、あのことがあって以来、ナタリーとジョゼットにはそれとなく気を配ってはいましたが、なにしろ主人がケガをして家にいたりで、なかなか召使いのことまでじゅうぶんに目がとどきませんでした。
娘のヴィオラも、お父様がそんなふうなので、わりとおとなしくしていました。
あれからもう十日余りたったでしようか、ようやく以前と同じような日々がやってまいりました。しばらくぶりでミルドレッドは外出しています。召使いたちもちょっぴり羽をのばしていましたが、娘のヴィオラが家に残っているので、前のような失敗は繰り返しません。あの時のことをヴィオラが言いつけたのを、二人はうすうす感づいていましたから。
昼過ぎ、ミルドレッドは大きな包みを持って帰って来ました。そして部屋にはいると、しばらく出て来ませんでした。
ヴィオラは召使いたちとオシャベリをしながら、彼女らの仕事を見ていました。台所をピカピカにみがき上げていました。すっかりみがいてしまうと、二人とも、うっすらと汗ばんで、ホッとひと息いれ、イスにすわってくつろぐのでした。
「まあ、お二人さんとも、そんなに乱暴に腰をかけてだいじょうぶなの。お尻はもう痛くない?」
「まあ、お嬢様こそ……」
「ふん、あたしなんて、もうとっくになんともないわ。ママの平手打ちなんて平気よ」
「まあ、あんな強がりをおっしゃって、あの時はあんなにお泣きになるくせに……」
「だって、その時はとても痛いんだもの。それより、この間おまえたちはずいぶんひどくたたかれたのね。あたし、知ってるのよ。いったい、あんなにたたかれなければいけないなんて、どんな悪いことをしたの?」
「さあ、なんでしょう?」
二人は顔を見合わせて、ふくみ笑いをしました。
「まあ、な−に?教えてくれてもいいでしょ。少しは知ってるのよ。たしか、あの時、おまえたちは仕事をさぼってベッドで寝ていたんでしょ。でも、変ね。それくらいのことで、あんなにたたかれるわけないし…ああ、おまえたち、お洋服を脱いだりして、とてもお行義の悪い格好で寝ていたんじゃない。それにしても……ママはずいぶんおこっていたわ。そして、おまえたちのからだに悪魔がいるって、どういうこと?」
ヴィオラにはあの時のことがほんとうにわかったわけではなかった。ただ、二人の召使いが、仕事をなまけていると思っただけなのでした。それだけにあの時のきびしい折檻は、ヴィオラの想像をはるかに越えたものだったのです。二人の召使いは、そのことをなんといっていいのか、返事に困ってしまいました。
「あの時はね、仕事をなまけていたでしょ、それに、うんとお行義の悪い格好で寝ていましたからね。奥様は、あんなことが大きらいなんですよ。少しでも洋服が乱れていてもたたかれるくらいですからね。この間みたいに無作法なことをすれば、あれくらいしかられますよ。ねえ、ジョゼット、そうじゃない」
「ええ、そうですとも、奥様はとてもきびしいかたですからね」
ヴィオラはそれ以上聞こうとはしませんでしたが、その返事に、けっして満足したわけではなかったのです。ヴィオラ自信がよく知っていた。なまけたり、無作法をした娘をママがどんなふうにあつかうかを。たとえ、召使いであっても、この間のような折檻をするからには、そのほかに何か別の理由があるにちがいなかった。そのことを二人が隠そうとしていることも、ことばのはしばしにうかがえた。ヴィオラは、自分だけが教えてもらえないので少々ふきげんになって黙ってしまったが、二人の召使いはそれを潮に、また立ち上がって仕事をはじめました。
その時、呼び鈴が三度、リン、リン、リンと鳴りました。三回は、二人の召使いに用がある時だったので、ナタリーとジョゼットは身づくろいをして二階に上がっていきました。ヴィオラもいっしょについてママの部屋にはいっていきました。
「おや、ヴィオラもいっしょにいたのかい。この二人にちょっとお話があるので、おまえは自分の部屋にいっておいで」
「はい」と言って外に出たが、また自分一人がのけものにされたような気がして、ヴィオラはますますふきげんになりました。
ミルドレッドは、ヴィオラが出て行くと、二人をそばに呼んで小さな声で尋ねました。
「おまえたち、あれから、同じようなことをしなかったかい」
急に聞かれて、一瞬、二人はどぎまぎしました。心の中で、隠れてしていることがドキンとこみ上げて、思わずほんとうのことをいいそうになってしまいました。
「いいえ、奥様、けっして……」
「そうかい。ほんとうだといいんだけどね。あれだけ痛いめをみたんだから、まだききめはあるだろうけどね。でも、ほんとうにからだによくないんだよ、きょう、わたしはお医者様のところに行って来たんだけど、ああいうことは、一度覚えてしまうと、なかなかやめられないらしいね。笞で折檻したくらいじゃ、悪い習慣はなおらないそうだよ。おまえたちは、あれがはじめてじゃないね。正直にお言い。そのことで、けっしてしかったりはしないから」
「はい、奥様。申し訳ございません。前にも同じようなことをいたしました」
「ふ−ん、やっぱりね。それで、始めて二人がいっしょにベッドにはいったのは、いつごろからなの」
「はい、去年のクリスマスのころです、奥様」ナタリーはウソをつきました。ほんとうは、もう二年も前から、二人は楽しんでいたのです。しかし、ミルドレッドにとっては、二年前も半年前もたいして変わりはありませんでした。
「まあ、たいへん、それじゃあ、おまえたちは、すっかり悪い習慣のとりこになってしまっているね。先生のおっしゃったとおりだわ。いいかい、よくお聞き。オナニーがどんなに悪いことか、からだに悪いばかりか、精神まで腐ってしまうよ。そんな悪いことは、すぐに直さなくてはね」
「はい奥様、もう二度といたしません」
「そのことばを信用してあげたいけど、お医者様の話では、とてもそんなことでは直らないんだって。とくに自分一人でやることだってできるんだからね。それで、きょう、お医者様にとてもいいものをいただいて来たんだよ。おまえたちには少しつらいかも知れないけど、しかたがないね」
そう言いながら、箱の中から取り出したものを見て、二人の召使いは、あっと声を出してしまいました。貞操帯、話には聞いていましたが、見るのははじめてでした。
「奥様、それ、貞操帯ですか?」
「いいえ、ちがいますよ。わたしもはじめはそうかと思ったのだけど、これは、貞操帯とはちがうのよ。これは、お医者様が研究して作ったもので、おまえたちのようにオナニーの習慣がついてしまった娘たちに、治療のために着けさせるものなんだよ。さわってごらん、こんなにすべすべして、とてもよくできているだろ。前のところもこんなにふくらんでいるから、着けていたって気にならないそうだよ。うしろのほうだって、よくご覧、貞操帯とはちがうだろ。細いひもになっているから、用便は全く今までと同じさ。前のほうはそうはいかないけどね。それはしかたのないことさ。そのために着けるのだからね。さあ、着けてごらん」
「奥様、もうけっしていたしませんから、お許しください。わたし、とても恥ずかしくて、いやなんです」
「いいえ、許しませんよ。いやだなんて言えると思っているのかい。おまえのためにするんですよ。これだって、とても高いお金で買って来たんですからね。そんなわがままは許しませんよ。さあ、ドロワースをお脱ぎ!」
二人はしぶしぶ下着のひもを解きました。最初に、年上のナタリーのほうが、その冷たい器具の間に足を入れました。ミルドレッドは、むぞうさに持ち上げると、それをピッタリとナタリーの前のところに当てがいました。そして、ベルトの長さを合わせると、最後にウエストのところできっちりと重ね合わせ、小さな穴から出ている金の輪に、小さな南京錠をピンと音をさせて止めました。
「さあ、歩いてごらん」
「ナタリーは、スカートを持ち上げたまま、情けなさそうな顔をして、部屋の中をぐるぐると歩き回りました。
「どう、痛いことはないかい?」
「はい、痛くありません…・」
つづいて、ジョゼットにも同じようにきっちりと取り付けて歩かせて見ます。そして、もう一度ベルトのしまりぐあいを確かめてから、ミルドレッドは、器具のすきまから指を差し込んでみました。しかし、指は一センチとはいらなかったので、ミルドレッドはすこぶる満足そうに、うなずきました。
「奥様、わたしたちは、ずっとこれを着けたままですか」
「そうね、しばらくの間は、そのままでいてもらいますよ。ほんとうに悪い習慣が直るまでには、とても時間がかかるそうだからね。さあ、ドロワースをはいてごらん」
二人は下着をはきながら、しきりに前を気にしていました。スカートの上からそっとさわって見たりもしました。
「ほら、全然わからないよ。外に出ていったって、誰も気がつきはしないさ」たしかによくはできいました。しかし二人にとっては、やはり気になることでした。ミルドレッドは、箱の中から小さなカギを取り出して二人に見せました。
「いいね、このカギはわたしが預かっておきますからね」
そう君いながら、そのカギを小物机の引き出しの中にしまいました。その引き出しには、おもに奥様の宝石類がはいっていたので、引き出しにもカギがついていました。そのカギはいつもミルドレッドが首から下げていたのです。
二人の召使いは、オモチャを取り上げられた子供のような目つきでそれを見ていました。
「さあ、よし、もういいよ。仕事に戻りなさい」
二人は軽い会釈をして部屋の外に出ました。階段を降りかかるとうしろから声をかけられました。
「ねえ、ママの用はなんだったの?」
ヴィオラの声で立ち止まって後ろをふり向いたが、ちょっと返事につまってから、
「ええ、お話があっただけです」
「なんの話?」
「別に……たいしたことじゃないんです」
それだけ言うと二人は、さっさと下に降りていってしまいました。ヴィオラは“ふん”と鼻を鳴らして、ママの部屋にはいっていきました。
「ママ! どうして、わたしには何も話さないの。あの二人に何を言ったの?」
「おやまあ、ヴィオラは何をそんなにおこっているの。ママにはさっぱりわからないわよ」
「だって、ママたち、このごろ変よ。あたしだけのけものにして……前にはこんなこと一度もなかったわ。どんなことだって、あたしの前で話したわ。それなのに、あたしが行くと、急に話をやめたり、きょうだって、あたしだけ自分の部屋に行かされたわ。それに、この間のことだって…」
「この間のことって何?」
「ナタリーとジョゼットをしかった時のことよ。仕事をサボったり、お行儀のいい格好をしたくらいじゃ、ママはあんなにおこらないわ。何かほかに理由があったのね。そのことを聞いても何も言わないし……」
「まあ、そんなことを聞いたの。それで、なんと言って、あの二人は」
「だから、何も言わないって言ったじゃない。何かあたしに隠してるのね」
「そんなことありませんよ。きょうの話は、おとなの話だから、おまえを外に出しただけよ。この間のことは、仕事をサボったこととお行儀の悪い格好をしていたから、しかったんですよ。少しきびしすぎたように思ったかも知れないけど、あの娘たちは、もうおとなですからね、子供なら、少々のお行儀の悪さもしかたがないけど、もう二十歳を過ぎた娘は、いつまでも甘やかすわけにはいかないのよ」
「あたしだって、もう子供じゃないわ……」
「いいえ、まだ子供よ」
「ちがうわ、あたしのほうがずっといろんなこと知ってるわ」
「そうね、あなたは学校に行っているんですものね。でも、それだけではおとなになれないのよ。おとなになるには、ちゃんとそれだけの時間がかかるものなのよ」
「それじゃ、きょうの話も、あたしには教えてくださらないのね」
「ええ、まだ必要ないわ。あなたがおとなになったら、きっと話してあげるわ」
「それは、いつ?」
「さあ、わからないわ」
「そんなのずるいわ。召使いが知ってるのに、あたしが知らないなんて」
「召使いでもおとなはおとなよ」
「あたしだって……」
「ヴィオラ、あなたと話していると、ママ、頭が痛くなるわ。とにかく、ママがあなたをおとなだと認めた時には、なんでも話してあげるわ。今はまだだめよ」
「どうしても」
「そうよ、ママの言ったこと聞こえたでしょ。これ以上強情を張ると、お尻をたたきますよ。さあ、外で遊んでらっしゃい!」
ヴィオラは庭に出て遊ぼうと思いましたが、考えれば考えるほど悔しくなって、何もしたくなかった。だから、じっとブランコにすわったまま考えていました。何か目に見えない壁が自分の回りに張りめぐらされたような気がしていたのです。
そのうち、ぶらぶらと歩きはじめると、自然に裏庭のほうに回って行きました。そして、台所の入り口から中を見ると、ナタリーとジョゼットがしきりに何か話していました。ときどき眉をしかめて、まじめな顔でしたから、いつもの冗談話でないことがわかりました。
台所の入り口のドアをガクンとあけてヴィオラが中にはいると、二人は急に話をやめて忙しそうに仕事をはじめました。ヴィオラは心の中で“やっぱり”と思いました。だいたい予想はしていたものの、こんなにもあからさまにやられると、やっぱりいい気持ちはしません。
「なんの話、あたしに聞かれちゃ、まずい話なのね、そうなんでしょ」
「いいえ、お嬢様、そんな……ねえ、ジョゼット、わたしたち、今度のお休みのことを話していたのよねえ」
「え、ええ、そうですわ」
「いいのよ、隠さなくたって、あたし、知ってるんですからね」
「え、何をですか」
「なんでもよ、みんな知ってるわ」
「みんなって……」
「さっき、ママのお部屋で話してたことよ」
「話……ですか?」
「そうよ、どんなお話をしてたのか、ちゃーんと知ってるんですからね。だから、いま何を話してたかお言い。ママにはないしょにしておいてあげるからね」
ヴィオラがウソをついていることは二人にすぐわかりました。二人はちらっと目で合い図をすると、その手にはのりませんでした。
「だってお嬢様、ほんとにお休みのことを話してたんですわ、何をしようかって」
ヴィオラもまた、この二人がウソをついていることがすぐにわかりました。あの表情は、そんな楽しい話じゃない。
「あたしにウソをついてるのね。だめよ、ほんとうのことを話しなさい。ねえ、ママにないしょにしてあげるから、話しなさいよ」
二人は、ヴィオラをおこらせたくはなかった。しかし、もう、作り話では信用されないことも感じて、黙り込んでしまいました。
「そう、どうしても言わないのね、パパに言いつけるわ」
「何をですか、お嬢様」
「なんでもよ。もし、何もなかったら、作ってあげてよ。たとえば……ジョゼットがあたしにいじわるをしたとか……ナタリーがパパの悪口を言ったとか……」
「そんなこと、わたしたちしませんわ……」
「でも、あたしが、したって言うのよ。パパは、どっちを信用するかしら。パパの笞はとても痛いのよ……」
「お嬢様、そんないじ悪なさらないでください。ダンナ様におこられるのはいやですわ」
「それじゃ話しなさい。いま何を話してたの。ママのところで何を話してたの……」
「まあ、お嬢様はご存じじゃなかったんですの、何もかも」
「いいわよ、あたしのことをバカにするのね。パパに言って、おしおきしてもらうわ。さあ、どうなの、話すの話さないの」
「お嬢様、お許しください。わたしたち、何も知らないんです……」
「いいわよ、もう何も聞かないわ。そのかわり、きっとパパに言いつけてやるから、それでもいいのね」
「ヴィオラ!」
台所の入り口にミルドレッドが立っていた。
「ヴィオラ、大きな声で、なんていう騒ぎなの。召使いをおどかして、おもしろいのかい。パパをだまして、ナタリーやジョゼットに笞を当てさせようっていうんだね。よくそんなことができるね。そのうえ、ママのいうことも聞けないようだし、どうやら、笞が必要なのは、その二人じゃなくて、おまえのようだね。しょうのない娘、二階へお上がり、さっきあれだけ注意したのに、少しもわからないんだね。ちゃんと言っといたはずだよ。わかっているだろうね。ママの部屋に行きなさい。おしおきをしてあげるよ。おまえにはそれが必要ですからね。さあ、先に行きなきい」
ヴィオラが出て行くと、ミルドレッドは二人の召使いに、あのことをヴィオラが知っているのかどうか問いただしました。二人ははっきりと、お嬢様は知りません、と答えたので、ミルドレッドは安心しました。そして、カマドのところに置いてあった笞を取って、二階に上がって行きました。
しかしヴィオラは、やがて部屋にはいって来たママが手にしている笞を見て青くなりました。
「ママ、いやよ、笞なんかでたたかないで。ママ、ごめんなさい、いい娘になりますから」
「イスを出して、からだを乗せなさい。おまえは、おとなになりたいんでしょ。おとなになるには、自分のしたことに責任を持ちなさい。今のおまえには、これが必要なのだよ。うんと痛いめにあえば、次からは考えるだろうからね。ママが子供のころは、もっとすなおにおしおきを受けたものですよ。さあ、言われたとおりになさい」
ヴィオラはイスを持って来ると、そのうしろに立って、背もたれ越しに前にかがむと、座板のところをしっかりと手でつかみました。これで、ヴィオラのからだは、イスの背もたれの上に高々とお尻をつき出して二つに折れ曲がったわけです。
ミルドレッドは、すぐにヴィオラのすそをたくし上げると、その下は足のくるぶしのところまで包んだブルマーでした。ヴィオラは心の中で、笞で打つのなら、せめてブルマーの上からにしてほしい、と思いましたが、ミルドレッドの手は容赦なく、ウエストのゴムの部分をさぐりあてました。そして、気まえよく引き下げてしまいました。
ヴィオラは、からだじゅうに布をまとっているにもかかわらず、最も恥ずかしい部分だけがすっかりむき出しになってしまいました。そればかりか、そのお尻は、今や、いちばん高い位置にあって、これから始まる笞の洗礼に何一つおおうものもなく、さらしつづけなければならないのでした。
ミルドレッドは、娘のからだがめっきり女らしくなって来たのを知っていました。目の前に突き出しているお尻も、ついこの間まで子供っぽかったのに、今や、ふっくらと丸く、肌は柔らかく、脂肪で包まれたようにすべすべとしていました。
ヴィオラも、小さい時から数え切れないくらい、おしおきをされたお尻だったのですが、油をふくんだ籐をより合わせた笞を受けるほどじょうぶな肌ではありませんでした。
ミルドレッドは一瞬ためらいましたが、それが娘のためにならないことを思い、笞を右手にしっかりと持ちました。
最初の一撃が、ピシッとまん中に食い込みました。ヴィオラは悲鳴をあげとび上がりました。
「やめて!ママ、もうやめて!」 ヴィオラは泣き叫んでいましたが、けっして逃げたりはしませんでした。もし、そんなことをすれば、その結果がどうなるか、知っていたからです。それでも、いつもの平手打ちとはちがって、その痛さはまるで焼けた鉄の棒を押し付けられたかと思ったほどでした。
すっかりおびえ、足を小刻みに震わせているヴィオラに、二回目の笞が打ちおろされました。二本の赤いミミズばれは、はっきりと笞の形をヴィオラのお尻の上にしるしていました。
「もういいわ、ママ。もうじゅうぶんよ」
ヴィオラは、声をかすれさせて叫びつづけましたが、そのあと、つづけざまに打ちおろされた三回の笞のために、ことばにならず、悲鳴だけになってしまいました。ほとんど正確に一インチの間隔で、五本の筋がヴィオラの丸いお尻の上に刻まれていました。
ミルドレッドは、笞打つことはやめましたが、まだヴィオラを許してやったわけではありませんでした。ヴィオラも、どんなにつらくとも、母親の許可なしにかってに起き上がったりはしませんでした。小さいころからそうしつけられていたからです。
ミルドレッドは呼び鈴のひもに手をかけると、それを三度引きました。その様子をヴィオラも見ていましたので、あわてて、
「ママ、もう許して。召使いが上がって来るわ。ねえ、もういいでしょ」
「そのままでいるのよ。まだ、おしおきは終わっていないのだからね。かってに立ったりしたら、もう一度たたいてあげるからね」
ヴィオラはドアのほうにお尻を向けていたので、もしあの人たちがはいって来れば、いやでも全部見られてしまうのです。別に始めてのわけではないけれど、笞跡の付いたお尻を見られるのは恥ずかしいことです。
ドアにノックの音がして、二人の女中たちがはいって来たのがわかりました。二人の姿は見ることができませんでしたが、想像がつきます。ヴィオラは顔を赤らめました。
「奥様、ご用はなんでしょうか?」
「もっとこっちにおいで。いいかい、さっきのことで、ヴィオラにおしおきをしているところなんだよ。じゅうぶん懲らしめたつもりだけど、また同じことをするといけないからね。おまえたちのいる前ではっきり言っておきますよ。さっき、わたしの部屋で話したことを、この娘に話すことはないのだよ。もし、そのことでおまえたちが困るようなことになったら、いつでもわたくしのところに言って来なさい。この娘がわかるまで、同じようにして懲らしめてやるからね。このくらいでいいだろうね、おしおきは」
「はい奥様、よくわかりました。それに、お嬢様はもうじゅうぶんに後悔していらっしゃいますわ。籐笞で五回もたたかれれば、わたしたちだってこたえますもの。ねえ、ジョゼット」
「そうですわ、奥様。もうお嬢様を許してさし上げてください、とても痛そうですわ」
「わかりました。二人はもう下がってよろしい。いま言ったことを忘れないようにね」
二人は「はい」と返事をして出ていきました。ドアの閉まる音が聞こえたので、ヴィオラはこれで終わったと思って、ふっとからだを起こしてしまいました。
「ヴィオラ、誰が許しました?」
「たって、ママ……」
「そうね、わたしも許してあげるつもりでいましたよ。たった今まではね。でも、まだいいとは言わなかったはずよ。さあ、もう一度、お尻をお出し!」
ヴィオラは唇をかみしめて、もう一度、前かがみのポーズに戻りました。再びスカートがまくり上げられ、今度はミルドレッドの手がウエストに回されて腰をしっかりかかえてから、平手打ちが始まりました。軽い打ち方だったのですが、笞のあとだけに、痛さはひどいものでした。
「さあ、もういいよ」四、五回たたいてから、ミルドレッドは、ようやくヴィオラを許してやりました。ヴィオラはまた新しい涙で顔じゅうをぬらしていました。お尻は、火がついたように熱く痛かったのです。
自分の部屋に帰って来てベッドにうつぶせになると、ヴィオラは、しばらく泣いていました。しかし、気持ちが落ち着くにしたがって、笞の痛さより、ママがわざわざ二人の女中をよんで自分の前で口止めしたことのほうが気になって来ました。いったい、なんの話をしたのかしら? そのことを考えると、頭の中がいっぱいになって、涙も止まってしまうのでした。もう、そのことを誰からも聞くことができないと思うと、よけいに、あれこれと考えてみるのでした。
階下では、召使いがお茶の用意をしていましたが、ときどき顔を見合わせては、眉をしかめ、そっと、エプロンの上から、カギのところをさわってみるのでした。
「さあ、これを上に持って行ったら、わたしたちもお茶にしましょう」