第3話

気になるあのコト

 ヴィオラ・ドナットは、いつの間にか自分の回りに張りめぐらされた薄いヴェールが、日がたつにつれ、濃いミルク色に変わってゆくような気がした。少なくとも外見はいままでの生活と少しも変りはなかった。パパもママも二人の女中も……。

 しかし、ヴィオラの胸の中のモヤモヤは、日がたつにつれて大きくなって、母親と女中たちの間でかわされた話がどんな内容なのか知りたくてうずうずしていた。何か知りたいことがあれば、本を見たり、人に聞いたりすればよいのですが、このことだけは、それを、質問することすら母親に禁じられてしまったのでした。あの時、あまりしつっこく聞いたため、ヴィオラは始めて籐笞でたたかれたのです。

 そんなに私には聞かせたくない話なのかしら。母は、おまえは子供だからとも言ったけど、あの二人の女中が、自分と比べてそれほどおとなだとは思えない……庭で遊んだり、本を読んだりしていても、ふっとそのことを思い出すとゆううつになって、もう何も手につかなくなってしまうのだった。

 考えれば考えるほどわからなくなってしまう。まっ暗な部屋の中で何か捜し物をしているみたいに、そのうえ、もっと悪いことには、自分が何を捜しているのかさえもわからないのだ。

 家の中にいる時なら、少しぐらいボンヤリと考えごとにふけるのもいい。しかし、学校にいる時もちょっとしたことばから、そのことを思い出して、急に考えこんでしまうこともあった。

先週、ヴィオラは、学校で三回罰を受けた。そのうちの一回は、数学の問題ができなかったからだが、あとの二回は、ボンヤリして先生の質問がわからなかったために与えられた罰だった。けっきょく、その原因は、あのことだったのだ。

 ヴィオラにとって、あのことは、ただ、ゆううつな問題としてだけではすまされなくなって来ていた。もともと、ヴィオラの行っている学校は、娘のためのイートン校と言われるほどきびしくて、罰を受ける機会に不足はしないのだが、今まで、ヴィオラは成績もよく、比較的罰を受けずに過ごして来た。しかし、いくらテストの成績がよくてもふだんの行ないを重視する学校で、少々できのいい生徒だからといってけっして、甘やかしたりはしなかった。

 したがって、あの問題が解決しないかぎり、ヴィオラにとって罰を受けるチャンスが二倍になったといってもいいだろう。これは、ヴィオラにしてみれば重大な問題だった。

  最悪の事態のおそれ

 ここで行なわれる罰も、母親の折檻と同様、笞でお尻をたたかれるのだが、その恥ずかしさは、ママに打たれる時の数倍に感じるのだった。

 先週の時もそうだった。先生の質問にトンチンカンな答えをしてしまったヴィオラは、前に出なさい、という先生のことばに、すなおに従うよりしかたがなかった。十五人ほどのクラスメイトの視線を背中に感じながら、教室のいちばん前に出る。その時すでに先生の手には笞がしっかりと握られていた。ふた言み言きびしく小声でしかってから先生は、目とアゴで合い図をした。

 ここでは、すべてのことの上に従順ということばがあった。先生が笞を持って合い図をすれば、生徒であるヴィオラは、自分で下着をとり、すそをまくり上げ、先生が打ちやすいように机の上にからだをもたせ、お尻をうしろに突き出すようにしなければならなかった。みずから進んでクラスメイトの前に恥ずかしい格好をさらさなければならないなんて、涙が出るほどつらいことだったが、それを拒んだ時の恐ろしさを、ヴィオラも知っていた。

 先生は、ヴィオラのすなおな態度に満足そうにうなずいてはいたが、それくらいのことで手かげんするようなことは、けっしてなかった。小枝をたばねた笞がうなりをあげてヴィオラのお尻に打ちおろされた。そして、ヴィオラの丸いお尻すべてが赤く染まるまで、お尻打ちはつづけられた。

 その間、クラスメイトのほうに向けられたヴィオラのお尻は、笞が当たるたびに縮み上がり、とびはね、からだをくねらせながら、みだらなダンスをつづけなくてはならなかった。

 ヴィオラは、すっかり頭に血がのぼって、今にも気を失うのではないかと思うほど恥ずかしかった。そして、二度とこんなバカなことで罰を受けることのないようにしようと、心に刻みつけた。

 ……だが、今週になってから、事態はますます悪いほうに進んでいってしまった。今度は、ヴィオラも気持ちを落ち着けて、先生のことばをひと言も聞きもらさないようにしていたので、前のようなうかつなミスはなくなったが、しかし、勉強のほうが手につかず、みじめな過ちを繰り返した。

 担任のクローディア・レスタリック先生は、ヴィオラを自分の部屋に呼んだ。この一カ月、ヴィオラの態度が急に変わったように思われたからだった。

 しかし、その原因をヴィオラから聞き出すことはできなかった。先生は、明らかにおこっていた、今まで信じていた生徒に裏切られたような気がしたからだ。先生は、ヴィオラを待たしたまま、机に向かって手紙を書き始めた。ヴィオラは最悪の事態を予測した。

「ヴィオラ・ドナット! この手紙を、お父様にお見せして、サインをいただいていらっしゃい。この一カ月、あなたがしたことがすべて書いてあります。一度、お父様に来ていただいたほうがいいようですね」

 クローディア先生は手紙を封筒に入れ、ロウでしっかり封印をしてヴィオラに手渡した。ヴィオラは、その封筒を受け取る時、手がかすかにふるえるのを止めることができなかった。

  父の部屋に呼ばれて

 その日の夕方、ヴィオラは、自分の部屋の中で、じっと息を殺していた。手紙はすでに父の手に渡っていた。足音が聞こえた。ドアの前で止まると、外から女中が声をかけた。

「お嬢様、ご主人様がお部屋のほうに来るようにとのことでございます」

 ヴィオラは、屠殺場に引かれてゆく羊のように首をうなだれて、父の部屋にはいった。

「ヴィオラ、何か言うことがあるか。理由があるなら言ってみなさい」

 「おまえには何も言うことがないのか!ほんとうに、この手紙に書いてあるとおりだったんだな!ああ、なんて恥知らずなことだ。いくら笞でたたかれても、自分の悪いところを改めようとはしなかったんだな」

「お父様、お願い、ヴィオラは、いっしょうけんめいやりました……でも、ためだったんです。失敗ばかりしてしまって。でも、これからは、けっして……必ずいい生徒になります」

「もう少し早く気がつくべきだったんだよ、ヴィオラ。この手紙には、二つの注文がある。一つは、私がおまえをきびしく罰すること。二つ目は、明後日、私が学校に行くこと、だそうだ。おまえをしおきすることはかんたんだが、なぜ私が学校に行かなくてはならんのだ。私の仕事がどんなにたいへんなことか、おまえにはわからんのか、おまえのようにわがままでふまじめな娘のために、私のたいせつな時間を使わなくてはならない。もっといいことでなら、いくらたいせつな時間でも、私はよろこんでおまえのために使ってやる。しかし、このようなことで……なんということだ……わしは許さんぞ!」

 ヴィオラはふるえながら泣いていました。久しぶりに父からしかられたので、すっかりからだを縮めて小さくなっていました。

 父は上着をぬぎ、Yシャツのそでをまくり上げています。手紙のとおり、父は折檻をするつもりです。

「パパー お願い、あたしをぶたないで」

 しかしパパは、無言で近づくと、ヴィオラの腕をとって、イスの置いてあるほうに連れてゆこうとします。

「ごめんなさ−い。いやよ−。もうしませんから、パパ、ごめんなさい。パパ、許してー」

 ヴィオラはからだを引いて逃げようとしますが、しょせん、パパの力にはかないません。ずるずると引きずられるように、部屋のすみのイスのところまで連れてこられてしまいました。

  尻打ちの音と悲鳴と

 パパはイスに腰をおろすと、自分のひざの上のヴィオラのからだを横たえて、片手でしっかりと押えつけてしまいました。

 ヴィオラの頭は床につくほど低く、お尻打ちには都合のよいポーズになります。手荒く、スカートがまくり上げられ、下着も引きおろされ、ヴィオラのお尻は、パパのひざの上ですっかりむき出しになってしまいました。

「ヴィオラ、おまえの尻には枝笞の跡がたくさんついている。手紙のことはやっぱりほんとうだったんだね。私は少しおまえを甘やかしすぎたようだ。これからは、もう少しおまえのことを注意していよう」

 ロバート・ドナットは、もう一度娘をしっかりとかかえ直すと、そのたくましい右手をふり上げて、ピシッ! ピシッ! と、力いっぱいにたたきはじめた。

 そのたたき方は規則正しく、正確にヴィオラの半球を交互に打つやり方だった。一打ちごとに、ヴィオラはうめき声をたて、なんとかしてその平手打ちをかわそうとからだをくねらせるのだが、父親の力には全く通じなかった。

 ヴィオラは、以前父に打たれた時のことを思い出したが、その時よりずっと強い打ち方のように感じられた。

 ピシッ! ピシッ!

 その間も、父の平手打ちは正確に打ちつづけられていた。

 たぶん、ドアの外で何人かの人が聞き耳をたてているだろう。そのためにヴィオラは必死になって歯を食いしばり、なんとか悲鳴をもらさないようにしていた。しかし、たとえ悲鳴が聞こえなくとも、この、屈辱的で、そのうえ、はっきりそれとわかるピシャピシャという音まで消すわけにはいかなかった。家じゅうがひっそりとして、その音に聞き耳をたてているようたった。

「お父様、もう許して、お願い……」

 ロバート・ドナットは、返事のかわりにさらに、力強い平手打ちを娘に与えた。

 ヴィオラも、もうじっと口をとじているわけにはいかなくなった。

「もうやめて! ごめんなさい、パパー。いやよ、いや−っ、もうぶたないで、ああっ」

 一度口が開くと、あとはとめどなく悲鳴をあげた。お尻打ちの音と悲鳴と哀願の叫びが重なった。もうヴィオラにはそれを止めることはできなかった。恥も外聞もなく、今はなんとかして父のおしおきからのがれたかった。

  部屋の外と中と

 ドアの外では、案の定、ナタリーとジョゼットの二人が、聞き耳をたてていた。

「とうとうお嬢様、音をあげたわ」

「よくがまんしたほうよ。きょうのだんな様は、ほんとうにおこっていらっしゃったんだから」

「もう四十ぐらいたたかれたんじゃない?」

「そうね、このぶんだと、当分イスにすわるのもつらいわ。はれ上がってしまうよ」

「なにしろ、だんな様にたたかれるのは久しぶりだからね。お嬢様も、ずいぶんこたえただろうさ」

「ふん、それでも、なんたって、お嬢様の時は平手打ちだからね。わたしたちはいつも笞で打たれるのにさ。もっとうんとぶたれりゃいいさ、少しはオトナしくなるでしよ」

 部屋の中では、ヴィオラのおしおきがまだつづいていた。もう五十を過ぎていた。ロバートは、自分の手が痛んできたので、もう娘にもじゅうぶんききめがあっただろうと思った。まっかにはれ上がった娘の尻に、ロバートは最後の一打ちをたたきつけた。あっ、あ−っ! とヴィオラは叫んで、からだをのけぞらせた。

 ロバートは、娘のからだを起こし、立たせようとしたが、ヴィオラは、腰がふらついて、まっすぐ立っていられなかった。

「さあ、しっかり立ちなさい。どうだ、少しは懲りたかね。それとも、まだおしおきがじゅうぶんじゃないかな」

 ヴィオラはシャクリ上げながら、

「もうじゅうぶんよ、パパ。もうぶたないで、お尻が焼けてるみたい」

「いいかい、きょうのことを忘れるんじゃないよ。今度何かあれば、きょうよりもっとたくさんたたいてやるぞ、わかったな。私が返事を書くから、しばらくそこに立っていなさい。それから、いつまでそんな格好をしているんだ、ちゃんと下ばきをはきなさい、恥ずかしくないのかね」

 ヴィオラは、足もとにまるまっている下ばきをあわてて引き上げましたが、その時、はれたお尻にさわり、小さなうめき声をたて、ポロポロと涙を流してしまいました。焼けつくように痛むお尻をそっと両手で押えてじっと立っていました。父が早く手紙を書き終えてくれればいいと思っていました。

  懲らしめの跡を

 次の日、ヴィオラは父の手紙を持ってクローディア先生の部屋に行きました。じっと立っていても、まだお尻はうずくのでした。先生は手紙を読み終わると、

「お父様は、明日来てくださるそうですよ。おまえは、お父様にじゅうぶん懲らしめられたそうですね」

「はい、父はとてもおこって、あたしはたくさんたたかれてしまいました」

「ロバート・ドナット男爵様がどんなにされたか、わたしに、自分の目で確かめてみるように、と書いてあります。ヴィオラ、こっちに来て、きのうたたかれたところをお見せなさい」

 ヴィオラは、ほんとうにそんなことが書いてあったのかしらと思いましたが、先生の命令には従わないわけにはいきません。顔を赤くして、自分の下ばきをそっとずりおろし、先生のほうにうしろを向けると、すそをまくり上げました。

 先生は顔を近づけて、むぞうさに手をふれてみるのでした。ヴィオラは思わず、あっ! と逃げ腰になりますが、先生はじゅうぶんに検査をしました。

「よろしい、下ばきをはきなさい。男爵様は、笞を使わなかった。しかし、平手打ちでも、たっぷり与えればじゅうぶんでしょう。おそらく五十回以上、そうですね、ヴィオラ。今のおまえには、それくらいでいいでしょう。教室で罰を受けないように注意なさい。手かげんしませんよ」

 ヴィオラはすっかりオドかされてしまいました。その日は、なんとかうまく切りぬけることができました。あと二、三日は、めったに教室で罰を受けるわけにはいきません。

  父の女書生として

 次の日も、ヴィオラは罰を受けずにすますことができました。そして、帰りに迎えに来たクロードの馬車には、父が乗っていました。

 ヴィオラとすれちがいに、父は先生に会いに行きました。父には別の馬車が迎えに来るので、ヴィオラは先に帰りましたが、いったい、どんな話をするのか不安でたまりませんでした。

 その日、父が帰って来たのは、いつものように夕方でした。そして、すぐに食事になります。食事中も父は、ほかの話ばかりしていました。

 食事が終わると、父は、母といっしょに部屋にはいってしまいました。しばらくして、ヴィオラは父の部屋に呼ばれたのです。父と母はイスに腰をかけていました。

「おすわり、ヴィオラ」ミルドレッドが言いました。「今、おまえのことを、お父様とお話ししていました。近ごろおまえは、少し甘えすぎていたんじゃないかってね。いいえ、それは、なにも、おまえばかりが悪いのじゃありません。それに、気がつかなかったわたしも悪いのですが、子供のころと少しも生活が変わらないのですものね。学校から帰れば、庭で遊んだり、女中たちをつかまえてオシャベリしたり、そんなことばかりしていてはもういけない年になっていたんだよ」

「きょう先生と話をして来た結論を先に話そう。おまえには、学校の先生のように、家にも先生に来ていただくことにしたよ。まあ、この場合は、先生というより友人といったほうがいいかも知れんがね」

「あなた、それはいけません。たとえお年が若くても、いろいろ教えていただくんですから、やはり、先生とお呼びしたほうがいいでしょう。それに……子爵様のお嬢様だし……」

「そうだ、碓かにそうだった。ヴィオラ、その人は、リングフリート子爵様のお嬢様だよ。おまえも知っているだろう」

「リングフリートって……あの、リングフリート様……」

「そうだよ、碓かに、あの事件はたいへん不幸なできごとだった。子爵が急になくなられて……しかも、財産も大半は失われたそうだ。りっぱなかただったので、多くのかたが援助の手をさしのべられた……といっても、なかなか昔のようにはいかないらしい。お嬢様も学校のほうをあきらめようとなさったらしい……しかし、あのソニアという娘は、非常によくできるかたらしく、学校では、その才能を惜しんでいた。そこで、私と相談をして、私があの娘をあずかることにした。つまり、私の女書生という形でな。もっとも、女書生といっても、私のほうは手がたりているので、そのかわり、おまえの先生になってもらうつもりだ。そうすれば、一石二鳥、先生とも話をして、さっそく、あしたにでも来ていただくように頼んでおいた。おまえの部屋の隣にいてもらい、いろいろと教えてもらうがいい」

「はい、お父様、よくわかりました。あのかたは、上級生のうちでもいちばんすてきなかたですわ。とても優雅で、あたしたちのあこがれの的ですわ」

「きっと、おまえにもよろこんでもらえると思っていた。詳しいことはママと相談しておくから、おまえはもう自分の部屋に行きなさい」

 ヴィオラは自分の部屋に戻っても、なんだかとてもたのしく、早くあしたになればいいと思った。

  優雅なしぐさ

 次の日、学校から戻ると、母と女中たちが部屋を整えていた。ヴィオラもすぐに、いっしょになって手伝った。パパが仕事の帰りにお迎えに行っていっしょに家に来ることになっていた。

 馬車がカラカラと軽い音をたてて玄関の前に止まった。ソニアは、パパといっしょにはいって来た。そして、ミルドレッドを見つけると、まっすぐに歩いてゆき、母の前で優雅なしぐさで腰をかがめた。

「ミルドレッド伯母様、ソニアです。これからお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

「まあ、あなたがソニア様ね。ほんとにお美しいかた、わたくしどものほうこそ、ごムリなお願いをいたしまして、ご迷惑でなければいいと思っております」

「ありがとうございます。そのようにおっしやっていただいては困ってしまいます。母も、ほんとうにありがたいことだと申しておりました」

「まあ、とんでもございません。さあ、どうぞ、お部屋のほうに、娘のヴィオラがご案内いたします」

 大きなトランクが三つ、女中たちによって部屋に運ばれた。ソニアはきょうから自分の部屋になるところをゆっくりと見回した。

 ソニアの着替えの終わるのをまって食事になった。今日はソニアがいたので、話の中心は学校のことが多かった。

 そのあとヴィオラは、家の中を案内した。女中のナタリーとジョゼットにも紹介した。ついでに庭に出て、クロードにも紹介してあげた。あしたからはクロードの馬車でいっしょに学校に行くことになるのだから。

  学校と同じ笞を

「お嬢様、お父様がお呼びですよ。ソニア様もごいっしょにということです」

 父の部屋にはきのうのように、父と母がすわっていた。

「お父様、あたし、ソニアさんをご案内してましたの、いろいろ家の中をね」

「そうか、それはよかった。さあ、二人ともそこにすわりなさい。これからのことを少し話しておいたほうがいいだろう。まず、ソニアさん、あなたの立場じゃが、この家の中であなたは、三つの立場にいることになります。まず第一には、私のオウ・ペアとしての立場、次に、ミルドレッドはあなたを娘のヴィオラと同じように扱う、つまり、娘としての立場、そして三番目には、ヴィオラの家庭教師としての立場と、まあ、こんなぐあいです」

「まあ、お父様、ずいぶんたいへんなのね」

「いやいや、これはなるべくソニアさんに自由にしてもらいたいということなんだよ。私の家は、リングフリート家のような名門でない。私も、ご覧のとおり粗野な男だが、とにかく、一つ家の中に住むのだから、お互い、あまり気を使わずにしなくては、と思ってな。それに、今の三つの立場というのは、ソニアさん自身の立場というより、それに接するわれわれの心構えといったほうがいいと思う。ミルドレッドには、ヴィオラと同じようにソニアさんにも接してほしいのだよ……」

「おじ様、お話の途中ですが、どうぞ、ソニアと呼びすてにしてください。おじ様のオウ・ペアですもの、あたくし」

「そうだ、確かにそうだったな、ソニア。これからはそう呼ぶことにしよう。ミルドレッドもいいな、ソニアと呼びなさい。自分の娘にさんをつける者はいないからな、はははは」

「どうぞ、ヴィオラもそう呼んでくださいね」

 ミルドレッドが軽く手を上げて、

「ソニア、それはいけませんよ。さっきもお話ししたとおり、ヴィオラにとっては先生の立場ですからね。ちゃんと先生と呼ばせることにしましょう」

「でも、あたくしが先生だなんて、恥ずかしいわ」

「いいえ、十八でも、先生は先生ですよ。ちゃんとしたけじめはつけておかなくてはいけません」

「はい、わかりました。ヴィオラ、あたくし、いっしょうけんめいやるわ。たよりない先生だけど、がまんしてくださいね」

「はい! ソニア先生」

 改めてそう呼ばれると、ソニアは顔を赤らめてうつむいてしまった。

「ヴィオラ、まじめなお話しをしているのですよ」

 ミルドレッドは娘を軽くたしなめた。

「ヴィオラ、ママの言うとおりだ。そもそも、ソニアに来てもらったのは、おまえの学校での態度が悪かったからだ。このさい、はっきり言っておこう。ソニア、ヴィオラの先生としての立場をはっきりつけてください。もしヴィオラが言うことをきかなかったり、なまけていたら、学校と同じように、笞を与えてください。いいですね。ヴィオラには、まだ笞が必要なのです。ヴィオラがすなおに罰を受けなかったら、いつでも私に言ってください。もちろん、ヴィオラはすなおに罰を受けると思いますがね」

 ソニアはその時ふっと思いついたように顔を上げ、

「おじ様、あたくし、うっかりして忘れていました。ちょっとお部屋まで行ってよろしいでしょうか、すぐに戻ります」

  特別製の皮鞭

 ソニアは許しを得て席を立った。しばらくするとソニアは何かを持って部屋に戻って来た。まっすぐにミルドレッドのところに来て、それをさし出した。それは、幅広の皮でできた笞だった。

「伯母様にすぐに渡すように母が言ってましたのに、あたくし、うっかりしておりました。その笞は、母があたくしに罰をくださる時に使っておりました。あたくしにはまだそれが必要だから持っていって伯母様にお渡しして、必要な時にはいつでも使っていただくように申しておりました。どうぞよろしくお願いいたします」

「特別に作られたものですね。さすがにリングフリート様の奥様ね。あなた、ご覧なさい。娘たちにはちょうどいい物ですね」

「ふ−む、これはいい。じゅうぶんききめがありそうだ。そのうえ、これなら、傷がつくこともない。母上の言うとおりだ。ソニアもまだ十八歳なのだから、たまにはこれが必要な時もあるだろう。ミルドレッド。娘が二人になったと思って、ソニアが悪い時は容赦なく笞を与えるのだよ。そうでないと、私がしかられてしまう」

「そうですね、わかりましたわ。ソニア、お気をつけなさい。わたしは、お母様より力が強いですよ、きっと」

「きっと、そうだと思いますわ。でも、もう覚悟しておりますの」

 あんまり情けなさそうな顔をしたので、みんなは思わずふき出してしまいました。

  お尻をたたいてよ

 そのころ、下の台所では、ナタリーとジョゼットがようやく食器を洗い終わって、自分たちの部屋で休んでいました。

「ねえ、ナタリー、あの人、美人ね。とてもかわいいわ」

「そうね、でも、生意気そうな顔してるわ。わたしたちはなんて呼べばいいのかしら」

「そのうち奥様が決めてくれるわ」

 この二人は、最近、とてもきげんが悪かった。

 二人とも、いつもイライラとして落ち着かなかった。

 もちろん、その原因は、二人の腰にピッタリとはめられた皮のせいだった。

 あれからも二人は、夜になると、一つのベッドにはいってお互いのからだをまさぐっていた。

 しかし、あれを着けられてからは、どうにもならなかった、ムリにはずそうとしたが、ビクともしなかった。

 うしろのひもを切ってしまおうかとしたが、皮の中にハガネがはいっているのがわかったので、それもダメだった。

 近ごろはなるべく別々にしていた。

 碓かに、直すにはよいのかも知れないが……。

 夜中に目をさますと、なかなか寝つかれなかったり、思わず自分の胸をギュッと締めつけて忘れようとするのだが、とても苦しく、せつなかった。

「ねえ、ジョゼット……」

「ナー二? なにさ」

「お願い、わたしをたたいて」

「えっ、なんですって」

「もう、どうしょうもないのよ、苦しくって、ひっぱたいてもらわなくちゃ、直んないのよ。僧院じゃ、みんなそうしてるって言うわ」

「わたしも同じよ。気が変になるくらいよ。こんなものつけられてさ。奥様も人が悪いわ。なんとかして、あのカギが手にはいらないかしら?」

「だめよ、あの箱のカギは、奥様がいつも首から下げているんですもの。それよりか、ね、たたいてよ」

 そう言うとナタリーは、自分のベッドにうつぶせに寝てすそをからげ、ドロワースの割れ目を広げるのでした。ナタリーの足の間から、Vの字型に二本の皮ひもがお尻に食い込んでいました。

「いいこと、たたくわよ、おこらないでね」

 ジョゼットは、ナタリーのお尻をピシャピシャとたたき始めました。

「ああ、ジョゼット、もっと強く、もっとよ。ああ痛い、痛い。もっとたたいて。いいと言うまでたたいてよ。ああ、いいわ、その調子よ。ジョゼット……ああ、ジョゼット」

 ナタリーのお尻が赤く染まるまで、ジョゼットはたたいた。

「もういいわ。ジョゼット、もうたくさん」

「すっかり赤くなってよ。たいじょうぶなの?」

 ナタリーは涙をこぼしながら起き上がりました。

「平気よ。なんだか、すーっとしたわ。どう、あなたもやってあげましょうか」

「きょうのところはけっこうよ。とても痛そうなんですもの。がまんするわ。でも、奥様に見つかったらどうするの、そんなお尻」

「平気よ。夜中にあんたとけんかしたことにするわ」

「まあ、あきれた。顔を洗ってらっしゃい。そろそろお茶を持って行く時間よ

第3話おわり

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