もともとヴィオラは勉強がきらいというわけではなかった。ただ、母親と女中たちの間で何か自分にはわからない秘密の話があったということが気になって、何も手につかなくなってしまっただけのことなのだ。
秘密といっても、それは、ただ、二人の女中たちがオナニーの常習者だったというだけのことであったのだが、年若いヴィオラには、話してやるわけにはいかなかったのだ。
ヴィオラにしてみれば、自分の知らないないしょの話が、母と女中たちの間でかわされたということがなんともしゃくで、しかたがないといったところで、そのことが原因で、いろいろな不始末を引き起こしたのだった。
しかし、その結果、学校の上級生のソニアが、ヴィオラの家庭教師ということで来ることになった。ソニアは、美しく優雅な娘だったので、ヴィオラも大歓迎。あの秘密のことなんかすっかり忘れて、以前のような陽気で、少々はねっかえりな娘に戻っていた。
あのことを忘れるということがすべての原因をとりのぞいたことになるので、ヴィオラも、めったに学校では失敗をしなくなった。
パパとママは、それらのことをすべてソニアの功績として、すっかりソニアを信頼した。しかし、ソニアにしてみれば、自分が何をやったのか、さっぱりキツネにつままれたような気がしていたのだった。なんとかしてヴィオラを良い成績にすることが自分に与えられた役目だと思っていたのに、まだ何もしないうちに、ヴィオラは前のようになっていたからだ。
毎日、学校から戻って一休みすると、二時間ほどはお勉強の時間だった。ヴィオラは、数学には特異な才能を示した。そして、詩や文学でも、読んだり暗唱したりすることには全く問題なかった。ところが、書くことになると、なんともぶざまなことになってしまうのだった。今まで一人で勉強していたので、読んだり暗唱したりはよくやったのだが、羽ペンだけはなんとも苦手だった。かなりむずかしい文章もすらすら読むくせに、書くとなると、やさしいつづりもまちがえてしまうのだった。これさえなけば、ヴィオラがクラスで一番の成績を取ることも、さしてむずかしいことではなかった。
ソニアは、あれから一カ月ほどヴィオラと過ごしたが、今ようやく、自分が何をなすべきかを見つけたのだった。さいわいソニアは、美しい文章の書き手として学校じゅうにも並ぶ者のいないほどだった。文章だけでなく、その文字もまた美しかった。始めてヴィオラがその文字を見た時、あまりにも美しかったので、思わずそれを持って母親のところに走って行ったくらいだった。
きょうも二人は、ヴィオラの部屋でお勉強をしていた。
「ねえ、ヴィオラ。あなたはとても数学がおとくいね。きっと、あたしよりよくできるわ。もちろん、あたしはあなたより先にいろいろなことを教わっていますけど、あなたがあたしの年になれば、もっとたくさんのことを教わることができるでしょうね。それに、暗唱もとてもおじょうずよ……だから……もう少し書き取りがよくなれば、きっとクラスで一番になってしまうわね」
「どうして先生は、そんなにじょうずに字が書けるの。あたしの羽ペンは、どうしてガリガリひっかかるのかしら。それに、つづりもどうしていいかわからないわ。読むだけならいいのにね、文章を覚えるより、つづりを覚えるほうがうんとむずかしいのね」
「そんなことなくってよ。あなただって、すぐにじょうずになるわ。あたしだって、子供のころは、それはひどい字を書いていたのよ。でも、毎日少しずつ練習したので、少しはましに書けるようになったわ。あたしは母に教わったの」
「まあ、少しはましですって。それ以上に美しい字を書くなんて、あたしには信じられないわ」
「ね、ヴィオラ。あなたはこれから、つづりと書き取りのお勉強をじゅうぶんにすればいいわ、ほかのことはほんの少しにして。そうすれば、すぐにうまくなってよ」
「ほんとうにあたしにもうまく書けるようになる? つづりもちゃんと覚えられるかしら、どうすればいいの?」
「字のほうは、あたしがお手本を作るわ。それに、つづりのほうは、一つずつ、わからないことばをカードにしておいて覚えればいいんじゃない。それから……あたしは、けっして……けっして、先生ぶろうなんてつもりはないの。でもね、何かを覚える時には、何か決まりがあったほうがいいと思うの。つまり、失敗した時に何か罰を決めておけば、よく注意してまちがえないようになるわ。あたしだってそうだったのよ。あたしが失敗すると、母はあたしに罰を与えたの。そりゃあきびしかったのよ。でも、そのおかげで、よく覚えることができたと思うの」
「ソニア先生、あたし、いいわ。学校でだってそうですもの。それに、家でも、いつも母にたたかれますのよ、学校と同じように。ソニア先生も学校でたたかれたことあるでしょ」
「ええ、もちろんよ。数え切れないくらいね。でも、今は上級クラスでしょ、お教室でたたかれる時は下ばきを着けたままなのよ」
「まあ、そうなの。うらやましいわ。だって、とても恥ずかしいんですもの」
「そうね。でも、同じよ。下ばきは多少は恥ずかしさを少なくするけど……それに、先生の部屋に呼ばれたときは、だめなのよ。あなたたちと同じようにされるの」
「ほんとうに恥ずかしいわ。それに、とても痛くって」
「でもね、男の子のほうがたいへんよ。あたしの兄はイートン校だったの。あそこの笞は、枝笞なんかと違うのよ。シナから持って来た、節のたくさんついている竹の笞なんですって。一打ちで皮がすれて血がにじんでくるんですって。それで十も二十もたたかれるのよ。あたしたちのような大きな生徒が声をあげて泣いてしまうそうよ。それで、声を出すと、また数がふえるので、みんな、歯をくいしばってがまんするんですって。あたしたちはまだがまんできるわ」
「こわいのね。どんなに恐ろしいでしょう。あたしなんか憶病だから、だめね。わかったわ。ソニア先生、学校と同じようにしてくださいね」
「そうしましょう、きっとあなたのためになるわ」
さっそく、その日から、書き取りの勉強が始まりました。
ソニアはお手本を作り、ヴィオラはカードを作りました。
二人は夢中でやっていたので、外はいつの間にか暗くなって来ていました。
「まあ、二人ともどうしたの。もうお父様もお帰りになりますよ。二人ともあまり熱心なのはいいけど、少しは休まないといけませんよ」
「はい、伯母様。きょうはすっかり夢中になってしまって。でも、これで、あしたからじゅうぶんに効果が上がりますわ。ねえ、ヴィオラ」
「そうよ、ママ。とてもすてきなお手本ができたの。あたしもきっと今にソニア先生のようにじょうずな字が書けるようになってよ」
「よかったこと、ほんとうによいかたに来ていただいて、わたしも安心よ。でも、きょうはもういいでしょ、階下にいらっしゃい」
二人はさすがに疲れて、夕食のあとはそうそうに部屋に行ってしまった。
ロバート男爵は一度戻ったが、重要な会議とかで、また出かけてしまった。ひとり居間に残ったミルドレッドのところに、女中のジョゼットが来た。
「奥様、用意ができました」
ミルドレッドは立ち上がって自分の部屋に上がって行った。ジョゼットはあとからついて来た。そして部屋にはいると、ナタリーが、運んで来たお湯を金ダライに移しているところだった。
このお湯は、表向きにはミルドレッドの足の痛みの治療ということになっていたが、実は、女中たちのためだった。一日に一度、時には三日に一度、二人の女中たちは、このミルドレッドの部屋に来て、あの貞操帯に似たオナニー防止具をはずしてもらい、からだを洗浄するのだった。
始めのうちは恥ずかしがったが、今では、すなおにそれを行なった。一人がからだを洗っているうちに、もう一人が、その器具を洗ってやった。
二人のからだと器具が洗い終わると、ミルドレッドは、再びその器具を装着するためにカギを取り出すのでした。
「奥様、もう二ヶ月です。もうけっしていたしませんから、それをさせないでください。もうだいじょうぶです」
「なぜ、そんなにいやがるの。ちゃんとした理由があるのかい。ほんとうに直ったのなら、そんなにいやがるわけがないじゃないの」
「いいえ、奥様、それを着けていると、歩く時でも痛くなるんです。奥様、どうか、ご覧ください。こんなになってしまいました」
ナタリーは、自分のからだをミルドレッドに見せた。たしかにそれは、皮ひものすれた跡だった。赤くなって、はれている様子に、ミルドレッドも少し心配になった。ジョゼットのほうも同じようになっていた。
「ふ−む、なるほどね。少しかわいそうな気もするけど、きょうはダメよ。あした、わたしがお医者様のところに行って聞いて来ます。それからのことにしましょうね」
二人は再び皮の器具をはめられて階下の部屋に戻って来た。
「ナタリー、頭がいいのね。きのう、あなたが、わたしの皮ひもをごしごしこすってた時は、いったい何をされるのかと思ったわ。これをはずしてもらいたかったら、がまんしなさいって言うから、きょう一日しんばうしたのよ。あんな仕掛けになるとは思ってもいなかったわ。とにかく、あしたになればはずしてもらえそうね」
「フフッ、いいこと、歩く時、うんと痛そうな顔をしてるのよ。とくに奥様の前ではね。そうすれば、きっと許してくださるわ。あれでけっこう甘いんだから」
次の日、ヴィオラとソニアは、いつものように学校に行った。最近、ヴィオラのほうは全くうまくいっていた。しかし、その日、ソニアは、久しぶりに失敗してしまった。前日、ヴィオラと二人で夢中になって勉強していたのに、自分のほうのことをすっかり忘れてしまっていた。ほんの少し調べておけばすぐにわかることだった。いくら悔やんでも、もう授業は始まっていたのだ。五分もしないうちにソニアは指名され、宿題をやっていないことを告白しなければならなかった。
最上級生といえども罰をのがれるわけにはいかなかった。先生は皮肉たっぷりに言うのでした。
「驚きましたね。こんなやさしい宿題もやってこないなんて、よほど忙しかったんでしょうね。でも、十分もあればできることですよ。どんな言いわけも聞きたくありません。いいですね、なまけ者のソニアさん、先生が罰を上げましょうね。皆さんの見ている前で、あなたは罰を受けるのですよ。それが,なまけ者のソニアちゃんにはいちばんいいようね。さあ、出ていらっしゃい。慎み深い女性というものは、恥を知らなくてはいけません。上級生が平気で罰を受けるなんて、困ったことです。学校では、上級生にプライド持ってもらうために下ばきを着けたままで笞を与えていますが、これからは、こんなつまらないことで罰を受ける生徒は、下級生と同じように扱うことにします。下ばきを着たまま打たれることを、おまえたちはまるで上級生の特権だとでも思っているのだね。もしそうだとしたら、とんでもないことですよ。わたしは、いつでも、必要と認めれば、教室の中ででも、そうするのですからね。よく覚えておきなさい。さしあたって、きょうのソニアにはそうすることがいいようね」
「先生、お願いです。そんなことをおっしゃらないでください。どうぞ、いつものように下ばきの上から打ってください。どうか数をふやしてください。だから、どうぞ……お許しください」
「ソニア、おまえには、肉体の痛みより恥を知ってもらいたいのですよ。恥ずかしい思いをすれば、もう二度とこんなつまらないことをしようとは思わないだろうからね。さあ、台のところに行ってお尻をお出し。従順ということばまで忘れたわけではないだろうね」
ソニアは台のところに行き、からだを前にたおし、そして、すそをまくり上げた。
ソニアの下ばきは、ひも付きのブルマーだった。両わきのひもを解くと、うしろ側の布だけが下に落ちた。四角く切り取られたような窓から、ソニアのまあるいお尻が見えた。もう一年以上もクラス・メイトには見せたことのない姿だった。
半年ほど前、ちょっとしたことからクラス・メイトの一人といさかいをして、そのために二人とも先生の部屋に呼ばれたことがあった。その時、先生は、子供のようにひざにのせて裸のお尻をたたいたものだった。ソニアは、ケンカ相手の娘に、自分のたたかれているところを見られたし、ソニアも、相手の娘のたたかれるのをそばで見ていた。その時、その娘の格好があまりにも恥ずかしく、二度と友人にこんな格好を見られるのはいやだと思った。
しかし、先生は容赦なく四角い窓を押し開き、ソニアの丸いお尻をすっかりむき出しにしてしまった。しかも先生は、わざと平手打ちにして、ピシャンピシャンという大きな音をたてながら、ソニアをおしおきするのでした。
そのうえ、仕上げにはちゃんと枝笞を使って十五もたたいたのでした。
しかし、その間、ソニアは、小さな悲鳴をあげたり、うなったりはしたものの、二本の足だけはぴったりと合わせたまま、腰をよじり、なんとか足を開くみだらな格好にだけはならずにすませました。それは、上級生としての最後のプライドだったのです。
ようやく許された時、ソニアのお尻は赤くはれ上がっていました。ヒリヒリ痛むお尻を、ソニアはふるえる手で下ばきの中に押し込んで、ひもを結わきました。
ヴィオラは授業が終わり、迎えに来たクロードの馬車に乗っていました。ソニアもすぐに出て来ました。そして馬車に乗った時、顔をしかめたのですが、窓の外の友人と話をしていたヴィオラは、それに気がつきませんでした。
ソニアは平気な顔ですわっていましたが、とても痛かったのです。さっきから、ヴィオラがいろいろ話しかけて来るのにも、なま返事で受けていました。
「ねえ、クロード、もっと速く走れないの」
馬車は速さを増し、ガタガタと、ソニアのお尻を痛めつけるのでした。
家に着くと、ソニアは、しばらく自分の部屋のベッドにうつ伏せになっていました。しかし、ヴィオラの勉強を見なくてはなりませんでしたので、ヴィオラの部屋に行きました。
この部屋のイスは堅い木のイスだったので、ソニアはそっとすわりました。
きのう作ったお手本を使って、ヴィオラはさっそく練習をはじめました。一字一字ていねいに、そして一行書くとソニアが直してやっていました。
“ああ、なんてへたなのでしょう。”ソニアは心の中でつぶやきました。きょうのことを考えると、とても悔やしくって、少しキゲンが悪くなっていました。そのうえ、じっとすわっていても、お尻はヒリヒリと痛むのでした。
ヴィオラも、なかなかうまくいかないので、少々あきて来たようです。
「ああ、またダメだわ。こんなに曲がってしまって。もう一度書くわ」
そう言いながら上の紙をいきおいよくめくった時、カタンと音がして、インクのびんがたおれてしまいました。アッ! と言ってソニアがびんを起こした時には、もう半分も残っていませんでした。インクは、机の上に広げてあった紙や、きのう作ったばかりのお手本の上に広がってしまいました。
「あなたはやる気がないんだわ。きのう、あんなにお約束したのに、あたしの字はお手本にはふじゅうぶんかも知れないけど、でも、あたしだって、いっしょうけんめいになって作ったのよ。それを、半分以上ダメにしちゃうなんて、あんまりだわ」
「ごめんなさい、ソニア、いえ、ソニア先生。わざとじゃないわ」
「そうね。でも、あなたは、あたしのことを、やっぱりほんとうの先生のようには思えないのね。だって、もし、ほんとうの先生だったら、まっ先に許しを願うはずよ。これだけのことをすれば、じゅうぶん罰を受ける理由になるわ」
「ごめんなさい、先生。どうぞ、無作法なヴィオラをお許しください。ソニア先生、おこらないで、また教えてください。ヴィオラは、ちゃんと罰を受けます。どうぞ笞をください」
「ほんとうにそう思うの。それなら、この間、伯母様に預けたあたしの笞を取って来て。そして、伯母様にちゃんと話していらっしゃい。そそうをして罰を受けるって。できる?」
ヴィオラは、「ハイ」と返事をして部屋を出て行った。しばらくしてから、あの笞を持って戻って来た。そして、
「母はいなかったわ。どこかに出かけているんですって。でも、鏡台のところにこれがあったので、持って来ました。ソニア先生、とても痛そうに見えるわ。どうぞ、あまりひどくなさらないでください」
「おしおきはきびしいものなのよ。けして甘やかしませんからね。ヴィオラ、いいこと。あたしの言うことをきくのよ。おじ様にも言われたでしょ。わかったら、お尻をお出し。きのう、あんなにかかって作った物を、そそうして使えなくしてしまうなんて、悪い娘ね。たっぷりおしおきしてあげますからね」
「ソニア先生、下ばきを取らなくてはいけません?その笞なら、下ばきの上からでも、じゅうぶんきくと思うわ」
「まあ、生意気言わないで。あなたはまだ、下級クラスなのよ、下級クラスの生徒に、そんなことが許されると思って。全部ぬいでおしまいなさい。そして、長イスのひじ掛けの上にのるのよ」ひじ掛けはゆったり太く、クッションがはいって、布で巻いてあった。ヴィオラはその上におなかをのせ、すそをたくし上げた。下ばきはすでに取ってあるので、ヴィオラのすらりとした足はまっすぐにのびて、靴の先だけが床にふれていた。姉のようなソニアに始めて罰を受けるのは、とても恥ずかしかったが、ヴィオラのお尻はひじ掛けの上でこんもりと盛り上がって、幅広な皮ムチの洗礼を待ち受けていた。ソニアはすっかり先生気取りだった。
「ヴィオラ、よく聞いてね。あなたの年ごろになったら、恥ずかしいということを覚えなければいけないわ。若い娘がお尻をむき出しにされて笞で打たれるなんて、とても恥ずかしいことなのよ。あなたは、まだ下級クラスの生徒だから、お尻を裸にされるなんて平気のようだけど、あたしたちのように上級クラスになれば、人前でお尻を出すなんて、考えただけでも顔が赤くなってしまうわ」
ヴィオラは心の中で叫んでいた。
“あたしだって、ほんとうに恥ずかしいのよ。でも、言うことを聞かなければ、パパに言いつけるでしょ。そうすれば、もっとたいへんなことになるわ。だから、悔しいけど、がまんしてるんだわ”
“早くすませてくれればいいのに。ソニアって、案外イジワルなのね”
ソニアはもともとドナット家より格式の高い家の娘だった。しかし、今は、なんといってもこの家で養われている身分だった。それだけでもこの娘にとっては耐えがたいほどの重荷だったのだ。しかし、だからといって、この家の娘にまで、媚びへつらうつもりは少しもなかった。先生として、この娘に甘くしてやることはむずかしいことではないが、それは、自分をよりみじめにするだけだということを知っていた。ぜったい、そんなことはしたくなかった。とくに最初の時は、なおさらだった。
始めて見るヴィオラのお尻は、まだいくぶん子供っぽさの残る、かわいらしい形をしていた。キメの細かい肌は白く、小刻みにふるえていた。丸く盛り上がったお尻には、もうほとんど笞の跡もなく、つややかに張り切っていた。
ソニアは、そのかわいらしいヴィオラのお尻に、少々無慈悲とも思われる一打をたたきつけた。
ピシッ! 小気味のいい音をたてて、皮鞭ははねかえった。同時に、ヴィオラのからだも、ソファーのひじ掛けの上で飛び上がり、ヴィオラは鋭い悲鳴をあげた。
「オウ! いた−い。先生、もうやめて、もうぶたないで……」
「何いってるの。たった一度ぐらいで、そんなに大騒ぎしたら、おかしいわ。そんなに足をバタバタさせてはダメよ。自分がどんなにみだらな格好をしているかわからないの」
「だって、ものすごく痛いんですもの。その鞭はとても痛いわ」
ソニアは、もちろん一回で許しはしなかった。残りの六回を、ほとんどつづけて打った。いくらか手かげんはしたものの、それでも、ヴィオラに悲鳴をあげさせ、足をバタバタさせるには、じゅうぶんの力があった。
「さあ、もういいわ。これでじゅうぶん後悔したと思うけど。どうなの、ヴィオラ」
ヴィオラは長イスの前でひざまずき、片手でお尻をかかえるようにして泣いていた。想像していたよりずっとひどい痛さだった。父にたたかれた時ほどではないにしても、この鞭は、一度に三ツたたかれたくらいのききめがあった。
「これくらいのことで、いつまでもメソメソしているつもりなの。早くブルマーをはきなさい! そして、すぐに机のところに戻るのよ。ぐずぐずしていると、もう一度おしおきしますからね」
ヴィオラは、あわてて立ち上がり、急いで下ばきに足を入れた。ハンカチーフで涙をふき、席に戻った。堅いイスの上でもう一度、今のおしおきがきびしかったことを思い出させられるのだった。
ソニア先生は、まるで何事もなかったように勉強をつづけていった。ヴィオラも今までのような甘えた態度でなく、真剣に手習いを始めた。
残された三十分ほどの時間のうちに、ヴィオラの無器用な手を、ソニアは二度ほどたたいたのでした。けっして強いたたき方ではなかったけれど、お手本を作る時に使った木の定規で、ヴィオラの手をピシリとたたいた。
「きょうはこれくらいにしましょうね。あしたはきっと、もっとじょうずに書けるようになるわ」
「ハイ先生、どうもありがとうこざいました。あしたはもっとよく注意して、しかられないようにいたします」
ヴィオラのことばの中に、今までの二人とはちがったはっきりとしたみぞが引かれたことをソニアは感じ取っていた。
“これでいいんだわ”ソニアは、きょうのことは満足していた。
その日、ミルドレッドが帰ったのは、ほとんど父のロバート男爵と同じだった。ミルドレッドは急いで着替えをすませ、食堂にはいって来た。
ソニアは、この家の夕食の時間が好きだった。
始めのうちは、やはり家風が違うな、と思ったりしたが、ゆっくりと楽しみながら味わうのに最近ではすっかりなれて、自分の家の少々堅苦しい食事より好きになりかけていたのだった。
ほとんど食事も終わりかけたころミルドレッドが話しかけた。
「ヴィオラ、元気がないわね。それに、少し目がはれているようね。もしかしたら……先生に罰をいただいたのではなくって? え、どうですの、ソニア」
「え。ええ、ほんの少し。たいしたことではないのですが、それにしては、あたし、少々キツくしかり過ぎたようですわ」
「まあ、やっぱりね。それで、この娘はすなおに先生の言いつけに従いましたか」
「ええ、もちろんです。ヴィオラとてもすなおにあたしの罰を受けましたのよ。あたし、家から持って来た鞭を使いましたの。あとでお返ししておきます」
「ああ、あれね。いいですよ娘の部屋に置いておきなさい。わたしが使う時は取りに行きますから。わたしはめったに使わなくてすみそうですが、先生にはいつも必要のようですからね」
「そんなことありませんわ。だって、ヴィオラはとてもいい生徒ですもの」
「ほんとうだといいのですけれどね。ヴィオラ、これからも、いつもすなおな態度でいるのですよ」
「ハイ、ママ。でもね、ほんとうのことを言うと、あれは、とても痛いのよ。まるでパパにたたかれてるみたいだったわ」
「そりゃあいい。ソニア、かまわないから、ビシビシお願いしますよ。鉄は熱いうちに打て、と言います。この娘にはそれが必要なんですからね」
「まあ、パパったら、先生はとてもきびしいのよ。あまり言わないで。これ以上きびしくなったら、たいへんよ」
ロバートと二人の娘が楽しそうに話をしている。
その間に、ミルドレッドは、二人の女中を自分の部屋に呼び寄せていた。
「きょうはほんとうに疲れてしまったよ。それもこれも、みんなおまえたち二人のためなんだからね。おまえたちのみだらな行為を直してやろうと思って、わたしがこんなに苦労しているのに、おまえたちときたら、やれ痛いのかゆいのとぜいたくを言って。医者は、今までにあれで痛くなったなんて話は聞かなかったそうだよ。おまえたちは、少し楽をし過ぎて太ったんじゃないかね。それでも別の物があるって、お医者様がおっしゃるから、わざわざそれを買いに行って来たんだよ。とても遠くまで行ってね。少しは申し訳ないと思わないかえ」
ナタリーもジョゼットもからだを小さくして聞いていた。
「すみません、奥様」
「申し訳ございません」
ミルドレッドは買い物包みを開いて、中から二枚の下着を取り出した。いったい、どんな物が出て来るかと思っていた二人にとって、それは、あまりにも普通の下ばきのように見えた。
ただ、ひざの下のところもウエストのところが皮のベルトでできているのが変わっているといえばいえた。
「それをはずして、これに替えなさい」
ミルドレッドのことばに二人は従った。新しい下ばきは、内側にもなんの仕掛けもなかった。
しかし、ウエストのところはひだになっていて、一度広げられたが、ウエストに合わせてベルトをしめると、そこに小さなカギが付いていた。
すそのほうはひざのところから上には上がらないように皮が付いていたのだ。
「どうだね、それなら痛くはないだろ」
「はい奥様……でも……小用の時はどうなります?」
「それが問題なんだけど、わたしはほとんど家にいるのだから、この部屋に来て用を足せばいいさ」
ドナット家でもほかの家と同じように、各室に備え付けのツボで用を足すことになっていた。
当然、ミルドレッドの部屋の戸だなの中にも、オマルは置いてあった。
「小用のほうはそれでいいだろう。もう一つのほうは、夜寝る前にすませるんだね。その時だけはカギをあけてあげるからね」
「ハイ、奥様、それで、これを着ていると、あの病気が直るのですか?」
「そんなことはないよ。ほんとうは、あの器具のほうがずっといいんだがね。いいかい、下着は、そのほかに二枚ずつ買ってやったからね。毎日取り替えるんだよ。それで、もし、下着に不始末の跡があったら、承知しないよ。折檻したうえに、また器具を付けさせるからね。どう、わかったかい?」
「ハイ、奥様」
ミルドレッドの部屋を出て階段を降りる時、二人は、久しぶりに腰のあたりがさっぱりとして、思わず笑ったものだった。しかし、これが、あの皮の器具よりもっと始末の悪い物だと知っていたら、けっして笑ってはいられなかったのだが、二人はまだそれに気がつかなかった