めずらしく青い空が顔をのぞかせていた。きのう、ミルドレッドとヴィオラとソニアの三人はソニアの家へ出かけたが、向こうで何かあったのか、ナタリーやジョゼットにはわからなかった。
帰宅そうそうにヴィオラがたいへんしかられて、ドナット家はまるであらしのようだったが、そのためか、夜になると、外の天気まで荒れて、風が強かった。朝になると、風はピタッとやんで、かわりに、美しい青空を残してくれていた。
女中のナタリーが笑いをこらえるようにして台所に戻って来た。
「どうだった、ヴィオラお嬢様。学校から戻ったんでしょ」
「ええ、とてもおかしいのよ。ふふ、あたしがお部屋にはいって行くとね、向こうをむいてしまうのよ。お嬢様、何かお手伝いしましょうか? って、あたしが聞いても、顔をこっちに向けないの。耳のところまで赤くしてさ、とてもかわいいわよ」
「ナタリーもずいぶん意地悪ね。わざと顔を見に行ったんでしょ。かわいそうに。それに、奥様もそうよ。きのうの夜なんて、あんな格好で立たせるんですもの。お嬢様だって、ずいぶん恥ずかしかったにちがいないわ。あたしたちを何度も自分の部屋に呼んだのだって、別に用があったわけじゃないのよ、ああすれば、あたしたちがお嬢様の立っているところを通るでしょ。だから、わざと呼んだのよ。きっとそうだわ、そのうえ、まだ許してもらえないのよ。きょうの夜まで、あのままでしょ」
「朝、とくにお許しが出てなければ、まだそのままでしょ、たぶん、まだね。下着のかわりに特製のおしめをしてるってわけよ。ふふ、きのうは、かわいそうだけど、おもしろい格好だったわ」
「あなたって、ほんとうに残酷ね」
「だって、あたしたちがしていたカギつきの皮のは平気だったっていうの? あのほうがもっとつらかったわ」
「そうね。でも……少しちがうな」
ヴィオラの部屋には、ソニアが来ていた。
「お母様はまだ帰らないの?」
「ええ。もうすぐだと思うけど」
「それで、先生がお母様に渡せってよこした手紙の内容はわからないの。どんなことか見当ぐらいはつくでしょ」
「ええ。とにかく、きょうは、あなたのおかげで大助かりだったの。でも……まきか、先週のことで先生に呼ばれるとは思ってもみなかったわ。それも、たいしたことじゃないのに。だって、あたしのからだを見ると、たたくのは許してくれたのよ。それなのに、ママに手紙を書くなんて、いったい、何を言いつけるつもりなのかしら。あ−あ、きのう、あんなに罰を受けたばかりなのに、きょうもまた……」
「ヴィオラ、泣いたりしちゃダメ。先生は許してくれたんだから、たいじょうぶよ。それより、あのことは話しちゃダメよ。あたしもしかられてしまうわ。わかってるでしょ。さあ、お勉強でもしていましょう。そうすれば、お母様もよろこぶわ。さあ、始めましょう」
三十分もしないうちに、ミルドレッドは帰って来た。そして、娘たちの部屋にはいると、笑いながら、
「まあ、感心ね、きのうのことで、ヴィオラはメソメソしているんじゃないかと思っていたのに……」
「お母様……これ……先生がサインをもらっていらっしゃいって……」
「えっ、お手紙なの。まさか……おまえ、まさか、罰を受けたんじゃないだろうね」
「ええ。でも……もう少しで……お教室じゃなくてよ、先生のお部屋で。でも、先生は許してくださったの……あたしのからだを見てから……」
「あ−っ、どうしましょう。きょうぐらいはだいじょうぶだろうと思っていたのに。手紙をお渡し」
急いでミルドレッドは手紙に目を通していた。ときどき顔に手を当てて、小さなため息をついていた。
「ああ、やっぱり、先生には知られてしまったんだね。恥ずかしいこと。きっと、先生は驚いてしまったんだろうね」
ヴィオラはそっとソニアのほうを見たが、ソニアは黙って頭を横にふった。
「先週、おまえがちょっとしたイタズラをしたので罰を与えようと思ったけど、最近、きびしく罰を受けたようなので、きょうはとくに許したと書いてあるよ。それからまだつづきがあるわ」
ミルドレッドは次の紙に目を通しながら、ちょっと小首をかしげ、ヴィオラのほうをチラッとながめ、再び手紙を読みつづけた。二人の娘は、ママの様子をうかがっていた。手紙を読み終わった時、ママの様子は明らかに、始めの時と変わっていた。
「おやおや、わたしはミステリーを読んでるみたいだよ。いったい、どういうことなのか、説明してもらいたいね。この手紙に何が書いてあるか知りたいようだね。けっこう。読んであげましょう、いいこと……ところで、お嬢様の下着のことですが、このようにぜいたくなものはいかがなものでしょうか。こういうことはすぐにまねをしたがるものです。フランス製のレース飾りのついたものなどは、通学には向いておりません。年若い娘には、もめんの物でじゅうぶんかと思います。きびしいしつけと同様、そのへんもぜひお心配りのほどお願い申し上げます……さあ、説明してごらん」
ソニアは下を向いてしまった。ヴィオラは、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
ミルドレッドは、二人の様子を見ながら待っていた。
「伯母様、あたしです。あたしがよけいなことをしてしまいました。あたしが悪いのです」
「いいえ、ママ。やっぱり、あたしよ、ソニアをしからないであげて」
「なるほど、少しわかりかけて来ましたよ。でも、ヴィオラは、朝出る時に、おしめをしたままなことはママがちゃんとしらべたし、ソニアも何も持ってないと思ったけど、どこにあったの?」
「伯母様……あたし、二枚はいてたんです。あたしの持っている下着の中でいちばんきれいなのを貸してあげたんです、馬車の中で……だって、ヴィオラがかわいそうだったんですもの。それに……もし、クラスのみんなの前で罰を受けるようなことになったら、たいへんだと思って……」
「なるほどね。おかげさまで、ドナット家の名誉が守れたわけね。お礼を言わなくてはいけないかしら」
「伯母様……そんな。あたし、どうして、いつも出過ぎたことばかりするんでしょう。やっぱり、あたしが悪いのですわ。どうか、しかってください。あたし、罰を受けますわ」
「あたしが悪いのよ、ママ。あたしさえ、ママの言いつけを守っていれば、こんなことにはならなかったの。でも、馬車の中でソニアから話を聞いたとき、あたしはすぐに、ママとの約束を破ったわ。とてもうれしかったんですもの。ソニアをあまりひどくしからないで、あたしが悪いのですから。きょうはとくに注意をしていたのよ。それなのに、先週のことで呼び出されるんですもの。きっと天罰なんだわ」
「いいこと、よく聞きなさい。正直に話します。ママは今、ホッとしたのよ。ほんとうによかったという気持ちよ。でも、それは、まちがっているわ。おまえに、あんな格好で学校に行かせようと決めた時に、もし、それが知れたら、ママもおまえといっしょに恥ずかしい思いをしようと決心していたのよ。ところが、いざ、ほんとうとなったら、ママはどうしていいのかわからないくらいあわててしまったわ。そして、それがうまくいったと思った時は、ほんとうにうれしかった。でも、それはいけないことね。うまくごまかしたというだけのことじゃない。そうでしょ、ヴィオラは甘えていたのだし、ソニアは自分で言ったとおり、出過ぎたことをしてくれましたね。ママにウソをついたことになるでしょ。もし、この手紙さえなければね。ほんとうなら、この前の時のように、二人ともイスに縛って、うんと懲らしめてあげるところなんだけど、もう少し落ち着いて考えることにするわ。でも、許しはしないことよ。いいわね。じゃ、お勉強をつづけなさい。手紙はサインしてあげるから、ペンをお貸し……」
「ママには絶対ごまかしはできないのね。いつだって、すぐにバレちゃうんだもの。まさか、あんなことが書いてあるとは思わなかったわ」
「そうね、ふつうの下着を貸してあげればよかったのにね。やっぱり天罰だわ。なんといっても、あたしが悪いのね。また、伯母様に鞭をいただくことになったようだわ。恥ずかしいわ、とっても。あなただって、あたしのママにお尻をたたかれるとしたら、どう? 恥ずかしいでしょ。それは、伯母さまはとてもいいかただわ。でも、ママとは違うわ」
「そうでしょうね。あなたのママがたたくといったら、あたし、逃げ出しちゃうわ、恥ずかしくて。でも、ごめんね。いつもいつもあたしのために……」
「そんなことないわ、もうすぐ結婚しようという娘が無分別なことばかり……しかられるのがあたりまえよ。さあ、少しお勉強しましょう。ちゃんとやらないと、こんどはあたしがおこってよ」
「はい、先生」
ミルドレッドは自分の部屋に戻ると、しばらく気持ちの静まるのを待ってから、二人の女中を呼んだ。ナタリーとジョゼットは、昔のようにふつうの下着に戻ることをようやく許されたのだった。カギ付きの下着をちゃんとたたんで持って来ていた。
「いいね、二人とも、だんな様の鞭の味をけっして忘れるんじゃないよ。あれからだいぶたってしまったけど、ほんとうにだいじょうぶだろうね」
「はい、奥様、もうだいじょうぶです」
「まぁ、いいでしょう。そのかわり、時々つらかった時を思い出させるために鞭をあげるからね。今までは、おまえたちの下着を娘たちに見せたくなかったので、わたしの部屋で罰を与えていたけど、これからは、昔のように、どこででも罰を与えるよ、わかってるね」
「はい」
二人は神妙な顔をしていたが、台所に戻ると、思わず抱き合ってよろこんだ。
「あ−あ、やっと解放されたか。さばさばしちゃった」
「ほんとう。いい気持ちだわ」
二人はきげんよく夕食のシチューを煮ていた。鼻歌をうたいながら、夕食の時間までナタリーとジョゼットは楽しく働いた。
ミルドレッドは、すっかり落ち着いていた。しかし、二人の娘たちは、なんとなく落ち着かずに、そわそわと、もうお勉強も終わったというのに、外に遊びに出るでもなく、部屋にとじこもったまま、ひっそりとしていた。
「どうして伯母様は来ないの。どうせ罰を受けなければならないのなら、早く済ませてしまいたいわ。でも、それもわがままでかってな考え方ね」
「ママは何を考えているのかしら。でも、けっきょくは、あれね、ほんとうに早くしてくれればいいのに。ずっと待ってるなんてゆううつ」
いつもと同じ時間に夕食は始まった。そして、いつもと同じように、質素な食事だったが、それは、形式的にということで、味まで質素というわけではなかった。
食事のあいだじゅう、二人の女中は、テーブルの回りを静かに給仕をして回った。
ふたを取ると、熱い香気がおなかの中までしみ通った。ナタリーはミルドレッドの前の皿を取ると、それをシチューで満たした。器の中で、オリーブの葉がかすかにゆれただけで、音もなくすばらしい給仕ぶりだった。とくにきょうは、身のこなしも軽々としていたのです。
ミルドレッドのうしろを回ってソニアの皿を取った。同じようにそれを満たすと、ソニアの前に置いた。いや、正しくは置いたとはいえない。軽々と動いていたナタリーの指からシチューを満たした皿が逃げて、音をたてて机に当たり、シチューはとび散り、やわらかく煮えた肉がソニアの左手の甲の上にのっかった。
「熱っ!」
ナタリーとジョゼットはすばらしいスピードで動いた。ソニアの手を冷たいタオルでひやし、ナプキンを新しいものに替え、皿も新しいものが用意された。その間、ほんのまばたきをするくらいでしかなかった。
ソニアがイスにすわり直すと、まるで何事もなかったようにすべてが元どおりになったような気がした。しかも、ソニアのお皿には、ジョゼットがシチューを盛りつけていた。
ヴィオラのほうにジョゼットが回ると、ミルドレッドが心配そうに、ソニアの手を気づかった。少しヒリヒリするだけで、たいしたことはない、とソニアは笑顔さえみせていた。
ミルドレッドが目を上げてソニアのうしろを見た。ソニアがつられてふり返ると、すぐうしろにナタリーが首をうなだれて立っていた。
「ソニア様、ただいまはたいへんなそそうをいたしまして申し訳ございません。奥様、申し訳ございません。お許しください」
「その話はあとにしましょう。食事中ですからね。仕事をつづけなさい」
「はい」
ナタリーは仕事に戻った。
何事もなかったように食事は進められたが、食後のお茶の時に、ナタリーは再びミルドレッドの指示を受けに来た。ミルドレッドは、ちらっとナタリーのほうを見ただけで、たったひと言、「鞭を持っておいで」と言った。
ナタリーは三度、ミルドレッドの前に立った。今度は、自分が打たれる鞭を手に持って。
「さあ、不始末をした娘を懲らしめなければならないわ。何一つ満足にできないんだから……そう、ソニア、おまえがやりなさい。女中を仕込むのも、たいせつな仕事ですからね。きっと、おまえは、もっと大ぜいの女中たちを見なければならなくなるわ。そのためにも、女中の扱い方に慣れていたほうがよくってよ。子供の時とは、だいぶ違ってよ。女中たちときたら、それは強情なんですからね。始終、鞭を使って教えなければ、何一つ満足にできなくてよ、ソニア。さあ、おやりなさい」
ナタリーはすなおにソニアの前に行って鞭を渡した。ソニアは黙って立ち上がると、籐鞭を右手に持った。
「ナタリー、あなたはそそうしましたね」
「三人ぐらいのお給仕が満足にできないなんて、伯母様がおおこりになるのも無理はありません。二度とあのようなそそうをしないように、あたしが鞭を上げましょうね。おまえには、きっとよい教訓になるでしょう。あたしは、おまえたちがどんなふうに罰を受けるのか知りません。いつもはどういうふうにされるの、言ってごらん」
「はい……奥様は鞭で打たれます……」
「どんなふうに、と聞いているのよ」
「はい、床にひざをついて……いつもお尻を打たれます」
「おまえたちには、それがいちばんいいようね。じゃあ、そうなさい。いつものとおりに」
ナタリーはうしろを向くと、唇をかみしめていた。両ひざを床につけると、すそをまくり上げてから、頭を床につけた。
「伯母様はいつもそうするの?」
「はい」
床に頭をつけたままナタリーは答えた。
「下着を着けたままなの?」
「い、いいえ……」
「世話をやかせるものではなくってよ。いつものとおり、と言ったはずでしょ。早くしなさい。ブルマーの割れ目を開いて、悪いお尻をお出し。早くしないと、数をふやしますよ!」
ナタリーは両手をうしろに回すと、言われたとおりに下着を開いてお尻を出した。しかし、ソニアは不満そうにつかつかと近づくと、ものも言わずにピシッと平手打ちを食わせた。
「もっと高くお尻を上げなさい。打ちにくいわ。それに、こうすればすっかりむき出しになってよ」
言いながら、両手を下着にかけると、思い切り左右に広げてしまった。そして、ナタリーのわきに立つと、鞭を当てはじめた。
「ビシッ!」[ビシッ!」と鞭が尻の上で鳴るたびに、ナタリーは腰をくねらせて叫んだ。
「ソニアお嬢様、お許しください。とても痛いのです。お嬢様−あ」
ソニアはしっかりとした手つきで十回打った。そしてミルドレッドのほうを見て、
「これくらいでいいかしら、伯母様」
「ええ、けっこうよ。もういいでしょう、これで少しは懲りたでしょうよ」
「ナタリー、お立ち。許してあげるわ」
「はい、お嬢様、ありがとうございます。二度とそそうのないように注意いたします」
「それがほんとうだといいのだけど。さあ、これを持って行きなさい」
ナタリーが泣きながら鞭を持って出て行くと、ヴィオラがイスから立ち上がった。
「すごいわ。ママ、そう思うでしょ」
「そうね。さすがにりっぱなものね。あなたには教えることはないわ。それだけできれば、じゅうぶんよ。でも、もう少し強く鞭を当てなさい。あの娘たちは、大声で叫ぶのがとくいなんだから、ごまかされちゃダメよ。あれくらい、なんでもないんですからね」
台所では、しきりにジョゼットが慰めていた。ナタリーは机にうつぶせになって泣いていた。
「だって、奥様のより弱かったんでしょ。だったら、泣くことないじゃない」
「だって……あの小娘ときたら、すっかり奥様気どりでさ……ああしろ、こうしろって言うのよ。奥様ならいいけど……くやしくって……」
「あきらめなさい、女中なのよ、あたしたちは……」
呼び鈴が一つ鳴る。
「お茶が終わったわ、あたしが行くからいいわ」
ジョゼットは、トレーを持って出て行った。
三人は、二階に上がって行くところだった。ジョゼットが、机の上をかたづけて戻ろうとした時、二階でミルドレッドの声が聞こえた。
「ソニア! ヴィオラ! わたしの部屋にいらっしゃい、すぐにですよ」
ヴィオラとソニアは顔を見合わせて肩をすくめた、来たるべき時が来たといったふうに。二人とも、もうナイト・ドレスに着替えていた。
「さ、早く行きましょう、そのほうがいいわ」
「そうね、ソニア。覚悟はできてるわ」
「ところで、あなたはまだあれを着けているの」
「もちろんよ、かってに脱げるとでも思っているの。早くこんな格好から解放されるなら、もう一度ぶたれたっていいわ」
「何をぐずぐずしているの、早くと言ったはずよ。ママをおこらす気なの」
二人が部屋にはいると、ドアはバタンと音をたてて閉じた。階段の下でジョゼットが首をかしげていた。
「とにかく、何かあったことはたしかよ。あの様子じゃ、子守り歌を聞かせるために呼んだんじゃなくってよ。あの二人は、また何かやったんだわ、きっとそうよ」
「でも、あたしほどみじめな気持ちにはならないでしょうよ」
「でも、わからないわよ。きのうのこともあるし。きっと何か起こるわ」
ミルドレッドはやさしく話していたが、二人は立ったままだったし、いつママの気分が変わるか、そのことが気になって、けっしてくつろいだ気分ではいられなかった。
「しつけということは、ただたたけばいいというわけにはいかないものなのよ。たしかに、おまえたちにとって、鞭はいちばんの薬ですけどね。でも、薬だって、多すぎれば害になりますからね。そうでしょ、ソニア」
「はい、伯母様。たしかにそうですわ」
「あなたはとてもよくわかるのね。お母様のしつけがよかったからですよ。ソニア、わたしがきのうヴィオラにしたことだって、そうなのよ。ずいぶんひどいしうちだと思ったでしょうが、あれも、たいせつなことだったのよ。今でも、ヴィオラは、あれをはいているのだけど、たたかれるのと同じくらいに罰になっていると思うわ、どう、ソニア、あなたはどう思って?」
「はい、ヴィオラは、ほんとうに後悔していますわ。さっきも、鞭で打たれるよりつらい、と申しておりました。しかも、一日じゅう後悔しなければならないし、他人には罰を受けているとは思われません。でも、本人は、一日に何度もつらい思いや恥ずかしい思いをしなければならないと思います。ヴィオラにはかわいそうだけど、とてもよくきく薬だったと思います。あたしがよけいなことをしなければもっとよかったんでしょうに……」
「おまえはそんなによく理解をしているのに、分別のない同情をしたものね。とにかく、ヴィオラは、決めた時間中にずるいことをしたのだから、もう一日、罰をのばしますよ。当然でしょ。あとで、部屋の前に立たせますよ、きのうと同じようにね」
「ママ、お願い。立たせるのだけは許して。だって、女中たちが笑うんですもの。とても恥ずかしいわ。お願い、もう一度、鞭でたたかれてもいいわ。だから、もうこれはいや。あたし、赤ちゃんじゃないんですもの、一日じゅうおしめをさせられているなんて……」
「伯母様、たしかにヴィオラの言うとおりですわ。とてもよく効くおしおきですもの、もうじゅうぶん効果はあったと思います。あしたはお休みだから心配はないけど……でも、もういいんじゃありません」
「ちょっとお待ちなさい、ソニア。いったい、ヴィオラがもう一日罰をのばされた原因は誰が作ったの。ヴィオラは悪い娘よ。でも、そうさせた人のほうがもっと悪いと、わたしは思うけど。そうじゃなくって? あなたは、とてもいい娘よ。ほんとうにそう思います。でも、今のような発言は、少々生意気だと思わないこと。わたしははっきりと、ヴィオラの受けるべき罰を言い渡したのですよ。いっしょうけんめいに考えたうえでね。だれも、おまえの意見など聞いてはいないのよ」
「………」
「おまえの説によれば、ヴィオラのおしおきはとてもよくきくそうじゃないか。ヴィオラにきくのなら、ソニア、おまえにだって、きっとよくきくだろうね。え、どうなの?」
「え? あたくしにも……まさか、伯母様、ちがいますわね。まさかあたくしに……ヴィオラと同じようなおしおきを……オウ……そんな、いや、いやよう」
「お黙り! なぜ、ヴィオラと同じようにしてはいけないのだね?自分がおとなになったとでも思っているの。自分のしたことを考えてみるがいい。おとながやることかどうか。あなたのお母様からおあずかりしているうちは、わたしの娘と同じことよ。それは最初に話したはずよ。そうね、どうしても、わたしの言うことがきけないのなら、ロバートにやってもらうしかないわ。そうしてもらいたいの?」
「ごめんなさい、ごめんなさ−い。ソニアはなんでも言うことをききますから……もうけっして、罰を逃げたりはいたしません。どうぞ罰は伯母様がしてください……」
「わかればいいのよ。二人とも、もう少しすなおにしてもらいたいものね。きのうのヴィオラといい、きょうのソニアといい、お父様のことを言っておどかさなければ、すぐに言うことがきけないなんて、ママを甘くみた生意気な態度としか思えないわ。そうなのね」
「………」
「おどされたり、たたかれたりしなければ何一つできないなんて、女中のようね。きょうはたたかないつもりだったのに、ソニア! 生意気な態度がどんな結果になるか、もう一度よく覚えておくがいい。さあ、お尻をお出し!」
ソニアは自分でイスを持って来ると、この家のやり方に従って、イスにからだをのせた。下着を脱いで、すそも自分でまくった。だから、ソニアが思いつくうちでもっとも恥ずかしいポーズになった。二つに折れ曲がったからだの頂点に、満月のようなお尻がむき出しのままさらされていた。
ミルドレッドは、うしろに回ると、平手打ちをはじめた。平手打ちといっても、ミルドレッドが力いっぱいにたたけば、鞭と同じようなものだった。しかも、音が大きくて、なおさら恥ずかしい思いがした。
三十余りもたたかれて、ソニアは悲鳴をあげていた。ヴィオラは、きのうの鞭の跡がまだだいぶはれていたので、十回ぐらいで許されたが、痛さはずっと上だったろう。
そのあとで、二人をすっかり裸にしておいて、ミルドレッドは女中を呼んだ。ジョゼットは別に驚いたふうでもなかったが、赤くはれ上がったソニアのお尻を見のがしはしなかった。
「ジョゼット、これと同じテーブルクロスを二枚もって来ておくれ。その安全ピンはこちらにおいて、あと二つ、安全ピンも持って来るのよ」
「はい、テーブルクロス二枚と安全ピンがあと二つでございますね」
「そうよ。そして、その布は処分してしまいなさい。まさか、テーブルクロスにはつかえないものね」
ジョゼットは大急ぎで下に行くと、ニュースはすぐにナタリーの耳にはいった。
「へ−え、何があったか知らないけど、そうすると、ソニアもおしめをされるの?」
「たぶんね。もうお尻はたたかれたらしくて赤くなってたもの。行って来るわ」
「奥様、白いのが一枚しかありません。一枚はチェックですが、よろしいですか?」
「ああ、なんでもいいよ。どうせ、おしめの代用にするのだから」
「まあ、そうでしたの。それで、どこかにそそうなさいました? おそうじは……」
「いいのよ、きょうは別にそうじゃないのだけど、おしおきにしてやるのだから、ベッドのところにたたんで並べておくれ。ジョゼットはおしめのたたみ方を知っていて?」
「はい奥様、あたしは子供のころ、妹や弟のオシメをしてやったことがございますから」
「そうかい。それじゃ、ヴィオラにしてやっとくれ。ソニアはわたしがしてやろうね」ソニアは、からだじゅうを赤くしていたが、とくに顔は火がついたように首筋までまっかだった。
用意ができると、ミルドレッドは、ソニアの腕をつかんでベッドのところまで連れて来た。たたんだ布の上に腰をおろさせてから、からだをうしろにたおす。
「ソニア、足を開くのよ。すなおにするってお約束じゃなかったかしら」
二つ目の安全ピンを止める時、ソニアはこらえきれずに両手で顔をおおうと、ワッと泣き出した。
「たんとお泣き。いくら泣いたって、許しはしませんからね。そらできた。さあお立ち」
二人とも泣いていたが、ミルドレッドは、両手で二人の耳をつかむと、部屋の外にひきずり出した。階段のいちばん上、下から上がって来ると真正面のところに二人を立たせた。
「きょうは、わたしがいいというまで立っておいで。少しでも動いたりすると、どうなるか、おわかりだね。手はからだのうしろに回していなさい。二人ともよく似合うこと」
二人はまだ声をあげて泣いていたが、言われたとおりのポーズをくずしはしなかった。涙はポロポロと顔を伝って胸のふくらみのまん中に集まって流れた。
案の定、二人の女中は、何度もミルドレッドの部屋に呼ばれ、そのたびに二人の立っているところを通った。
始めにナタリーが通った時、ソニアは、死ぬほど恥ずかしかった。ほんの少し前、えらそうにナタリーに鞭を与えたのに、今度は自分がこんなに恥ずかしい格好のところをナタリーに見られなくてはならないのだった。しかもナタリーは、たっぷりと皮肉をこめて声をかけるのだった。
「ソニア様、お寒くございませんか」とか、
「ほんとうに奥様はきびしいんですからねえ。おかわいそうに。おつらいでございましょ、早くお許しが出るといいですわね」
そのたびに二人は、また顔を赤らめるのでした。