24 困惑
佐織は芝生に寝ていた。快晴、無公害都市の空は濃いブルー一色に染まり雲一つなかった。
シーズン間近のチアガール達は練習に余念がない。テニスコートでは日に灼けた少女達がボールを
追いかけていた。空気が乾燥しているとボールを打つ音も軽快に聞こえる。
すべてが躍動している世界で佐織だけが静止していた。
膝を立て、頭を乗せると大きなため息をついた。
何度振り払っても、同じことを考えてしまう。忘れようとしても、そのことばかり思い出してしま
う。
それは、四日前のことだ。朝起きたとき・・・・
佐織は激しく首を左右に振った。もう、嫌!
濡れた紙おむつをしている自分を意識したときのショック。自分でその始末をした後、佐織はシャ
ワールームで声を上げて泣いた。
次第に頭の中がスッキリして、昨晩のことを思い出していた。最後に母親が罰を受けていたことまで思い出した。
あれは夢だったのか・・・一瞬、疑ったが、その後で母親と話をして、夢でないことが確認され
た。
母親は、管理を強化して必要なら何度でもお仕置きすると宣告した。
「甘い顔をしていたら、ママがお仕置きされるんですからね」
そう言って、佐織の部屋で母親は自分のスカートをたくし上げ、パンティーの裾をたくし上げて佐
織にお尻を見せた。
母親のお尻の痣が本物であることは、佐織にも充分わかった。
「ごめんなさい」佐織は、そう言うしかなかった。
この、息苦しいほどの精神的打撃を、訴える相手がいない。今日で三日、夕方まで待っても、純は
姿を現さなかった。
明日、もし純が来なかったら、純の家に行ってみよう。
25 陰謀
佐織は、朝起きるとベッドの点検をした。濡れていないことを確認してホッとする。
オネショが母親の操作であることはすでに確認されている。いつ、オネショをしても不思議はない
のだ。
それをさける方法はただ一つ。ひたすら母親に従順に従う以外にない。少しでも反抗的な態度をと
れば、翌朝、ビショ濡れのベッドで目覚めることを覚悟しなくてはならない。
それが、たとえ母親の操作であるにせよ、屈辱に変わりはない。それを理由にお尻を叩かれ、おむ
つを当てられるかもしれないのだ。
佐織は細心の注意をして、母親の機嫌を損ねないようにした。
純のことが気になった。考えれば考えるほど悪い方に傾いてゆく。
出てこないだけでなく、佐織の出したメイルに返事も来ないのだ。
病気? まさか・・・それなら母親に連絡が来るはずだ。純の母親から連絡も来ない、佐織には、
まるで消えてしまったように思えた。
五日目の朝、佐織は母親に純のことを話した。もし、今日も来なかったら帰りに純の家まで行くと
言った。
「そんなに心配することもないわ。何かあればママのところに連絡があるだろうし、急にスポーツを
始めて疲れてさぼっているのよ」
「そうかもしれないけど、メイルも入らないのよ。病気かなぁ」
「そう、メイルも来ないの・・・それは少し変ね? いいわ、事情を聞きに行くだけですよ、あまり
遅くならないように」
「はい、事情さえわかればすぐに帰ります」
とりあえず母親の許可をもらって佐織はスポーツセンターに向かった。
やはり純は来ていなかった。
考え事をしながらマシンを使用するのは危険なので、佐織はランニングを選んだ、お天気の良い
日、外のランニングコースは気持ちが良かった。
一週、1キロのコースを佐織はゆっくりと走りつづけた。スタート地点に立っている機械にカード
を差し込み、自分の名前を打ち込んであるので、何周したかは記録に残っている。
走っている間、佐織は純のことばかり考えていた。走るペースを落としているので何人もの人が佐
織を追い越して行くが気にもならなかった。
昼近くなって、佐織はランニングを終了した。記録用紙には28という数字が打ち込まれてい
た。28キロ走行したことを意味する。
母親には午後からと言っておいたが、食事をしたらすぐに出かけることにした。佐織はシャワーを
浴び、着替えを済ませると外にでて食堂に向かった。佐織も純もお気に入りの食堂を選んだのは、純
が来ているかもしれないと思ったからだ。この四日間、毎日同じ食堂に通っている、純がきていれば
必ず会えるはずだった。
食堂に通じる小径に、純がぼんやりと立っていた。
一瞬、佐織は声が出なかった。
「純・・・!」
純は佐織に駆け寄ると佐織の腕をとって脇道に誘った。
「佐織・・・話したいことがあるの。聞いて・・・」
佐織より先に純が言った。お互いに思いは同じらしい。
脇道のベンチに腰をかけると、純は小さな声で『怖かった』と言った。
佐織は自分の悩みを純に聞いてほしかったのだが。どうやら純の方が深刻そうに見えた。怖かった
とつぶやいた純は目に涙を浮かべていた。
「一体、何があったの? 純、ぜんぶ話して」
純が重い口を開いたが、その内容は佐織の想像を超えていた。
その日、家に帰ると見慣れない車が二台、家の前に停まっていたという。
純の帰りを待っていたのだ。純が家に入ると、その直後に私服の女性が二人
家を訪れた。
その時、玄関には母親と長兄が居合わせたが、純は麻薬取締法の参考人として連行されることを通
告された。
着替えもさせずに純は一人の女性に連れられて外の車に乗せられた。車の中にはもう一人女がい
て、車が走り出すと同時に純は手錠をかけられたそうだ。後になって聞いた話だが、家に残った方
が、外部への連絡は一切禁じると言ったらしい。
「なぜ、こんなことをするの!」
純は抗議したが、私たちは命令に従っているだけとしか答えなかった。
「ど、何処に連れて行かれたの?」
「最高速チューブに入って、十分くらい・・・多分、150キロ圏内・・・」
純の推測では連れて行かれた先は矯正施設ではないかという。
「麻薬取り締法なのに矯正施設? 変じゃない」
「理由があるの、聞いて・・・」
社会的に見れば純はまだ子供だ。どうやら最初から脅しにかかったようだ。精神的に締め上げれば
白状させられると考えた。
相手は、純の犯罪を確信していたらしい。施設送りを前提にプログラムは組まれていたのだろう。
身に覚えのない純にとっては迷惑なことだった。
施設に到着すると、医務室に連れ込まれ有無を言わせず服を脱がされ素っ裸に剥かれた。
純を裸にしておいて、服を念入りに調べていたそうだ。それから、純の身体検査が始まった。身体
検査と言っても、学校でするのとはわけが違う。
裸のまま診察台に寝かされ、体の隅々まで検査されたのだという。
純はその時のことを思い出したのか、目から涙があふれ出た。
「ひどいことされたのね」
「別に、痛くされたわけじゃないけど、体の中まで検査するのよ・・・」
「体の中?」
「二度も浣腸されたんだよ。そう言えば分かるでしょ・・・前も・・・」
「・・・そう・・・でも、なぜ・・・?」
少しでも抵抗するとピシッと笞でお尻を叩くのだ。大声で叫ぶと口に轡を噛ませられた。
検査の途中で、一人の女の子が連れてこられた。
「ごめんなさい、素直にしますから」
女の子がそう叫んでいるのに診察台にうつぶせに押さえつけお尻をパドルで叩いた。それ
は、まるで純に見せつけているようだった。おまえも反抗すれば同じ目に遭うのだと言うことを無言
で知らせていたのだ。
身体検査はほんの序の口だった。体育館のような部屋に連れ込まれ本格的な尋問が始まったのだ。
純はその時になって初めて自分の容疑を知った。
大きな麻薬販売組織の最末端。子供達に麻薬を売る、俗に言う(ジュニアチーフ)であるとの疑い
がかかっていたのだ。
相手の態度から見れば、それは疑いではなく確信に近かった。
その部屋にいたのは純だけではない。何のために尋問されているのか分からないが、お仕置き台に
縛られて鞭打たれている女もいた。
純は裸のまま梯子にくくりつけられてしまった。何も訊かない前に女がいきなり鞭でお尻を打っ
た。
「何もかも素直に白状しなさい。どうせ最後には全部話すのだから痛い思いをするだけ損よ」
女は口元に笑いを浮かべながらそう言うのだった。さすがの純も、この部屋に連れてこられてから
は体を小刻みに震わせていた。
麻薬の受け渡し、お金の集金方法、送金の仕方、などなど、純のまったく知らないことを次々に質
問された。
「ったく強情ね。拷問にでもかけないと白状できないの!」
時々、ピシッとお尻を鞭打たれるが、スキンガードまで脱がされたわけではない。痛くても肌が裂
けるようなことはない。
純は、自分のことより目の前で展開されている女の懲罰に震え上がっていたのだ。その部屋は拷問
部屋なのだろうか、次々に女が連れ込まれ、純には初めて見るような恐ろしい懲罰が次々に行わ
あれでは、どんな強情な女も口を開くのだろう。
ピシッ! 六打目の鞭が純のお尻で弾けた。
「お嬢様、まだ素直になれないの? 麻薬取締法違反には子供の特権が使えないのよ。素直にしない
と、ああいう懲罰にかけますよ」
縛られた女が脂汗を流している。それと同じ事をされる・・・そう考えたとき、純の意識が薄れ、
ポタポタとお小水を漏らしていた。
意識は取り戻したが、純はまだ梯子に縛られていた。後ろで話し声がする。
「まだ白状しないの。見かけと違って強情ね」
「でも、子供ですよ。責め場を見ただけでお漏らしですからね」
「ふうん、とすると・・・白?」
「まさか、あのタレ込みは信用できます」
「とは思うけど、あの子も一筋縄ではいかない札付きよ」
「ええ、確かに・・・万一誤認逮捕だと後がやっかいですね」
「体に傷は付けないで、二三日様子を見て、それで駄目なら薬ね」
「ええ、二日過ぎれば薬の複合作用は消えるはずですから・・・」
「それでも毎日、浣腸して腸を洗って下さいね」
「心得ております」
放心した状態で、純は切れ切れに会話を聞いていた。内容がすべて理解できれば、自分がそれほど
ひどい扱いは受けないことを知っただろう。しかし、その時の純は、今日、家には帰れないと言うこ
とだけがわかった。
同じ事を何度も訊かれ、答えないとお尻を叩かれた。施設の中を裸のまま歩かされた。別の部屋で
家庭でのお仕置きとはまるで違うお仕置き・・・
食事は与えられたが、純は半分も食べられなかった。
それでも、夜になると大量の薬液で浣腸された。ベッドに寝かされたときも拘束具は外されなかっ
た。
翌日、純は支給された制服を着せられたが、相変わらず同じ事を訊かれ、答えないとお尻を叩かれ
た。制服を着ていてもお尻を叩かれるときはパンティーも脱いで剥き出しのお尻を叩く。
裸でいることに慣れてしまうと、制服を着せられ、お仕置きの時にお尻を出すのがかえって恥ずか
しくなる。
尋問はおざなりに行われていた。時間待ちをしているのだ。自白剤を注射すれば済むことなのだ
が、この薬品は他の薬品との相性が悪い。
特に、麻薬の類とは相性が悪く、時として人命に関わる。純は麻薬常用者とは認められなかった
が、風邪薬などにも反応するため、この施設では入所から二日間は使用禁止になっている薬なのだ。
その間、体から薬を含む不純物を取り除くために浣腸するのだ。これは純粋に医学的処置なのだ
が、純のようなよし頃の娘にはお仕置きと同じ効果があった。
二日目も、施設の中で規則違反を犯した者に与える懲罰などを見学させられた。見るもおぞましい
器具が無造作に置かれ、あるいはその器具にかけられ、もだえ苦しんでいる生徒達の姿を見せられ
た。
ここが、矯正施設であることは図書館で見た画像と同じ部屋を発見したときに純は確信した。
と、言うことは、ここには純の家庭教師をしてくれていたお姉さんが収容されているはずだった。
中性の拷問部屋かと思われるような部屋で、純は思わず顔をしかめた。これらの器具が使われるこ
とは滅多にないのだが、収容されている生徒には、そこにあると言うだけで充分効果があった。
純を尋問している係りの女と助手が、笑いながら目配せをした。
「まだ強情を張るつもりなのね。仕方ない、この道具を使いましょうね」
まさか・・・冗談でしょ・・・
純はそう思ったが、二人の女は純の体を抱え上げ、その器具にかけようとしていた。
「や、やだ! そんなことしないで! お願い! 助けて、ママァ」
手枷,足枷、首枷がセットになった器具は、純の体を無様な姿勢のまま拘束した。その上、目隠し
までされてしまうと、純は恐怖のどん底に突き落とされたような気分だった。何をされるか分からな
いと言う恐怖に震えた。
二人の女達は、声を押し殺して笑っていた。
パンティーが脱がされ、お尻に鞭が飛んでくると覚悟していると、急に脇腹をくすぐられた。
「やめてぇ〜、あぁん、くすぐったい、ひぃぃ〜」
胸や首筋にも四本の手が伸びて容赦なくくすぐった。やがて、その手は攻撃の的を下半身に移動さ
せた。
内股をくすぐられる、足を閉じようにも閉じられない。純はヒイヒイと悲鳴を上げ、最後には、お
漏らしした。
「あーあ、又この子お漏らしよ。いやねぇ、あなた、紙おむつを持ってきてくれない」
「はい、承知しました」
パタパタと足音が遠ざかって行く。純の内股に紙があてがわれた。
一人になった女の息が顔にかかった。
「お尻癖が悪いのね、お家でもパンティー濡らすんでしょ。大きくなっても粗相する子は内股の筋肉
が弱いからなのよ。運動嫌いな怠け者に多いのよ」
そう言いながら、女の指先は無遠慮に純の内股を弄んでいた。純の体は嫌でも反応した。
目隠しをされたまま、純の唇が吸われた。女の指が、割れ目に侵入した。
純は息を弾ませ、腰をくねらせた。
「初めてじゃないのね、どう、良いでしょ。お姉さんに本当のことを話してくれたら、もっと良くし
てあげるわ。駄目? 話さないと、夜、お酢の浣腸しますよ。それは、ここからね・・・」
女の親指が純の肛門に触れた。
「さあ、どちらが良いの? 答えるのよ!」
ピシッとお尻が叩かれた。いくら責められても知らないことは話せない。
遠くで、扉の開閉する音が聞こえた。女は手荒く紙で痕跡を拭き取った。
「持って参りました」
「ご苦労様、世話ばかり焼かせるのね。さあ、紙おむつを当ててやって」
純は悔しくて唇を噛んだ。パンティーが切り取られ、紙おむつがあてられた。
その日一日、紙おむつのために、純は何度も顔を赤らめなくてはならなかった。
女達の悲鳴、哀願の涙、鞭の音、純の頭には恐怖のイメージがこびりついていた。純自身は、時々
お尻を叩かれたが、取り立てて言うほどのことではなかった。むしろ、二度の浣腸の方が純にとって
は辛いことだった。
いくら素直にすると言っても、女達は浣腸の度にポーズを変え、わずかな抵抗を理由に縛
シャワーを浴びた後は、裸のまま手足を拘束されベッドに寝かされた。拘束されたとは言っても、
鎖の長さは充分にあり、寝返りを打つこともできた。
一体、いつまで此処にいるのだろう、母親のこと、兄たちのこと、そして佐織のこと、思い出すと
涙がこぼれた。
部屋の外で声が聞こえた。
「見回り、ご苦労様です」
「今の内に休憩していらっしゃい。一時間よ」
「はい、ありがとうございます」
偉そうに指示しているのは純を尋問していた女だった。
カチッ、小さな音がして、ドアが開いた。あの女が滑り込むように部屋に入ってきた。
「夜の尋問よ。騒いだりしたら明日こそ拷問部屋送りですからね」
純の顔に自分の顔を近づけ、囁くようにそう言った。
女は、毛布を捲ると純の体に手を伸ばした。左手が乳房に触れ、右手が内股に伸びていた。昼間の
ことがあったので、純は驚きはしなかったが不愉快だった。お姉さんと言うにはいささか年上の骨張
った女だった。
夜の尋問と言いながら、女は何も訊かなかった。
不愉快でも、執拗に同じところを攻められれば、体は反応する。割れ目が濡れてくると、女は純の
乳首を軽く噛んだ。
「もう、何もかも知っているでしょ・・・」
女は、息を荒げ、靴を脱ぐとベッドに上がってきた。
純の両腕を膝で押さえるようにして体に跨った。制服のタイトスカートを捲り上げると、驚いたこ
とに、その女はパンティーを穿いていなかった。
女の茂みが顔に近づけられたとき、純は少女の潔癖さでそれを拒否した。
佐織と遊んだ経験はあったが、そこまで進んではいなかったのだ。
ただ以前、家庭教師をしてくれたお姉さんが同じようなことを要求したことがあった。その時も、
純は上手に出来なくてお尻を叩かれた。
パシッ! いきなり頬を張られた。
「お上品ぶらないのよ。何でも知っているんですからね。舌を出しなさい」
拷問部屋だのお酢の浣腸だのと脅され、純は仕方なく舌を出した。
気持ちが悪いのを我慢して、女が満足するまで、三十分以上も純は奉仕ししつづけた。
女は勝手に興奮し、自分だけ満足して果てた。
興奮が収まると女は純の顔や首筋を拭いた。純のために拭いているのではない、自分のした行為の
痕跡を隠すための後始末をしているだけなのだ。
「いい子だったから明日は楽をさせてやるよ。でも、夕方になれば自白剤を使うからね。いくら強情
を張っても無駄さ。当分此処にいることになるんだから、私には逆らわないことだね。そうすれば可
愛がってやるよ」
この女は、純の犯行を疑ってはいないようだった。
女が外に出て、しばらくすると声が聞こえてきた。
「ただ今、休憩から戻りました。ありがとうございます」
「五分前・・・教えた通りね」
「はい、班長に厳しく躾ていただきましたから」
「嬉しいわ、あなた達の為を思って時にはお尻も叩くのよ。でも、たいていの人は逆恨みするんだか
ら、でも、このお尻だけは叩きがいがあったってわけね」
「あっ、ああん・・・班長・・・」
ピシャピシャと軽くお尻を叩く音が聞こえた。純には、それが決してスカートの上から叩いている
のではないことがはっきりと分かった。
「巡回、異常なし。朝になったら巡回に来ますから気を緩めないように」
「はい、承知いたしました」
「あの娘は眠ったようだから、部屋に鍵をしておきなさい」
「はい」
返事と同時にカシャッとドアに鍵がかけられた。班長と呼ばれた女は、見張りの女と純の接触を断
ち切ったように思えた。
足音が遠ざかり、静寂が訪れたが純はいつまでも眠れなかった。
翌日、洗顔の時に純は血が出るほど口の中を歯ブラシで洗った。
すでに、自白剤の使用が決められていて、規則通りの時間待ちの状態だった。従って、純に対する
尋問はなかった。
手枷も足枷も布で裏打ちされた物に変えられ、肌に傷が付かないように配慮されているのが分かっ
た。
それでも、規則通りに浣腸だけは行われた。本来なら、医学的処置としてベッドに横臥させて行う
のだが、班長の独断で、純は様々なポーズを取らされていた。床に手足を着け、お尻を高く突き出し
たり、ベッドに寝て、足を思い切り頭の上まで折り曲げさせるような破廉恥なポーズをさせられた。
時間が来て、純は医務室に連行された。自白剤を使用するときの専門の医者が注射の処置をした。
特にお尻じゃなくてもいいんだよと、医者は言ったが班長はさっさと純のパンティーを脱がせ、ス
キンガードの割れ目を無理矢理開き、その部分を消毒した。それが、その女の最後の意地悪だった。
痛い注射だったが、薬液が入るとすぐに痛みは消えた。体がほかほかと温かくなった。
純は寝椅子に誘導され寝かされた。
「気を楽にして、良い気分だろ、私の声は聞こえるね」
「・・・はい・・・」
ふんわりと雲に包まれたような感じ、その中で医者の声だけがはっきりと聞き取れた。
何を訊かれ何を答えたか、純は覚えていない。
目覚めたとき、純は真新しいパジャマを着せられていた。
付き添っていた看護婦が着替えるようにと言って服を手渡した。
ここに来たときに純が着ていた洋服だった。
純が着替えるのを待って看護婦が言った。
「所長のお部屋にご案内します」
急に、言葉遣いまで変わっていた。
所長室には白髪の品の良い老婦人が椅子に座っていた。が、その脇に痩せた女が立っていた。その
女は、悔しそうに純をにらみつけていた。
純を自分の前の椅子にかけさせると、所長は静かに話し出した。
「自白剤の結果が出ました。明らかな誤認逮捕でした。最高責任者として深くお詫びします」
所長はそう言って軽く頭を下げた。
純は、その言葉を噛みしめている内に腹が立ってきた。
「それだけ? 説明はしていただけるんでしょうね」
「ええ、もちろんです。逮捕をしたのには、それなりの理由があります。その理由とは・・・」
やはり、勉強を教えてもらっていたお姉さんが関係していた。その事は、純もうすうす感づいてい
たのだが、まさか、あのお姉さんが麻薬密売組織の末端の売人だったとは思いも寄らなかった。
「自分の経験を、全て貴方に置き換えて話していたのです。それだけに真実味があり我々は騙された
のです。あまりにも素直に話すので、自白剤の使用を見送った私の落ち度です。あなたが眠っている
間に、ご家族には誤認逮捕であったことが告げられています。もし、謝罪を受け入れていただけない
場合は、正式に訴えて下さい。貴方にはその権利があります」
「はい、考えさせていただきます」
「私には・・・一抹の疑惑がありました。そのために、過酷な懲罰などは与えないようにと注意はし
ておいたのですが・・・」
「ええ、変だと思っていました。何度か鞭打たれましたけど、ママのお仕置きより軽いんですも
の・・・精神的にはずいぶん辛かったけど・・・」
「最近は、スキンガードがあるから、お母様の躾も厳しいのね。浣腸のことは赦してね、医学的に義
務づけられていることで、仕方ないことなんです」
「ええ、それは分かりますけど・・・なぜ、あんな破廉恥なポーズでなければ行けないんですか」
「破廉恥なポーズ?」
所長はそう言いながら後ろに立っている女の方に振り向いた。
その女は、気の毒なくらい慌てて、薬液を腸にしみこませる処置であったと言い訳した。
所長は純に詳しくポーズのことを聞き、何やらメモを取っていた。
「ほかに何か気づいたことはありますか?」
こういう時、純の頭は猛烈に回転が速い。純は下を向きグスンと鼻を鳴らした。涙ぐんでいる少女
である。
「あれは・・・お仕置きとは言えないかも知れないけど、昨晩の尋問が一番辛かったわ・・・」
「昨晩の尋問? そんな・・・」
純は下を向いたままだったが、本当は顔を上げてあの女の顔を見てやりたかった。
「昨夜の尋問というのはなんですの?」
「さ、さあ何でございましょう、きっと何か勘違いだと思います。私が詳しく調べてご報告いたしま
す」
「その必要はありません、この子に聞けば済むことなんですから」
所長は純に訊いた。だが、純は下を向いたまま、恥ずかしそうに小さな声で囁いた。
「恥ずかしいから・・・所長さんだけに・・・」
所長は班長に部屋から出るようにと言った。立ち去る班長の顔は真っ青だった。
純は、話している内に本当に悔しくなって涙が出た。所長は驚愕の色を隠そうともせず、純の話を
聞いていた。
純は、昨日の様子から、若い職員にも班長が嫌われていることを察していた。ついでに、夜の廊下
の出来事まで涙ながらに訴えてやった。
何人かの若い職員が部屋に呼ばれ、所長に問いつめられた。事実がボロボロと出てきた。
穏やかそうな顔をしていた所長の顔が怒りでゆがんで見えた。
隣の部屋から所長の声が聞こえてきた。
「この女を懲罰室に監禁しておきなさい!」
部屋に戻ってきた所長は十歳も老けたように見えた。力無く純の前の椅子に座ると、ポツンとつぶ
やくように言った。「明日、いえ、今日中に私は辞表を提出します」
瞬間的に純が叫んでいた。
「駄目! 辞めちゃ駄目よ。そんなの卑怯だわ」
「でも、此処の最高責任者としては当然そうするべきです」
「違うわ、何処にだって悪い人はいるの。そのために適任者が辞めるの。そんなの変だわ。所長さん
は此処を改革すべきなのよ。安心して、私は訴えたりしません。昨日のことも忘れます。家族にも話
しません、絶対に! だから、お願い辞めないで」
「あなたは、私にもう一度チャンスを与えてくれるのね」
「与えるだなんて、子供にそんな権利はないわ。でも、子供には分かるんです。その人がよい人かど
うか、これって子供の本能じゃないかな」
「ありがとう、でも、公にならないとあの女の処分もできないわ」
「そうかなぁ、何か手があるんじゃない?」
「ええまぁ、降格して再教育とか・・・下級職員として永久雇用でしょうね」
「それで充分だと思います。それとも、仕事中は鋼鉄のパンティーでも穿かせておく?」
純と所長は顔を見合わせて笑った。
所長に見送られて家に帰ったのは昨日の夜のことだったのだ。
佐織は聞き終わってしばらくは声も出なかった。
純は思い出すと涙ぐんだりはするが、もう、立ち直っていたのだ。
「ふうぅ、ドラマチックな三日間だったわけね」
「囚人の気分をたっぷりと味わったわ。貴重な経験ね」
「純は強いね」
「佐織はこの三日間どんなことがあったの」
「べ、別にぃ・・・」
純にだけは聞いてほしかった胸の中のモヤモヤを佐織は飲み込んでしまった。純の話を聞いた後で
は、夜中にパンティーのまま遊んでいてお仕置きされたの、紙おむつだのという話はもう出来なかっ
た。
「変だな、何か話たそうな顔していたよ。お仕置きされたんだろ」
「純に隠すつもりはないけどさ、たいしたことでもないのに、佐織のせいでママまでお仕置きされた
んだ」
「だ、誰に」
「パパに決まっているじゃない」
「佐織のパパが・・・信じられない」
「ママガ佐織に甘すぎるからって、パドルでやられてた」
「見てたの!」
「あんなの初めてだよ。次の日、これからはもっと厳しくするって、そう言ってママ、お尻を見せた
わ。痣だらけだった」
「ふううん、新しい展開だね。そう言うことはすぐに伝わるんだ。やばいなぁ、当分は要注意だね」
家でも話さなかったことを、佐織に全て話し、純はスッキリとした顔をしていた。
「お腹空いた、佐織は?」
「死にそう」
二人は立ち上がると食堂に向かって駆けだしていった。