6[試着]

「10分したらお部屋に来て下さいね」

「うん? 10分?」

「あれが届いたんです。elegance3,私、装着してみるわ」

「ああ、そういうことか。わかった」

 夫は、妻の姿が見えなくなると声を立てずに笑った。妻は、お仕置き具の未経験者

なのだ。それが幸福だったか不幸だったか、妻は、20歳を過ぎてからも母親の膝に横

抱きにされてお仕置きされたことがあると白状した。

 装着具のウエストについているキーワードのことも妻は知らないだろう。

 自分が手を加えれば、妻はあれを勝手に脱ぐことは出来なくなる。二三日惨めな気

分を味わわせてやるのもこれから娘を躾るのに役にたつ。

 時計を見て、夫は立ち上がった。

「これでいいのかしら? 後ろを見て下さらない」

「いいとも、ああ、これで良いんだよ。伸縮自在だから砂織にもピッタリ装着できる

はずだ」

「想像していたのとまるで違うわ。何も着けてないのと同じですもの、全然気になら

ないのね」

 夫はウエストの後ろ側を調べた。やはり暗証番号は0000になっていた。

夫はその番号を、4321に変え、小さなスイッチを押して番号を消し、ロックを作動さ

せた。これで、番号を入力しない限り自分で脱ぐことは出来ない。

「スキンガードは穿いているんだね」

「ええ、穿いているわ。それで良いんでしょ?」

「ああ、勿論だよ、誰にも怪我などさせたくないからね」

「なんだか、ドキドキするわ。本当にお仕置きされる前の気分よ」

「これがリモコンか、小さくなったね」

「ああ、お願い! まだよ、最初は弱くしてね」

 夫は笑いながら小さな電池をセットした。

「準備完了。ところで最近、君は夫に対する奉仕の精神が希薄だったと思わないか

ね」

「ああん、いやねぇ、この二三日、砂織のことが心配でそれどころじゃなかったの

よ。彼方が嫌いになったわけじゃないわ」

「生理でもないのに、四日も僕のベッドに来なかった」

「だから、ああん、ごめんなさい」

 夫は妻の目の前でリモコンのダイヤルを弱に合わせ、二つ目のダイヤルを皮のパド

ルに合わせた。

「今夜は必ず行きますからぁぁぁ痛い! これが弱なの」

 パシッという音は多少電気的な気もするが、お尻を叩いた音であることにかわりは

ない。音と同時に、皮のパドル独特の痛みをお尻に感じた。

 パシッ パシッ パシッ 三度続けて叩くと妻はその場で飛び上がってお尻を撫で

た。

「ああ、もう結構。もう充分よ」

 妻は慌てて手を後ろに回しelegance3を脱ごうとした。

「お願い、はずれないの、脱がして下さらない?」

「それが、勝手に脱げると思っているのかい?」

「……どういうこと……?」

「僕が暗証番号を入力した。もう、君は勝手に脱ぐことが出来ない。娘をそうして躾

るなら君もその気分を味わうんだね」

 そう言いながら、夫はダイヤルをやや強いに合わせた。

 ビシッ ビシッ ビシッ

「やめて! ああん、やめて!」

 夫はズボンを脱ぎパンツも脱いだ。両足を軽く開き仁王立ちになった。

「耀子、私の前に来て膝を付くんだ」

「そ、そんなのひどすぎるわ!」

 ビシッビシッビシッ!

「キヤッ! 強くしたのね、ああん、ああん」

「耀子、ここに来るんだ」

 耀子は泣きながら夫の前に来て膝を付いた。目の前にイキリ立っている夫のペニス

があった。夫が、何を要求しているか分からない妻ではなかったが、こんなやり方

は、あまりにも屈辱的だ。

「奉仕する気持ちを忘れたのかね。これで、思い出すかな」

 ピシッと耀子のお尻を叩いたのはケインだった。耀子は泣きながら夫のペニスを口

に含んだ。

 たっぷり1時間、夫に奉仕したのに、夫はelegance3をはずしてはくれなかった。

 その日、家に帰った砂織は両親の態度にいつもと違うものを感じた。母親はまるで

泣いてでもいたかのように目を赤くしていた。

「ママ、目が赤いわよ。どうしたの?」

「ああこれ、さっき公園の近くを歩いていたら、砂場にボールが飛び込んできてね、

頭から砂をかぶってしまったのよ。目にも入って大変だったの。病院に行って洗浄し

てもらったんだけど、まだチカチカするのよ」

「ふううん、そうだったのか。パパと喧嘩して泣いたのかと思っちゃった」

「ふふふ、嫌ねぇ、喧嘩なんてしませんよ。今日は早かったのね。でも、これが普通

でしょ。ねえ、砂織、これからしばらくはママのチェック、厳しくなりますよ。そう

いう年頃なんだから我慢するのね。誰でも一度は通る路なんだから、砂織だって我慢

できるね」

「ええ、最近、友達と会うとそんなことばかり話題になるの。憂鬱だわ。別に、何も

変わるとは思えないけどなぁ」

「いつまでも子供じゃ困るわ。だからって、すぐに大人になれるわけじゃないでし

ょ。この時期は、大人になるための訓練期間なのよ。少し辛いかも知れないけど、今

が一番大切な時期ですからね。ママに任せて」

「ふう、分かったわ。ママを信じてるから。躾はママにしてもらいたいわ」

「ありがとう砂織、ママだって他人に預けるなんて嫌だわ。でも、肉親だと躾が甘く

なるって言う人もいるし、その考えにもうなずけるところはあるわ」

「やだぁ、玲子伯母様なんて絶対に嫌だからね」

「ふふふ、砂織は子供の頃から玲子伯母様が苦手ね」

「旧時代のお行儀ばかり押しつける前世紀の遺物よ」

「悪口言うと言いつけちゃうわよ」

「だって、本当なんだもの。清美なんていつもイジイジしてるじゃない。可哀想だわ」

「そうねぇ、もう少し伸び伸びと育てた方がいいと思うけど、あちら様から見ると砂

織は野放図に過ぎるみたいよ」

「そんなことないよ。ちゃんとお行儀良くできるもの」

「お行儀は良くても、とんでもないところに出掛けて行くし」

「もうしないって、お約束したじゃない。それに、あんなにお仕置きされたし、帳消

しでしょ」

「あんなお仕置き、もう砂織には効果ないわ。その時は痛いから泣くでしょうけど、

1時間もすれば、ペロッと舌を出していたんじゃないの」

「そんなことないよ、3日も痛かったんだからね」

「でもねぇ、砂織。今度、Pゾーンに行ったら、ママ、施設につれていきますよ。マ

マ、本気ですからね」

「……わかった……」

 その声で、母親の覚悟のほどは知れた。

 脅されて、砂織は両親のことも気にならなくなった。夕食の時、父親が妙に陽気だ

ったが、砂織も楽しい話題を持ち出して夕食は賑やかに終わった。

 夜、ベッドのなかで、耀子が恨めしそうな顔で夫を見ていた。

「どうして、はずして下さらないの。私もう、子供じゃないのよ」

「まだ駄目だ。はずす時は、私が決める」

 そう言うと、夫は背中を向けて眠ってしまった。リモコンは、鍵のかかる引き出し

にしまったらしい。

 次の日も、ちょっとしたことで、夫はリモコンを使った。房ムチが耀子のお尻で弾

けた。飛び上がるほどの痛みに耀子は泣いた。

 午後になると、夫は自分の仕事部屋に妻を呼び、屈みなさいと命令した。

「なぜなの? 理由をおっしゃって下さい。私が何をしたって言うんですか」

 返事の代わりに、木のパドルが耀子のお尻に叩きつけられた。耀子は飛び上がり、

慌てて椅子に屈み込んだ。命じられるままに、スカートを捲りあげ、パンティーを脱

ぎ、お尻を思いきり高く突き出した。

 夫は、仕事をしながら、時々、思い出したようにリモコンのスイッチを押した。そ

の度に、耀子は顔をしかめ、飛び上がった。お尻はすでに真っ赤に腫れ上がってい

た。

 あんなに優しい夫がなぜ? 耀子は夫が信じられなくなっていた。

 次の日も、次の日も、砂織が外に出てしまうと理由無きお仕置きが始まるのだ。お

尻が痛み、恐怖でまともに夫の顔を見ることが出来なかった。

 5日目、砂織が外出するとすぐに夫の仕事部屋に呼ばれた。耀子は恐怖で青ざめた顔

をしていた。

 夫はスカートをたくしあげ、暗証番号を入力し、elegance3をはずした。

 脱がされて、耀子はわけもなく涙が出た。

「辛かっただろうね」

「なぜなの? 悪いところがあったら、おっしゃって下さい直しますから」

「この4日間、僕は暴君で、君は奴隷だった。悪くないゲームだったよ」

「ゲーム! そんなの、酷すぎるわ!」

「いや、違うね。これからずっと砂織はelegance3を穿かされるんだよ。リモコンは

君の手にあるんだ。ちょっとしたことで、君は暴君になれるんだよ。

この装置には、ある種の危険が伴うんだ。使い方を間違えると、とんでもないことに

なる。こんどのゲームはその教訓なんだ」

「私が、暴君になる? そんなこと、ありえないわ」

「きっとなる。力を握ったものは一度はその甘い罠にはまるものなんだよ」

「そうかしら? でも、惨めな気分は最高に味わわせていただいたわ」

「君は4日だけだ、砂織はこれから何年もそれを装着するんだ。気をつけて使ってほしい」

「はい、わかりました。彼方のしたことが、少し、理解できたような気がするわ。で

も、あんなの……あんなの……」

 耀子は夫の胸に顔を埋め子供のように泣いた。夫は、いつまでもその背中を優しく

撫でていた。

 夜、ベッドの中で夫がelegance3のマニュアルブックを読んでいた。

「ずいぶん改善されたんだね。電波の届く距離は20mに規制されたんだね」

「20mあれば充分だわ。200mなんて必要ないし、弊害が多かったから」

「暗唱が4桁だからね、偶然の一致もあるだろうし」

「お誕生日の日づけなんて多いから、誤作動があったんでしょ」

「道を歩いているときに、いきなりお尻を叩かれたらかなわないからね」

「本当、笑い事じゃ済まされないわ。他に変わったことは?」

「[弱]、[やや強い]、[強い]、の三種類は変わらないけど、それぞれに、過剰防止機能

が付けられたよ。以前は[強い]、だけについていたけどね」

「どういうこと?」

「つまり、強いで乗馬ムチを選んだとするね、そうすると、最大24打で電源が自然に

切れるんだ。そうすると、弱でも使用不能になる。弱が復活するのでも12時間後だ

し、やや強いは18時間後、強いは24時間経たないと使えないようになっているんだ」

「つまり、使いすぎの予防処置なのね。そんなに、残酷に自分の子供を扱う人がいる

って事?」

「弱い人間ほど、権力を握ると、規制が利かなくなるんだ。自分は絶対だなんて思わ

ないことだね」

「……その警告が、この4日間だったのね。身に沁みたわ……」

「気の毒だとは思ったけど、絶対に脱ぐことの出来ない懲罰具を装着させられた者の

気持ちを味わってほしかった。君には経験がないからね。経験なしで娘を躾るのは危

険だ」

「気が付かなかったわ、ママが厳しかったから、それで充分だと思っていたの。で

も、本当の恐ろしさ、屈辱感が良く分かったわ。ありがとう・・・」

「分かってくれると信じていた」

 夫が、妻の布団を捲った。耀子はうつ伏せに寝ていた。

「お願い、今日はお尻が痛くて……」

「薬だよ、友達の医者にもらってきた、使いすぎは危険だけど緊急処置だからね」

 シルキーのパンティーを脱がすとき耀子は顔をしかめた。お尻が赤紫に腫れ上がっ

ていた。夫はやさしくクリームを擦り込んだが、耀子は両手で枕を握りしめその痛み

に耐えていた。

 それでも、塗り終わった頃には痛みも嘘のように消えていた。

「麻薬の薬ね。ああ、いい気持ち。もう痛まないわ」

 耀子は仰向けになり、夫の首に両腕を絡ませた。

「駄目だよ、痛みはなくなっても筋肉のダメージはあるんだからね。今日は我慢して

オヤスミ」

 夫は妻にキスをして自分のベッドに戻った。

 翌日、二人でCDROMのプログラミングを確認した。子供の犯しそうな間違いの数々

が、すべて網羅されているように思えた。

 バージョンアップされて、肌理が細かくなった。

 例えば、子供の嘘についても、細分化が進んでいた。嘘を、単純に悪いこととは決

めつけていなかった。

 幼い子供なら、縫いぐるみの熊が話をしたと言うであろう。それを嘘と決めつけて

罰を与えたら、小説家は存在しないことになる。

 言い方を変えれば、小説家は上手な嘘つきなのだ。そのような配慮がこのCDには収

録されている。

「こういうCDがもっと早くほしかったわ。ママなんて、理不尽なお仕置きばかりした

のよ」

「絶対服従、それが金科玉条だったからね」

「娘が自由に出来ることと言ったら、空気を吸うことだけだったわ」

「でも、デートの時、ちょっぴり悪い子だったね」

「帰ってからママにチェックされました! 当然、お仕置きだったのよ」

 耀子はそう言うと顔を赤らめて背中を向けた。

7[誕生日]

 あと2日で、1928年10月14日 土曜日になる。

 その日は砂織のお誕生日なのだ。今までなら、わけもなくその日は楽しい日であっ

たのに、今年だけは少し違う。

 砂織はすでに、予感していた。最近のママの態度からすれば、当然そのことは予測

された。すでに、友達に何人も懲罰具を装着された人がいるのだ。そのきっかが、15

歳のお誕生日であることも共通していた。

 少しだけ希望があるのは、以前から母親が懲罰具をあまり好んでいなかったからで

ある。もしかしたら、というかすかな希望はあった。

 その日が来た。食堂に「お誕生日おめでとう」という旗が下がり、楽しい雰囲気を

演出していた。三人ともドレスアップしてその時間を待った。

 時間通りに、フードシェルターが鳴った。ハッチを開くとパッケージが届いてい

た。銀のポットに入ったスープを父親がテーブルまで運んだ。

 一流レストランのフルコースがタイミング良く届けられた。

 最後に、砂織の友達の純が目を細めて絶賛したシャーベットが大きなboxにタップリ

と届けられた。

「外の食事も楽しいが、こうして家族だけの食事は気楽でいいな」

「お隣の席を気にしなくて済みますからね。でも、砂織はときどき外に連れ出さない

と」

「どうして? 私、家でもいいわ」

「マナーを学ためよ。少なくとも3回、マナー違反がありましたよ。玲子伯母様なら5

回というかも知れないわ」

「そんなに?」

「自分では気が付かないようだから、あとで教えてあげましょうね」

「もう砂織が知っていたこと?」

「ええ、何度も教えたことですよ」

「ごめんなさい、良く思い出してみるわ」

「良く考えれば思い出せるはずですよ。本当に忘れてしまったのなら、あとでママが

想い出させてあげましょうね」

「はい」

 答えた砂織はうつむいていた。同じ事を何度も注意される時は、小言だけでは済ま

ないのがこの家のルールなのだ。

 少し、お尻を痛くされることを砂織は覚悟した。

 パーティの最後に、父親からプレゼントが手渡された。

 以前から、砂織が欲しがっていた星空のディスプレーだった。

 自分の部屋で、この小さな装置のスイッチをいれると、たちまち空間に夜空が演出

された。壁や天井に映るのではなく、空間で星が瞬いた。

 プレゼントがそれだけしか用意されていないので、砂織はホッとした。

 それを、見すかしたように母親が言った。

「プレゼントはもう一つあるのよ。ママの部屋に用意してありますから、あとでいら

っしゃい」

「・・・はい、ママ、ありがとうパパ」

「もう一つのプレゼントについて説明しておこう」

 父親が真面目な顔で言った。

「ママが、細心の注意で選んだものだ。もう、覚悟はしていると思うが、砂織にもそ

れが必要になったんだよ。わかるね、子供が、大人になる課程で、誰でも一度は経験

することなんだから、砂織にも我慢できるはずだ。躾のためにはお仕置きも必要なん

だ。私も、その考えを支持する。10時になったらママの部屋に行きなさい。そして、

訓育用のパンティーを穿きなさい。これは、父親である私の命令だ。わかったね」

「はい、砂織・・・もう、覚悟はしていたわ。みんな、15歳からなんですもの。10時

に、ママの部屋に行きます」

 砂織は自分の部屋に戻ると、大きな溜息をついた。覚悟していたこととは言え、現

実になると憂鬱だった。

 それがどんなものか、十分に知識はあった。母親が、メチャクチャな使い方をしな

いことも信じていた。最近発売されたものが、限度以上の使用が出来ないことすら砂

織は知っていたのだ。

 子供達の情報は正確で早い。

 胸が苦しくなるような20分を自分の部屋で過ごし、砂織は母親の部屋に向かっ

た。10時、ピッタリに母親の部屋をノックした。

佐織はフリルのついたパンティーを自分の部屋で脱ぎ、ガードスキンの上に、パンティ

ーストッキングだけを穿いていた。

 母親は自分の前に佐織を立たせると、佐織にスカートを持ち上げさせ、無造作に佐織の

穿いていたパンティーストッキングを下げた。

 いよいよelegance3の箱の中から本体が取り出された。

 これが? 佐織が見た物は、ふわふわとした、光沢のある繊維で母親の片手の中に収まっ

ていた。

 装着した感じはなんの違和感もなかった。ガードスキンと二枚重ねて穿いているの

に裸でいるような感じだった。

 この、蜘蛛の糸のようなワイヤーが絶対に切れないなんて信じられなかったが、何人も

の友達が試していたのだ。

 母親は、夫から教えて貰ったように暗証番号をセットした。

 母親は、4152という数字を選んだ。良い子に、育ってほしいという祈りを込め

て・・・

「いつまで、これを着けていればいいの?」

「さあ、お父様が判断して下さると思うわ。でも、たとえ着けていたって、ママにボ

タンを押す機会を与えなければいいわけでしょ」

「そりゃあそうだけど、当分は無理ね」

「あらあら、お仕置き覚悟でお転婆するつもりなのね」

「そうじゃないけど、まだ、未熟なんでしょ」

「そうね、食事の時の簡単な作法くらいは早く覚えてほしいわね」

「ああ、さっきのこと、二つは気がついたわ。本当に、三つもあった?」

「玲子伯母様なら五つと言ったはずよ」

 母親は、冷静に五つの間違いを指摘した。言われれば、砂織にもすべて納得でき

た。

「少なくとも、三つは罰の対象になるわ」

「伯母様なら、五つとも罰ね。ふうう、それ、使うの?」

「これがどんなものか、ママ、自分で試したのよ」

「ママが!」

「当然だわ。危険なものだったら砂織には使わないつもりだったの。自分で限度を知

らないと危険だし」

「自分で、リモコン操作したの? ふうう勇気あるのね」

「まさか、ママにだってそんな勇気はないわ。パパにお願いしたの。パパったら、そ

りゃあ酷く扱ったのよ。ママ、泣いちゃった・・・」

「あっ、この間、眼が赤かったとき、そうだったのね」

「ええ、恥ずかしかったわ」

「なんだか雰囲気が変だったもの。そうか、ママも泣くんだ・・・」

 砂織は話しながらパジャマを着ていた。花柄の薄地の生地は、見るからに肌に優し

そうだったが、これは繊維ではなく、パルプなのだ。

 しかも、再生パルプで、使い捨てなのだ。

 砂織も、二日ほど着ればホットシュートに放り込み燃やしてしまう。あとには微量

な灰が残るだけなのだ。

「当たり前でしょ! 乗馬鞭の最強まで試したのよ!」

「そんなの、使わないよね・・・」

「さあ、どうかしらね。砂織次第って事でしょうね。さあ、嫌なことは早く済ませて

しまいましょうね。お仕置きして上げるから、椅子に手を着いてお尻を出しなさい」

 砂織は素直に椅子に手を着いたが、パジャマのままだった。

「お尻を出しなさ言っていったでしょ! パジャマは脱ぐんですよ」

「だってママ、同じじゃない。そんな必要・・・ああっ!」

 ピシッとケインでお尻を叩かれて、砂織は飛び上がった。リモコンはすでに母親の

手に握られていた。

「お尻を出しなさい!」

 砂織は慌ててパジャマを脱ぎ、お尻を出した。夜は、パンティーをはかない習慣だ

ったから、むき出しのお尻と少しも変わらなかった。

 砂織は不服そうな顔でチラッと母親の顔を見た。

「砂織、あなたは勘違いしているわ。ママやパパはあなたを痛めつけようとしている

んじゃないのよ。素直に従う気持ちを養うことを訓練しているの。痛ければ良いって

事じゃないの。素直に、お仕置きを受ける気持ちが大切なの。分かった!」

「はい、ママ」

「ママの言うことさえ聞いていれば嫌な思いをしないで済むんですからね。最初は、

木のパドルを試してみましょうね」

 砂織は目を閉じ、口を結んだ。

 ビシッ! 

「うううっ」

 ビシッ!

「あうううっ、ママ強すぎるわ・・・」

「ごめんなさい、これ、弱なの。これ以上弱いのはないのよ」

「これが弱なの! ああん、ごめんなさい、お行儀良くしますからぁ」

 ビシッ! ビシッ! ビシッ! 

 連打されて、砂織は椅子に手を着いたまま何度も飛び上がった。大きな瞳に涙が溜

まっている。

 母親は、リモコンを机の上に置き、その場を離れた。お仕置きが終わったわけでは

ない。充分に痛みを味わわせ、反省させる時間なのだ。

 砂織は充分にその事を知っていたから、勝手に立ち上がったりはしなかった。ふう

うっと、溜息をつき、目を閉じると涙が頬を伝わって流れ落ちた。 まるで、本物の

木のパドルで叩かれたようだった。お尻が熱くなり、ヒリヒリと痛んでいた。砂織は

これから何年も、この苦痛と屈辱に耐えねばならないことを痛感した。

 母親は、指一本触れることなく、いつでも、必要なときにお仕置きできるのだ。こ

の装置から逃れる方法はない。子供達のインターネットでは、情報が飛び交っていた

が、成功したものは一人もいなかった。

 以前、一度だけ成功した例があった、リモコンから発せられる信号を、受光部分で

切断したのだ。しかし、成功したのは一回だけだった。

 リモコンを押すタイミングと痛さに飛び上がるタイミングのズレに母親が気がつ

き、後ろに回ってボタンを押してみたのだ。

 押すところを見ていない娘は、演技できなかった。受光部分を覆っていた金属片は

すぐに取り除かれ、その娘は、たっぷりとお仕置きされた。

 その事実は、すぐに親たちのネットに掲載され、真似をしようとした子供達は、必

要以上のお仕置きを受ける羽目になった。

 砂織は、この装置に関するすべての情報を分析したが、対抗する手段はないのだ。

一度装着されたら、外されるときまで我慢するしかないのだ。

 母親が戻ってきた。

「ママ、お願い、もう充分です。砂織、もうお行儀良くするから!」

「まだ、軽すぎますよ。コンピューターのソフトで試しに罰を聞いてみたのよ、十五

歳にもなって、それだけのマナー違反があったら、房鞭1ダース以下では軽すぎますっ

て」

「ああん、房鞭なんて嫌だ! 恐いからぁ〜」

「あと、房鞭六打追加しますよ」

「ああん、赦してぇ〜」

 バシッ! 今までに味わったことのない痛みがお尻全体を包んだ。

「ひぃぃぃ痛いよぉ〜」

 バシッ!

「マァマァァァああん、お尻が焼けるよぉ」

 バシッ! バシッ! バシッ!

「ああ〜っっっ」

 砂織は思わず椅子から手を離し、お尻を押さえ、床に転がった。

「ひいい、ひいい、痛い、痛いよぉ」

「立ちなさい! 砂織! 立つんですよ!」

 バシッ! 音がしたとたんに砂織は飛び上がり、立ち上がった。

「甘え泣きなんて赦しませんからね。罰は最後まで素直に受けなさい!」

 砂織は膝頭をガクガク震わせながら立ちすくんでいた。こんなに恐い母親を見たの

も初めてのことだった。

「廊下に出て、立っていなさい。両手は頭の上ですよ」

 砂織は、一刻も早く母親の前から逃げ出したくて、お尻の痛いのも我慢して走っ

た。

 廊下に出て、いつもの決められた場所に立つと、砂織は声を上げて泣き出した。体

中が震え、涙が止めどなく流れた。

つづく