12 健康管理



純が帰り、母親が帰宅した。

普通に、愛想良く迎えたつもりだが砂織の神経はピリピリしていた。

母親も今日の講義は疲れたと言っていた。

子供を持っている親に義務づけられている講義で、父親にも同じ様な講義が組まれてい

たが、子供が女の子の場合、母親の方に負担が大きい。

「医師から直接講義されるんですもの、かなり専門的なのよ・・・」

「補助金の交付を受けなければ、講義を受ける義務もなくなるんでしょ。病気になれば

どうせ病院に行くのだし、衛生検査にしたって10歳以下なら仕方ないけど、15歳にも

なれば自分で管理できるわ。別に、補助金をあてにしているわけじゃないでしょ」

「ずいぶん、思い切った意見ね。砂織の言うことにも一理あるけど、世の中が清潔にな

った分だけ免疫に弱い面もあるのよ。公衆衛生は一軒一軒の家庭からと言う基本方針を

自分勝手に変更するつもりはないわ。検査にしても、15歳の砂織を子供扱いにしている

わけじゃないのよ。自分の体でも自分では検査できないところだってあるでしょ。つま

り、ママは看護婦さんの代行をしているだけなのよ。砂織には不愉快な検査かも知れな

いけど、ママは変更するつもりはないの」

「どうせ、そう言うと思っていたわ。これ以上苦情を言えば、胸の奥からリモコンが顔

を出すんでしょ。子供なんて奴隷なんだわ!」

「砂織・・・」

 母親が、声をかける間もなく砂織は二階に上がってしまった。

 母親は、着替えをしながら、一応、砂織の行動を確認していた。教育センターから家

に直行している。

 そうか・・・純ちゃんが来ると言っていたわ・・・

 家に戻ったことを確認して、スイッチを切った。押入から検査用の鞄を取りだし、内

容を確認して部屋を出た。

 砂織は無表情で母親を迎えた。ちょっと、ふてくされた態度で服を脱いでいた。

 簡単な身体測定から始め、指定の用紙に記録をした。聴診器の記録はデーターとして

保存され、少しでも異常があれば検査機関に送られる。

 母親の片手に納まるくらいの小箱にはいくつかの仕切があり、それぞれ形の違うカプ

セルが入っていた。一番小さなカプセルには針がついていた。

 砂織は顔をしかめ、腕を突き出した。

 二の腕に、チクッと痛みを感じると、カプセルの中に血が溜まった。

 母親が、透明の手袋をはめると、砂織はわざと大きな溜息をついた。普段なら、この

程度の反抗でも、ピシャッとお尻を叩かれたが、なぜか、母親は耐えていた。

 砂織がベッドに膝を着き、上半身を低くした。思いきりお尻を突き出し脚を開いた。

 肛門に体温計が差し込まれた。わずか5秒で計測できたが、差し込まれること自体、

砂織は身震いするほど嫌いなのだ。

 試験紙をヴァギナとアーヌスに貼り、それをカプセルに封入した。

 母親は最後に、使い捨てのボンベに入っている薬品を、浣腸器にセットした。

「砂織、お腹なんて痛くないのに!」

 気の強い砂織も、浣腸だけは苦手なのだ。30秒ほどで処置されたが、目に涙が浮かん

でいた。

「15分は横になっているんですよ。あとで、見に来ますからね」

 砂織は横を向いて返事もしなかった。母親は、何も言わずに部屋を出ていった。

 その後ろ姿に、思いきり舌を出した砂織だが、怒鳴り返さない母親に、帰って物足り

ない思いがした。

「今日のママ、少し変だわ・・・」

 部屋の外に出た母親の顔は深刻だった。

 何かが変だ・・・純ちゃんと・・・

 お尻を検査しているとき、母親は浴材の匂いをかいでいた。

 たしかに、すれ違いにじゅんちゃんはかえったと砂織は言った。お風呂に入る暇はな

かったはずだ。それなのに浴材?

 母親はカプセルを箱に入れ名前を書いたシールを貼り。シューターに送り込んだ。

 それを済ませてから、自分の部屋に戻った。

 砂織の行動をもう一度確認するために・・・

 巻き戻し、早送りで再生し、家に戻ってからは普通に戻した。画面は拡大され、家の

単位から部屋の単位になっている。家具まで分かるわけではないが、部屋の位置で砂織

がどこにいるか分かる。

 母親は、頭を抱えていた。家に戻ってから砂織は自分の部屋のベッドで大半の時間を

過ごしていた。そのあと、シャワーを使ったことも手に取るように分かった。

 砂織の知らないカメラがセットしてある。録画することもできたのだ。その事を、母

親は後悔していた。

 砂織の部屋に行くと、砂織は何食わぬ顔でゲームをしていた。ヘッドギアを頭からす

っぽりと被っているので、母親が部屋に入ってきたことすら気がつかない様子だった。

 母親は、砂織の目の前で指を丸めてサインを送った。砂織はうなずいて、トイレを指

さした。

 トイレは、エメラルドグリーンの液体で満たされていた。母親は確認して流した。

 15分我慢せずに立ち上がれば、液体は黒く濁る。

 無邪気にゲームであそんでいる砂織を宇宙人でも見るような目つきで母親が睨み、後

ろを通り過ぎて部屋を出た。

 母親が部屋を出るとすぐに砂織はヘッドギアを脱いだ。遊んでいたわけではない、母

親と顔を合わせたくなかっただけなのだ。

 砂織は猛烈に腹を立てていた。自分の体にセンサーを埋め込まれていたことだけでも

腹が立つのに、よりによって、埋め込まれた場所に腹を立てていた。

  夕食のとき、父親は敏感に家庭内の異常に気がついていた。笑顔で会話を交わす妻と

娘、だが、何かが変だ。

「でも、結局、子供の躾は子供を管理することなんでしょ?」

「必ずしもそうだとは思わないわ。なぜ砂織はそう思うの?」

「ママはそうしている。違う?」

「一日中、ママが砂織のことを監視している?」

「勿論、いつも近くにいて監視しているなんて言わないけど、行動のすべてを見張って

いるのは事実でしょ」

 砂織はセンサーのことに気がついたのだろうか? もし、気がついていたら、不用意

にベッドに長時間いるはずがない。

「親の、ネットワークはあるわ。子供が危険なところに近づいたらお互いに知らせる。

それは親として当然だと思わない」

「それだけならね・・・」

「それ以上に、どんなことが出来るの?」

「消去法を使えば、それだけでは説明つかない事実が分かるわ」

「例えば?」

「それは、まだ言えないけど、いずれわかるわ」

 それまで黙っていた父親が口を挟んだ。

「子供が反乱をおこし、戦争状態になって多くの若者が死んだ。その後を追うようにエ

イズが蔓延し、幼い子供の命まで奪った。生き残った僅かな子供を必死で育てた。子供

を失い、子供を奪う親もいた。そう言う時代を私たちは見て育った。パパやママは、少

し神経質に子供を管理しているかも知れない。砂織に取っては、それが煩わしいと感じ

られるかも知れない、しかし、まだ油断は出来ない。理解してほしい」

「ママは、私と同じ頃、同じように管理されていた?」

「とても、同じとは言えないわね。あなたと同じ年頃の頃は戦争状態でしたからね。時

代も環境もまるでちがうわ」

「パパの言うこともママの言うことも理解できるけど、子供の頃に放任されていたとい

う事実は変わらないはずよ。それでも、大人として、親として立派に育ったと思うの。

管理するとかしないの問題ではないと言うことだわ」

「放任されていたなどと言うことはないね。男の子は父親から、女の子は母親から管理

されていたと思うよ」

「そうね、でもアナログ的な管理だわ。私のは、デジタル。これ以上議論しても仕方な

いわね。ごちそうさま、部屋に戻るわ」

 砂織は自分の食器を下げると、さっさと二回の部屋に引き上げてしまった。

「今日の君は我慢強かったね」

「夕方から、続いているの。砂織はまるでお仕置きされたがっているみたいよ。けんか

腰で突っかかって来るんですもの」

「でも、お仕置きはしなかったんだね」

「ええ、お仕置きして黙らせることは出来るけど、砂織は何かを爆発させたいのよ。そ

れが何だか知りたいの」

「センサーのことは気がついたらしいな」

「ええ、多分。ただ、その精度までは気がついてないわ」

「何か思い当たるんだね」

「ええ、それが大変なの・・・」

 耀子は夫に自分の推理を話した。

「多分、間違いないと思うわ。どうしましょう」

「君は何歳だった?」

「何が?」

「つまり、マスターベーションを覚えた年齢だよ」

「そ、そんなこと・・・」

「まさか、私と結婚するまで処女だったなんて言うんじゃないだろうね」

「ひどいわ! 知っているくせに」

「でも、思い出してほしい。私は、13歳の時には知っていた」

「・・・あれは、14歳の時だわ・・・」

「砂織は15歳、何の不思議もない。ただ、純ちゃんとはねぇ」

「レスビアンの関係ではないと思うんです。少なくとも今は・・・」

「そうあってほしい、まだ、地球には子供が足りないのだから・・・」

「私が怒り始めたら、話がそこまで進んでしまいそうなんです。だから、砂織の暴言に

も耐えていたんです」

「たしかに、お尻を叩いて済ませることではなさそうだね」

「試してみましょうか? オネショ」

「オネショ? ああ、あれ・・・」

「意外と効果があるかも知れないわ。恥ずかしいでしょうね・・・」

「ふむ、この際仕方がないかな・・・」

「少なくとも、時間稼ぎにはなるわ」

 耀子はもう決めているようだった。 


13 15歳のオネショ

 その夜、砂織の部屋に爽やかな空気が送り込まれた。砂織はグッスリと眠り込んだ。

 早朝、セットされたタイマーが起動した。砂織の腰部が気持ちよく暖められ、センサ

ーから直接、膀胱に刺激が与えられた。括約筋が弛緩しお小水が漏れだした。

「砂織、砂織、もうこんな時間なのよ。起きなさい!」

 母親の声で、砂織は目を覚ました。手を伸ばして、スピーカーの声を消した。

「ふぁああ、気持ちよく寝て他のに・・・!?・・・!!!!なに、これ・・・」

 砂織は飛び上がった。パジャマもシーツもグショグショだった。

 まだ、頭の中が混乱している内に、ドアにノックの音がして、返事もしないのに母親

が入ってきた。

「やだ! ママ入らないで!」

「何言ってるの。何時だと思っているの。なあに、この臭い?」

 砂織は布団を被ってしまったが、すぐに引きはがされた。

「砂織ちゃん・・・まさか・・・オネショ」

「違うわよ、知らないけど朝になったら濡れていただけよ」

「嫌だ、臭いわ。パジャマも濡れているじゃないの! オネショですよ」

砂織はベッドから引き出され、部屋の外に出されてしまった。

「やだ、お願い、パパに見られたら恥ずかしいからぁ」

「当たり前でしょ! 15歳にもなってオネショするなんて、そこに立っていなさい!


「やだぁ、ごめんなさい、立たせないでぇ〜」

 父親がタイミング良く部屋から出てきた。

「何を騒いでいるんだ。騒々しい」

「ああ、ごめんなさい。あなた、砂織が粗相したんですよ」

「粗相した? えっ? オネショ・・・」

 砂織は顔を隠して立ちすくんでいた。

「15歳の砂織がオネショだって!」

 父親も精いっぱい芝居していた。

「さすがに15歳のオネショは臭うな。もういいから、シャワーで体を洗いなさい。シャ

ワーから出たら、少しお仕置きしてもらうんだな」

 砂織は小さくなって、コソコソと自分の部屋に引き上げた。両親は顔を見合わせ、声

を押し殺して笑っていた。

「大分効いたようだな」

「まるで小さな子供みたいにオロオロしているんですよ。ふふふ」

「教育センターへは行かなくても良いんだろ」

「ええ、先に進んでいますから二三日休んでも・・・」

「濡らした布団は自分で始末させなさい。良い薬だ」

「ふふふ、経験ありね」

「君だってあるだろ。私は8歳の時」

「そうね、干してあるシーツの前に立たされたわ。でも、6歳よ!」

「ははは、それも辛いな」

 午前中、砂織は洗濯に追われた。洗濯機が使えないのでシャワールームで洗ったのだ。
仕事が終われば、お仕置きが待っている。

 朝から何も食べていない砂織のお腹はさっきから、グウグウ鳴っている。お昼も近い

けど、お仕置きが済むまでは何も食べさせてはくれないだろう。食べた直後にお仕置き

すれば、子供はもどしてしまうからだ。

 砂織は溜息をつきながら、ドライヤーの前で乾くのを待っていた。

 何で、こんな事になったんだろう・・・昨日の夜が、いつもと変わっていたわけでは

ない。そう、夢を見ていたわ・・・

 草原に花が咲き乱れていた。トイレも隠れるところもなかった。

 歩いていたら、小さな茂みがあった。体を隠すのに丁度良い大きさだった。砂織は安

心してそこで小用を足したのだ。お花畑で、気持ちよく・・・

「あああ、莫迦みたい・・・」

「まだ終わらないの!」

 突然、母親がやってきて、砂織は飛び上がった。

「あと2分で乾きます・・・」

 母親は不機嫌そうに部屋の中を歩き回っていた。

「なんとか臭いは消えたようね。砂織、原因は何なの。正直におっしゃい!」

「原因? そう言われても、わかんない」

「とぼけないでね。いいこと、砂織はもう15歳なのよ。そりゃあ世間には、病気でお気

の毒な人もいますよ、でも、砂織は違う。オネショなんて、7歳か8歳が最後だったわ。

それ以来、一度だってオネショなんてしなかった。そうね」

「ええ、絶対にしたこと無いわ」

「でも、今日は粗相した。なぜ? 脳と筋肉のメカニズムは想像以上に優秀なのよ。た

とえ夢を見たって、大人がオネショすることはないの。砂織は子供と言っても、オネシ

ョに関しては大人と同じだと思うの。違う?」

「そ、そうだと思うけど・・・」

「でも、失敗した。それには原因があるはずよ。昨日の夜、寝る前に何か飲まなかった

かしら?」

 ピーと音がして、砂織はドライチューブの扉を開けた。シーツが乾燥して出てきた。

「ベッドに広げてごらん」

 母親に言われて、砂織はまだ温かいシーツをベッドに広げた。真っ白に見えたシーツ

だったが、良く見ると、うっすらと黄色い染みになっていた。

「やっぱり、漂白剤使わないと無理ね。大きな地図がわかるわ」

「洗いなおします・・・」

「良いわ、このままにしておきなさい。見る度に反省するでしょうからね」

 母親は、そのままベッドメイクさせた。

「砂織、まだ質問に答えていませんよ」

「えっ、ああ、昨日の夜・・・食事のあとは、ミルクティーだけだわ。それ以外はなに

も飲んでいません」

「メカニズムが故障するには、それなりの原因があるはずよ。たとえば、お酒・・・」

「そんな! 砂織、絶対にお酒なんて飲んでいません!」

「薬? まさか、そんなもの持っていないでしょうね!」

「も、持っていません・・・」

 母親に睨まれるとなぜかうろたえてしまう。薬が二錠、無造作に引き出しにしまって

あった。そんなに強い薬ではないが、母親が見たら決して喜ばないたぐいの薬だった。

 砂織はいつの間にか下を向いていた。

「砂織! ママに机の中を全部調べさせたいの! 出しなさい!」

 大声で怒鳴られると、砂織は夢遊病者のように机の引き出しを開け、薬を母親の前に

出した。

「やっぱりこんなものを飲んだのね!」

「飲んでいません! 本当に昨日の夜は飲まなかったの」

 自分でそう言いながら、絶対に信じてはくれないと思っていた。

「ああそう、強情を張りたければ勝手になさい。この薬はどこで買ったの?」

「・・・・・・」

「ああそう、それも言えないのね。お仕置きはこれからなのよ」

 薬は、純に貰ったのだ。純は、引っ越したお姉さんに貰ったらしい。5錠あって、1錠

自分で試してから砂織と半分にしたのだ。

 貰ったものの、砂織はまだ試していなかった。

 いきなり砂織のお尻に衝撃が走った。下を向いていて気が付かなかったのだ。

 母親の手には、いつの間にかお仕置きのリモコンが握られていた。

「悪いお尻を出して、椅子に手を付きなさい!」

 抵抗しても始まらない、砂織は大急ぎで言われたとおりにした。

 何も言わずに、お仕置きが始まった。パドル打ちだったが、ものすごく痛かった。

 母親は、最初から「強」に目盛りを合わせている。強烈な六打が打ち込まれ、砂織は

飛び上がった。

「あっ、あっ、あぁぁぁ〜ママァお願い、やめてぇ〜」

「あの薬は誰に貰ったの?」

 お尻が痛くて、頭が混乱していたが、それでも、母親の訊き方は不自然だった。

 どこで手に入れたかではなくて、誰に貰ったかと訊いた。変だ?

 母親は、すでに純から貰ったことを察知しているようだった。

「まだ言えないの!」

 言葉とパドルが同時だった。三発叩かれて砂織は白状した。お尻がズキズキしている。

「やっぱり純ちゃんだったのね。でも、純ちゃんはどこで手に入れたの?」

 どうせ、何もかも知っているに違いない、砂織は引っ越しをしたお姉さんのことも話

してしまった。

「ふうん、あとで純ちゃんのお母さんに確認しますからね」

 それは当然考えられたことだが、その時に、自分のオネショのことまで純に知られて

しまいそうな気がした。

「お願いママ、オネショのことは話さないで」

「恥ずかしいのは、あなただけじゃないのよ! 15歳の娘がオネショしましたなんて、

ママだって恥ずかしくて言えないわ!」

 小言を言う合間に、パドルでお尻を叩いた。ものすごく痛い。

 母親は、最初の6打だけ最強にして、すぐに「中」に目盛りを下げたのだが、痛めつ

けられたお尻には、それも強く感じられたのだ。

「まだ、薬を飲まないと言い張るつもりなの!」

 砂織にしても、薬を飲んだと言う因果関係があれば気が楽なのだ。何でもないのにオ

ネショしたのでは、あまりにも恥ずかしい。

「ごめんなさ〜い、飲みました! ああん、ごめんなさい」

 母親は、オネショの原因を知っている。砂織が本当のことを言っているのかどうか、

内心、疑っていた。

 昨日の夜、換気口から砂織の部屋に流し込んだガスは、安全が確認されているものだ

が、だからといって、妙な薬と併用したときの副作用までは確認されていない。

 母親にしてみれば、それが一番気がかりだったのだ。いずれにせよ、親にナイショで

薬を飲んだことに無性に腹が立った。

「ママが、あれほど砂織の健康に気を使っているのに・・・」

 感情が高ぶって、母親の声が涙声になっていた。

 母親を、完全に怒らせてしまった。砂織は目をつぶった。

 カチカチとリモコンの目盛りを操作する音が聞こえた。鞭を替えたのか・・・

 母親の足音が遠ざかる・・・? 引き出しを開ける音。戻ってくる足音。

「椅子に膝をのせなさい」

 砂織が椅子に膝をのせると、母親は引き出しから持ち出した紐で、砂織の手を縛ろう

とした。

「ママァ・・・どうして・・・?」

「今日はたっぷり懲らしめますからね。砂織は我慢できないでしょ」

「やだぁ〜、もう絶対にしないって約束しますから。お願い、お仕置きしないで!」

「悪い薬飲んで、オネショして、お仕置きなしで済むとは思っていないでしょ」

「ああん、恐いよぉ」

 母親は、砂織の足も縛り付けてしまった。嫌でもお尻は後ろに突き出していた。

 母親が、一歩下がって身構えた。

「ああん、やめてぇ〜!」

 ピシッ! という音で、砂織の悲鳴が消えた。乗馬鞭だった。砂織は息を詰まらせて

あえいだ。お尻の肉が千切れるような痛さだった。普通なら、血が出るかもしれない。

しかし、砂織のお尻は、スキンガードで保護されていた。

 母親は、無造作にボタンを押したが、プログラムが二度と同じ場所は叩かないように

セットされていた。

 砂織は大声で泣きわめき、椅子の上で暴れた。椅子が、ゴトゴトと音を立てて揺れた。


 母親は、ボタンを押し続けたが、突然、ピッ、ピッ、ピッ、と警告音が鳴った。

 リモコンに文字が表示されている。

 [あと12打でリミットです]

 母親は、6打追加してスイッチを切った。リミットに達すると、乗馬鞭の場合48時間

使用不可能になる。

 今止めても、12時間は6打追加できるだけなのだ。それでも、「弱」のパドル打ちな

らまだかなり使用出来るはずだ。

 母親は、スキンガードを引き下げ、砂織のお尻を点検した。赤紫に腫れ上がったお尻

は指が触れても痛むらしい。砂織は、ヒイヒイと悲鳴を上げた。

 喉がカラカラだった。水と栄養ドリンクが与えられたが食事はさせてもらえなかった



砂織はお腹を空かせたまま、ベッドにうつぶせに寝ていた。お尻が二倍に膨らんだよう

に感じられた。ズキズキと痛み、眠るどころではなかった。

 母親の部屋のテレビ電話に、純の母親の顔が映っていた。

「何とお詫びしたらいいか、いいえ、純が悪いに決まっています。引っ越した娘の住所

は知っております。さっそく、確認いたします・・・」

 電話を切って、溜息をついた。これで、純の運命も決まった。今日、家に帰ってくれ

ば待ちかまえていた母親から、たっぷりとお仕置きされるのだ。

 それまでには、まだ、しばらく時間がある。純の母親は、自分自身の憤りを、そのま

ま引っ越していった娘の母親にぶつけていた。

「決していい加減な言い逃れではないと思いますよ。二人の娘の口から聞いたんですか

らね。それも鞭を使ったんですよ。あんなに・・・信用していたのに・・・」

 相手の母親も、薬の入手経路は気になるらしく、必ず、娘を問いただして返事をする

と約束した。

 あの子はたしか・・・純とは4歳違いだから19歳・・・大きなお尻をたっぷりと鞭で

懲らしめてやるといいんだわ。

 砂織は、二日目の夜になって、やっと椅子に座ることが出来た。

 もう一日、休みたかったが朝になると母親が起こしに来て、当たり前のような顔をし

て家を出されてしまった。

 歩くと、まだお尻が痛かった。

 教育センターの前に、青い顔をした純が立っていた。

「今日も休むのかと思ったわ」

「追い出されてきたのよ、純も・・・」

「やられたわ、薬だからね。もうメチャクチャお仕置きされたよ」

「ごめんね」

「何もかも話してしまうんだから・・・引っ越ししたお姉さんのことまで・・・」

「入手経路を追求されて・・・乗馬鞭なんだもの・・・ごめんね」

「仕方ないわね。でも、そのきっかけって何? よほどのことがあったんでしょうね」

「・・・」

「ふうん、話してくれないの?」

 砂織は下を向いてしまった。いくら純でも、オネショの話しは出来ない。

 純は、何も言わずに砂織から離れていった。

 椅子に座っていると、猛烈にお尻が痛くなった。砂織は二時間で逃げ出したが、純は

出てこなかった。

 昼休みになって、純はようやくロビーに出てきた。

「痛くないの? よく我慢できるわね」

「泣きたいくらい痛いよ。でも、朝、カードをチェックされて、最低四時間埋めてこな

ければもう一度お仕置きされるのよ。あと一時間、我慢するしかないの! お嬢様とは

違いますからね」

 純はそれだけ言うと、さっさと食事に行ってしまった。砂織は悲しくなった。



つづく