16 告白

 純は木陰のベンチを選んで腰をかけた。
「ああ、佐織は座れないね。歩きながら話そうか」
 純は立ち上がって、細い散歩道の方にゆっくり歩いていった。
「今日、アンジェラから桂採花のことを聞いたわ」
「ふふふ知ってる。超美人の採花ちゃんだけに気の毒だけど、あれ以来、生意気な態度が少し改まったみたい」
「そんな話、他に聞かない?」
「聞くも聞かないも、この目で見たわ」
「えっ! いつ、どこで!」
「そんなことより肝心な話はどうしたの」
「お願い、純。重要なことなの、その話を聞かせて」
「別に、どうってことないけど、二週間くらい前に教室で深町茉莉が粗相したの。遅刻の常習犯で、あの時も遅れてきた。いつだって、先生が実験の指導に気を取られているときに、コッソリ教室に入るでしょ」
「タイミングが抜群だわ。100%の成功率だったのに、失敗した?」
「あの時も、成功間違い無しだったけど、教室に入ったとたんに前を押さえて屈み込んじゃったのよ」
「前を・・・押さえて・・・」
「床はビショビショ、化学実験は中止、先生はカンカン、茉莉はスカートまくって、濡れたパンティーをみんなに見せながら、黒板の横に立たされたのよ」
「本当に! そんなの・・・ひどい・・・」
「かなり危険で、デリケートな実験だったからね、先生も気が立っていたことは確かだわ。遅刻常習犯だってことも知っているし、良いお仕置きだと思ったんでしょ」
「・・・メグの話、聞いた?」
「どっちのメグ?」
「ああ、マルガレータの方よ、門限破りで窓から自分の部屋に侵入しようとしたとき、窓枠に足をかけて力を入れたときに、お漏らししたんだって」
「ははは、本当なの! それで、お母さんに見つかったってわけね。あの子も門限破りの常習犯だからね」
「純! 変だと思わない? なんで、なんでこんなことが連続して起こるの? それも、この二ヶ月くらいに集中しているのよ」
「そう言えば変ね、でも、これと佐織の話とどういう関係があるの?」
 純は、こんな話では誤魔化されないぞ、という顔で佐織を睨んだ。
「・・・・・・」
「そう、やっぱり話せないのね。あの時、どんなお仕置きをされたか、佐織には分かっていないのよ! リモコンが24時間使用不能になるまでやられたんだよ! 理由を聞くまでは絶対に赦さないからね。話してくれないのなら私、帰るわ」
 純は佐織に背を向けて、散歩道を引き返そうとした。
「待って! 話すわ・・・」
 純は振り向いて、佐織の言葉を待った。
「実は・・・あの日・・・朝起きたらベッドが濡れていたの・・・」
「・・・? なんなの? それってどういう意味? 分かるように話してよ」
「私・・・オネショしたの・・・」
 佐織は顔を真っ赤に染め下を向いてしまった。
 純は、しばらく黙っていた。言葉の意味を理解しようとして居るかのように、そこに立ちつくしていた。
「つまり、佐織がマジでオネショしたってこと? 子供みたいに・・・」
 純は信じられないというように頭を傾げた。
「自分でも信じられないけど、何のトリックもない。少なくとも、パパやママが水をかけたりしたんじゃない。最初は疑ったけどね・・・」
「それが、そもそもの事件の発端・・・?」
「15歳にもなってオネショすれば、当然、お仕置きでしょ、でもママは、何か原因があるはずだって言うの」
「原因?」
「私も最初分からなかった。でも、ママが言うには、15歳になったら体のメカニズムがオネショ出来ないようになっているはずだって言うの。それなのに粗相したわけでしょ、その原因があるって言うのよ。例えば、お酒」
「ああ、そう言うことか、で、飲んだの?」
 佐織は激しく首を横に振った。
「絶対、誓って、お酒なんか飲んでない」
「ああ、それであの薬ね」
「そう、ママは飲んだと決めつけた。でも、私は飲んでいない。引き出しに二錠、そのまま残っていた」
「だったら、なぜ・・・」
「ママは、ものすごく怒って、乗馬鞭を使ったわ。ごめんなさい、薬を飲みましたと言った方が楽だった。本当に、飲んでいたら良かったのに・・・」
「そして、薬の入手経路を追求された、ってわけね」
「ごめんなさい、佐織、意気地がないから、あれ以上のお仕置きに耐えられなかったの、ごめんね」
「もう済んだことよ。お互い、親が一番いやがることをしたんだから仕方ないさ。でも、変ね。佐織は薬を飲んでいなかった・・・」
「そのことは、自分が一番良く知っているわ。だから、なおさら恥ずかしくて、純にも言えなかった」
「うん、分かる。そうか、そう言うことだったんだね。多分、反対の立場でも言えなかっただろうな・・・」
「佐織のこと、赦してくれる?」
「話してくれたからね。ありがとう」
 木漏れ日の差す散歩道で、純は佐織の体を抱いた。
「ふふ、シャワー使わなかったから汗臭いよ」
「ほんとだ、犬みたいな臭いがするぞ」
 純はそう言いながら佐織の頭を指で掻いた。佐織の髪はクシャクシャになったが、佐織は笑っていた。
 久しぶりに声を上げて純と笑っていた。
「で、佐織ちゃんとしては、自分のオネショを正当化する理由を考えたんだ」
「確かに、凄く悩んだよ。そして、最近のお漏らし事件。これって異常事態だよ。いくらなんでも多すぎると思わない?」
「考えられる理由は、訓育用の下着・・・?」
「オプションで機能が追加されているらしいのよ」
「広告には出てこない?」
「そう言う情報は、直接、ユーザーに送られるからね」
「でも、お仕置きパンツで、どうやればオネショさせられるの? 佐織の気持ちも分かるけど、ちょっと無理じゃないかなぁ」
「ううん、絶対になにかある。必ずあるはずよ」
「と言うことは、佐織は自分の母親を疑っている・・・」
「・・・そう、そうなるわね」
「もし、それが事実だったら、赦せる?」
「ふうう、その直前の私の態度、最悪だったからね。それを、鞭を使わずに矯正した、その手段だとしたら・・・悔しいけど、認めるしかない」
「そう言えば、お漏らしした子達、最近態度が悪かった。それが、お漏らし事件のあとは借りてきた猫みたい」
「それが、親が期待している効果なのかなぁ」
「今晩、ネットで情報集めるよ。もし、最近の技術なら、ここだけの問題ではないはずだからね。世界中で同じようなことが起こっている・・・」
「うん、私もやってみるわ。その前に、シャワーに入るわ。明日は、体が動きそうにないけど、明後日は必ず行くからね」
「それなら私も佐織に合わせて明日は休養日にするわ」
 お互いに別の方向に歩き始めてすぐ、純が大きな声で佐織を呼んだ。
「なあに、大きな声で・・・」
「重要なこと忘れていたよ。薬をくれたお姉さん、矯正施設に入所させられたんだって」
「えっ、何かしたの?」
「ううん、親が委託したらしい」
「何ヶ月?」
「一年だって」
「一年も! あのことが原因?」
「きっかけはそうだけど、部屋の中に怪しげな薬や、ほかに変なものがあったらしいの。何があったか私には教えてくれないんだけど、要するに、Pゾーンで売っているようなものらしいわ」
「ふうん、でも気の毒ね・・・」
「もう、19歳だもんね、辛いだろうな・・・」
「ママは知っているのかな?」
「当然、報告はしていると思うわ。さて、遅くなると怖いからな最近」
 純はそう言って手を振って家路を急いだ。
 
 佐織の家は誰も居なかった。ロックを解除して、自分の部屋まではいるとコンピューターに赤ランプが点滅していた。
 メッセージが届いているのだ。佐織は指紋を照合しコンピューターを立ち上げるとメッセージを開いた。母親からだった。
***パパの仕事の関係で、お客様と食事をすることになりました。急な話だったので、メモを残しました。
 帰りは、多分、十二時過ぎになるでしょう。
ママ***
 佐織は、ふっとため息をつき、コンピューターを消すと着ているものを脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。頭から熱い湯を浴びるとお尻がヒリヒリとした、温められた体を佐織は揉みほぐした、さほど痛みは感じないが、明日になれば筋肉が痛むことは承知していた。
 第2の皮膚のための洗浄液があった。一年中着たままの状態なので、月に二回くらい特別な洗浄液で洗う。同時にelegance3も洗浄、殺菌出来る。
 濡れた体のまま乾燥カプセルに入り、スイッチを入れる。温風が上から吹き込み、足の下に排気される。
 カプセルから出た佐織は、15歳の姿態を思い切り伸ばした。
 姿見の前でお尻を映してみる。お尻は赤紫に腫れ上がっていた。明日のことを考えて佐織は顔をしかめた。
 お気に入りの下着の入っている引き出しを開けたが、この家には自分しか居ないと気がついて、何も着ないことにした。
 佐織は、裸のままベッドに伏せた。大きな声で叫びたいほど気分が高揚していた。純との仲が修復されたことが嬉しかった。
 純は又、この家に遊びに来てくれるだろう。そして・・・
 佐織は、そっと下腹部の茂みに手を伸ばした。純と喧嘩してからは一度もこんな気分になったことはなかった。
 指が触れると体中電気が走った。指先が、少し濡れた。
「あぁ・・・純・・・」
 細い指先をほんの少し動かしただけで、佐織は体の芯を貫くような快感を味わうことが出来た。
 その指先が、かすかに異物を感じた。
 細めていた佐織の目が、パチッと見開かれた。バネ仕掛けの人形のように佐織はベッドの上で体を起こした。
 「センサー・・・」
 佐織の体に埋め込まれたセンサー、本来の目的は、常に親が子供の居場所を確認するためのものだが・・・
 埋め込まれた場所に佐織は注目した。それは、あまりにも尿道に近い。
 elegance3とセンサーの組み合わせで、オネショやお漏らしをさせることが出来るのではないか?
 佐織はベッドから飛び出るとコンピューターのスイッチを入れた。

17 Pゾーンの秘薬

 その頃、佐織の両親はPゾーンの中にいた。当然、お客との食事というのは単なる口実であった。
「Pゾーンで貴方と食事なんて何年ぶりかしら」
「最近はいつも佐織が一緒だからね」
「で、どこに行くの。ああ、分かった! フラミンゴでしょ」
「ははは、若い頃はあそこばかりだったね。でももう、あそこのエネルギッシュな食い物はちょっとなぁ、君は平気?」
「確かに、ギドギドだったわね。胃が受け付けないわ」
「品の良い中華料理の店を紹介されたんだ」
「そう、それなら、そこでいいわ」
 店の場所はすぐに分かった。賑やかな灯りの装飾が点滅する表通りから二本ほど中に入った通りにその店はあった。
 木立に囲まれ、見逃してしまいそうな入り口だった。
 中に入ると、カウンターの中に年輩の中国人が居た。
「いらっしゃいませ、予約をいただいておりましょうか?」
「いえ、予約はしていないのですが、この方の紹介で・・・」
 夫がネームカードを中国人に渡した。
「ああ、失礼いたしました。特別料理でおもてなしするようにと伝言をいただいております。ただいまお部屋にご案内いたします」
 多分、カウンターの陰に呼び鈴があるのだろう、待つ間もなく若い女性が現れた。古い時代の中国娘と同じ服装だった。純白の布にみごとな刺繍の施された中国服は、その若い娘の体には重く感じられるのではないかと思ったほどだ。
「特別料理ってどんなものなの?」
「さあ、私も知らないな。でも、信頼の置ける人だし、心配することはない。久しぶりだ、思い切り楽しめばいい」
「そうね、でもこの廊下長いのね・・・」
 長いだけでなく、廊下の灯りが少し暗くなった。3メートルほど前を歩く若い娘の体が、ボゥッと光を発したように思えた。
 ライティングのトリックなのだろうが、娘の体が透けて見えた。後ろを歩く二人は思わず顔を見合わせた。
「な、なにも着ていない見たい・・・」
 娘の背中、お尻、ふくらはぎから足首まで、何も着ていないように見えた。よく締まったウエストの下にクリクリと動くお尻が可愛かった。
「これがPゾーンさ」
 夫は妻の耳にそう囁いた。
 やがて、廊下も明るくなり案内された部屋にはいると、その娘の着ている衣装はシルクの布で豪華な刺繍で飾られていた。
 部屋にはすでにテーブルがセットされていた。落ち着いた豪華な部屋だった。娘が小さなボタンを押すと、壁の一部が音もなく開きバーカウンターが現れた。
「奇術のショーみたいね」
 耀子がクスクス笑っていた。
「お飲物は何に致しましょう」
「貴方は? 私、咽がカラカラなの・・・」
「冷たいシャンパンが冷えておりますが」
「そう、でも私はビールをいただくわ」
「うん、私もそれでいい」
 いくつかの銘柄が示され、あまりアルコールの強くないビールに決めた。
「お食事を始める前に、お手洗いをお借りしたいんですけど」
 耀子がそう言うと、娘は軽く会釈をし、先に立って案内した。
 隣の部屋は休憩室のようになっていた。ソファーと何脚かの椅子が用意されていた。その部屋の奥に化粧室があり、鏡台には女性客のための化粧品まで用意されていた。
 広々としたトイレにも鏡と椅子が用意されていた。滅多に来ることもないだろうと、耀子はその豪華な小部屋を観察した。そして、壁に小さなボタンを発見した。
 用を足してから耀子はそのボタンを押してみた。想像したとおり壁が開きクローゼットが現れた。その、両開きの扉を開いた耀子は、思わず両手で自分の口を塞いだ。
 瞬間、医療器具かとも考えたが、そんなはずはない、ここはPゾーンなのだ。耀子といえども、それがSEXを助長する遊び道具であることは十分に承知していた。十種類ほどの鞭も用意されていた。エネマの器具もあった。しかし、それが医療用でないことは一目瞭然だった。用意されているカテーテルは、信じられないほど太かったり、刺激を与えるための凹凸がつけられていた。
 扉の裏に紙が貼ってあった。
***ご自由にご使用下さい。ご使用になったものは、焼却シュートにお捨ていただきますようお願いいたします。***
「あらまぁ、それじゃあ勝手に持ち出す人が居るんじゃない?」
 耀子の疑問に答えるかのように、言葉は続いていた。
***お好みの品がございましたら、ご自由にお持ち帰り下さい。
当店よりのプレゼントとさせていただきます***
「ふう、気前の良いこと。つまり、お食事代に含まれているってわけね。いったい特別料理っていくらなの?」
 そうつぶやきながら、耀子は一本のカテーテルを手にして首を傾げていた。裏面に解説が書いてあった。
***これは浣腸用のカテーテルではありません。浣腸器で薬液を注入したあとでこのカテーテルを使用いたします。
 備え付けの小型シリンダーで空気を送り込むと、根本部分の風船が膨らみ、抜けなくなります。抜くときは備え付けの細いピンを差し込み左に回せば空気が抜け、取り外すことが出来ます。
これは、旧時代に使用されていたお仕置き用の器具です。生意気盛りのお嬢様の矯正に、あるいは身勝手な奥様にも使われたもので、現在でも、一部の矯正院では使用しております。SM遊びの小道具にお奨めいたします。***
「ふうう、そういうものなの・・・」
 耀子は佐織のことを考えた、浣腸と言っただけで涙ぐむほど佐織は浣腸が嫌いなのだ。もし、これでお仕置きしたら、あまりにも残酷だろうか?
 最近の佐織の生意気な態度を思い出し、耀子はそのカテーテルをバッグに忍ばせた。

「どこか具合でも悪いの?」
「いいえ、ごめんなさい、お化粧をなおしていたから・・・」
 そう言った耀子の鼻は油で光っていた。とてもお化粧を直した顔には見えなかった。
 すでに前菜が運ばれ、席に着いた耀子のグラスにビールが注がれた。
 さすがにご推薦の特別料理だけに、初めて味わうものばかりだった。
 スープを運んできた中年の女性はお給仕を若い娘に任せて料理の説明をしてくれた。
「正確には薬膳料理なのでございます。これから出て参りますお料理も、豚肉、牛肉と思われるかもしれませんが、すべて大豆の加工食品でございます。豚の脂身と思われるものが、実は寒天でございます。こう、ご説明いたしましても、多分、信じられないと思います」
 次々に運ばれる料理は、どう見ても肉としか思えなかった。味も歯触りも肉以外の何ものでもなかった。
「やっぱり、私も信じられないわ」
「これが大豆かねぇ」
 料理の説明は、その中に忍ばせた媚薬の味に気づかせないための精神的なトリックだった。
 少量ずつ運ばれる料理は、すでに十品を越えていた。十一品目はスープだった。何も入っていない澄まし汁だが、濃厚な味わい深いスープだった。
「これの作り方・・・ふふふ、訊いても無駄ね」
「まあね、材料が揃わないよ」
 中年の女性が微笑みながら言った。
「大きな木の根が大きなカメの水の中に沈めてあって、何十年もエキスを抽出しているのです。毎日、使った分だけ清水がつぎ足されます」
「なるほど、家庭では絶対に無理なんですね」
 スープを飲み終えた頃、耀子がソワソワしていた。
「ああ、どうしたのかしら、お食事の途中で、ごめんなさいお行儀が悪いわね」
 そう言って立ち上がった。
「ビールのせいだろう、二人だけなんだ気にすることはない」
 耀子が手洗いの方に立ち去ると、中年の女性が、囁いた。
「お薬の効果が出始めています」
「どんな薬なんですか、私も同じものを?」
「お薬はすべて生薬です、化学薬品は一切使用しておりません。女性と男性は使う薬が違います」
「スープのようなものは、どうやって・・・」
「あの娘が取り分ける小鉢に薬を入れるのです」
 ウオーマー付きのワゴンは皿、小鉢を温めるだけでなく、そういうトリックの小道具だったのだ。
「これからどうなるんですか?」
「お食事をしていただくだけです。でも、途中で何か予期せぬ出来事が起こったら、その流れにしたがってください、慌てずに・・・」
 耀子が戻ってきた、タイミング良く、次の料理が運ばれた。
 夫は、何かを期待していたが、料理は終わり、あとはデザートを残すのみであった。
「いかがでございましたか?」
「本当に初めて食べるものばかりでした。おいしかったわ」
 テーブルにお茶のセットが運ばれ、若い娘が熱いお茶をお給仕していた、横顔を見ても十七歳くらいにしか見えない。しかし、ここはPゾーンなのだ、そんな若い女の子が働ける場所ではない。
 急に耀子が叫んだ。
「熱い!」
 若い女が手元を狂わせて、耀子の太股にお茶をかけてしまったのだ。
「お水を!」
 中年の女性が命令し、若い娘が冷水のポットを出した。
「失礼します」
 そう言って耀子のスカートをまくり上げ、冷水を注いだ。
 やけどは、冷やすに限る。機敏な応急処置で事なきを得たが、耀子のスカートはビショビショだった。
「申し訳ございません、こちらでお休みください」
 隣の休憩室にガウンが用意され、耀子は着替えた。
「15分ほどでお洗濯できますから」
 耀子の服を持って二人の女は出ていった。
「大丈夫?」
 夫はソファーに腰をかけている耀子の横に座って、ガウンの裾をまくった。かすかに、ピンク色になっているが、痛みは無いという。
 下着姿のままガウンを羽織った耀子の体は、全身がピンク色に染まり、妖気を発しているかのようだった。
 夫が太股に指を走らせただけで、耀子は息を荒げた。
「駄目よ、ああ、誰か来るといけないから・・・」
 ドアがノックされ、慌ててガウンの裾が閉じられた。耀子は深呼吸をしてから、どうぞと応えた。
 ドアが開き、厳しい顔の中年女性が部屋に入ってきた。そして、ドアを半開きにしたまま、ドアの外に厳しい声をかけた。
「さあ、入りなさい!」
 給仕をしていた娘が、首をうなだれて部屋に入ってきた。
「お怪我はいかがでしょうか? 申し訳ございません」
「もう大丈夫です、あまり気になさらないで」
「それが・・・この娘が・・・気が動転しておりましたせいで、お召し物を洗濯槽に入れてしまったんです・・・」
「お、お水洗い!」
「重ね重ねの不注意で、申し訳ございません。今日、こちらにお泊まりいただくわけには参りませんでしょうか?」
「そう言われても、娘にも帰ると言ってきましたから」
 耀子はそう言いながら時計を見た、まだ、九時を回ったところである。
「三時間くらいなら・・・」
「それだけ時間をいただければ充分でございます。その間、しばらくご休憩ください。ご迷惑をおかけした上に、ご不快なこととは存じますが、当店では未熟な従業員の育成のために、粗相をした場合、ご迷惑をおかけしたお客様の前で罰を与える規則になっております。ご協力いただけますか?」
「そうね、大人の義務ですから協力はいたします。でも、その子、何歳?」

「実は、私の妹の娘で、甘やかされて育ってしまいました。20歳になってから慌てた親が矯正施設に入れようとする寸前に、ここに引き取りまして厳しく躾け直しているところで、もう、21歳になります」
「そう、ずいぶん若く見えるわ。可哀想だけど少しお仕置きしていただきなさい」
 耀子は母親の顔になってそう言った、夫は何気ない顔でショーの開始を待っていた。                        

つづく