聖女の行進 4

第4章 授業中のおしおき

[すわると尻が痛い]

 ピシッ! という音がすると、見る見る娘のお尻には赤いすじが走った。つづいて二回めの鞭が鳴ると、娘の尻の上で赤い線が交差した。三回めを打った時、娘のひざががくっと折れた。娘はすぐに元どおりの姿勢に戻ったが、ハミルトン先生は、左手で娘の腰をしっかりとかかえた。娘はからだ全体を小きざみにふるわせてはいたが、声もたてずにじっとこらえていた。四回、五回、六回と、続けて打ちおろされた鞭は、娘の尻の上で小気味のよい音をひびかせて、その美しかったお尻をまるで赤い毛糸をまき付けたゴムまりのようにしてしまった。

 ようやく許された娘は、起き上がると、自分で制服のすそをおろした。教壇に上る前の青い顔とは対照的に、顔をまっかに上気させ髪を乱し、目にはいっぱい涙をためていた。それなのにハミルトン先生は、午前中の授業の残り時蘭十分くらいの間、その娘が立っていたいと言ったにもかかわらず、席にすわることを命じたのだった。

 昼食の時、フランソワは、その娘の隣りにすわった。何か話をしたかったのだが、どうしても話しかけることができなかった。娘はたえずからだを動かしていた。

 きっとお尻が痛くてじっとすわっていられないんだわ−−フランソワはそう心の中で思った。そして、その気の毒な娘に話をするのをあきらめて、そっとほかの人を見回すと、自分の前にすわって食べている娘のなかにも何人かからだを動かしている生徒がいるのに気がついた。そしてそのなかには、自分と同じか、あるいは年上の生徒もまじっていた。フランソワはもう食事どころではなかった。

 そのうえその日は、反省会で先生の質間にトンチンカンな答えをして、手のひらを五回もたたかれたので、ますますゆううつになってしまった。話をする元気もなく部屋にいると、アデールがはいって来た。

「どお、少しはなれた……どうしたのそんな顔をして」

「ああアデール、きょう授業の時、ひとりの生徒がお尻を鞭で懲らしめられたので、フランソワはすっかりこわがってしまってね」

「そう、始めてじゃしかたないわね。フランソワが悪いんじゃないわ。お母様がちゃんと教えておいてくれればそんなにこわがらずにすんだのにね……あたしなんかここに来る前さんざおどかされて来たから、かえってなんでもなかったわ」

「そうね。でもこの人のお母様はお尻どころか手もたたいたことないんですもの……」

「そんなことないわ。あたしだって子供のころはたたかれたわ。お尻だって……でも、あたしたちもう子供じやないわ。完全におとなと同じよ、何もかも……」

「だめだめ、いくら強がったって、二十歳になるまでは、親の遺産だって自由にならないっていうのに、たとえ結婚したって同じことよ、子供ができるまでは夫に教育されるんだから」

「そうね、よほど優しい旦那様か、フランソワのお父様のように一年じゆうほとんど家にいない人なら別だけど」

「フランソワにもいずれわかるわ、どっちみちここに来たからには逃げられないんだからもうそろそろ覚悟を決めることね。あたしの勘だけど、ハミルトン先生のところにいるうちはだいじょうぶよ。でも、マーブル先生のところにいったらほんとうに覚悟をすることね」

 アデールは、そう言い残すと、部屋を出て行った。

[教壇に並んだ五つのお尻]

 一日の休みをはさんで、さらに三日が過ぎた。アデールの予言したとおり、ハミルトン先生のところではふたりには何も起こらなかった。しかし三日めにはじめて見たあの光景は、その後何度もふたりの目の前で行なわれた。一度などは、五人の生徒たちが休み時間にささいなことからいさかいを始め、その結果は、教壇の上にかわいらしいお尻がむき出しのまま五つ並べられた。そして鞭の音と娘たちの悲嶋が十五分も続いた。

 フランソワも、そんな光景にかなりなれたが、それでも自分のこととなると全く別だった。アデールが予言したとおり、ハミルトン先生には一度も罰を受けなかったが、その予言が正しければ、マーブル先生のところではよほど注意をしなければならない。あしたからはいよいよ中級クラスにはいるのだった。

 シスタ−・マーブルは、けっしていじわるな先生ではなかったが、ユーモアに乏しく、娘の教育に一生をささげるといったタイプだった。授業の内容はたいしてむずかしくはなかったが、そのやり方は、ハミルトン先生よりきちょうめんだった。そして、このクラスでも鞭は容赦なく娘たちの手やお尻に与えられた。このクラスの娘たちは、もうじゆうぶんに大きく、なかには、フランソワと同じくらいの背格好の娘もいた。

 五日ほどたったある日、午前中の授業の途中で、ひとりの使いが教室にはいって来た。そして院長がお呼びですと伝えた。マーブルは静かに待っているようにと言って外に出て行った。ひそひそ話が次第に大きくなり、ざわざわがやがやと声が大きくなって来た。フランソワはもう気が気でなかった。

「ねえルイーズ、止めてちょうだい、きっとクラスじゅうの人が罪を受けるわ。そうすれば、あたしたちもいっしょよ、早く止めましょう」

 そう言いながら、自分でも手近にいた娘たちに静かにするようにとふれて回った。しかし、生徒たちはいっこうに気にもせず、おしやべりを続けていた。そのうちの何人かが入り口のほうを指でさして、フランソワに何か話しかけた。フランソワは、席に戻るとルイーズに、

「ほら、あそこにいる生徒、あの人が見張りをしているんですって……」

 しばらくは小さな声でルイーズと話をしていたが、次第に安心すると、ほかの生徒と同じようにおしやべりをはじめた。話しはじめると、いくらでも話すことはあった。しばらくの間は夢中になっておしやべりが続いた。その最高潮に達したと思われた時、庭に面した入り口のほうでぱん、ぱんと手が鳴った。

 とたんに教室の中は静けさをとり戻した。そしておそるおそる後ろをふり向くと、そこにはマーブル先生が立っていた。きょうに限って庭を回って来たのだった。そして無言のまま教室の中を通りぬけて教壇の上に立った。その顔は悲しそうだった。「皆さん、皆さんのしたことはわかっていますね、誰か、あたしだけはちがうと言える人はいませんか、正直に言ってくたさい」

 フランソワといえども、この時ばかりは立ち上がることができなかった。

「よろしい、全員が自分の罪を認めるのですね。では、あなたがた全員に罰をあげましょう。しかし、そのためにたいせつな授業の時間をつぶしてしまうのですよ、全員に罰をあげるにはたいへん時間がかかるのですから。このようなことが二度とないように、たっぷりと懲らしめなくてはならないでしょうね」

 フランソワは、目の前がまっ暗になるような気がした。どんなふうにされるのだろう、あたしは何番目めに打たれるのかしら。

[最初は手のひらを]

 教室の中は、左から五人ずつ四列に並んでいた。いちばん右の列だけが四人だったのでクラスは全部で十九人の生徒がいた。ルイーズは二列めの最後尾に、そしてフランソワは三列めの最後尾にいた。

 マーブル先生は今、鞭のケースの前で、これから使おうとする鞭を選んでいた。生徒たちの目は、先生の手がどの鞭を選ぶか、みんな真剣に見つめていた。

 マーブル先生の手がす−っと伸びて取り上げた鞭は、一フィートくらいの丸い木の柄の先に、細幅の皮ひもが二枚付いているものだった。

 教室の中には、ああやっぱり、といったふうのため息がもれた。そしていつも使っている枝鞭といっしょに机の上に並べると、メーブル先生は次のように命令した。

「さあ、こちら側の列から、順に前に出なさい」

 言われるとすぐに五人の生徒が前に出て行った。台の上にあがるとまず前を向いて立たせた。そして左端から順に両手を前に出させた。ひとりが五回ずつ打たれた。しかしその打ち方はいままで見たどの打ち方よりもきびしかったので、このような罰にはじゅうぶん慣れているはずの生徒たちも、一打されるごとに「うっ」と思わず叫んだ。痛さに顔をゆがめている娘たちを見ているだけで、フランソワはわきの下に汗をかいた。五人全部が手のひらを打たれると、マーブル先生はその生徒たちにイスを持って来るように言った。

 たったいま打たれたばかりの手に重いイスを運ばせるのだった。台の上に五つのイスが並ぶと、こんどはからだの後ろを懲らしめられるのだった。イスの後ろに立って、背中を教室のほうへ向けると、イスの背もたれごしにからだを曲げて、腰をかけるところに頭を付けると、そのポーズはお尻打ちには最適のものになった。

「さあ自分ですそを上げなさい」

 言われたとおりに娘たちは、自分の手で自分の制服のすそをまくり上げ、お尻をむき出しにしていった。みごとに発育した五つのお尻は、それぞれに特徴があった。そのうち、ふたりの娘のお尻には、まだはっきりと鞭の跡が残っていた。そしてそのなかにひとりだけ、例の黒いドロワースをはいた娘がいた。

 今度は、柄の付いた皮鞭を取り上げると、再び左端の生徒からたたきはじめた。そしてその鞭は、娘たちに大きな悲鳴をあげさせ、お尻をまっかにふくれ上がらせるのにじゅうぶんな力があった。

 ひとり五回ずつではあったが、今までの鞭とはだいぶ違うようだった。マーブル先生もハミルトン先生と同じように、黒いドロワースの生徒には鞭を当てなかったが、あとで実行すると付け加えるのを忘れはしなかった。

 そしてマーブル先生は、全員のおしおきが終わるまでみんなをそのままの格好にしておいたので、初めに打たれた娘のお尻が、赤い色から次第に紫色に変わっていくのがよくわかった。

 最初の列のおしおきが終わった時、まっすぐに立っているのは黒いドロワースをはいていた娘だけだった。ほかの四人は腰をよじり、からだをふるわせてこらえていた。

「先生の言いつけを守らない生徒がどんなふうにされるか、よくわかりましたね。あなたがたのお友だちの恥ずかしい格好をよく見ておきなさい。そうすれば二度と同じあやまちを犯さないでしょうからね。さあもういいでしょう、制服を元どおりにして席に戻りなさい。イスを持って行くのですよ」

 ようやく許された娘たちは、制服のすそをおろし、ふらつくからだに重いイスを持って戻って行った。

「次の列、前へ出なさい」

 二列めの五人のなかには、ルイーズもはいっていた。心配そうなフランソワの顔に、ルイーズはわざと平気な顔でウインクをして見せたが、その顔は青ざめていた。

[悪いお尻を出しなさい]

 最初の五人と同じように、はじめは手をたたかれた。そしてイスを取りに席に戻ったルイーズの手は、まっかにはれ上がっているように見えた。

 ルイーズは、くちびるをかみしめて、ようやく涙をこらえていた。再び五人が台の上で背中を向けて並ぶと、号令で尻打ちの姿勢をとった。

 フランソワのところから見ると、制服の黒い小山が五つ、こんもりと盛り上がっているように見えた。

「さあ悪いお尻を出しなさい」

 四人の娘がすっかりまくり上げてしまった時、ルイーズはまだ太もものところまで持ち上げた制服のすそを、それ以上持ち上げることをためらっていた。

「ルイーズ、早くしなさい」

 そう言いながら先生が近づいて来たが、ルイ−ズの手は、どうしてもそれ以上、自分の手ですそをまくり上げることができなかった。

 ルイーズのところまで近づくと、マーブル先生は何も言わずに、制服のすそを一気に背中までまくり上げてしまった。教室の中で一瞬「おお」という感嘆の声が流れた。中級クラスの中でルイーズのからたはひときわ大きく、そのお尻はつやつやと輝いているようだった。

 先生は命令をすなおにきかなかった罰に、ルイーズの腰をかかえて平手打ちを二つ加えた。そして皮鞭に持ちかえると、五人の娘たちに悲鳴をあげさせた。

 すっかり打ち終わったあと二分くらいそのままの姿勢で放置しておくのも前と同じだった。

[近づく悲鳴と鞭音]

 ルイーズが自分の席に戻ると、いよいよその次はフランソワたちの番だった。フランソワはひざががくがくふるえ、立ち上がることもできなかった。マーブル先生は、フランソワのところまで来ると、いきなりフランソワの耳たぶをつまみ上げ、引きずるようにして台の上に立たせた。

 手のひらを打たれたあと、フランソワはまるで夢遊病者のようにふらふらと自分の席にイスを取りに戻った。ルイーズと目が合うとフランソワは急に正気をとり戻したように顔をまっかに上気させ、イスを持って台の上へ戻った。

 すっかりあきらめたような顔をしていたフランソワも、やはり自分で制服のすそを持ち上げることはできなかった。マーブル先生が近づいて来るとフランソワは起き上がって、

「先生、許して、お願い」

「いけません、言うことを聞かないと数をふやしますよ。ほかの生徒にからだを押えていてもらいたいの。さあ、どっちにします」

そう言いながらフランソワの頭をつかむとイスのところに押えつけそして、あっという間に制服のスソをまくり上げてしまった。

 フランソワは「きやっ」と悲鳴をあげたがもうあとの祭りだった。クラスじゅうの者がフランソワの形のよいお尻を見てしまった。

 フランソワは、必死にイスの座板のところを手でつかんでいた。その手をはなせば、かってに制服のすそをおろしてしまうだろう。フランソワはそうしたいのを必死にこらえているのだった。

 娘たちの悲鳴と鞭の音がだんだん近づいて来た。そして今、隣の娘が打たれはじめた。三フィートと離れていないところで、娘の苦しそうな声が聞こえた。そして、ピシッ! ピシッ! という音は、まるで自分が打たれているようだった。

 ついにマーブル先生は、自分のわきに立った。いやだ、打たれたくない、そう思って立ち上がろうとした時、マーブル先生の手ががっしりとフランソワの腰をかかえた。もう逃げられない! そう思った時、最初の一打がフランソワの尻の上で鳴った。からだじゅうに痛みが走った。二回、三回、フランソワは泣き叫び、足をばたばたとけり上げた。四回、五回めの鞭打ちが終わった時も、フランソワはまだあばれていた。

 ほかの四人が席に戻された時、フランソワは、すなおでなかったということで、ひとりだけ教壇の上の自分のイスにすわらせられた。両手をひざの上に置くように言われて、フランソワはからだ全体の重みが、今たたかれたところを痛めつけているように思われた。

 やがて、最後の四人も呼び出され、罰を受けた。フランソワは、こんどは声だけでなく自分のすぐそばにかわいらしい娘の尻があった。子供っぽいその娘のお尻は、マーブル先生の打ちおろす鞭が当たるたびに小きざみに尻の肉をけいれんさせていた。

 クラス全部のおしおきが終わると、マーブル先生は、何事もなかったように授業を始めた。教室の中には、すすり泣きとからだをもじもじとよじる姿が見られた。

[今までは序の口]

 フランソワがはじめておしおきをされてからというものは、回りの人たち、とくに先生がたの態度が変わったように思われた。今までより、教室の中や食堂で罰を受ける人が多くなった。アデールの話によれば、ふたりが来てくれたおかげで、しばらく静かな生活ができたが、またそろそろ元のとおりになって来たわ、そう言って笑った。

 そしてきょうは久しぶりに誰ひとりたたかれずにすんだと思っていたのに、先日のおしおきの時ひとりだけ黒いドロワースを着ていた娘が呼び出されて、みんなの前で、この間と同じ罰を受けた。

 夕方になってフランソワは自分の部屋の中でルイーズと話をしていた。

「そうなのよ、けっきよく、一日のうちに誰かがたたかれなきゃならないのよ……ほんとにいやになってしまうわ」

「あなたもようやくパンテモンの実態がわかって来たようね。でも、また序の口よ……これからもっとたいへんになるわ……とくに来週から行く上級のクラスではね……また、あなたのかわいらしいお尻が見れるわ」

「まあ、そんなこと言って、あたしはたいじょうぶよ、よくお勉強するから……あなたこそお気をつけなさい」

 そうはいったものの、フランソワも心の中では、たたかれずに済むとは思っていなかった。

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