第6章 青キップは浣腸の罰
[熱い肌に冷たい油]
フランソワは、自分の部屋に戻ってからもまだ、あのことを考えていた。ベッドにうつぶせになって、たった今クリスティ先生から懲らしめられたところをそっとさすっていた。その部分は、まだ熱くホテッていた。しかし、頭の中は、あのことを考えつづけていた。だから、ルイーズが部屋にはいって来た時も気がつかずに、制服の上からお尻をさすっていた。
「フランソワ! またたたかれたの?」
「まあ、驚いた、ルイーズ。戻ったの、あたし、考えごとをしてたの」
「考えごとをね? まあ、いいわ。それで、たくさんたたかれたの。鼻の頭が赤くなってるわよ。見せてごらんなさい」
「いや、いやよ。もう平気よ」
ルイーズは、フランソワのことばに耳もかさず、ベッドのふちに腰をおろした。フランソワは少し抵抗したがムダだった。ルイーズはいつもそうするのだった。
はじめてフランソワがお尻打ちを受けた時その時はまるで半狂乱で部屋に戻ると、気を失ったようになって無意識のうちにルイーズに処置されていた。せいぜい油を塗るくらいのことしかできなかったが、それでもずいぶん楽になったような気がした。それからはいつもルイーズはそうするのだった。しかし、ルイーズは自分の時は自分で処置してしまうのだった。
「言うことをききなさい、フランソワ。ちゃんとしておかないとね、肌がざらざらになってしまうわよ。さあ、いい子だから、手をどけなさい。恥ずかしがることなんかないでしょ」
そう言いながらルイーズは、制服のスソをそっとたくし上げた。
「まあ、ひどい、いったい何をしたの。こんなにたたかれるような悪い事って何?」
「あたし、あのことを考えてたの。それで少しも練習に身がはいらなくて、二度も三度もまちがえたの……」
「あのこと? あのことってなんのこと?」
「あのことよ。青キップのこと。もう忘れたの」
「ああ、青キップのことか。べつに忘れたわけじやないけど! 考えすぎて、そのことでおしおきされるほど、あたしマヌケじゃなくってよ」
「だって……あたし、いやだわ、考えはじめると、頭の中がいっぱいになって、ほかのことが考えられなくなっちゃうの」
「おバカさんね。しかたがないじゃないの。その時はその時、今から心配したってしょうがないじゃないの。あきらめなさい。それに、あれだって、そんなに考えこむほどのことじゃないと思うわ」
フランソワはそれには答えず、じっとしていた。ルイーズは、ゆっくりと油をすり込んだ。はじめは少しいやがってみせたものの、フランソワは、ルイーズにこうしてもらうのが好きだった。熱い肌の上に冷たい油をつけて……それが再び暖かくなる時、とても気持ちがよかった。
しなやかなルイーズの指が時おり、双丘のほうにまですべることがあった。フランソワはそんな時、からだをびくっと動かして、小さな声で〈いやっ〉と叫んだが、からだが電気にふれたように感じるのだった。
ルイーズは、ピシャッと一つたたくと、《さあ、もういいでしょ》と言って立ち上がった。
「手を洗って来るわ。油でこんなになってしまったわ」
「ごめんなさい、ルイーズ。どうもありがとう」
[頭をつけて腰を高く]
ルイーズが再び部屋に戻った時、フランソワはベッドの上に起き上がっていた。
「ねえ、フランソワ、ニュースよ。あなたにはとっても興昧のあること。今ね、あたしが手を洗って部屋に戻ろうとしたらね、ゲービーとすれちがったの。その時、あの人、たしかにあのキップを持ってたわ。あたしの顔を見たらすぐに手の中に隠してしまったけど……。やっぱりあの人は、きょうのうちにすませてしまうつもりね。ハミルトン先生のところにいって、それからあそこに行くんだわ、あの小さな部屋に、そして、青キップにサインをしてもらうのよ、あのあとでね」
「ほんと。それで、みたの、あなた。あの人が部屋にはいるのを見たの?」
「見やしないわよ。だから、いったでしょ、あの人とすれちがった、って。今ごろきっと部屋にはいったころよ」
フランソワはそわそわと立ち上がると、ドアのところに行って、そっと開くと、外をうかがっていた。
「ルイーズ、あたしちょっと外へ行くわ」
「フランソワ、およしなさいよ。そんなこといけないわ、かわいそうじゃないの」
「だって、あたし、じっとしていられないのよ。ごめんなさい、ルイーズ、ちょっとだけ」
フランソワはそう言い残すと、部屋を出て行った。長い廊下を音のしないようにすばやく歩いて、洗面所の前まで来た。その時、ドアのしまる音が聞こえた。
きっと今、中にはいったんだわ−−足音をしのばせて小さな部屋の前まで行った。その部屋の左側はずっとトイレが並んでいた。フランソワは息を殺して聞き耳をたてた。毎朝、生徒たちでごったがえす洗面所も、今は静かだった。部屋の中からハッキリとハミルトン先生の声が聞こえて来た。
「えーと、ゲービー、だったわね。どれ、キップを見せてごらん。ふん、ふん……このキップには、たっぷり懲らしめてください、と書いてあるけど、おまえは何をしたの」
ゲービーの声は小さかったけど、それでもよく聞こえた。
「はい先生、わたしはきょう、クリスティ先生に笞をいただいている時に、無作法なことをしてしまいました。わたし、とても苦しかったんです。それでずいぶんがまんしてたんです。でも、どうしても……あれ以上がまんできなかったんです」
「毎朝、キチンとお通じはあるんでしょうね、けさはどうだったの」
「けさは……ありませんでした……」
「なぜその時わたしのところにすぐに来ないの。だから、青キップをもらうことになるのよ。クリスティ先生のおっしゃるとおりね。そんな自分勝手な生徒は、懲らしめてあげなくてはね。さあ、ベッドに上がりなさい」
フランソワは胸がドキドキと脈打っているのが聞こえるようでした。ベッドのきしむ音がきこえました。
「頭をつけて、腰を高くね。ホラもっとお尻を上げなさい」
先生の声が矢つぎ早に聞こえて来ました。
「アーッ、先生、アーッ、イヤッ」
「さあ、これでよし、そのまま静かにしていなさい」
それっきり中からは、コトリとも音がしなくなりました。フランソワは、中でどんなことが起こっているのか気が気でなりませんでした。
およそ五分もたったでしようか、フランソワにはとても長く感じられました。中から弱弱しいゲービーの声が聞こえて来ました。
「先生……センセイ、おねがいです、もうしませんから……アーッ、もう苦しいんです。先生、ゆるしてくだきい」
「ゲービー、まだ半分ですよ。がまんなさい。あなたは罰を受けているのだということを忘れないようにね」
[ノゾキ見して]
ゲービーがあんなに頼んでいるのに、先生は冷たくつきはなしてしまいました。フランソワは思わずからだをドアに近づけました。
その時、「そこにいるのは誰? まあ、フランソワじゃないの、どうしました? からだの調子が悪いの?」
「い、いいえ、クリスティ先生、あたし、トイレに来て、今帰ろうとしていたところです」
「そう?」
その時、ふたりの話し声を聞いて、小部屋の中からハミルトン先生も出て来ました。
「おや、クリスティ副院長、フランソワが何か?」
「いいえ別に、ハミルトン先生は?」
「ゲービーが青キップを持って来ましたのでそれで……」
「ああ、そうでしたか、お騒がせしまして、ゲービーはおとなしく罰を受けていますか」
「はい、副院長」
クリスティ先生はドアをあけて中をのぞき込みました。
「ゲービー、ちゃんと罰を受けていますか? もう少しだからがまんしなさい」
そして振り向くと、
「フランソワ、あなたはもう部屋に戻りなさい」
と言いました。
フランソワは、ペコンと頭を下げると、いそいで戻りました。息をはずませて部屋にはいると、イスにがっくりと腰をおろしてしまいました。
「フランソワどうしたの?」
「あたし、見つかっちゃった」
「見つかった?」
「あたし、自分のことはうまくごまかしたんだけど、そのかわり、あたしがいたこと、ゲービーに知られてしまったわ。どうしよう、あの人きっと、あたしのこと、おこってるでしょうね」
「あたりまえよ、誰だって自分がおしおきされているところをほかの人に見られたらいやに決まってるじやないの。あの人だって……それだから、こんな時間に行っているんじゃないの。アデールだって、ほかの人だって、みんな知っているから、わざわざトイレに行くのだってがまんしてるんじゃないの。それを、あなたったら、わざわざ……」
「もう言わないで。あたし、後悔しているのよ」
「いまさらおそいわ。あなた、仲間はずれにされてしまうわよ」
「どうしたらいいの。ねえ、ルイーズ、お願い、教えて」
「まあ、とりあえず、ゲービーにはあやまるのね」
「そうするわ、でも、今夜より、あしたの朝のほうがいいと思わない?」
「そうねあしたの朝のほうがいいでしょう」
フランソワは自分のしてしまったことがとても悪いことのように思えてきて、ゆううつになってしまいました。
[ひっくり返した朝食]
次の朝、お祈りが終わった時もまだフランソワはゲービーに話しかけるチャンスがありませんでした。
「フランソワ、どう? 話した?」
「いいえ、まだなの。だって、あの人、あたしを避けているみたい」
「そうかも知れないわね。でも、早くしないと授業が始まってしまいますよ。そうするとなかなかチャンスがなくってよ」
「ええ、お食事の時にでも話すわ」
ふたりは連れ立って食堂に行きました。もう長い列ができていました。
自分の引き出しからお皿二枚とスプーン、フォークを取り出すと、ふたりはその長い列につきました。
すると、その後ろ二、三人おいてゲービ−が同じように並びました。それに気がついたフランソワは、なんとか話しかけようと後ろを振り向きましたが、そのたびにゲービーは横を向いてしまいました。
列は次第に短くなり、フランソワの片方のお皿にはサラダと卵、それにパンが二きれのせられました。そして、右手のお皿にも熱いスープが盛られました。
折り返してテーブルに帰る時、ゲービーとすれちがうのだ、その時にあやまろう、そうしなければまたチャンスを逃がしてしまうわ。フランソワはそう思って、ゲービーのほうに歩き出しました。そして、
「ゲービー、あたしね……」
と話しかけた時、ふいに右足をすくわれたようになって、フランソワはからだのバランスをくずしてしまいました。
「ワアーッ、アーッ」
フランソワは、なんとかからだを元どおりにしょうと思いましたが、ついに床の上にころがってしまいました。パンも卵もサラダもみんな床に散ってしまいました。もちろんスープも……。
さっそくクリスティ先生が来て、立ち上がろうとしていろフランソワの腕をとって、そして、きちんと立たせると、みんなの見ている前で、手のひらに笞を当てるのでした。
「ごめんなさい、先生、痛い、イタイ、もうしません」
クリスティ先生は、たっぷりと手のひらをたたくと、フランソワをつれて行き、ほうきとちり取りを持たせて、そうじをするように言いつけました。
フランソワは、ヒリヒリする手にほうきを持って、べそをかきながら仕事をしました。そのうえ、朝の食事は一片のパンと水だけですませなければなりませんでした。そして、食事が終わった時、クリスティ先生が、青いキップを持って来たのです。
フランソワはすっかり取り乱してしまいました。
「先生、お願いです。先生、あたしはつまずいてころんだのです。しかたがなかったんです」
「わかりました。しかし、フランソワ、毎日の糧が神様からの授かりものだということを忘れないように。どんな理由があるにせよ、食物をそまつにした罰をまぬがれることはできないのだよ。あしたの朝までに、ハミルトン先生のサインをもらっていらっしゃい」
クリスティ先生はそれだけ言うと、さっさと行ってしまいました。
[笞をとっておいで]
「ルイーズ、どうしたらいいの。誰がやったの、ゲービーなの、あたしの足を引っかけたのは。誰れかがわざと足を出してあたしをころばせたのよ」
「そうかも知れないわ。でも、もう、しょうがないでしょ、青いキップをもらってしまったんだから。さあ、教室に行きましょう」
「冷たいのね、ルイーズ。ああ、気が狂いそうだわ」
フランソワの心配は、教室にはいってからもつづきました。そして、小さな声でルイーズに話しかけるのでした。
お昼食のあとでも、フランソワの頭の中はあのことでいっぱいでした。教室の中には、美しい詩の旋律が流れていました。クリスティ先生の声は静かに読み進んでゆきました。
「……フランソワ……もうおよしなさい……朝から何度同じことを言えば気がすむの……もうやめて……」
「だって……ルイーズ、あたし、いやだわ……お願い……聞いてよ、誰かがわざとやったのなら、先生も許してくれるかもしれないわ」
「およしなさい……だめよ……ぜったいに許してなんかくれないわ……もう話しかけるのやめて……」
「だって、ルイーズ……」
パタン! と音がして、クリスティ先生は本を閉じました。
「フランソワ! ルイーズ! 前に出ていらっしゃい!」
ふたりはおそるおそる立ち上がると、前に出て行きました。
「おふたりとも、よほど重大会議がおありのようね、でも、一日じゅうおしゃべりをさせておくわけにはいきませんよ。おまえたちは朝からずっとオシャべリしていましたね。先生が知らないとでも思っているの。許すわけにはいきませんよ。さあ、笞を取っておいで、柳の笞だよ。フランソワはイスを持っておいで、一つでよろしい」
ふたりが言われたとおりに笞とイスを持って来ると、先生は笞を取り上げてふたりに命令した。
「ルイーズ、おまえは、子供のころ、お母様にたたかれたことはありますか」
「はい、先生……」
「どんなふうに」
「はい、先生! 母はわたしをひざの上にのせて、そして……お尻を懲らしめました……」
「よろしい、おまえがおしおきをされたように、フランソワをやってごらん」
「フランソワを? わたしが?」
「そう、フランソワをひざにのせて、たっぷりとおしおきをしておやり、どうせ、そのあとでおまえも同じようにフランソワに罰されるのだから、遠慮しないでやるようにね」
「はい……先生」
[お互いに尻打ち]
ルイーズはイスにすわると、フランソワのほうを見上げました。フランソワは、そっと近づいて来ると、ルイーズのひざの上にからだを横たえました。もうはじめるよりしかたがありません。左手でフランソワの腰をかかえると、右手で制服のスソをまくり上げました。ふっくらとふくらんだフランソワのお尻は、きのう受けたお尻打ちのあとがまだ少し残っていました。
「はじめるわよ」
小さな声でルイーズは言いました。その声でキュッと縮み上がったお尻に、ルイーズは最初の一打をピシャンと打ちおろしました。
「ルイーズ! おまえのお母さんは、そんなやさしいたたき方をしたの。もっと力を入れてたたきなさい。そうしないと、いつまでたてても終わりませんよ」
「はい、先生」
そしてルイーズは、力いっぱいたたきはじめました。もともと、フランソワが悪いんだわ、そのためにわたしまでたたかれるんだもの。そう思って少々しゃくにさわったので、ほんとうに昔、自分がたたかれた時のように思い切りたたいてやりました。
「ルイーズ、もうやめて、先生、ごめんなさい。アーン、痛い。もうおしゃべりしませんから、ルイーズ! やめて……」
ルイーズは、途中で何度も先生の顔を見ましたが、そのたびに先生は、つづけるようにうながしました。
その間フランソワは、いいしれぬ恥ずかしさでいっぱいでした。先生の命令とはいえ今、自分に罰を与えているのは、自分と同じくらいの年齢の娘なのです。普通ならとてもそんなことはさせはしないのですが……今はどうすることもできずに、その恥ずかしいおしおきを受けているのです。
むかし……ず−っとむかし、子供のころ、母にされたように、自分は今あつかわれているのです。母は力でおさえつけましたが、今は目にみえない力でどうすることもできないのです。
[ふっくらしたお尻を]
ようやくフランソワのおしおきが終わりました。次はルイーズの番です。フランソワは自分のお尻を両手で押えて立ち上がりました。目には涙をいっぱいためて、くちびるをかみしめて、ルイーズをにらみつけました。そしてイスに腰をかける時思わず《うっ!》というほど痛かったのです。
ただすわっているだけでもヒリヒリ痛いのに、そのうえに重いルイーズのからだをのせなければなりません。しかし、フランソワはロをキッと結ぶと、ルイーズのウエストのところをしっかりとかかえました。そして、制服のスソをたくし上げると、そこにはルイーズのたくましいお尻がほんのりと赤みを帯びて、ふるえていました。
フランソワは、先生の合い図で、ルイーズのお尻をたたきはじめました。はじめから手を高く上げて力いっぱいたたきました。ピシャン、ピシャン、とお尻の上で、フランソワの手が鳴るたびに、ルイーズは足をバタバタさせからだをよじって痛みをこらえていました。ルイーズにたたかれたと思うとくやしくって、フランソワは、メチャクチャにルイーズのお尻をたたいてやりました。
「フランソワ、やめてーっ。ひどいわ、フランソワ。痛い、痛い。そんなにキックたたかないで、あ−ん、いたい」
クリスティ先生が、《もうよろしい》と言うまでフランソワはたたきつづけました。それも、ほとんど、お尻のまん中の、いちばんふっくらと高くなったところだけをたたいたので、そこの部分だけまっかになってしまいました。
[おシャベリの罰は]
ふたりのおシャベリ娘に対するクリスティ先生のおしおきの仕上げは、ふたりを教壇のところに並んで立たせると、ヤナギのムチをふたりの口にくわえさせて立たせておくことでした。
この罪は、おシャベリをした生徒に対してよく使われるのですが……なるほど、これなら、もうオシャベリはできません。ふだんなら、さして気にするほどの罰ではありませんが、このふたりには、今、ちょっとした冷たい戦争が始まろうとしていたのです。タ方の自由時間まで、ふたりはひと言も口をききませんでした。
バタン! とドアを後ろ手に締めると、まずフランソワが話し出しました。
「ルイーズ、ひどい人ね。なにも、あんなにたたかなくたっていいじゃない」
「お−う、なんてことをいうの、フランソワ、先生の命令で、しかたなくやったことじゃない。それに、もともとあなたが悪いのよ。それなのに、あなたのほうこそ、どうなの、まるで頭にきたみたいにたたいたじゃない。それもわざと同じところばかりたたいたのね。きょうばかりか、あしたになっても痛むわ、きっと。あたしは、あなたのお尻をなるべくまんべんなくたたくようにしたつもりよ。そうすれば、きょうじゅうに痛みがとれると思ったから、そうしてあげたのよ。そのぐらいのこと、あなただってわかってるのに、それなのに、あなたはわざと、同じところをねらってたたいたのね。あたしがからだをよじって、いやがっていたのに」
「知らないわ、そんなこと。どうせ、いつもあたしが悪いのよ。でも、もう少しやさしくあたしの話をきいてくれたら、こんなことにならなかったのに」
「だって、しかたがないじゃない、もう青キップをもらってしまったんだから、いまさらむりよ、何を言ったって。それに、青キップのことだって、もとはといえば自分が悪いんじゃない」
「ええ、ええ、そうですよ。なんでもあたしが悪いんだわ……みんなで、あたしのことをいじめるといいんだわ。意地悪……ルイーズの意地悪。あなたなんかといっしょにこなければよかったわ」
「まあ、フランソワ、なんてことを言うの、あなたそんなこと考えてるの……あたしだって、なにも、こんなところに来たくはなかったわ。しかたなしについて来たんじゃない。あなたにそんなこといわれる筋はないわ。さあ、フランソワお嬢様、青キップにサインをもらっていらっしゃいませ、ささ、お嬢様。浣腸はおいやですか? フランソワ、行ってらっしゃいよ。それとも、ついていってあげましょうか」
「いや、いや、ルイーズ、もうやめて、意地悪。どうしてあたしをそんなに苦しめるの」
フランソワは机に顔をふせて泣き出してしまいました。
遠くで鐘の音が聞こえます。あと一時間で消燈です。それまでに済ませてしまうか、さもなくばあしたの朝。
フランソワは、しばらく机のところにいました。
やがて決心がついたのか、すくっと立ち上がると、ドアをあけて出て行きました。青白い顔はキュッとくちびるをかみしめていました。背後にルイーズの心配そうな視線を感じながら。
しかしフランソワは、後ろをふり向きはしませんでした。