第8章 一日三回の大刑
[子供のようなお尻打ち]
マリー・グローリーは大粒の涙を流してそこに立っていた。フランソワとルイーズのふたりは、当然罰の終わったマリーが外に出て行くと思った。しかし、ハミルトン先生は、
「さあ始めなさい」
と言わんばかりに、後方のイスにどっかと腰をおろした。そしてまん中のイスにはクリスティ先生が腰をおろしました。
「ぐずぐずしないで! 早くいらっしやい。ルイーズ、おまえからよ」
ルイーズはしぶしぶ前に出ると院長先生に頭を下げた。
「ルイーズですね。ここに来てお祈りの時間におくれるということは、自分を見失うことです。そのためにおまえは、先生がたやわたしの前で懲らしめられるのです。小さな子供のように、クリスティ先生のおひざの上におまえの腰をのせて、たたいてもらえば少しは懲りるだろうからね、そのやり方は、おまえが犯した罪がどんなに子供っぽいばかな行為をしたか、ということです。わかりますね。さあ、たっぷりとたたいてもらうがいい、クリスティ先生、始めなさい」
「はい院長先生、承知しました。さあ、ルイーズ、わたしのひざの上においで」
そしてルイーズは、院長先生の言いつけどおりクリスティ先生のひざの上に横たえられてしまいました、そして、容赦なく制服のすそがまくり上げられてしまいましたので、ルイーズのうしろ側はすっかりまる見えになってしまいました。その光景はおしおきというには、あまりにも甘く罪深い光景だったので院長先生は顔をしかめて、すぐに罰の執行を行なうようにうながしたほどです。
クリスティ先生の思い切りスナップをきかせた平手打ちが、こんもりと盛り上がった丘の上でするどい音をひびかせました。最初の一打で、あの背中から、足のかかとまでゆるやかに、なやましく、流れていた曲線が乱れお尻打ちのおしおきをされて、泣きわめく、女の子のポーズになってしまいました。
なやましい魅力はうせ、むしろこっけいであわれな光景です。一打ごとにたっぶり間をあけて、力強くたたきつづけていましたのでまだ半分も終わらないうちにルイーズのお尻はまっかに染まってしまいました。
「ルイーズ! そんなに動いてはだめ! あと半分ですよ。がまんなさい。それに、女の子は、そんなに足を開くものではなくてよ。なんですか、平手打ちぐらいで、みっともない。これ以上あばれると、手も足も結わいてしまいますよ」
「もうしません、先生もうけっしておしゃベりなんかしませんからもうやめて……とても痛いのです、先生、あーっ、先生……そんなに強くしないでくださいたいよ−」
クリスティ先生が、そんな生徒のたわ言で力をゆるめたり、手かげんしないことは、ルイーズは百も承知していたのですが、そう叫ばずにはいられなかったのです。それにもかかわらず先生の手はますます力強さを加えていったのでした。 ビシッ! ビシリッ! と鳴るたびに臀肉がぶるんぶるんとふるえ、ルイーズは両手で頭をかかえるようにして苦痛をこらえていました。そしてこの破廉恥な刑罰は、正確に二十打の罰を加え終わりました。
ルイーズは立たされると、マリー・グローリのわきにポーズを乱さないように立っていなさい、と言われました。そのために罰の終わったふたりの娘は肩をふるわせて泣いていました。
「フランソワ、前に出なさい。さあ先生にお願いして、たっぷりと懲らしめてもらうがいい。さあ、お始めください」
「はい、院長先生、わかりました。さあ、フランソワ、こっちへいらっしやい。一度にふたりとなると、ほんとうにどちらが罰を受けているのかわからなくなってしまいますわ。院長先生、ごらんください。わたしの右手を、ホラ、こんなに赤くなって、シビレてしまっていますのよ。こういう大きな娘を罰するのには、笞でも使いませんと、こちらのほうがまいってしまいますよ、ほんとうに」
「まあ、クリスティ先生、たいへんですね。でも、ひとりだけ笞で、というわけにもまいりませんし……どうでしょう、わたしがかわってやってさし上げましようか」
「いいえ、先生、それではあんまり……」
「いいですよ、かまいませんとも、さあ、そのイスをお立ちなさい、あなたはわたしのイスにすわって、いいですね」
「はい、院長先生、それではお願いいたします。なんだか申し訳ないですわ」
[院長先生みずから]
ふたりは入れ代わり、そしてフランソワは院長先生のひざの上にのせられた。
「院長先生、もうしませんから、どうかお許しください」
「あなたが、そう思うのはいいことですよ。でも、罰は受けるのです、そうすればもっとよく覚えるだろうからね」
制服のすそから細い足首とキッチリした編み上げ靴がのぞいていました。院長先生は静かにすそをたくし上げていったので、ふくらはぎや太ももが次第に出て来ました。すんなりした二本の足の終点は、フランソワにとっては悩みの種、そして院長先生にとっては魅カ的な攻撃目標だったのです。
いつもはやさしく、もの静かな院長先生ですが、若いころはさんざんお尻打ちをされて来たので、若い娘たちを罰することにいささかの同情も加えることはありませんでした。思いきり力をこめてたたきはじめました。ピシリ! ピシリ! フランソワは腰をよじり肩をふるわせてうめきました。
院長のイスにすわってじっとこの光景を見ていた、クリスティ先生は、心の中で
「まあまあ、ずいぶんお上品なこと、昔はずいぶんきびしい人で、前の僧院の人からの手紙ではとくにそのことにふれて、じゅうぶんご用心あそばせなぞと言って来たりしたが、なんといっても体力がこう衰えては、若い娘を罰することはできないわ。あんなことで、あの娘を思い知らせるわけにはいかないことよ。まあ、あとでたっぷり笞を食らわせてやりましょう」
しかし、そうはいうものの、罰が終わった時、フランソワのお尻はじゆうぶんに赤くなっていました。そして目から涙をボロボロと流して後悔していました。
三人の泣き顔がそろうと、院長先生は威儀を正して刑の終了を告げました、そして再び先生に連れられて、各自の部屋に戻りました。
[ひとときの休息]
部屋にはいるとクリスティ先生は、罰はまだ終わっていないこと、きょう一日、院長先生の言いつけを守って、しっかり罰を受けること、そして、ベッドが乱れていたことを院長先生に話さなかったのは、そんなだらしのない生徒が自分のクラスにいるのを知られたくなかったからで、けっして罰を与えないわけではない。そのことは自分の権限で、あとで罰を与えるからじゅうぶん覚悟をしておくように。そう言いのこして部屋を出て行きました。
ふたりは話をする元気もなく、泣き叫んだためすっかりのどがかわいてしまったので、きょう与えられた唯一の飲み物である水をのんで、静かにベッドにからだを横たえました。
「フランソワ、きのうのこと、ごめんなさいね」
「いいの、あたし、まだなんだか夢をみているみたいよ」
「そんなこといったって、お尻の痛いのは現実よ、きょう一日痛めつけられるのよ」
「そうね、まだひりひりするわ。それにあと二十回も笞打ちされるのね」
「それにしてもあなたはラッキーだったわ。院長先生のは、それほどじゃなかったもの」「でも、けっこうきいたわよ。それに笞打ちとなれば、同じことよ」
「そうね、でもそれより、ベッドのこと、いつやる気なのかしら、早くすませてくれればいいのに。きっと最後にするつもりよ。そうすればたとえ一打でもききめがちがうもの」
「あ−あ、ゆううつね。いまごろみんなは何をやってるのかしら、きっと、この間発見した泉のところに行ってるわ、そこでおべんとうを食べるんだわ」
「よしなさい、きよう一日は何も食べられないのよ。まあ静かに寝ているのがいちばんね」
でもふたりの静かな休息はまたたくまに過ぎて、再び院長先生の前に引きずり出される時間になってしまいました。クリスティ先生がふたりを連れに来ました。
「さあ、ふたりともわたしについていらっしゃい」
「先生、おねがいです。その前にトイレに行せてください」
「いけません、ルイーズ。罰が終わったらオマルを持って来てあげます。それまでがまんなさい。もし罰の途中でそそうでもしたら許しませんよ、いいですねフランソワ」
[三人そろって体刑]
院長先生のところにはもうマリー・グローリーが来ていました。三人がそろうと、すぐに刑の執行です。はじめにマリーの尻がマーブル先生のひざの上にのせられました。その丸い小さなお尻は、赤紫にはれ上がっていました。
そっと指でふれてもピクッとからだをふるわせるそのお尻に、マーブル先生は容赦のない平手打ちを加えました。じゅうぶんに下地のできているお尻は、さいしょからマリーのからだをとび上がらせるのにじゅうぶんでした。
ひいひいと泣きわめき、許しを願いましたが、十回のお尻打ちは完全に執行され、マリーは終わってからもお尻をかかえて泣きました。
つづいて、クリスティ先生が立ち上がり枝笞を手にすると、ヒュウ! ヒュウ! と素振りをくれ、そしてルイーズの名まえを呼びました。ルイーズは前に出て、そして先生のさしずどおりイスに手をついて腰を高く上げました。もうすっかり慣れっこになってしまったポーズです。
うしろに回ったクリスティ先生は、高々とすそをまくり上げました。はり切ったルイーズの尻に先生は枝笞を振り上げて、力いっぱい打ちおろしました。その枝笞はつい一時間ほど前に、先生がみずから裏庭に行って切り取って来たなまなましい木の枝でしたので、じゅうぶん水分をふくみ、しなやかにルイーズのお尻に食い込みました。
五回めにルイーズは腰をおろしてしまったので、院長先生は、マーブル先生に押えつけるように命じました。マーブル先生はさっそくルイーズの腰を抱きかかえるようにしてもち上げました。ほとんどすきまのない十本の筋が、ルイーズのお尻の上に刻まれました。
そして、フランソワのお尻にも同じように赤紫の筋が、はれたお尻の上にさらに盛り上がったのです。ふたりとも恥も外聞もなく泣きわめきました。
「お黙りなさい! ふたりともなんですか、これくらいのことで、きちんと立ちなさい。手をまっすぐにわきにつけて、背をのばして」
フランソワは、痛みのためにのみ苦しんでいたのではありません。もう限界に来ていました。枝笞で一打されるごとに必死でこらえていたのです。いまにももらしてしまいそうで、でもようやくこらえたのです。
でもこうしてじっと立っていると、からだがぶるぶるとふるえて来るのです。そして並んで部屋を出て行きました。トイレの前を通る時、フランソワは駆けだして行きたい気持ちを押えるのがせいいっぱいです。クリスティ先生はどんどん歩いていってしまいます。「先生、おねがいです。トイレに行かせてください……もうがまんできません」
「そうでしたね、ルイーズ、あれを持っていらっしやい」
[部屋の中での排泄]
ルイーズがオマルを持って来ると、再び歩き出しました。そして部屋にふたりを入れると、バタンと音をたててとびらをしめ、そして外からカギをかけてしまいました。
「さあ、フランソワ、これを使いなさい」
「いやだわ、そんなの……ああ苦しい……」
「さあ、早くしなさい。あなただけじゃないのよ、あたしだって……」
「まあ、そうだったの、少しも気がつかなかったわ。でも、やっぱり恥ずかしいわ、こんなところで……」
「ねえ、早くしなさいよ。先生の前でしたんでしょ。あたしだって……がまんできないわ」
「じゃあ、ルイーズ……あなた先にすれば」
「いいの、それじゃ先にするわよ」
ルイーズはそう言うと、クルッと後ろ向きになって、フランソワに背を向けると、すそをまくり、腰をおろしてそして……、大きな音をたてていました。
その音を聞いていると、フランソワは目が回るようでした。恥ずかしさのあまり忘れていたものが、勢いよくよみがえって来ました。手をにぎりしめて、そっちのほうを見ないようにしていました。
「まだなの、ルイーズ、早くして」
「だから言ったじゃない。それよか、ねえあれとってよ。あわてたんで忘れちやったわ」
「何?」
「あれよ、机の上にあるでしょ……紙よ」
ルイーズは顔を赤らめて立ち上がりました。フランソワもこんどはためらいもなくすそをまくって、オマルにまたがりました。
[空腹にスープのにおい]
ふーっと大きなため息をついて立ち上がりました。そして、オマルをイスの下に入れると、ぐったりとベッドに横になりました。やっと苦しさから解放されたと思ったら、こんどは空腹がおそって来ました。目をつぶると食べ物のことばかり考えてしまいます。
食堂のほうからはおいしそうなスープのにおいが流れて来ます。たった一度か二度食事をぬくのが、こんなにもみじめでつらいものとは知りませんでした。一片のパンのためなら、どんなことでもしてしまいそうです。屠殺場に引かれてゆくブタだって、食べ物だけはうんと与えられるのに……。
ルイーズのほうを見ると、顔をしかめながら自分でお尻に油をぬっていました。
「ルイーズ、痛いでしょう、平気なの」
「平気じゃないわよ、でもしょうがないでしょ、あと一回おしおきが残ってるのよ。このままにしておくわけにはいかないじゃない。あたしが終わったら、あなたもやってあげるわ」
そして痛がるフランソワを押えつけるようにして、ルイーズは油をつけてやりました。しかし、ルイーズもさすがに疲れたようで、ふらふらしていました。長い一日もようやく暮れようとしています。
外がさわがしくなり、生徒たちが外から戻ったようです。
夕方の礼拝に出るために身じたくを正し、そして礼拝堂のほうに行きました。三人の哀れな娘たちにも礼拝は例外ではありません。いちばんあとからふうふうとついてゆきました。そしてお祈りです。終わると生徒たちは食堂へ。そしてマリー・グローリーもいそいそとついてゆきました。
うらやましそうに見送るフランソワとルイーズは、再び自分の部屋にとじこめられてしまいました。むだと知りつつ、フランソワはクリスティ先生に頼んでみましたが、もちろん許されるはずはありませんでした。
それから一時間は、まさにつらい刑罰でした。今、あの人たちは何を食べているんだろう。たっぷりとバタのしみたポテトかしら、それとも平目のソテー、スペイン風のからいドレッシングのかかったサラダかしら、考えれば考えるほど気が狂いそうです。
その時、とびらが開いて、クリスティ先生がはいって来ました。
「さあ、あと一回ですよ、しっかりなさい」
[思いがけずパンの包み]
外に出ると、ちょうど反省会が終わってみんなが帰って来ました。ふたりは恥ずかしさで首をうなだれてついてゆきました。三度めのおしおきはひどいものでした。マリーちゃんはそれでもパンをたべたので少し元気でした。それでもさすがに最後の十打はこたえたらしく、足をぱたぱたさせていました。なにしろ、きょう一日で四十回の平手打ちをあの小さなお尻に受けたのですから、無理もありません。
つづいてルイーズが、前と同じようにポーズを取ると、院長先生が立ち上がって来てすそをまくりました。そして鼻をつけるようにしてのぞきこみました。
「フランソワ、おまえはこっちに来てお尻をお出し」
フランソワは、ルイーズと並んで同じようなポーズを取りました。院長はじゅうぶんにしらべて、
「実に正確です。でもクリスティ先生、この次の十回は筋の間に打ち込むように」
「心得ております、院長様、おまかせください。けっして血を流すようなことはいたしません」
「よろしい、それでは始めなさい。フランソワは元の位置に戻って」
再び笞がうなり、かすれた悲鳴が部屋の中にこだましました。終わった時は声も出ないくらいでした。
フランソワの時もそうでした。どこにそれだけの体力が残っているのかと思うくらい、あばれて、しまいにはハミルトン先生にイスの上に押えつけられて刑を終わりました。
フランソワはボウっとして立っているのがやっとでした。ただお尻が焼けるように痛く自分の部屋にたどりつくまでは、どうやって歩いて来たかおぼえていないくらいでした。そして、しばらくしてからふたりは机の上に紙包みがあるのに気がつきました。
「フランソワ、これ、何かしら?」
「なんでもいいわ、それよりもお尻が痛くて」
「じゃ、あけて見るわ、……フランソワ、見て! パンよ」
フランソワは、〇・ニ秒で机の前に到着しました。
「どうしたのかしら、これ……待って、ここに小さな字が書いてあるわ、ええと……早く食べなさい。紙はすぐに捨てなさい、アデール。まあ、アデールからよ、うれしいわ、さあ早く食べましょう」
「待って、まず紙の始末よ。小さくまるめてええと……そう、この中に入れてしまいましょう」
ルイーズはイスの下の壷の中に神をポイと投げ入れました。そしてふたりそろって大きな口をあけ、ガブリと一口かみついた時、大きくとびらが開きました。開いただけではなく、そこにはクリスティ先生が立っていたのです。
何も説明する必要はありません。問題はどこから手に入れたか、ということだけです。
「もう一度聞きます、だれにもらったのですか」
「ここに置いてあったのです。あたしたちが帰って来たら、ここに、机の上に、あったんです」
「それで、だれが持って来たかわかりませんか。隠したりすると、どんなことになるかわかってますね。もちろん、ほかの生徒をしらべます。しかし、それで犯人が出なければ、これは、おまえたちが盗んだことになるのですよ。そうすれば、きょうくらいのおしおきではすみませんよ。裸にしてからだじゅう皮鞭でたたかれるのですよ、いいんだね」
ルイーズにはそれがクリスティ先生のオドカシだとわかりましたが、ついさっきあんなにたたかれたので、フランソワはすっかりまにうけて、うわごとのようにアデールの名まえを口にしてしまいました。
「そう、アデールですね、さっそく呼んで問いただしてみましょう」
[グリーンランド打ち]
いったん外へ出たクリスティ先生は、アデールを連れて戻って来ました。アデールは部屋の中の光景を見ると、すぐに察しがついたようです。
「アデール、あなたですね」
「はい、先生」
アデールは隠してもむだなことを知っていました。かえって、すなおに言ったほうがいいのです。それですぐに認めたのでした。
「おまえは、このふたりが罰を受けているのを知っていましたね。それなのに、なぜこのようなことをしたのですか。同情がふたりのためにならないことくらい、おまえはじゅうぶん承知のはずじゃないの、言い訳は聞きたくありません。罰ですよ。わたしの部屋の机に笞が置いてあります。持っていらっしゃい。大急ぎで!」
アデールは走って行きました。自分を打つ笞をとりに。息をはずませて、すぐに笞を持って戻って来ました。
「よろしい、それではイスの上に手をついて用意しなさい」
壁ぎわに置いてあったイスを、アデールはみずから部屋の中央に据え、適当な間隔を取ってそのイスと向かい合い、そして軽く足を開くと、大きく深呼吸を一つしました。
その時、チラッと後ろに立っている先生のほうに哀願のまなざしを送りましたが、すぐに腰を深々と曲げて、しっかりとイスに両手でつかまりました。頭は両腕の間から下にさげているので、その表情まではうかがうことはできませんでしたが、アデールの一つ一つの動作は、すっかり慣れ切って、一つのむだもありませんでした。
クリスティ先生は、笞の先でアデールの制服のすそを引っかけ、ずるっと背中の上まではね上げてしまいました。大急ぎで笞を取りに行って来たので、アデールのお尻は上気していました。血色のよい、つややかなお尻はクリスティ先生のきびしい笞を受けるために最もつごうのよい形で空中に突き出ています。 そして、ヒュン! ヒュン! と二、三度笞を素振りにするたびに、お尻はちぢみ上がり、血のけはうせてゆきます。
アデールは五回たたかれました。先生は、いささかも手ごころを加えはしませんでしたが、フランソワとルイーズは、アデールがグリーンランド打ちをされたので、少しホッとしました。
グリーンランド打ちというのは、ここの生徒たちの間だけで通用することばで、つまりお尻を地球に見立てれば、つまり上のほうだけを打たれるのを、そう呼んでいました。反対に、下のほうを打たれる時を、オーストラリア打ちなどと言っておりました。つまり、同じ五回でも、上と下(背中に近いほうと足に近いほう)ではたいへんな差があるわけです。
下のほうをたたかれればイスにすわるたびにとび上がらなければならないからです。普通は上とか下にかたよった打ち方はしませんが、きょうのアデールのようにすなおな態度で罰を受ければ、クリスティ先生といえどもちょっぴり手かげんしてくれるというものです。
[お預けの笞はいつ?]
アデールを自分の部屋に帰してから、クリスティ先生は、ふたりに向かって長々とお説教をしました。
そして、ベツドのことでは当然罰を与えなくてはならない。そして、パンを食べたことではおまえたちふたりに青キップを上げなければならない。
しかし、きょうは、そのどちらも行なうには不適当と認めるので、いずれ体力が回復しだいに行なうからそのつもりでいなさい。きょうはもう休んでよろしい。
そう言って部屋を出て行きました。もちろんその時パンを持ってゆくのをわすれはしませんでした。
ふたりはおなかをすかしたネコのように、じっとそのパンを見送っていました。そしてほとんど同時に、ふたりは、ベッドにたおれるように横になりました。
クリスティ先生は、ほんとうはあのふたりのお尻に、もう一度平手打ちをしてやろうと思って来たのですが、思わぬことでアデールをたたくことになり、その結果、あのふたりのはれ上がったお尻をたたくのがいやになってしまったのです。
ふらふらになった娘をたたくより、少々抵抗する娘をつかまえてたたいてやったほうが気持ちがいいので、いつでも自分の好きな時にたたける権利を残しておいたほうがよいと思ったからです。
自分の机の前にすわって、クリスティ先生は考えていました。
あのふたりは、あと二、三日イスにすわるのもつらいだろう。
それからしばらくは、かゆくなって来るものだ。そして古い皮がボロボロとむけて、一週間もすると、すべすべとした新しい肌になる。まあ、それまでは待つことにして上げましょう。