聖女の行進 10

第10章 最後の仕上げ

[一波乱ありそう]

 院長先生はめがねを手に持ち、もう一方の手には手紙を持ってすわっていた。フランソワとルイーズのふたりの前に、クリスティ先生も同席していた。

「これは、フランソワの伯父様からのお手紙です。予定どおり、期日にはおまえたちふたりを迎えに来るそうですよ。どお、うれしいですか?」

「はい、先生」

「正直ですね、フランソワ。まあいいでしょう。さて、そうすると、正確なところ、きょうを入れてあと十二日ですね。十三日めの朝には伯父様が迎えに来てくれるでしょう。しかし、それまでは、今までどおりにやるのですよ。けっして、いいかげんなことをしないように。いいですね。そのほか細かい注意はクリスティ先生からお聞きなさい。先生、どうぞ」

「フランソワ、それにルイーズ。よくお聞きなさい。わたしは、ふたりがここでの教課をすべて終えたとは思えません。せめて、あと一年ここにいればと思いますが、ご両親や後見のかたがそのようにしたいと言って来たので、しかたありません。まあ、それでも、少なくともこの一年で、従順な娘にだけはなったと思います。ここを出てからも、その気持ちを忘れずにいれば、みずからの才能を伸ばすこともできるでしょう。とりあえず、わたしは、残されたわずかな日数で、おまえたちふたりに最後の仕上げをしなければなりません。院長先生は十二日とおっしゃいましたが、ほんとうはあと五日しかありません、それは、ここのならわしで、最後の一週間は体罰を行なわないことになっているからです。しかし、それは、ご両親などに対し、なるべく罰を受けた跡をお見せしないようにという、院長の心づかいからで、そのことを忘れて不従順な態度をしたり、なまけたりすれば、わたしはいくらでも罰を与えますよ。笞で打つかわりに、からだに傷のつかない方法で罰することもできるのですからね。きょうからふたりをとくに注意していますよ、いいですね。今から最後の仕上げをしてあげます、ここに残る生徒のためにも、よい手本を示すようになさね。わかったらお部屋に戻ってよろしい。午後の授業まであと十五分ですよ」

 ふたりは廊下に出ると顔を見合わせて、思わず〃フーッ〃とため息をつきました。

「一波乱ありそうだぞ−、こりゃあ」

「ルイーズったら、ふざけてる場合じゃないわよ。この調子だとなにをされるかわかったもんじゃないわ。お台所に行ってラードをすこし余分にもらって来たほうがいいわ、もう少ししかないわよ。ああ……どうしょう、ねえ、ルイーズ、あなたも少しは心配なさいよ」

「心配したってしょうがないわ、まあせいぜい身だしなみに気をつけるくらいしかできないわよ。ところで……と、あら、ほんとう、もう底のほうに少ししかないわ、この前もらって来たのいつだったかしら……まだ二週間たってないわよ、こんどはフランソワ行ってらっしゃいよ、お台所にいる尼さんたち、これをもらいに行くとみんなで冷やかすのよ、とても恥ずかしいわ、いつもあたしが行くんですもの、最後の一回くらいフランソワ行ってよ」

「あら、そんなことすこしも知らなかった。あなた、ちっともそんなこと言わないんですもの、ごめんなさいね。でも話を聞いたらなんだか行きづらくなっちゃった。ねえ、ルイーズ、お願い、あと一回だけ、お願い、ね。そのかわり、家に帰ったらあなたの言うこときいてあげるから、ね、いいでしょ」

「ほんとうにあたしの言うことを聞いてくれますか?」

「ええほんとうよ、なんでも言うことを聞くわ、ただし一度だけよ」

「まあ、たった一回ですか、この一年間ずっとあたしが行ってあげていたのに。まあ月に二度としても二十四回、そのうち半分はあなたの分として十二回、そのお礼がたったの一回ですか」

「だって……あなたはそれをもらいに行くだけでしょう、あたしはなんでも……って言ってるのよ、もちろんあたしでできることならばの話ですけどね。でも……いいわ、二回……そんなら、三回……ね、三回だけ、あたしでできることならあなたの言うことを聞いてあげてよ。これならいいでしょ」

「まあ、いいことにしましよう。それじゃ行って来るわ」

[傷につけるラード]

 ルイーズが出て行くと入れちがいにアデールがはいって来た。

「あの人どこに行ったの?」

「お台所。ラードをもらいに行ったのよ。アデール、たいへんなことになりそうなの、さっき院長先生のところで……」

「わかってるわ、もうそろそろだと思ってたわ、あたしはもう何人も送り出して知ってるのよ。みんなここを出る半月くらい前に呼び出されて聞かされるのよ、最後の仕上げの話をね、みんな同じなんだから、あきらめなさい。あなたとルイーズのお尻はあと一回きれいになめされて、きれいな肌になったところでご帰館になるわけよ、ラードをもらいに行くくらいだから覚悟はできてるのね、ふたりとも、一週間前になれば、もう笞打ちの心配はないわ、ぜったいに。でも、平手打ちくらいはあるわよ、それで足りなければ、浣腸って手もあるしね」

「なめすっていったいなによ、そんなにひどいの。あたしなんかおとといたたかれたところがまだ跡になってるのに」

「それがいけないのよ。青いアザなんかついてたら、ママがびっくりするでしょ、とくにあなたのママなんかわね。だから一皮むいてきれいにしてくれるのよ。いくらいい子にしていてもだーめ。かならず何か口実を見つけてやられるんだから」

 その時ルイーズが部屋に戻って来た。壷を両手に持って、顔を赤らめて戻って来た。

「ルイーズ、また何か言われたの、ごめんなさいね、それよりたいへんよ、あたしたちナメされちやうんたって……」

「ナメされる? てな−に……それ、どういうことなの」

「つまりね……お尻の皮をなめされちゃうんだって」

「あーら、そんなの毎度のことじゃない、いまさら驚いたってしょうがないわ、さっきのロぶりじゃ、どうせそのくらいのことはやると思ってたわ、いさぎよく一皮むかれちまいましょうよ。それでお別れできるなら、あたしはけっこうよ」

「さすがルイーズ、いい度胸ね、見上げたわ。まあしっかりやりなさい」

「アデールたら、まるであたしはだめみたいね。いいわ、あたしだって平気よ!」

「その意気、その意気、ホーラ、鐘が鳴った。戦闘開始よ、さあ行きましょう」

[第一ラウンドは負け]

 アデールの軽い足取りの後ろから、ふたりはしょんぼりと教室にはいった。そしていつになく真剣な態度で授業に耳をかたむけていた。そしてその時間はなにごともなく終わろうとしていた。

「ふん、どうってことないわ」

フランソワが小声で話しかけて来た。

「そうね、アデールにおどかされちゃった」

「何もしなければ、いくらクリスティ先生だって、どうもできはしないはずよ」

「そうよね、少し考えすぎよ、あたしたち……」

「とりあえずきょうのところは無事らしいわね。あと一時間ですもの……」

 その時フランソワの目とクリスティ先生の目がピッタリと合って、思わずことばをのみこんでしまった。先生は大きなとけいのほうをちらっと見ると、

「あと二、三分で終わるというのに、おまえたちはよほど重要な話があるようですね、何を話していたのか言いなさい。内容いかんでは許してあげます。さあ、ふたりとも立ちなさい」

 ふたりはたち上がったものの、話の内容を話すわけにはいかなかった。二度、三度クリスティ先生はふたりに話すように命じたがふたりは黙ってうつむくばかりでした。ちょうどその時鐘が鳴って、授業の終了を告げました。

「先生に話せないようなことなのですね。わかりました、わたしはこの休み時間にしなければならないことがあるので、罰は次の授業の時にいたします、起立!」

 先生は教室を出て行ってしまった。アデールが不思議そうにふたりの顔を見ていた。

「おバカさんね、さっきあれほど言ったじゃない、第一ラウンドは負けね、先が思いやられるわ、今からそんなふうじゃ一皮くらいじゃすまないわよ」

「ほんとうにばかなことしちゃった、情けなくなっちゃうわ」

 その時ひとりの生徒があわてて教室に戻って来た。入り口にいた二、三人の生徒になにごとか話すと次々に伝わって、庭に出ていた生徒たちにも伝えられた。〃テストよ〃〃次の時間はテストよ〃

 フランソワたちにも惰報は伝わって来た。次の地理・歴史の時間に抜き打ちテストが行なわれるというのだ、みんな壁にはってある大きな地図の前で地名や川の名まえをたしかめたり、机の中から教科書を出して読み返したりし始めた。

「急にテストなんてひどいわ、どうしましょう……」

「まあ、毎年恒例なんだけどもね、そろそろあると思ってたわ」

「まあひどい、教えてくれればいいのに、いじわるなアデール」

[ひとりを除いて落第点]

 本を開いて五分も過ぎないうちに鐘が鳴りはじめ、クリスティ先生がすぐにはいって来た、手には紙袋を持っていた。そして情報どおりテストは行なわれた。

 三十分間がまたたくまにすぎて、先生の指示どおり、最後列の生徒が自分の答案用紙を最前列の生徒に渡し、あとは順送りにすぐ後ろの生徒に自分の答案を渡して行った。

 これで全部の生徒が他人の答案用紙を持ったことになる。そこで先生が正解を発表し採点をさせるのだ。次々に正解が発表され、そのたびに、安堵と落胆とが入りまじったため息がもれた。フランソワは歴史に強いくせに地理はさっぱりだったし、ルイーズは反対に地理のほうが得意たった。アデールは落ち着いて採点していた。

 十分で採点は終わった。クリスティ先生はすぐに左の列から名まえと点数を読ませた。「ミシェール、七十二点」

「モニカ、六十八点」

「カテリーナ、七十一点」

「エレーヌ、六十二点」

「……七十五点」

「七十点」

「六十五点」

「七十二点」

 次々に読み上げられる点は、さんたんたるものだった、ただのひとりも八十点の合格点を取る者がいないのだから、自分の名まえが呼ばれるとみんな下を向いてしまった、その時……

「アデール、百点」

 思わずいっせいに後ろをふり向いた。この時ばかりはクリスティ先生も例外ではなかった。アデールは、顔を赤らめて下を向いてしまった。再び点数が読み上げられた、相変わらず六、七十点代の点数がつづき、次の列のトップはルイーズの答案だった。

「ルイーズ、七十四点」

 ルイーズはややほっとした。そしてその列が終わって次はフランソワの答案です。

「フランソワ、六十七点」

 正解の発表と聞いた時から、たいたいの見当はつけていたのだけれど、それにしても悪すぎた。心臓が破裂しそうだった。十九人全部が終わった。さいわい五十点代はひとりもいなかったが、予想どおりアデールをのぞく全負が八十点に達しなかった。

 あきらかにクリスティ先生はきげんが悪かった。しばらくはことばも出ないくらいだった。

「アデール、お立ちなさい。先生はあなたに感謝します。もしあなたがいなかったら、わたしはどうしたらよいのかわからなくなってしまったでしよう。とくに合格点というだけでなく、満点を取ったのですから。このことは院長先生にもご報告してなんらかのごほうびをあげましょう。本来ならば、残りの時間を自由時間にして上げたいのですが、きょうこのクラスには十八人のなまけものが罰を受けなくてはならないのです。あなたにお手伝いをお願いしたいのですが、いいですか」

「はい、先生、お手伝いいたします」

 先生のそばに歩いて行くアデールを、みんながうらやましそうに見つめていた。クリスティ先生は今度はうんとこわい顔をしてクラスじゅうをニラみつけた。みんな小さくなって首をすくめていた。

[笞数を計算して]

「あなたがたには何も説明する必要はないと思います。これくらいのことで全員不合格とはなんということです。許せません。全員罰を与えます。黒いドロワースをはいている者がいたら前に出なさい……」

 その日にかぎって、誰もいなかった。フランソワは三日前に終わってしまったし、ルイーズはまだ十日も先のことだった。

「ひとりもいないのですね、よろしい。アデール、答案用紙を集めてください。百点から各自の得点を引いて、残った数を三で割りなさい。余りの出た分は一回加えてください。それが笞の数になります」

 みんなそれぞれ暗算をはじめた。フランソワは100マイナス67イコール33、割ることの3は……11、ルイーズ、100マイナ74イコール26割る3は……3X8、24で2余るから8プラス1で9回……。あと1点で8回だったのに損をしてしまったなあ、それぞれ自分の打たれる数を計算して青くなっていました。

「計算終わりました」

「机の上に置いてください。あなたはそこにいて、数を読み上げてもらいましょうか。それに、机にひとりずつのせていたのでは時間がかかりすぎます。イスを使いましょう」

「でも……先生、イスじゃがまんできませんわ……とても痛いんですから……それでやり直しをさせられれば数をふやすでしょ、それじゃ……」

「そうですね、わたしの笞をイスに手をついただけで五回以上しんぼうできる人はめったにいませんからね。それでは……アデール、あなに押えてもらいましょうか、頭をはさんでやってくださいね、ほんとに大仕事ですよわたしのクラスにこんなになまけ者がいるとは思いませんでした。院長先生になんとご報告すればいいのか……しかも、七十点も取れなかった者が六人もいるのですね、しょうのない……この六人はほかの人と同じというわけにはゆきませんね、あとでわたしといっしょに院長先生のところに行くのですよ、いいね、さあ、始めますよ。ぐずぐずしないでお立ちなさい。教室の壁にそってずうっと一列に並びなさい」

 机の間を通って自分の番のところに順序よくならんでゆく。この行列はまるで葬式の参列者たちのようだった。みんな一様に黙って下を向いていた。なかでも最低点を取ったエレーヌは、あの大きな目にうっすらと涙さえ浮かべていた。

 フランソワは六人のうちのひとりに自分がいるということだけで、すっかり気が転倒してしまった。ルイーズはほんの少しでも、先生の怒りをそらすことができたので、いくらか落ち着いてはいたものの、あのしなやかな黒光りしている鞭で9回もたたかれるのは、やはりゆうつだった、よく通る澄んだアデールの声が教室じゅうにひびく。

「ミシェール、72点、笞数、10回です」

[十八人の〃合唱隊〃]

「アデール、お願いしましたよ、しっかりとはさんでくださいね。さあ、ミシェール、早くしなさい」

 クリスティ先生は手に皮ムチを持って、まるで羊を迫うように、ミシェールをいそがせた。半ば足を開いて立っているアデールのその両足の中に、ミシェールは頭を入れた。

 ゆったりとした制服は、その頭のはいったところに深いひだを作り、アデールの足はしっかりとミシェールの頭をしめつけた。そして両手で腰のところをぐっともち上げるような形で手を回した。

 先生は少しのためらいもみせずに、ミシェールのお尻をみんなの前にさらした。ほっそりとした体型のミシェールは、その少年のようなキュンと持ち上がった小さなお尻に、ニ日前みんなの前で笞をいただいたばかりだった。

 その跡がまだうっすらと残っていた。クリスティ先生はちよっと手でさわって笞跡をしらべていたが、たいしたことはないのですぐにおしおきを始めた。

 先生の打ち方はいつもよりだいぶ速く、ビシ、ビシとつづけざまに打ち込んで、あっという間に10画たたかれた。ミシェールはお尻をまっかにはれ上がらせて泣いた。

 次々に教壇の上に現われるお尻にはみんな笞の跡がうっすらと、または、はっきりとついた。

 しかし、クリスティ先生はほとんどそのことにはおかまいなしに、次々にアデールの読み上げる笞数を消化していった。

 左側の葬列が短くなり、右側に泣き声の合唱隊ができた。ルイーズの時、先生は前の時間にオシャベリをしていたのを思い出して、その分として平手打ちを3回加えることを忘れなかった。そしていよいよフランソワのところまで来てしまった。教壇に上がるとアデールと顔が合った。

「さあ、いらっしゃい、しっかり押えていて上げるからだいじょうぶよ」

 フランソワは頭を下げ、アデールの足の間にさし込んだ。ギュッと両側からしめつけられると、もうなにも聞こえなくなってしまった。両方の耳がアデールの太ももにびったりと押えつけられていた。その足のぬくもりが制服の布を通して、あたたかく伝わって来た。

 アデールの手がウエストのところをかかえると同時にふわっと、足のほうから風が起こり、次の瞬間、ひんやりとした風が肌に感じられた。先生は大きな声で前の時間のオシャベリのことを言っているらしいのですが、はっきりとは聞き取れませんでした。

 しかしその証拠に3回の平手打ちが加えられたのです。それかち鞭が音もなく、お尻に襲いかかって来るのでした。

 一つ、二つ、三つ、四つ、

 五回までは心の手でかぞえたのですが、たまらずひざをつきそうになり、そのたびにアデールがぐっともち上げます。涙が鼻をつたって、アデールの制服にしみ込んでしまいます。 そして、ようやく許されてフランソワも合唱隊の仲間入りをしました。あと四人で十八人の合唱隊全部がそろいます。フランソワはソプラノのパートを受け持ったように、ヒイヒイと悲鳴を上げて泣いていました。

 やがて最後のひとりも終わり、すすり泣きの大合唱が完成しました。クリスティ先生は鞭を元に戻すと右手を二、三度振っていました。

「先生、見て! わたしの制服、こんなになってしまいました……」

 アデールの制服の前の部分はまるで水をかけたようにぬれていました、十八人分の涙です。クリスティ先生は手でさわってみると、

「まあ、こんなになって……わたしのお部屋に着替えがあるから行って替えていらっしゃい。もうこちらに戻らなくてもよくってよ。ご苦労きまでしたね、もう授業時間も少しですから、わたしは六人の生徒を連れて院長先生のところに行きます」

[札をさげて立たされて]

 アデールを先に出すと、クリスティ先生はきょうのテストで70点以下だった六人の生徒を集め、ほかの生徒には時間まで自分の席にすわっているように命じて教室を出ました。フランソワたち六人は、その後ろについて行きました。

 クリスティ先生の報告を聞いて、院長先生はたいそうふきげんな態度で、いつになくクリスティ先生にもきびしい声で話していました。

「先生、あなたは少し生徒たちを甘やかしているのではありませんか。当然罰は与えたと思いますが、どうでしょう、足りないというようなことはありませんか。いかがです?」

「はい、申しわけございません。きょうのところはじゅうぶん懲らしめたつもりでおりますが……一応、院長先生のご指示をいただきたいと思いまして」

「わかりました。では生徒をわたしの前に並べてください。さあ、みんなこちらに来て、どんなおしおきを受けたのかわたしに見せておくれ」

 六人の生徒は回れ右をして、院長先生に後ろを向けると自分ですそをまくり、たった今たたかれたばかりのお尻を、院長先生に見ていただきました。それぞれ十本以上のみみずばれがまた赤くふくらんでいました。ひとりずつていねいに見て回り、そして元の位置に戻ると、

「これ以上、たたくのだけは許してあげましょう。色の変わらないうちに薬を付けておいたほうがいい。クリスティ先生、そこに消毒薬と油があります。ふたりずつ組み合わせて薬を付けさせてやりなさい」

 ふたりが一組になってお互いに薬をつけましたが、その消毒薬はヒリヒリとしみて、みんな思わずボロボロと涙をこぼしてしまいました。

 院長先生がにらんでいるので、たっぶりつけなくてはなりません。

 そして油をつけ終わると、院長先生は机の引き出しから紙のフダを六枚出し、その一枚ずつに大きな字でこう書きました。

  わたしはナマケ者です。それで、お尻打ちのおしおきをされました。

  わたしのようなナマケ者にならないように。   上級クラス フランソワ

「きょう一日、これを首から下げていなさい。手で隠したりしたら背中のほうにも下げますよ、そして夕食後一時間部屋の外に立っていなさい」

 それは全く見せものでした。大きな生徒が首から札を下げて立たされているというニュースは、すぐに広まって、おチビさんたちがみんな見に来ました。

「あら、あそこに立っているのはモニカじゃない」

「こっち側に立たされてるの気どり屋さんのエレーヌよ、あの気どり屋さんがたたされてるわ」

「フランソワもいるわ、札にはなんて書いてあるの?」

「まあ、お尻をたたかれたんですって、平手打ちかしら?」

「ばかね! クリスティ先生はいつだって皮ムチを使うのよ、知らないの、あんた」

「だってあたしは、クリスティ先生にたたかれたことないもの」

「あなたなんて、クリスティ先生の笞をいただいたら、目を回してしまうわよ、とても痛いんですって」

「そう、フランソワお姉さん、かわいそうにね」

 フランソワもここに来てからいろいろと恥ずかしいめにあいましたが、立たされるのがこんなに恥ずかしいとは思いませんでした。まるで裸で町に飛び出したような恥ずかしさです。

 こうして始まったフランソワとルイーズの仕上げは、次々にふたりの上にふりかかって来るのでした。

 三日めには、もうふたりともくたくたになってしまいました。

 影におびえ足音が聞こえると、クリスティ先生ではないかと心配し、さすがのルイーズも足がふるえる始末です。そして五日めには予定どおり、すっかりお尻の皮を一皮むかれてしまいました。

 次の日は院長先生の許可をいただいて、ふたともベッドで休んでいました。

 しかし、クリスティ先生は、休み時間のたびに来て、油を塗っては、マッサージをして行くのでした。それが、とても意地悪なやり方で、そのたびにふたりとも、せっかく忘れかけていた痛みを、思い出させられてしまうのでした。

 それから四日、痛みもすっかりとれ、お尻の皮も元どおりに美しく、いや、元よりもさらにいっそう、美しさを増してきているようでした。

「あと二日、あと二日たてば、お家に帰れるあ−あ、待ち遠しい」

「フランソワ、あたし、町に行きたいわ、帰ったら、すぐに行きましょうね」

 ふたりはしっかりと手をにぎり合って、目を輝かせるのでした。

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