第4話 by 多香美じかん
宇田川が走り寄って由梨子に飛びかかった。
悲鳴をあげる由梨子と静江。
「おい松下っ、!
逃げられたら元も子も無いぞ!」
由梨子を羽交い締めにして、宇田川が叫んだ。
悟は、はじかれたように静江に飛びかかった。
悟の頭突きを鳩尾のあたりに食らった静江は
その場に座り込んでしまう。
由梨子は宇田川に羽交い締めにされた体を必死に
揺すって逃れようとしたが、男の腕力には勝てず、
ズルズルと店の奥へと引きずられていってしまう。
「いやっ、放してっ!
何するのっ!」
由梨子の喚き声が響きわたる。
悟は、床にうずくまっている静江の右腕を、グイッ
と背中にひねり上げ、その場に立ち上らせる。
「痛いっ、放して!」
悟はそのまま静江を店の奥の、由梨子の近くへ
引き立てた。
由梨子は両腕を背中にひねり上げられ、手錠をかけられ
た。そして、カウンターの側にあった丸椅子にお腹を押
しつけられる。
「やめてっ、何をするの!」
宇田川は片手で由梨子を押さえつけ、もう片方の手で、
カウンターの上に置いてあったロープの束を素早く拾
い上げ、それで由梨子の体を丸椅子にグルグル巻きに
縛りつけらようとする。
「いやっ、やめてっ!」
足をバタつかせ激しく抵抗する由梨子。
「おとなしくしろ!」
「いやっ!」
みるみるうちに由梨子は、丸椅子にお腹を押し当てたま
ま固定されてゆく。
静江は悟の頭突きをうけた鳩尾の痛みがあまりにも衝撃
的だったため、抵抗する気力を失っていた。悟に片手を
背中にひねりあげられた体を恐怖に震わせて、縛り付け
られてゆく娘を狼狽しながら見つめている。
「ようし、一丁あがり!」
由梨子を縛り付け終えた宇田川は、嬉しそうに叫んで、
悟に取りおさえられている静江に視線を向けた。
「さァ、奥様もこっちへいらして下さい。
娘さんと同じ格好をしてもらいます。」
悟が邪険に静江の背を押す。
ふらついて前へ歩み出る静江。
その体を宇田川が受け止め、由梨子と同じように
背中で手錠がけし、由梨子のとなりの丸椅子に縛り付け
ようとする。
「いやっ、放して下さいっ!
どうしてこんな事をするんですか!」
「復讐だって言ったでしょ。
どうしてこんな格好に固定されるかは、
そのうち解りますよ。」
「放しなさいっ!
こんな事が許されると思っているのですか!?」
ヒステリックな声をあげる静江。
すると、宇田川が突然ドスの効いた声で怒鳴った。
「お前こそ、そんな態度が許されると思ってるのか!」
その迫力に静江は怖じ気づいていしまい、
あっという間に、由梨子の右隣に、由梨子と同じ態勢で
丸椅子に縛りつけられてしまうのだった。
宇田川はフーッと満足そうに息をついた。
目の前には、由梨子と静江が、両手を背中で手錠がけさ
れ、丸椅子に縛り付けられた体をくねらせ、もがいている。
「もっと大きな声で、
悲鳴をあげたり助けを呼んだりしていいですよ。
外にはほとんど聞こえませんから。
聞こえたとしても、近くには誰もいませんけどね。
ここは、僕の死んだ親父が経営していたプールバーでね、
もちろん今はこの通りつぶれちゃってますが・・・。
声が外にもれない事、ほとんど近くに人がいない事も
ちゃんと知ってるんですよ。
この上にスナックがあったでしょ?
ほら、さっき由梨子さんが、汚らしい、って
言った、あのお店です。
あれも親父の店だったんですが、死んでしまったので
廃業したんですよ。今は空き家です。
だから、夜になっても人が来ないんですよ、
この場所は。」
「汚らしい店、って言われたのか?
ハハハ、由梨子らしい発言だな。
松下の親父さんも
草葉の陰でカチンときただろうに。
そういう失礼な事を二度と言わせないよう、
たっぷり、お仕置きしてやろう。」
宇田川は含み笑いをしてそう言うと、
悟に顎で合図した。
悟は、血走った目になり、
「僕からやるんですか?」
と、宇田川に聞いた。
「ああ。
言い出しっぺはお前だし、俺は楽しみは後にとって
おく性分でね。」
「よーし、じゃあ、やらさせてもらいます。」
「なめられないようにしっかりやれよ。
少しでも甘い顔見せると、女ってのはそこに
つけ込んでくるからな。」
「はい。」
悟はゆっくりと歩き、
縛りつけられている二人の前にまわった。