第5話 by 多香美じかん

お腹を丸椅子に押し当てたまま身動き出来ない二人を見
下ろし、自分を奮い立たせようとしている悟。
由梨子が顔をあげた。

「悟くん、お願い、冷静になって。
今、私たちを助けてくれたら、あなたの事は
決してパパにも警察にも言わないわ。
私が責任持って約束するから、
お願い・・・」

由梨子が悟を説得しようと、そこまで言いかけた時、
宇田川は、由梨子の美しい栗色の髪を掴み、グイと
引き上げた。

「おい、こらっ!
松下の気の弱さにつけ込もう、ったって、
そうはいかねェぞ!
綺麗な顔してるくせに、考える事は汚ねェなァ。」

宇田川が由梨子を口汚く罵る。
死ぬほど愛したのに、由梨子からは一切相手にされず、
その積り積もった報われない愛は、今、憎しみに変わっ
てしまったのだ。

「さァ、松下、始めろ!」

「はい。」

松下はしゃがんで、宇田川に髪をしごかれている由梨子
の顔を覗き込んだ。

「由梨子さん、僕とあなたは幼なじみでしたね。」

「・・・・、ええ、そうよ。
なのにどうしてこんなひどい事をするの!?」

「思い出して下さい。
僕がまだ幼稚園に通ってる頃、由梨子さんのママゴト遊び
に入れてもらった事がよくありましたね。」

「・・・・・」

「いつも由梨子さんは僕のお母さん役でした。
或る時、僕が、由梨子さんが汲んだコップの水を誤って
こぼしてしまった時、
・・・・、由梨子さん、あなた、
僕に何をしたか、憶えてます?」

「憶えていないわ、そんな事。
・・・私が何をしたと言うの!?」

「お尻ぺんぺんです。」

「・・・・・・」

「こんな悪い子はお仕置きよ、って言って、
僕のお尻を叩いたんですよ。」

「・・・・」

「それもズボンとパンツをおろして・・・。
僕はとっても恥かしかった。
恥かしくって泣いちゃいましたよ。
他の女の子も2、3人いて、本当に恥かし
かったんです。」

「だ、だから何なの!?
まさか、そんな子供の頃のママゴト遊びの事を
恨んでいるんじゃないでしょうね!?」

「ピンポーン、正解です。」

「な、なんですって!?」

「僕はずーっと、ずーっと、
あなたに仕返ししてやりたい、と思っていたんですよ。」

「そ、そんな馬鹿な!ふざけないで!」

「ふざけてなんかいませんよ!
やっと今日、その20年前の仕返しが出来るんです。
それが、僕の復讐なんですよ。
あなたがそんな格好に縛るつけられているのも、それが
理由です。僕は由梨子さんにお尻ぺんぺんのお仕置きを
するんです。」

「あ、あなた、正気なの!?
そ、そんな子供の時の事根に持って・・・。」

「僕はおかげで正常なSEXでは
満足出来ない体になりました。
幼児期に由梨子さんから受けたあの屈辱のせいで、
僕はあなたのお尻を叩く事だけを夢見て
自分を慰めてきたのです。
僕は変態になってしまったのです。
あなたが悪いのですよ、由梨子さん!」

「そ、そんな馬鹿な言いがかり、ってないわ!」
仮にママゴト遊びでそんな事したからって、
真似事でやったのだし、
本気で叩いたりしてないはずよっ!」

「本気で叩いたとか叩かなかったとか、
そんな事は問題じゃあ、ありませんよ!
叩かれた肉体的痛みが辛かったんじゃない。
年上の女の子にお尻をまくられて叩かれる、という
精神的痛みが辛かったのです。」

「・・・・・」

「いいです。
お尻ぺんぺんがどんなに辛くて恥かしいものか、
今から、骨身にしみる程、味わってもらいますから。」

悟はそう言うと、由梨子の後ろにまわって、花柄のワン
ピースの裾をゆっくりと捲り始めるのだった。
たちまち悲鳴を上げる由梨子。

「いやっ、やめてーっ!」

「由梨子さん、あなただって僕のお尻を丸出しに
したじゃありませんか?
あの恥かしさをちゃんと理解してもらわないとね・・・。」

由梨子は悟がこんな恐ろしい男であった事に驚いていた。
年下の、気の小さな男の子だった。
それが自分に対して敵意と怨念を持った変質者だったとは、
信じられない事であった。
由梨子は恐怖に慄いた。

つづく

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