第10話 by 多香美じかん

白川母娘にお仕置きをしてから10日程たった。
名古屋の宇田川が、悟と電話で話している。

「宇田川さん、もう我慢出来ませんよ。
はやく由梨子たちを呼び出しましょうよ。
名古屋からの新幹線代なら、僕が出してあげても
いいですよ。」

「馬鹿野郎、新幹線代ぐらいあるよ。馬鹿にするな。」

「だったら、はやく・・・。」

「まァ、待てよ。」

「どうしてですか?こっちには写真があるンですから、
呼び出せば絶対にやって来ますよ。
そしてまたあの大きなお尻を・・・」

「落ち着け落ち着け。
俺だって、あの感触が忘れられなくて
毎日オナニーしてるくらいさ。」

「だったら、なぜ?
もう鼻血出ちゃいますよォ。」

「ガツガツしないで、ゆっくり楽しもうぜ。
もう、俺達のお仕置きは始ったんだ。
焦る事はない。」

「で、でも・・・」

「いつ俺達から呼び出しがかかるか、びくびくしている
あの母娘を想像してみろよ。ワクワクするぜ。
今度お仕置きする時の楽しさも、それだけ大きく
膨らむ、ってもんだ。」

「そんなもんですかねェ?」

「そんなもんだよ。まァ、俺にまかせておけよ。
来週そっちに行くから、その時に、またあの母娘を
やっつけよう。」

「絶対ですよ、宇田川さん。」

宇田川は悟との電話を終え、フーッと息をついた。
朝、家を出る前の忙しい時間にかかってきた電話だった。

「(あーあ、8時になっちゃうじゃないか。
仕方が無い。バス1本遅らそう。駅から会社まで走れば
なんとか間に合うだろう。
まったくこんな朝っぱらから、あの野郎、
とんでもないヤツだ。自分は代休だか何だか知らないけど
こっちは出社前なんだからよ。
ま、無理もないか。ずっと思い続けた事だもんな。
俺だってあれから夜は眠れないほど
興奮してるんだから。)」

宇田川は心の中でそうつぶやきながら、家を出てバスに
乗った。
バスに揺られながらも、宇田川はずっと由梨子と静江に
お仕置きした時の事を思い出していた。
あの時の由梨子と静江の泣き叫ぶ顔を思い出すと、
通勤ラッシュも全然辛くなかった。
バスを降り、地下鉄に乗り換える。
東京の本社勤務の時は通勤時間2時間は当たり前だったが、
名古屋では1時間かからないのが普通であった。
地下鉄を降り、改札を抜け、会社に向かって走り出した時、
すれ違う人と肩がぶつかり、持っていた鞄が飛ばされた。

「痛ェな、このヤロ!」

思わずそう怒鳴って振り向くと、そこには見覚えのある
顔が立っていた。
糸崎である。大学のテニス部の後輩で、白川由梨子の婚
約者、糸崎健一である。

「糸、糸崎・・・。」

「ああっ、宇田川さんじゃないですか!」

糸崎は学生時代と変わらぬさわやかな笑顔で、はつらつ
とした声で宇田川の名を叫んだ。
地面に転がっている宇田川の鞄を拾い上げ、すみません、
とペコリ頭をさげる。

「あ、いや、俺が悪いんだ。急いでいたから。
でも、どうして?こんな所で会うなんて・・・・。」

「仕事で大阪まで来てまして、
今日の午後、東京に戻るんですが、
その前にちょっと実家に寄って行こうかな、
と思いまして・・・。」

「あ、そうか、お前、名古屋出身だったな、そういえば。」

「はい。でも、宇田川さんは?」

「え?俺か?
・・・飛ばされたんだよ。」

「またまた、そんな事言ってェ。」

「いや、ちょっとにこっち関係でしくじっちゃってサ、
それで・・・・。」

宇田川が小指を立ててそう言うと、糸崎は驚き、

「本当ですか?
それは災難ですねェ。でも、宇田川さんらしいや。」

と言って笑い出した。
道行くラッシュの人がジロジロ見る。

「笑いすぎだよ、お前。」

「あ、すみません。」

「でも、わざわざ途中下車して実家に顔出すなんて、
偉いなァ、お前は。」

「いえ、ちょっと両親に報告する事があって・・・。」

「あっ、そうか!結婚だ!
白川由梨子と婚約したんだってな、おめでとう。」

「なんで知ってるンですか?」

「・・・俺、由梨子のファンだったから。
それに社長の娘が婚約したニュースなんて、
社内じゃ知らないヤツいないよ。」

「そうか、宇田川さん、由梨子の親父さんの会社に
就職したんでしたよね。
でも、宇田川さんが飛ばされた事、
由梨子知ってるのかなァ。
知ってたら、なんとか親父さんに
言ってあげればいいのに・・・。」

「知ってる何も、俺を飛ばしたのは由梨子だよ。」

「え?」

「あ、いや、・・・・・・そんな事より、
由梨子とお前うまく行ってるの?」

「ええっ?・・・当たり前じゃないですか。
婚約したばかりですよ。」

「うーん、そうかァ・・・。」

「何かあるんですか?」

宇田川は、少しためらい気味の演技をして、小声で、

「いや、その由梨子ってサ、
ちょっと変わった性癖があるから。」

と言った。
目を丸くして驚く糸崎。

「何ですか、いきなり・・・・」

「いや、由梨子の幼なじみだ、っていう男と
知り合ってね、
由梨子が高校時代に付き合ってた男との話を
ちょっと聞いたんだ。」

「どういう話ですか?」

「内緒にした方がいいのかなァ、由梨子のためには。」

「今更、何です!」

糸崎が怪訝そうに宇田川の顔を見る。

「いや、俺も黙ってりゃあいいんだけど、
由梨子の事もお前の事も好きだからさァ、
心配なんだよ。」

「だから何なんです?」

「怒るなよ、心配してるんだから。」

「・・・すみません。
それで、由梨子のどこがおかしい、
って言うンですか?」

「いや、聞いた話ではね、
由梨子はスパンキングが好きらしいんだよ。」

「スパンキング?
・・・スパンキング、って、あのお尻叩くヤツですか?」

「ああ、そうだ。由梨子はお尻を叩かれないと
快楽を得られない女らしい。」

糸崎はまた大声で笑い出した。

「冗談にもなりませんよ、馬鹿馬鹿しい。
由梨子はそんなおかしな性癖の女じゃありませんよ。
僕が一番良く知っています。」

「よっぽど自信があるみたいだな。
・・・でも、安心したよ。」

「そんなの嘘に決まってるじゃありませんか。
どうせ、由梨子に振られた情けない男が
逆恨みして流してるデマですよ。」

宇田川の眉が痙攣した。

「そうか。ならいいンだけど。
でも、その高校生時代の由梨子の彼氏は、
SEXのたびに由梨子がお尻叩いてくれって
言うんで気味悪がって逃げ出しちゃったそうなんだよ。」

「そんな事信じる方がどうかしてますよ、宇田川さん。」

「いや、俺も思い当たる節が無い事もなかったから・・・。」

「ええ?何ですか?
宇田川さんが思い当たる事、って?」

「いや、夏の合宿の時にね、
由梨子があんまり凡ミスばっかりするんで、
俺がちょっと怒ったらサ、あいつ、俺に、
今度ミスしたら罰としてお尻叩いて下さい、
って言ったンだよ。
普通、女の子からそんな事を男に言わないだろ?」

「・・・、由梨子は真剣だったんですよ。
あんまり変な事言わないで下さいよ、宇田川さん。」

「ごめんごめん、ちょおと心配だっただけだよ。
あ、いけね、遅刻だァ!
じゃ、糸崎、由梨子によろしくな!」

宇田川はそう言って、また走り出した。心の中でベーッと舌を
出して・・・。

「(糸崎の野郎、俺が由梨子のケツ
ぶっ叩いたとも知らないで・・・)」

30分も遅刻し、上司から叱られた宇田川だったが、
心の中は痛快でならなかった。

つづく

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