第19話 by 多香美じかん

午後1時きっかりにドアがノックされた。
宇田川がドアを開けると悲痛な表情の静江が立っていた。
今日の静江は、縮緬地に浪柄を染めた藤色の小紋、それに
白地の名古屋帯という、あでやかな和服姿だった。
思いつめたような暗い表情と、その豪奢な装いの落差が
激しい。

「今日はちゃんと時間通りに来たじゃないか。」

宇田川は満足そうに言った。

「よっぽど、この前のお仕置きが堪えたんですね。」

ドアを開けた宇田川の少し後ろに立っていた悟が、ニヤ
ニヤしながらそう言った。

由梨子と静江は、あの滑稽な母娘お仕置きショーを演じ
させられた後も更に、遅刻した罰という事で、テニスラ
ケットや皮鞭、パドルなどで、死ぬほど尻をぶちのめさ
れた。狂ったように泣き叫ぶ二人の、その美しい臀部は、
最後には感覚が麻痺してしまい、失神寸前の状態にまで
追い込まれたのであった。

「ん?・・・由梨子はどうしたんだ?」

店の中に静江を向かい入れた宇田川は、由梨子の姿が見
えない事に気がついた。
うつむいていた静江が顔をあげ、宇田川と悟を悲壮な表
情で見つめる。

「今日の事は由梨子には話しておりません。」

静江はそう言うと突然その場に身を沈め、跪いた。

「お、お願いです。
由梨子の、由梨子の事は、どうか許して下さい。」

「何だとォ?」

宇田川が声を荒らげて、土下座している静江に聞き返す。
静江はしなやかな白い指先を床につき、声を震わせなが
ら、もう一度言った。

「由梨子の事を、どうか許して下さい。」

宇田川はペッと唾を吐き、

「寝言言ってるンじゃねェぞ!」

と怒鳴った。

「由梨子の罰は母親の私が受けます。
私が二人分のお仕置きを受けますから、
ど、どうか由梨子の事はもう許してやって下さい。
お願いです。」

額が床につくほど頭を低く下げ、静江は涙を流して許し
を乞う。

「由梨子は婚約しているんです。
このまま哀しみにくれる毎日では、結婚も駄目に
なってしまいます。
どうか、どうかお察し下さい!」

「笑わせるな!
俺はその結婚が気に入らないんだ。」

「こ、ここに500百万円用意してまいりました。
これで、由梨子が写っている写真とネガを私に売
って下さいっ!」

静江はそう言って、バッグから札束の入った封筒を取出す。
宇田川も悟も、一瞬驚いた。
静江はさらに、

「足りないとおっしゃるのなら、
また用意いたします。
いくらでも都合します。
ですから、どうか、
あの写真とネガを売って下さい!
お願します。」

と続けた。
宇田川はわざと呆れたような口調で、

「金持ちはすぐこれだ。
金さえ出せば全て済む、と思ってやがる。」

と言って、しゃがんでその札束の入った封筒を静江の手
からひったくり、それで静江の涙に濡れた頬をパチパチ
とはたいた。

「俺達は由梨子にお仕置きしてるんだ。
由梨子が心から反省し、性格のいい娘になるよ
うに願ってるんだぜ。
金なんて問題じゃねェんだよ!
俺や松下が由梨子に傷つけられた心は、
金をいくらつんでもらっても
治りはしないんだっ!」

「お、お仕置きはちゃんと私が受けます。
だから、・・・だから由梨子だけは・・・。」

静江は、熱いものが喉元にこみあがってくるのを堪え、
必死に頭を下げる。
宇田川はしばらく黙っていたが、

「親の愛情ってのは凄いな。
娘のためなら、
自分はどうなってもいいというのか。」

と言った。
静江は顔をあげ、その言葉にすがるように、

「どんな辛いお仕置きも受けます。
どんな事でもしますから、
どうか由梨子だけは・・・。」

と言うのだった。

「どんな事でもするんだな?」

「・・・・はい。」

静江は消え入るようにうなずいた。

「ようし、立て。」

宇田川が静江にそう命令すると、悟が、

「宇田川さん、由梨子の事許すんですか?」

と聞いた。
すると宇田川は、

「それはこの奥様のこれからの態度次第だ。」

と言ってしゃがみこみこんだ。
そして、静江の、その豪奢な着物の裾をパンパンと手で
払った。床に正座したため、草花の淡彩を描いた裾が少
し汚れたので、埃をはらったのだ。
宇田川は、そんな優しさを意味あり気に静江に見せつけ、
恐怖に震える表情を楽しんでいるのである。

「奥様が、これから俺達の命令に従順に従い、
素直にお仕置きを受けるというのなら、
由梨子さんの事は考えてあげましょう。」

「本、本当ですか?」

「ええ。
そのかわり、奥様が俺達の命令に逆らう事は
絶対に許しません。
もし逆らったら、今から由梨子さんもここへ呼
び、この間よりも辛い目にあわせます。
いいですね?」

「私、覚悟を決めてまいりました。
由梨子を、・・・由梨子を許して下さると
約束して下さるのなら・・・・、
何でもおっしゃる通りにいたします。」

静江は、宇田川をすがるように見つめていた瞳を哀しげ
に伏せて、消え入るようにそう言った。
宇田川の非情な命令がくだる。

「よし。
まずその豪華な着物を脱げ。
裸になるんだ。」

「えっ!?」

水でも浴びせられたように、思わず顔をあげる静江。

「聞こえなかったのか?
着物を脱いで裸になれ、って言ったんだ。」

「裸って・・・・。」

「裸だよ。生まれたまんまの素っ裸。」

「そ、そんな・・・。」

宇田川はフンと笑って、

「なんだい?
何でもおっしゃる通りにいたします、
ってのは嘘だったのか?
カッコつけやがって。」

と言った。そして悟の方に顔を向け、

「おい、松下!
由梨子を呼び出せ!」

と大きな声で言った。

「待、待って下さいっ!」

慌てて静江が叫ぶ。

「さっき言ったろう?
奥様が俺達の命令に背けば、
由梨子を呼び出して、
過去最高のお仕置きを母娘で味わってもらう、
って。」

「由梨子だけは、由梨子だけは・・・。」

涙がこみあげてきて、静江は両手で顔を覆い、声をあげ
て泣き始めた。

「何なんだよ、いったい。
裸になるのか、由梨子を呼ぶのか、
どっちにするか、はっきりしろ!」

「な、なります。裸になりますから、
由梨子の事は許してっ!」

「だったらさっさと脱ぎな。」

「わ、わかりました。」

静江はすすりあげながら、若草色の帯紐をキュッと引き
抜き、白綸子の帯あげを緩め、帯締を解き始める。
悟が生唾を飲み込む。

静江が小紋の着物を肩から滑り落とすように脱ぐと、
尻だけを剥いていたこれまでのお仕置きの際とは、また
違う色気が感じられ、宇田川も悟もズボンが破れてしま
うのではないか、と思うくらいの激しい勢いを股間に感
じて、息が荒くなるのだった。
湯文字一枚の姿になった静江は両腕を交差させて胸を隠
し、小刻みに震えながら、

「・・・・脱ぎました。」

と言った。

「素っ裸になれ、と言ったはずだぜ。」

「・・・・・」

「今更恥かしがる事ないじゃありませんか?
奥様はもう僕や宇田川さんにはお尻の穴まで
はっきり見られてるんですよ。」

宇田川と悟の言葉に、静江は泣き崩れそうになったが、
娘を守るためだと心に言い聞かせ、湯文字へと指先を伸
ばした。艶めかしい水色地の湯文字が、床にずりおちる。
すると、静江は和服用の薄いパンティーを、はいていた。
ぴっちりと静江の肌に張り付いているようなベージュ色
のそれを目にした宇田川は、

「もったいぶるねェ。
さァ、さっさとそれも脱ぐんだ!」

と言った。
すべてをあきらめたように静江は、そのパンティーを脱
ぎ、片方ずつ足を浮かせて、静かに抜き取るのだった。
宇田川は静江の手からそのパンティーを奪い取ると、そ
っと匂いを嗅いだ。

「うーん、いい匂いだ。」

そう言った宇田川は、悟にそのパンティーを放り投げ、

「お前も嗅いでみろ!」

と楽しそうに叫んだ。
宇田川から受け取ったそれに悟は顔面を埋め、まるで犬
のようにクンクンと何度も匂いを嗅ぐのだった。

「ああ、この匂い、たまんないッス!
それに奥様の体にぴっちり密着していたんで、
何か、ほんわかとぬくもりがありますね、コレ。
あったかいです!」

悟は幸せそうな表情でそう言うと、そのパンティーを透
かして見る真似をしてみたり、頭からかぶったりして、
戯れるのだった。

全裸になっただけでも魂が凍りつくような恥かしさなの
に、目の前で自分の脱いだ下着の匂いを嗅がれたりして
遊ばれ、静江はひきつったような声で泣き出すのだった。
やがて悟は、

「あれ、なんだ?
・・・・ああっ、下り物がついてるゥ!」

と言って、パンティーのその部分をパクッと口にふくむ。
静江は身の毛もよだつ恥辱と凍りつくような屈辱に耐え
られず、その場にしゃがみこんでしまうのだった。
すかさず、宇田川の叱声が飛ぶ。

「誰が座っていい、と言った!?」

恐怖に怯えながら、ふたたび立ち上る静江。

「白足袋も脱げ!
糸くず1本、身につける事は許さん!」

静江は素直に白足袋を脱ぎ、正真正銘の素っ裸になった。
左手で胸を、右手で股の部分を隠し、静江はややうつむ
き加減で立っている。座る事は許されないのだ。

静江の透き通るような肌の色の白さは、まるで発光して
いるみたいに悟と宇田川の目には映った。

「肝心な所を隠してちゃあ駄目ですよ、奥様。」

宇田川は静江の耳元でそう囁くと、
次は大声で、

「気を付けーっ!」

と号令をかけた。
静江はビクッと肩先を震わせ、胸や股の部分から静かに
手をどけて、命令通り、気を付けの姿勢をとる。
やや垂れてはいるものの形の良い乳房、そして年齢から
は絶対想像出来ないピンクの乳首、秘部を覆い隠す茂み
さえも、その毛並みにどことなく気品が感じられる。
やはり、そんじょそこらの綺麗な熟女とは格の違う美し
さである事を、改めて悟と宇田川は痛感した。

哀しげに目を伏せていた静江は、首に何か冷たい感触を
感じて目を開けた。
なんと、宇田川が飼い犬用の首輪を自分の首に装着しよ
うとしていたのだ。

「そ、そんなっ!
いやっ、やめてっ!」

宇田川の手を振り払おうとした時にはもう遅く、首輪は
もう完全に静江の首に巻き付いていた。

「犬になれ。」

宇田川が低い声で言った。

「え?」

戸惑う静江。

「四つん這いになって、犬みたいに歩くんだ。」

宇田川の信じられないような命令に、静江の表情は
世にも哀しげに歪んでゆくのだった。

つづく

INDEX