第25話 by 多香美じかん

道代、悟、宇田川の3人は、息をひそめて、
白川家の広い廊下を歩いている。
道代が咄嗟に夢中で盗み出した鍵で玄関を開け、
ついに白川家に討ち入りしたのである。
バスルームの方からシャワーの音がかすかに聞こえてき
た。
宇田川と悟は、白川家にあがるのは初めてだったが、
この家の事を知り尽くした道代を先頭に、スムーズに前
進してゆく。
脱衣場に脱いである服から、入浴しているのは静江であ
る事がわかると、宇田川は、

「由梨子を先に捕まえよう。
騒がれたり大きな物音がしても
入浴中の奥様には聞こえないだろうから。
好都合だ。またまた神様が味方してくれたよ。」

と、息を殺して言った。
すると、道代が、

「お嬢様はたぶん、
御自分の部屋でお休みになっていると思うわ。」

と低い声で言って、
2階にある由梨子の部屋へ宇田川と悟を案内してゆく。
階段をのぼり、由梨子の部屋の前まで来ると、3人は
お互いの目を見合い、深呼吸をした。
道代がドアをノックする。
「はい。」と澄んだ声の返事が聞こえて、ドアが開いた。
ピンクのネグリジェの上から白いガウンを着ている由梨
子が現われる。
由梨子はそこに立っているのが、母親ではなく道代であ
った事に驚いた。

「道代さん・・・。」

次の瞬間、ドアの横の壁にはりつくように隠れていた宇
田川と悟が由梨子を突き飛ばし、一気に部屋へ飛び込ん
だ。悲鳴をあげてカーペットの上に転倒する由梨子。
何が起きたのか自覚出来た時には、悟に腕をねじ上げら
れ、宇田川に体をおさえつけられ、ナイフを突きつけら
れいた。
宇田川と悟が家にまで攻めてきた事に驚き、また、道代
までもが仲間である事に由梨子は恐怖を感じた。
とりおさえられた全身がガクガクと震えだす。

「あ、あなたたち・・・。」

「大きな声を出したら、
このナイフがお前のお腹を突き刺すからな。」

宇田川の言葉に表情が凍り付く由梨子。
背中で手錠をかけられ、その場に立たされる。

「さァ、歩きな。」

宇田川が邪険に由梨子の背中を押した。
部屋の外へ出された由梨子は、後ろ手に手錠が消された
寝間着姿のまま、3人に囲まれて階段をおろされる。
廊下を引き立てられ、バスルームの前へ連れて行かれた。

オレンジ色のバスローブを着て脱衣場から出てきた静江は、
目の前の光景に言葉を失ってしまう。

「お、お母様っ!」

由梨子が思わず叫ぶ。
宇田川はそんな由梨子にナイフを突きつけたまま、

「娘の命を助けてほしけりゃ、
おとなしくするんだな。」

と言って静江をにらみつけた。
道代が鈍く光る手錠をカチャカチャいわせながら歩み寄り、

「両手を背中にまわすのよ。」

と静江に言った。

「道、道代さん、あなた・・・。」

震えて歯が噛み合わず、その後の言葉が出てこない静江。
宇田川が叫んだ。

「両手を背中にまわせ、って言ってるだろ!?
聞こえないのかっ!」

その大きな声に震え上がった静江は、宇田川の手にした
ナイフが由梨子の頬にペタペタ当てられているのを見る
と、哀しげに目を伏せ、静かに両腕を背中にまわした。
道代がガチャリと手錠をかける。

「歩くのよ、奥様。」

道代にそう言われて背中を押された静江は、

「ど、どこへ連れて行こうというのです?」

と狼狽しながら振り向いた。
道代は何も答えなかったが、悟が、

「いつもの所ですよ。」

と、不気味な笑みを浮かべて言った。
静江と由梨子の表情に、落雷のような戦慄が走った。

つづく

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