第29話 by 多香美じかん
朝になり、悟と道代は白川家に戻った。
静江や由梨子の衣類などを持ち出し、二人が家出をしたよ
うに見せかけるためである。
二人の身のまわりのものを適当に旅行鞄に詰め込み、
悟はアジトへとんぼ返り。道代が白川家に残り、
京一郎の帰りを待つのだ。
すべて宇田川が考えた筋書きである。
アジトに悟が戻ってくると、相変わらず静江はつま先立ち
で吊られたまま、由梨子はテーブルに縛りつけられたまま
だった。宇田川が由梨子に平手でスパンキングしていた。
「まだやってるんですか?
好きですねェ、宇田川さんも。」
「お前に言われたくないよ。
でも、ホント、何発叩いても飽きの来ない、
いいケツしてやがるぜ。うりゃっ!」
ピシッ!
「あひっ!」
「ざまあみろ!」
宇田川がそう言って、もう1発由梨子の尻に
平手打ちを食らわすと、
悟が大きな旅行鞄を二つ、ドンと床に放り投げた。
それが自分たちのものである事に気づくと、静江と由梨子
は戸惑いの表情になる。
悟が二人の表情を可笑しそうに覗き込みながら、
「由梨子さんと奥様は、
この荷物を持って家出した事にしましたからね。」
と言った。
静江が恐る恐るたずねる。
「家出、・・・って、どういう事ですか?」
「だからァ、由梨子さんと奥様は
僕達につかまって監禁されてるんじゃなくて、
自分からすすんでここにやってきた事に
するんですよ。
奥様には社長宛てに手紙を書いてもらいますよ。」
悟の言っている事が理解出来ない静江、そして由梨子。
「奥様と由梨子さんは、これから死ぬまで、
僕達のペットとして、ここで飼われる事になったん
ですよ。」
驚く静江。
「な、なんですって!?」
「で、誘拐・拉致されてる、なんて事になると
面倒ですから、自分たちですすんで、
このペットとしての生活に入る、
という事にしたいんです。
だから、こうして荷物もとってきたし、社長にも
手紙を書いていただきたいんですよ。」
「そ、そんな馬鹿な事・・・・。」
震えて歯が噛み合わない静江。
縛りつけられている由梨子が、窮屈そうに宇田川の方に
振り向き、
「私、私たちをお家へ帰してくれないの?」
と、蒼ざめた顔で言った。
宇田川は真っ赤な由梨子の尻をピシリと叩き、
「当たり前だろ!
お前達は俺達を殺そうとしたんだ。
そんなの帰しちゃったら、俺達、おっかなくて
夜も眠れやしないじゃないか!」
と言った。
「い、いやーっ、そんなの、いやーっ!」
思わず泣き叫ぶ由梨子。
静江も蒼ざめた頬と哀しげな瞳で、
「本、本気でそんな事をおっしゃっているのですか?」
と宇田川にたずねる。
「本気ですよ。
だって、奥様と由梨子さんは俺達を
闇から闇へと葬るつもりだったんでしょ?
目には目を、歯には歯を、です。
奥様と由梨子さんを、闇に葬ります。」
「あ、あ、あわわ・・・。」
恐怖で何もしゃべれなくなってしまう静江。
「でも、ご安心下さい。
俺達は奥様のような狂気人間ではありませんから、
お二人の命を奪おうとは思っておりません。
ここで、飼うだけです。
俺達に従順な、命令には絶対服従する
性のペットとして、ここで飼育してあげます。
そのかわり、躾は厳しくいきますよ。
少しでも逆らえば、きついお仕置きをします。」
由梨子はさらに首をひねって宇田川に顔を向け、
「宇田川さん、お願い!
そ、そんな恐ろしい事は許して!
今までの事は心から謝ります。
呼び出されたら、ちゃんとここに来ます。
ここに来てお仕置きを受けます。
だから、・・・、
だから、そんな恐ろしい事だけは・・・。」
と必死で哀願するのだった。
「ずいぶんいい娘になりましたねェ。
でも、手遅れですよ。
それに俺達はもう由梨子さんや奥様を
信用出来ません。
あなたたちは俺達を殺そうとしたんですよ。
そんな恐ろしい事は許して、ってお願いしたいのは
こっちの方ですよ。なァ、松下。」
「そうですよ。この罪は重いですよ。
奥様も由梨子さんも、しばらくは毎日
百叩きの刑ですからね。覚悟しておいて下さい。」
悟と宇田川の笑い声と、由梨子と静江の泣き声が、
絶妙に交じり合って、店内に不思議なハーモニー
を響かせた。