第35話 by 多香美じかん

白川家の応接室の大きなソファに、京一郎と糸崎が向か
い合って座っている。
静江と由利子が行方不明になってから数日後、糸崎の所
にも、手紙と写真が送り付けられてきた。
手紙の内容は、京一郎が受け取ったものとほぼ同じで、
今度は由利子の筆跡であった。
静江の時同様に、由利子もまた脅されたり叩かれたりし
ながら、強制的に手紙を書かされたのである。
同封されていた写真は、素っ裸の由利子が首輪につなが
れ、犬のように放尿しているものや、母親の静江と並べ
られ、誰かにスパンキングされているものであった。

「どうしても僕は納得がいかないんです、お義父さん。」

「君もそう思うかね。」

「はい。」

「・・・・確かに、失踪するちょっと前あたりから
二人の様子がおかしかったのは事実なんだが・・・。」

「僕には、僕にはこんな事考えられません。」

「私だって信じられんよ。だが、手紙は間違いなく静江
が書いたものだし、それに写真も・・・。」

「脅されて書かされたとは考えられませんか?」

「そ、それじゃあ、静江と由利子は・・・。」

「・・・誘拐されて監禁されている。」

「そ、そんな・・・。
も、もしそうだとしたら・・・。」

「写真に写っていた由利子さんの表情は、
とても自分からすすんであんな事をしているようなも
のではありませんでした。
お義母さんだってそうです。」

うめき声とともに頭を抱え込む京一郎。
糸崎はキッと鋭い目つきになり、

「お義父さん、実は、気になる事があるのです。」

と言った。
再び顔をあげる京一郎。

「・・・気になる事?」

「由利子さんたちがいなくなる数日前、僕は大学時代の
先輩と道でバッタリ会ったのですが、
その時、その先輩が僕に妙な事を言ったんです。」

「妙な事?」

「・・・はい。」

「何と言ったのかね、その人は。」

「由利子さんにはスパンキングを好む性癖がある、と。」

「スパンキング?」

「由利子さんは、お尻を叩かれないと性的快感が得られ
ない女だ、と・・・。」

「な、なんだと!?」

「由利子さんが高校生時代に付き合っていた男性から
聞いたんだ、って言ってましたけど。」

「・・・・・」

「でも、僕はそんな事信じられないんです。
高校生の時の話は何度も由利子さん自身の口から聞か
されていますから、そんな男性との交際歴をかくして
いたなんて思えないし、第一、そんな性癖があるかど
うかなんて、付き合っていればわかると思うんです。」

「・・・・・」

「この際だから申し上げますが、僕と由利子さんとは肉
体関係もありました。で、でも、そんな変態みたいな
事・・・。」

「その男が怪しいと言うんだな?」

「はい。何かを知ってるような気がしてならないんです。」

「連絡はつくのかね?」

「現在の連絡先はわかりません。ただ・・・・。」

「ただ、なんだね?」

「すぐにわかります。調べていただければ。」

「私に調べろと言うのか?」

「お義父さんの会社の社員なんです。」

「な、なにっ!?」

「宇田川恒夫、って言うんですけど・・・。」

「宇、宇田川だとォ!?」

京一郎は思わずソファから立ち上がる。

「宇田川は由利子にしつこくつきまとっていた男だ。」

「えっ!?」

「由利子にどうしてもと頼まれて、左遷させたんだ。」

「そ、そうだったんですか・・・。」

「まさか、あの男、それを根に持って・・・。」

「お義父さん!」

「わかった、すぐ手配する。
これからすぐに会いに行こう。君はどうする?」

「もちろん、お義父さんについていきます。
もし、本当に由利子さんやお義母さんが監禁されて
あんなひどい目にあわされているとしたら・・・。」

京一郎が電話をかけに部屋を出た。
糸崎は、宇田川が由利子につきまとっていたという事実
を京一郎から聞かされ、自分がまさかと想像していた事
がほぼ間違いない、という確信を持った。
そして、愛する由利子が味あわされている苦痛を思うと
やりきれない気持ちになり胸が張り裂けそうになるのだが、
一刻もはやく二人を救出しなければならない、という気
持ちを奮い立たせ、京一郎を追って部屋を出るのだった。

つづく

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