<The Fanciful Story>
竜巻岬《10》
【第三章:童女の日課】
K.Mikami
《お仕置きの作法》
初日から三日間、アリスはペネロープから魔法の香水を与えられ続けた。
しかし、四日目にはついにそれが途絶えてしまったのである。それは彼女が
何かまずいことをしでかしたからではない。
「アリス。あなたはこの香水の効き目を知っていますか」
「はい、お母さま。アンやケイトに聞きました」
「では、この香水をもうあなたにはふりかけないと言ったらあなたは悲しい
でしょうね」
「いいえお母さま。お母さまのご慈愛には感謝しますが、私が友達に比べて
特別な庇護を受ける理由もありませんから」
「そうですか。では、次はあなたが何か困った時に、そしてそれがあなたの
責めに帰すべきでない時に使ってあげましょう」
「はい、お母さま。よろしくお願いします」
アリスのペネロープに対する受け答えはいつも完璧だった。育ちのよさ、躾
の確かさは彼女をして早く一人前にして自分の傍に置きたいと考えさせるよう
になっていたのだ。
『天使、天使、私の天使、早く私と寝ておくれ』
子供のようにはしゃぐ彼女の日記のなかで源氏名『アリス』の名前はすでに
ない。
しかし、これはなにもペネロープだけの願望ではなかった。チップス教授も
美術を教えるハワード先生もそして領主アランでさえもみんながみんな彼女を
狙っていたのだ。
自然、彼らは些細なことではアリスにつらくあたるようなことはなかった。
他の子なら当然鞭が飛ぶような事でもアリスなら許されたのである。
反省会でアリスが鞭を貰わなかったのは何もペネロープの香水だけが理由で
はない。心の準備ができぬままに、日頃の雑事と一緒に彼女を罰することなど
彼らにはできなかったのだ。
だから、香水の効き目が切れたはずの四日目も五日目もコリンズ先生に届け
られるアリスの「学習態度」の項目はどの先生からの物も
『問題なし』
アリスはいつ自分もアンやケイトたちのようにあの小ぶりの鞭で手のひらを
叩かれるか、反省室でコリンズ先生の籐鞭に歯を食いしばらなければならない
か、冷や冷やしながら授業を受けていたが、結局それは男の先生に関する限り
まったくの取り越し苦労だったのである。
ただ、そうなってくると人間気の緩みも出てくる。ましてお針仕事をならう
スミス女史は無愛想な男の先生たちと違って細かい処にも気が付く優しい先生
だと誰もが思っていたので教室はいつもにぎやか。
「トイレへ行かせてください」
アリスが授業中にこう言えるのも彼女だけだった。
ところが、そんなある日の事。トイレから帰ったアリスは自分がやりかけて
いた刺繍布がないことに気付く。代わりにあの小ぶりの鞭が自分の椅子に置い
てあるのだ。
『変だな』
と思う間もなくスミス先生の声がした。
「アリス、その鞭を持ってこちらへいらっしゃい」
彼女はそれですべてを察したが、すでに手遅れだった。鞭を持って先生の処
へ行くと、
「あなた針の刺さった刺繍布を椅子の上に置きましたね。私はそんな作法を
あなたに教えましたか」
「…いいえ」
「なら、私があなたに何を望んでいるか分かりますね」
「はい、先生。至らない私にお仕置きをお願いします」
アリスはそう言って持ってきた鞭をスミス女史に差し出す。そして、アンや
ケイトたちがそうしていたように両膝をつくと両手の平を頭の位置で前に突き
出すのだ。
「ピシッ、ピシッ、ピシッ」
立て続けに三回。甲高い音が教室内に響いた。アリスの手も一瞬痺れたよう
になったがその甲高い音ほどには威力がなく、アリスはすぐにでも刺繍の作業
を再開できたのである。
「ね、それほど痛くないでしょう。こんなもの気付け薬よ。ふっふって息を
吹き掛けてご覧なさいな。すぐに治っちゃうから」
青い顔をして戻ってきたアリスをケイトが慰める。
でも、アリスはなぜかそれに答えない。
「大変なのはね今日の反省会かな。コリンズ先生の鞭はお尻だからね。寝る
までは痛いかもしれない。でも、明日の朝は大丈夫よ。そこまで持ち越すこと
はまずないから」
再びケイトが声をかけるが、これにもアリスは無反応だった。彼女の口を閉
ざしたのは鞭打たれた手が痛かったからではない。優しいと思っていたスミス
先生にぶたれたことがショックだったのだ。
ところが、そんな気持ちを理解できないケイトは一方的にしゃべり続ける。
「私が気が付けば良かったんだけど、私不器用でさあ。自分のことで精一杯
なのよ」
縫い物のような単純作業が大の苦手であるケイトはアリスとのおしゃべりで
気を紛らわせていたのだ。それがアリスに無視を決め込まれて、彼女としても
段々と心中穏やかではいられなくなっていった。
彼女はテーブルの前に置かれたお手本をわざと自分の方へ引き寄せてみる。
「…………」
アリスは最初それを無言で引き戻したが、何度引き戻してもケイトが意地悪
を繰り返すのでしまいに、
「やめてよね」
とうとう大声になってしまった。
「アリス。ケイト。ついてらっしゃい」
スミス先生は読んでいた本を閉じるとすっくと立ち上がった。
『ほ〜ら、言わんこっちゃない』
アンの少し軽蔑したような眼差しに送られて二人はスミス先生の後について
隣の部屋へ。ケイトはもちろんアリスも同室の二人にそこで何が行なわれるか
聞いていたので、
『せっかく週末まで順調にきたのに今日は厄日だわ』
と諦めるしかなかった。
スミス先生に限らず教室の隣は先生方の個人的な書斎になっていたが、そこ
は同時に悪さのつづく生徒へのお仕置き部屋でもあった。ここへ入ったら最後
どんな生徒もその教訓をお尻にため込んだままの状態で夕方はさらに反省室へ
も行かなければならないのだ。
「アリス、他の教科と違って多少のおしゃべりは許していますが。品のない
大声までは許していません。あなたには針の付いた刺繍布をそのままにして席
を立った罪もありますから、今日はここでお仕置きします」
「はい、先生」
「では、その椅子の座板に両手をつきなさい」
アリスはすでに覚悟を決めていたので躊躇しなかった。言われるままに部屋
の中央に置いてある背もたれ椅子の前まで来ると、勢いよく体を折り曲げる。
そして先生がスカートをまくり上げそれがずり落ちないようにピンで止めた後
「さあ、ご自分でショーツを下ろしなさい」
こう言われても何のためらいもなくその指示に従ったのだ。彼女としては、
何の問題もないはずだった。
ところが、
「アリス、だめよ。それじゃあ。やり直しましょう」
先生はこれほど完璧な姿勢はないと思われたアリスになぜかまた元の姿勢に
戻れと命じる。そしてその矛先が今度はケイトの方へ。
「ケイト、あなたはなぜアリスにそんなにちょっかいを出すの。誰だって他
人とお話をしたくないことはあるでょう。あなたがしつこくしなければアリス
だって大きな声を出さずにすんだはずよ」
「でも私、アリスがあんまり何も言ってくれないから」
ケイトはぼそっとした口調で言い訳を言う。が…
「アリスもだけどあなたにも罪はあるわね」
スミス先生が一言釘を差すと、ケイトはたちまち膝まづいて両手を胸の前で
組むいつもの姿勢をとった。
「ごめんなさい。悪気は…」
「悪気のない子がお友達のお手本を隠したりしないわ。私、罰はあなたにも
必要だと思ってるの」
ケイトは異端審問に引き出された少女のように青くなってスミス先生を見上
げる。
「本当にごめんなさい。もうしませんから」
ケイトはその普段の言動とは反対にこれから予想される罰に怯えてみせた。
『なあんだ。普段強そうなことを言ってたって、先生の前に出たらみんなと
同じじゃない』
アリスにはケイトの態度がみっともなく映ったのだ。
「ケイト、その椅子の前で屈みなさい」
先生にそう言われてもすぐには従わない。わずか数歩の距離をケイトは行き
つ戻りつゆっくりと時間をかけて座板の上に両手をつく。それはもう少しでも
遅ければ先生が痺れを切らして新たな罰を加えるのではとアリスが心配するほ
どゆっくりとしていた。
「さあ、それだけじゃいけないでしょう」
スミス先生の言葉にケイトはここでも抵抗する。それは反抗しているのでは
ない。あくまで子供が親や教師の罰を恐れる時にみせる自然な仕草だ。
すると…
「いいわ、ケイト。ご苦労さま」
スミス先生はケイトを立たせてしまうのだ。
「どう、アリス。分かったかしら。あなたとケイトの違い」
スミス先生の言葉にアリスはきょとんとしてしまう。
「あなたはさっき私のお仕置きを馬鹿にしたの」
『馬鹿にした?』
アリスにはますます訳がわからない。自分では従順に対応したつもりでいた
のに何がいけないのだろうと思ったのだ。
「あなたは今、童女なのよ。つまり小学生。親がちょっと眉間に皺を寄せた
だけでも平気ではいられないわ。なのにあなたはこんな事ぐらい朝飯前とでも
いわんばかりに平然と椅子に手をついたでしょう。あんなふてぶてしい態度は
教師に対する侮辱でもあるのよ」
アリスはスミス先生に言われてやっと原因に行き当たった。
「それはあなたが日頃誰かと顔をあわせた時だけ童女を演じようとしている
からそうなるの。演じるんじゃなくてなりきらなきゃ」
「ごめんなさい」
「私に謝っても仕方がないわ。これはあなたの為ですもの。いつまでも童女
のままでいたくないでしょう」
「………」
「ま、いいわ。とにかくお仕置きはやり直し。新入生にはちょっと可哀相だ
けど演技なんて必要のないのを受けてもらいますから覚悟してね」
スミス先生に忠告されてアリスは身も凍る思いだった。しかし今さら逃げも
隠れもできない。
『童女になりきるってこういうことなんだ』
とは思ってみてもそれは後の祭りだったのである。
「では、まずそのベッドに横になって」
スミス先生はご自分が仮眠用に使っているベッドを指差す。そしてその一方
で、ベッドの下から籐で編まれた四角いバスケットを取り出してきた。
「さあさ、アリスちゃんはどのくらい我慢ができるかな」
その蓋が開いた瞬間、アリスは思わず息を飲む。
大きな注射器のようなピストン式浣腸器やエタノール、脱脂綿、カテーテル
それにグリセリンの入った茶色い薬瓶も……もう何をやるかは明らかだった。
「あら、なかなか上手じゃないの、その表情。哀愁がこもっていて素敵よ」
スミス先生は冗談とも本気ともとれる言葉を投げ掛けてアリスの様子を見る
が、彼女は顔を引きつらせたまま笑い返す余裕がない。そこで、
「ケイト手伝ってちょうだい」
先生はケイトの応援を得ると着々と準備に取り掛かる。
まず黒いゴムシートをアリスのお尻の下に敷くと短いスカートを捲り上げて
腰の周りに安全ピンで止めてしまう。これでアリスの腰から下は白いショーツ
が一枚だけとなって二人の目の前に肉付きのよい股間が現れることとなった。
「さあ、アリスちゃん。これからお仕置きの前処置を行ないますからね。パ
ンツを脱いでください」
スミス先生の声にアリスは素直に従おうとしなかった。もじもじとしていて
ショーツは一向にお臍からはなれない。もちろんそれはさっきスミス先生から
注意されたこともあるが、今度は本当に恥ずかしくなったのだ。
「さあ、どうしたの。さっきみたいにはいかないのかしら。なんならアンも
呼びましょうか」
スミス先生に脅されてアリスはやっと決断する。
「さあ、まず消毒しますからね」
スミス先生は脱脂綿にたっぷりとエタノールの含ませるとアリスのお尻の穴
を拭いていく。
「ぁっ……ぁぁ……ぁ〜…ぃいっ……ゃっ……や〜……」
スミス先生の脱脂綿がアリスの感じやすい場所に触れるたびに声にならない
声が吐息となってアリスの口から漏れ始める。
「どうしたの。気持ちいいのかしら。幼い子は大人より体温が高いからこれ
をやるとよけいに感じるのよ」
スミス先生はご満悦である。
「さあ、お尻の力を抜いて…」
スミス先生が手にしたのはシリンジと呼ばれるおしゃぶりを二周りほど大き
くしたような簡易式の浣腸器。これを茶色い薬瓶に差し入れてグリセリン溶液
をたっぷり吸わせると一回。
「…<あっ>……んんん」
さらにもう一回。
「…あっぁぁぁ…………」
「まだだめよ」
「…んnnnn…………」
アリスの直腸には数回に分けて約百ccのグリセリン溶液が注ぎ込まれた。
「さあ、もういいわ」
先生はティシュでお尻に栓をするとアリスの身だしなみを整えて、あっさり
トイレを許してしまう。石鹸水などと違いグリセリンには速効性があるのだ。
また彼女としても書斎を汚物で汚されてはたまらないと考えたのだろう。
「アン、ちょっと手伝ってちょうだい」
スミス先生はアンも呼ぶとケイトと二人でアリスを医務室に連れていくよう
に命じたのだった。
「ごめんなさいね、アン」
アリスには当初アンを気遣う余裕があったが、彼女の運搬作業はことのほか
骨が折れた。アリス自身が途中で何度もへたり込んでしまうからだ。
「もう、ダメ」
両手両膝を廊下の床につけて息も絶え絶えのアリス。
「待ってて、いま看護婦さんを呼んでくる」
アンが一足先に医務室へと走った。
そして、看護婦を一人連れてきたのだ。
「さあ、アリス。これになさい」
看護婦は持ってきた室内便器(bedpan)を差し出すが、今度はアリス
がそれには応じない。異様な気配を感じ取った野次馬たちがどこからともなく
集まりすでにアリスを取り囲んでいたからだ。
「大丈夫ですから。わたしトイレまで行きます」
彼女は健気にも立ち上がろうとする。
「カラン、カラン」
その時、授業の始まりを告げる鐘がなって野次馬たちは立ち去ったが、安住
の個室まではまだ遠い。
「ああ!」
それはお城の中庭の真中あたりまで来たときだった。くぐもった声とともに
それまで軽い負担でしかなかった二人の肩にアリスの全体重がのしかかる。
「もう、いいわ。ここでやりましょう」
看護婦の提案にアリスは最後まで首を横に振りながらも従わざるをえない。
「目標が小さいからようく狙ってね」
天気のよい昼下がり燦々と降り注ぐ太陽の下でアリスは小さなベッドパンに
自分の思いの丈をすべてぶちまけたのだった。
きっとこの時は周囲の茂みが自分を守ってくれていると信じていたのだろう
しかし、その低い茂みは何の役にもたっていなかった。なぜならアリスのその
痴態は周囲の建物のほとんどの窓から見ることができたのである。
アリスたち三人はシャワー室で身を清めるとスミス先生のところへ帰ってき
た。
「どうでした。無事おトイレまでたどりつけましたか」
「いいえ」アリスは首を横に振りながらか細い声で答える。
「じゃあ、どこでやったの」
「………」
アリスはそれには答えることができず、代わりにケイトが答えた。
「中庭です」
「まあ、そう。お腹の調子は大丈夫かしら」
「まだ、すこしごろごろいってます」
「そう、それじゃあ最初は可愛くやりましょう。さあ、お膝の上にいらっし
ゃい」
スミス先生はベッドの上に腰をおろすと、自分の膝を軽くたたくのだが…
「………」
アリスはただただ首を横に振るばかりで従おうとしない。それは、これまで
ずっとよい子を通してきたアリスにしては珍しい拒否反応だった。
「どうしたの。先生のお膝の上はいやなの」
「ごめんなさい先生。一時間たったらどんな罰でも受けます。でも今はお腹
が……」
「わかってるわ。だから可愛くやりましょうって言ってるでしょう。さあ、
心配しないでいらっしゃい。お仕置きを受けるのは生徒の義務なのよ」
こう言われてはアリスも拒否できなかった。
恐る恐る近寄るアリスにスミス先生は
「まず、パンツを脱いで…」
ところが、それは今まで何度もやってきたことなのに今はなぜかとても恥ず
かしい気がするのだ。
「どうしたの。恥ずかしいの」
先生はすでにバスタオルを膝の上に乗せてアリスを待っている。
踏ん切りをつけたアリスがショーツを太ももまでさげスミス先生の膝の上に
倒れ掛かると先生はやさしくお尻を叩き始めた。
「いいこと、アリス」
「ピタ」
「はい、先生」
先生は軽いスナップでアリスのお尻を跳ね上げたが、それは折檻というより
相手の顔を見ることのできない話し相手のために先生が入れる合いの手のよう
なものだった。
「女の子は恥ずかしいという気持ちを持てなくなったら終わりよ」
「ピタ」
「はい」
「恥ずかしいと思えるから努力もするの」
「ピタ」
「はい」
「美しくなりたい、他人からよく思われたいという心も、突き詰めて言えば
恥ずかしいと思う心から出ているわ。わかる」
「ピタ」
「はい」
「あなたもせっかく生まれ変わって童女になれたんだから、もっともっと童
女の恥ずかしさを楽しまなきゃ」
「ピタ」
「はい」
「お仕置きが恥ずかしいなと思ったら、不思議にやる気が湧いてくるでしょ
う。それが女の子なの。単にぶったり叩いたりすれば意識が覚醒する男の子と
はそこが違うのよ」
「ピタ」
「はい」
「今日はお浣腸であなたの恥ずかしさを呼び覚ましてあげたけど、日頃から
恥ずかしさを意識していないとそのたびごとに過激なことをしなればならなく
なって、しまいに体を壊すことにだってなりかねないのよ」
スミス先生のお小言は延々と続きいつしか先生の膝の上に乗せたバスタオル
も無駄ではなくなっていた。
<了>