<The Fanciful Story>
竜巻岬《14》
【第三章:童女の日課】
K.Mikami
《悪戯オンパレード》<1>
前にも説明したがチップス先生は高齢である。動作も鈍くしかも話す内容も
たとえ聞き逃しても不自由がない常識的なものとなれば、退屈するのは仕方が
ないのかもしれない。
そこで生徒としては空いた時間を有効に活用すべく色々な内職を始めるのだ
が、それでもこれまでは好きな本を読むくらいがせいぜいだった。そこへ脱退
したはずのケイトが小さな鏡を持ち込む。
彼女は先生が黒板の方を向くたびに太陽光線を反射させて先生の薄くなった
頭を光り輝かせるというアイデアを思いついたのだ。そして、先生がこちらを
振り向く瞬間、角度を変えて先生が光の存在に気がつかないようにする。
このスリルに満ちた遊びはたちまち他の三人にも広がった。
彼らはいかに長い間先生に光線を当てていられるかを競い、やがて授業そっ
ちのけでこの暇つぶしに興じるようになる。
しかしこの愉快な遊びもそう長くは続かなかった。一週間後、ケイトが悪乗
りしてそれまで密告もせずにいてくれた助教師のスワンソンさんにちょっかい
を出したために、眩しがる彼女の様子に不審を抱いた先生がケイトの鏡を見つ
けてしまったのだ。
当然、鏡は取り上げられケイトはお仕置き。黒板の前に引き出されると両手
を頭の後ろに組んで前かがみになるポーズでお尻を六回。それはお転婆童女に
対する処置としてはこれまでと何ら変わらない儀式に思えた。
ところが…
「……<No>……」
チップス先生は助教師が差し出すいつものトォゥズに首を振ると、わざわざ
隣の部屋まで行き、自ら気に入った籐鞭を探し出してきた。
「ピュー、ピュー」
彼はその調子を見るべくケイトのすぐ脇で二度ほど空鳴りさせてみる。そし
て何の合図もなくいきなり、
「タッタッタッ」
数歩助走をつけておいて目一杯振りかぶった位置から一直線にケイトのお尻
目ざして振り下ろしたのだ。
「ビシーッ」
鈍く唸るような音が教室に漂うとそれはショーツ一枚など何の防御にもなら
ないほどの威力だった。
「ビシーッ」
よろめいたケイトが体勢を立て直すと、間をおかずふたたび低周波が教室内
に響き渡る。
「ビシーッ」
「…あっ…」
鞭には慣れっこのはずのケイトの口から思わず漏れるうめき声が事の重大性
を他の三人にも伝える。
「ビシッー」
「…ひいっ…」
気がつくと彼女の膝は笑いが止まらなくなっている。
「ビシッー」
「いやあ〜」
次に鞭が振り下ろされる瞬間、
「やめて!」
ケイトの禁じ手がほんの一瞬チップス先生の始動を遅らせたが、先生は最初
に決めた六回目を放棄しない。ケイトにしてもそれは百も承知の事。それほど
切羽詰った叫びだったのだ。
「ビシッー」
立つことを許されたケイトの唇は細かく振るえ、鼻をすする嗚咽も膝の震え
も止まらない。こんな彼女を三人が見たのは初めてだった。
「ケイト、君は私をただの老いぼれと侮っているようだが、老いぼれていて
も私は男なんだ。だから弱い者苛めは大嫌いだし、君のお尻の形を変えること
ぐらい造作もないことだ。分かったかね」
「はい先生」
「今夜の反省会ではコリンズ先生に同じ罰をやってもらう。……そこで君も
分かるだろう…男と女の力の差を…そしてそれが分かったら二度とこのような
ことはしないことだ」
「はい先生」
三人はまるで幼児のように従順になったケイトにただただ呆れるばかり。
その時はさすがに何もしなかったが、それでも気になるとみえてその夜は…
「ねえ、どうだった」
女の子というのはこうした時に残酷なものだ。反省会でコリンズ先生に同じ
六回の鞭打ちを受けてベッドに帰ってきたばかりのケイトを取り囲むと、しき
りにその感想を求めるのだ。
「やめて」
ケイトは煩わしそうに三人を払い除けるとベッドに倒れこむ。それを頼まれ
もしないのにリサとアリスが手当をした。彼女たちはケイトのスカートを勝手
に捲りあげると冷たいタオルで剥出しになったお尻を冷やす。
「いたっ。もっと丁寧に乗せなさいよ」
八つ当りするケイトに困惑する二人。…でも、やはり聞いてみたいのだ。
「ねえ、やっぱりチップス先生の方が凄かったの」
「いいでしょう。そんなこと…」
邪険にされたリサはお尻に乗っけたタオルをつかむと、三十センチ程の高さ
から再びケイトのお尻目がけて投げつける。
「痛い」
ケイトは思わず声をあげるとそのまま海老ぞりになった。そしてさも恨めし
そうにリサの方を振り向くと彼女を睨みつけたのである。
しかし、だからといって口をきかないというのではない。仕方がないという
表情は見せながらもケイトは重い口を開く。
「要するに痛みの質が違うのよ。チップス先生のは骨身に沁みるの。実際、
内蔵が破裂したかと思ったわ」
「大仰ね。お腹をぶたれた訳じゃないのよ。たかがお尻よ。どうして内臓が
破裂するのよ」
「本当よ。女の先生にぶたれても痛いのはお尻の皮かせいぜい筋肉までだけ
ど、チップス先生のは体の骨が全部ばらばらになったんじゃないかと思ったん
だから」
「本当に?」
「何よその疑うような目は。だったらあんたやってもらったらいいじゃない
あんたなんて、おしっこちびるから」
「いやあね、変なこと言わないでよ。私、そんな弱虫じゃないわ」
リサもアリスもケイトの痛みが分からない。ケイトがショックを受けている
のだからよほど強烈だったのだろうとは思うのだが、それがいったいどんな物
なのかはやはり経験しなければ分からなかったのだ。
ところが、この会話に一切加わらなかったアンが翌日…
「何の真似かね。アン」
彼女は授業が始まると持ち込んだ鏡を使って正正堂堂チップス先生の顔を照
らしつけたのだ。
「実は、昨日はケイトだけしか見つかりませんでしが、私達三人もずっと鏡
で遊んでいたんです。ですから、私達もケイトと同じようにお仕置きしてくだ
さい」
アンはチップス先生に毅然として言い放った。もちろん、これにはチップス
先生も驚いただろうが、何より驚いたのは事前に何の相談も受けなかったリサ
とアリスだった。
「アン、やめてよ。私はスワンソン先生にまで光りをあててなんか……」
リサは途中まで言い掛けて思わず口をふさぐ。
気まずい雰囲気が教室内に漂った。ただ、チップス先生としても昨日は勢い
に任せてのことだったが、今日はそこまでテンションを高める自信がない。
『そんなにやって欲しいんですか』
最後はむしろアンの情熱に押し切られる形でチップス先生が決断したのだっ
た。
「ビシーッ、ビシーッ、ビシーッ………」
昨日と同じ鞭、やはり同じように振りかぶって数歩助走をつけて、しかし、
それは昨日ほどの威力はなかった。とはいえリサは終わると歯の根もあわない
し、アリスにいたってはお漏らしをする始末なのだが……
ただ、アンだけが比較的冷静だったのである。
その日の夜、お尻を腫らして泣き叫ぶ二人の子供を尻目にいつも喧嘩ばかり
しているアンの所へケイトがやってくる。
「今日はありがとう」
「何が……私はお尻をぶたれたかっただけ。おもいっきり男の力でね」
「お父さん、厳しかったんだ」
「………」アンはただ静かに頭を振る。
あとはケイトがアンのお尻を濡れたタオルで冷やしワセリンをぬって手入れ
しただけ。ただそれだけで夜が更けていった。
次の日のシャワー室。四人並んでいつものようにメイドに体を洗って貰いな
がらアンがぽつりと言った。
「このままじゃ一番早く少女になれるのはやっぱりケイトね」
違わなかった。だからそれにはだれも反論できない。
「ねえ、ケイト。今度何かやるときは私達も誘ってくれない」
「………」
アンの誘いにケイトは答えない。するとアンは他の二人に
「ねえ、あなたたちだってその方がいいでしょう」
これも間違いではなかった。
「………」
だから二人も口を開かないのだ。
「ケイト、あなたしかいないわ。私達を少女にできる人は…わかるでしょう
アリスはお嬢様だし、リサは監獄暮らしですっかり気が弱くなってるの。私も
常識に捕われすぎてて子供じみたことなんて」
アンが話終わらないうちにケイトが噛み付く。
「要するに私がこの中で一番ガキだってそう言いたいわけね」
「そういうこと」
「ちよっと否定しなさいよ。不愉快ね。あんたは私に頼み事をしてるのよ。
でも、仕方がないか、ことがことだから……わかったわ。でも私についてくる
んならそれなりに覚悟はしといてね。今までみたいに平穏無事にはすまないわ
よ。それでいいの」
「私はOKよ」
リサが答える。そしてアリスも
「私も大丈夫よ」
こうして四人はふたたびスクラムを組んで少女を目指すことになった。
手始めに狙われたのは美術のハワード先生だった。美術といっても童女たち
には創造的作業はなくて、来る日も来る日もイコンの制作とデッサンばかり、
要するに模写の作業ばかりなのだ。
いくら女の子が忍耐強く長時間の単純作業にむいているといっても飽きてく
る。ましてケイトは一度少女にあがった経験から少女になれば自由に風景画を
描いたり蝋けつ染めやガラス細工など創造的な活動ができることを知っていた
のでなおさらだった。
そんな鬱積した思いを晴らすチャンスが訪れた。この日、先生は授業の途中
で抜け出して町へ行かなければならない用ができたのだ。すると、
「先生、このメディチ。描きいいようにしていいですか」
ケイトの言葉に先生は深く考えもせず「いいよ」と言ってしまう。きっと、
『置いてある角度を変えるのだろう』ぐらいにしか考えなかったのかもしれな
い。しかし、彼女はこの言葉に悪戯をしますよという意味を込めていたのだ。
先生が教室を離れるとケイトはさっそく作業を開始する。
「アン、アリス、リサ、みんな来て」
ケイトは三人を引き連れると先生のアトリエへ行って何色ものペンキと筆を
持ってきたのだ。
「どうするの。こんなもの持ってきて」
「決まってるじゃない。この胸像真っ白で描きにくいでしょう。だから着色
してあげるの」
「いいの、そんなことして」
「いいんじゃないの。先生は描きいいようにしていいって言ったんだから」
ケイトは笑って答える。
「これ、塗った後で落とせるの」
「まず、無理でしょうね。………どうしたの。やるの、やらないの。え!」
ケイトは腰に両手を当てて三人の答えを待つ。
「ねえ、これでどのくらい叱られそう?」
「いいことリサ。悪戯って後先のことを考えてやるものじゃないの。打算が
あったらそれは陰謀。打算を考えたらやめるべきことをあえてやるから悪戯な
のよ」
「ケイトの言うとおりね。私達これまで打算で考えてきたから本当の悪戯が
できなかったんですもの。いいわ、私やる」
アンがまず最初に筆を取った。
「どうなのリサ」
ケイトに促されると
「どうか罰が小さくて済みますように」
リサもお祈りをしてからこわごわ筆を取る。
最後に残ったアリスも
「お母さま、ごめんなさい」
ケイトの手から目をつぶって絵筆を一本引き抜く。
ただしリサとアリスの場合当初はこれから悪戯を始めようという雰囲気では
なかった。無理やり悪に加担させられているといった感じだったのだ。
ところが、ものの十分も経たないうちに主客転倒。
「駄目よ、アン。そこは断然緑だわ」
「ケイトやめて、そこは私が塗るんだから」
「ケイトはセンスが悪いのよ。私が手伝ってあげる」
「アン、黄色持ってきて……それはオレンジ色じゃない。馬鹿ね、レモン色
の方に決まってるでしょう」
この悪戯を存分に楽しんだのは無理やりやらされていたはずのリサとアリス
の二人組だったのである。
「どう、なかなか素敵でしょう」
「あなたたちじゃこうはいかないわね」
二人は作品を自画自賛。出来上がりにすっかり満足していた彼女たちは自分
たちのまわりに誰がいるのかまったく気がついていなかったのだ。
「なるほど素敵だ。私もこんなに鮮やかなメディチを見たのは初めてだよ」
二人はその低く聞き覚えのある声に一気に血の気が引く思いがした。案の定
後ろにはハワード先生が立っている。夢中になった二人が時間の観念を忘れて
いたのに対し、用件が早くすんだ先生は、生徒のことを心配しておっ取り刀で
帰ってきたのだ。
「これは四人の共同制作かい」
すると、ケイトがそれに答える。
「先生。私が『描きやすいようにしていいですか』って言ったら『いいよ』
っておっしゃいましたので……お言葉に甘えて」
「なるほど、首謀者はケイト君か。でも、君がこれを塗ったわけじゃないだ
ろう」
「……………」
ケイトは一瞬まわりの友達を慮り、彼女たちの意志をあらためて確認すると
先生に答えを返した。
「……はい」
「だろうな。君にはこれは無理だ。まあいい。今日はこれをデッサンしよう
そして、水彩で色を着けてみようじゃないか。好きな色でかまわないよ。君達
の色のセンスを見たいから」
ハワード先生がこう言ったのできっとリサはこれでお仕置きはなくなったと
思ったのだろう。安堵した彼女は肩を落とし大きく息をついたのだ。
すると、先生がそれを見ていてすかさずこんなことを言う。
「どうしたんだい。そんなに落ち込んで。せっかくやった悪戯にお仕置きが
つかないので残念なのかい。大丈夫だよ。今日のことは許されない悪戯があり
ましたってコリンズ先生に報告してあげるし、お仕置きも後日たっぷりやって
あげるから、何も心配しなくていいんだよ」
先生は悪戯っぽく笑うのだった。そしてそれは現実のものとなったのである
その日の夕方、コリンズ先生は反省室に四人全員を呼び出す。これはマンツ
ーマンが原則の反省会では異例のことだった。
「今日の美術の時間はなかなかユニークなことをやらかしたみたいね。だか
ら罰もユニークなのを用意したの。ここ二三日でメンスの始まる人いるかしら
……」
「………」誰も答えない。
「正直に言わないとあとで余計な恥をかくことになるわよ」
「………」しかしやはり誰も答えなかった。
「よろしい、それは幸いね。では、四人ともまずこれを着けてちょうだい」
コリンズ先生が手渡したものは厚手の革でできたベルトのような物だった。
「何ですか。これ…」
アリスが尋ねるとコリンズ先生だけでなく仲間三人も驚いたようにアリスの
顔を覗き込む。
「そう、あなた知らないのね」
コリンズ先生は小さく笑みを浮かべると、アリスから一旦そのベルトを取り
上げて、
「私が着けてあげるわ。スカートの裾をまくって…」
アリスはあたりを見回す。すると他の子も同じようにしているので恐る恐る
先生の指示に従ったのである。すると、アリスの前に膝まづいた先生からさら
に注意事項が、
「あ、それから。今日はお仕置ですから地肌に直接着けないで、ショーツの
上から着けてくださいね」
先生は半分ほどたくしあげられたネグリジェの裾の中へ手を入れるとあっと
いう間にアリスの股間にそれを装着したのだった。
「さあ、これでよし。ご自分で見てご覧なさい」
アリスが確認すると革のベルトは腰に巻かれたのち、背骨のあたりで一方が
分れ、お尻の割れ目を通って股上をはい上がるとお臍の下あたりで腰のベルト
と出会い鍵を使って再び一体となっている。
「アリス、これは貞操帯っていうの。あなたも名前ぐらいは聞いたことがあ
るでしょう。本来の目的は別にしてここではオナニーの防止やお仕置きの補助
具として使うの」
『これが貞操帯なのね』
アリスはまだ幼女の頃お茶会の席でリサがこの装着を命じられてべそをかい
ていたのを思い出していた。
「みなさんにはこれを月曜日まで着け続けてもらいます」
「え、月曜日まで…」
「そうですよ。あすは美術の時間がありませんしあさっては日曜日でしょう
月曜日の午前中チップス先生に事情をご説明して午後の時間と取り替えていた
だいたのでその時お仕置きをしていただけるそうです」
事情が飲み込めないアリスを除き他の三人はコリンズ先生の話に真っ青だ。
自室にかえった子供たちは口々に不満をぶつける。
「普通はこんなの一日だけじゃない。それが二日半だものね」
「この週末はブルーね。今月はメンスが二回もって感じだわ」
「まったく陰険なのよ。こんなことやらせるなんて」
「仕方がないでしょう。それだけのことやっちゃったんだもの」
そんななかアリスがまた周囲を驚かす。
「ねえ、これってトイレの時はどうするの」
しばし誰からも声がでなかった。
「つまりそれが陰険ってことなのよ」
「この三日間私達にそれは禁句になるわね」
「お嬢様、お嬢様はこんなことされたことがないからわからないでしょうけ
ど。これを取り付けられるとトイレはできないの。少なくとも大の方はね」
「!」
アリスはこの時初めてことの重大さに気がついたのだった。
この懲罰、実は恥を捨ててかかれば小だけはなんとか可能なのだが、それは
お漏らしのあと濡れたパンツを穿いたままにしているのと実質的には同じ事で
女の子としてはとても勇気のいることだったのである。
とはいえ、大は我慢すればなんとかなるが、小の方は時間がたてばたつほど
苦しくなる。その夜そして次の午前中はまだなんとかなったが、土曜日の午後
からはしだいに口数も減り誰の体も頻繁に尿意を訴えるようになった。
自然、食事も喉を通るはずがない。四人はお腹が減っているのにもかかわら
ず、出された食事に手をつけることができないでいたのだった。
<了>