ヤング・マン(二) 息子のプレゼント

 F/m制度50周年式典、だって。どうせNBbCの営業戦略でしょ。世の中ヒマなの
でそんなものしかニュースにならないもの。しかし、適齢期(?)の身としてはこの話題
になると母にそろそろ「息子」を持ったらどうか、とうるさく言われ困ってしまう。もっ
とも私だって、一生子持ちになりたくない訳じゃない。やっぱり、身の回りを世話してく
れる可愛い男の子が欲しい!「男の子は安い買い物でもない」、母に地区のNBbCに一
緒に見に行ってやろうか、と言われたが、断った。例え母にだって自分の趣味を見透かさ
れているようで、何となく照れる。仕事は忙しいが週末に時間をつくった。
「男の子臭い」、建物の中に入ったら、プーンとしてきた。監獄。なんだかお尻を叩かれ
る音まで聞こえてきそうだ。偏見?
「どういった子がお好みですか」営業レディが小首を傾げ、愛想を振りまく。
「写真の一覧を全部観まーす」自分で自分を感じの悪いお客だと思った。でも、男の子は
まず顔でしょう。ページをめくり、まあまあの子をチェックしていった。
「その子」は急に目に飛び込んできた。
「あの、この子は?」、別の書類の書きものをはじめた営業レディに355番を尋ねた。
「ああ、ユキ。映像みてみますか」そうか、この子ユキって呼ばれてるんだ。
「その前に、ちょっとどんな子か・・・」そう言うと、彼女は棚に並んであるファイルを
探し、355番を私に渡してくれた。家事レッスン、知能成績及び身体成績、特優じゃな
い。でも性格が「注意」ってどういうこと?
「あの、この記述はどういったものなのでしょうか?」彼女にファイルを見せた。暫く考
え込み、何かを思い出し、言葉を選んで説明した。
「要するに、相当お転婆さんだということですか?」営業レディは言葉を濁して、でも肯
定した。それでも私の頭の中はユキでいっぱいになった。映像も見せて貰い、もう私の息
子は彼以外考えられない。「恋」してしまった。当世の一目惚れとはこんなものなの。ど
うしよう、どうしよう、そうだこんな時こそ、母に相談しよう。
 家に持って帰った写真とファイルのコピーを見た母は、ニヤリと笑う。「もう彼以外考
えられない、でもNBbCが手を焼くお転婆だっていうし・・・」目で訴えた。
「いいじゃないの?」「でも・・・」母は自信たっぷりだ。
「NBbCに355番お願いしますって言っておきなさい。誰かにとられちゃったら、悔
やみきれないわよ。孫の躾ぐらいなら私だって手伝えるんだから」
 私は、その場で営業所に連絡した。「申し込みをお願いします。355番です」
「お引き渡しはいつになさいますか」私にとっては一大決心をしたのに、事務的な口調は
先刻とかわらない。明日にでも、と言いたいところだが、息子一人家に入れるとなると、
家の改装等それなりの準備もいる。今年中に引き取りたい、と応えた。
「おめでとうママ。やっとわたしも、おばあちゃんよ」母はホントに嬉しそう。
「でも、これからが大変。そんなお転婆だったら、躾は厳しくね」そう言われるとプレッ
シャーになる。「あなた、今この子にだいぶお熱のようだから、チョット不安。」
「そお?そんなことないわよ」そう言いながら浮かれている自分に気付いた。
結局母と同居が一番望ましい。母にその旨言うと、二つ返事で賛成してくれた。納品は
クリスマスイブ、女友達5,6人呼んでパーティ形式で彼のお披露目をすることに決めた。
担任のガバネスに連れられて彼が我が家に訪れたのは、イブの午前中だった。母と私、
ガバネスによって書類に印が押され、彼は私の息子となった。不安で俯いているのだろう、
それがまた可愛い。ガバネスが帰ると申し出ると、すがる様な目で彼女を見つめた。母と
私のことはまだ見ていない。
「そうそう、NBbCの制服は、規則上返していただきたいのですが、この場で私が持ち
帰りますか、それとも後日郵送されますか」彼女はまだ若いが、職業柄男の子にいする意
地悪は堂に入っていると思う。ここで彼を全裸にしようとする考えだ。
女三人の前でストリップをすることになり、羞恥心で身をよじった。一糸纏わぬ姿とな
り、男の子の大事な部分を手で覆い隠した。私達の無遠慮な目は、彼を舐め回す。ガバネ
スは下着も含めた制服の全部を取り上げ、汚れてないか確認した。
 ガバネスは書類と制服を持ち、早々と立ち去った。彼は全裸のまま所在なく正座し、私
と母は彼女を見送った後、何事も無いかのように世間話をはじめた。
 特優をいくつも持っている、さぞかし増長した男の子なのだろうと母はみていた。会話
が一段落したとき、彼の方から話しかけてきた。
「あーら、挨拶出来るじゃないの。おばあちゃんとお母さんよ。恥ずかしがることないか
らね。躾は厳しいけど、いい子にしてれば何も恐くないんだらか」初めて彼の目を見た。
 彼のために用意した新品の白いブリーフ、半ズボン、上着等々家庭に入った子供達の定
番の服装を渡した。私は子供服に着替えた彼を抱きしめ、頭を撫でた。「お転婆だといっ
てもたかが知れてる。明日の朝ガツンとやっちゃえばこっちのものよ」と母が耳打ちした。
息子のお披露目はある種の儀式。昔の結婚式の披露宴の名残だという説もあるけど、ま
あ慣習みたいなものでしょう。女友達を呼んで「息子」を見せ、彼女たちに誉めさせる?
パーティーだ。ホテルを借りる場合もあるが、無駄な金を使う必要もないわ。クリスマス
にやれば一石二鳥だと今日の日取りを決めた。
悪友たちは彼を大袈裟に褒めちぎり、こっちまで照れるくらい。しかし子供は8時に寝
せなければならない。イブの夜とて例外ではなく、彼にベッドタイムを命じた。私も友人
達とお酒が進み、いい心持ちになっている。「明日の朝、どうするの?」彼が消えたら、
早速「はじめてのお仕置き」の話になった。通常養子を迎えた日の翌朝は、初めてスパン
キングする時と俗に言われている。「やるわよ当然」そう言ったものの実際緊張していた。
「ユキ!なんです、これは!」ベッドには細工が仕掛けてあり、大きな地図が描かれてい
た。ユキは事態を把握出来ず、目をキョロキョロさせている。
「おねしょ、ね。いったいいくつになるの?NBbCでは、トイレトレーニングも満足に
出来なかったの!」両腕を腰にあて彼を見下げた。「このお馬鹿さん!赤ちゃんみたい!」
彼の耳をつまみ上げる。昨日約束して泊まってもらった悪友の何人かと母が見物に来た。
「なになに」大根役者は興味津々で様子を伺い、彼女たちの役割に徹した。「ユキ、お母
さん達に言ってご覧なさい。どうしちゃったの?」意地悪く彼の顔を覗き込んだ。
「・・・ごめんなさい。・・・おねしょしました・・・」蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「あら、まあ昨日はこんなしっかりした可愛い子はいないと思ってたのに、とんだ赤ん坊
だったのね。ママにしっかりお灸をすえてもらいなさい!」
「おねしょするってことはオチンチンが悪いのよ。ハサミでチョッキンしちゃう?」
「NBbCもこんな不良品をよく渡すものね」口々に罵声を浴びせ、彼にとってはおだて
られた昨日のイブとクリスマス当日とでは天国と地獄の差かな?
「さあ、おしっこで汚くなったパジャマズボンを脱ぎなさい。パンツもよ」数人の女性
に取り囲まれて彼は下半身を裸にしなければならなかった。もっともNBbCそんな状況
に慣れてはいるだろうが。おずおずと手に掛ける彼の下半身に女性陣の目は集中し、私は
自分の所有物を自慢する気分で多少得意になった。羞恥で頬を染めいる。もうすぐお尻の
ほっぺも真っ赤にしてあげる。この日の為に買っておいた革のスリッパを取り出し彼に示
し、「悪いことをするとこれでお仕置きします」と告げた。膝の上にのせ、スリッパを思
いっきり振り下ろす。「いい音ね」母たちは囃し立てた。「クリスマスプレゼントに貰っ
た世界地図」、しばらく我が家ではそんな言葉が流行った。膝の上に彼を乗せその重さと
身じろぎに、私は母となった幸せを実感した。「ついにこの子は私の息子なんだ」と。血
のつながらない母と息子は躾によってつながっている。

続く