2007.09.12
 濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第十二回

 縄自慰


 「永井なつという美少女」のつづきを書きます。私に縛られると、素直に、激しく感じてくれ、失神寸前までいく女の子の話です。
 はじめに、パッケージ用とか、販売会社の宣伝に使うためのスチール写真を撮ったのですが、私が縛り、そして私が彼女のそばにいると、彼女は感じすぎてしまい、カメラマンやプロジューサーが指示するポーズをとることができないのです。
 彼らが指示しているそのポーズは、私の目から見たら、きわめて類型的な、ありきたりの、なんの特色もない、ひどい言い方をすれば「死んでいる形」なのですが、パッケージにはこういう写真を使わないと「商品」にならない、と信じている人たちにとっては、たいせつな「決まりポーズ」なのです。
 ところが、私がそばで見ていると、彼女は必要以上、というか本能的に反応してしまって、そのポーズがとれない。全身から力がぬけ、ポーズがくずれてしまうのです。
 その正体を失ってくずれたポーズに、私なんかはなまなましいリアリティを感じ、(いいなあ!)と心でさけび、(こういう写真をパッケージに使ったら、マニアには絶対売れるんだけどなあ!)と思うのですが、もう長いあいだ、パッケージの写真は、こうでなければいけない、と信じている制作者側は、いつもの、きまりきった形だけの、魂のないポーズを彼女に命令します。
 ところが、いまいったとおり、私がそばで見ていると、彼女は感じすぎて、そのポーズをとることができないのです。悶えてしまうのです。
 私は彼女から遠く離れました。遠くといっても、同じスタジオの中です。せいぜい七、八メートルの距離です。すると、彼女は、プロジューサーやカメラマンに命令されたとおりのポーズを維持できます。
 このことは、私の数多い撮影の中でもめずらしい体験だったので、ここに記録しておくことにしました。
 (けれど、こんなこと、マニア以外の人が読んでもなんのことかわからず、おもしろくもなんともないだろうなあ。特殊な感覚、そして感受性そのものの世界だからなあ。もう一度書いておきます。緊縛マニア以外の方は、これから先、読まないでください。読んでも時間のムダです)

 川村監督が、ご自分でカメラを持ってのドラマの撮影は、同じスタジオの4階へ全員が移動して開始されました。
 ソファに座った私の前に、私に縛られたい欲望をもつ美少女、つまり永井なつが現われます。
 ここから先は、すべて私が勝手に彼女に語りかけ、セリフをいい、しゃべりつづけます。だれの指図も受けません。私と彼女を取り巻く十数名のスタッフは、いっさい口をはさみません。こういう女の子を相手にした場合、濡木痴夢男の思うがままにやらせたほうが、おもしろい映像になることを、彼らは知っています。私はこの制作会社のビデオに、数えきれないほど出ています。顔や姿を出していないときでも、縛り係としてスタッフの一員になっています。
 これから先の、私の縄に対する彼女の、新鮮で初々しく、正直でエロティックなさまざまな反応を、ここに一つ一つ書きたいのですが、私にはその表現能力がありません。
 直接映像をみて、彼女のすばらしい反応の表情と、姿体と、声の悩ましさを楽しんでください。まあ、緊縛リアリズムの極致といっても、過言ではないでしょう。作られたものは一秒間もありません。
 撮影の途中の休憩のときに、川村監督が私にいった言葉のなかに、私にとって非常にうれしい内容のものがありました。
 「どうですか、監督、こんな進行のぐあいでいいですか?」
 という私の問いに対して、
 「いやあ、おもしろいです。先生の動きに対して、彼女がどんな快楽の反応をするか、ぜんぜん予想のつかないところがおもしろいです。意外性があります。カメラをまわしても、つぎは彼女がどんなにいい表情をみせて全身を反応させるか、ドキドキするほどおもしろいです」
 と、監督は目を輝かしていってくれたのです。
 「ありきたりの通俗SMストーリーを作らなくとも、彼女の心と肉体の中に凄いドラマ性があることがわかりますよね。縄の快楽に溺れる彼女の心と肉体そのものがドラマなんですよ。これだけ素直に自分を解放して、感じるままに快楽に浸ってくれると、彼女を撮っているだけで、真実の魂を描く人間ドラマの映像になるような気がします」
 と、私も調子にのっていいました。
 すると監督は、ますますうれしそうな顔になって、
 「おっしゃるとおりです、先生。どんなにうまく作られたドラマよりも、ドラマチックですね。なんだか、ふるえるような感動がありますね。縄一本だけで、こんなに凄い快楽を与えられるなんて、奇想天外のドラマですよ。ドキュメントなんですけど、ふつうのドキュメントとはちがう、彼女の個性をひきだして表現させてしまう、濡木先生の芸の力を感じます」
 監督はもっと私のことをほめてくれたのだが、それをここに書くのは恥ずかしいのでやめよう。
 やや長い休憩ののち、プロジューサーの指示で、つぎは全裸にして縛ってくれという。衣裳をぬぐことにさほどのためらいもなく、羞恥もみせない。やはりいまどきの女の子である。
 「こんなにたくさんの男が見ている前で裸になって、恥ずかしくないのか」
 ときくと、
 「恥ずかしいです」
 と、こたえる。色の白い、シミ一つない光るような清潔な裸身に、スタッフの間から、「きれいだなあ」という感嘆の声が上がる。お尻の形が若々しくもっこりと盛り上がっている。首すじがほっそりしていて長く、肩までなだらかに美しい線をみせている。
 プロポーションのいい裸を見慣れているスタッフの男たちが「きれいだなあ」などという声を発するのは、きわめてめずらしいことである。
 だが、肩から腕にかけての肉づきが、やや太い。太いだけでなく、さわってみると筋肉質で固い。腕フェチの私は、女の腕の形や質感にうるさい。
 「なにかスポーツをやっていたね?水泳?」
 と、きくと、高校時代アイススケートの選手だったという。水泳をやっていたというのだったら困るけど、アイススケートだったら大丈夫だろうと思ったが、そうでないことがだんだんわかってきた。
 後ろ手にぎっちり縛り、縄尻を長くして高い位置にとめる。後半はこのポーズが多くなる。二の腕にかけた縄が、自分の体の重みで強く食いこみ、次第にがまんできなくなる。
 「あ、痛い、痛い!」
 と、小さな悲鳴をあげる。適度の苦痛はもちろん被虐の快楽となるが、度を越すと快楽は消え、苦痛のみの感覚になる。縄好き女性たちの苦痛の感じ方は、10人いれば10人ともちがう。それぞれに個性がある。見た目は同じだが、微妙な差がある。
 私はつねに相手の苦痛を測りながら、痛くないように縄をかける。(こんなサディストがあるものか。私はサディスト失格である)
 スポーツで太くなった腕が痛みに対して弱くなるというのは、私は理屈ではわからないが、長いあいだ数多くこういう仕事をやってきたので、経験で知っている。水泳選手だったという女性に多い。だから私は、水泳をやっていたという肩幅の広い、肉の厚い女性は好まない。
 だが、アイススケートをやると、どうして腕の肉が固くなるのか。あれは腕を使わないスポーツのはずではないか。私にはわからなかった。
 ところが、偶然にきょう、朝食をたべながらテレビをみていて、その疑問がとけた。スノーボードの選手だった女性が、トーク番組に出演していた。やはり肩から腕が異様に太く、固くなっていて、その理由を説明していたのだ。
 なぜかというと、スタートのとき、早く前に出たいために、腕をまげ、全身を緊張させる、その姿勢をくり返して練習する。そのために腕が太くなり、固くなるという。
 なるほどね、そんなこともあるのかね、ときょうになって疑問がとけた。だが彼女を縛ったのはきのうのことなので、腕を痛がる理由が、まだ私にはわかっていない。
 二の腕に負担のかかる吊りが、後半多くなる。
 「腕に縄を触れさせないで後ろ手に縛る掛け方があるから、それをやろう」
 と私はいい、縄を彼女の背後の手首から、腋の下へくぐらせ、胸にまわしての後ろ手縛りをやった。もう腕が痛いとは言わせない。
 わからないものだ。この美少女の、縄による性感帯は、腋の下から胸にかけて、たっぷりとひそんでいたのだ。その手順で縛り終えると、
 「アア、気持ちいい、気持ちいい!」
 と小さくさけび、両膝を折ってまたしても失神しそうになった。倒れるとあぶない。だが、このときはすでに縄尻を天井に近い梁に結びつけてあるので、倒れてしまうことはない。足を床につけたまま、彼女はぶらりと吊り下がる。
 彼女の裸身の美しさを誇張したポーズで宙吊りにする。私までが見惚れる、形のいい、そしてエロティックな宙吊りポーズになった。最後に両腕に縄をかけて形を整える。ただ巻きつけただけの縄なので、食いこむことはない。
 見た目にはきびしい、凄惨な宙吊りだが、当人には苦痛はない。全くないということはないだろうが、苦痛はすくないはずである。
 いま彼女にあるのは快感だけだろう、と私は観察する。
 あまりにも美しい、みごとな宙吊りの情景に私は恍惚となり、仕事を忘れて眺めつづける(自画自賛とはこのことだ)。川村監督は吊られている彼女の体の真下にもぐりこみ、背中を床につけて、あおむけになって、彼女の快楽にまみれた陶酔の表情、食いこむ縄に悶えくねる全身のエロティシズムを撮りまくっている。
 彼女は「気持ちいい、気持ちいい」と低い声であえぎつづけ、宙に吊られた若い裸身は、ますます白く輝いて光を放つ。

 ウーン……。どうしたことか。
 彼女を縛って気持ちよくさせる描写を、こんなふうに書いているうちに、だんだんつまらなくなってきた。気がのらなくなってきた。なぜだろう?私は執筆の手を休める。
 なぜだかわからない。飽きてきたのかな。疲れたのかな。頭も体も疲れたのかな。
 いくらこまかく描写しても、どうもうまく読者に伝わらないような気がする。川村監督が熱心に撮った映像があるんだから、映像をみてくれ、と言いたくなってしまう。そっちのほうが早い。ま、私の表現力の貧しさもあるのだろう。私は、私の描写力がもどかしい。

 「きみの目の前に、同じくらい好きな男の子が、二人いるとする」
 と、私は彼女にきいた。宙吊りを始める前だったか、後だったか。
 「はい。コピーしたように同じ男の子ね?」
 と、彼女はちょっと気のきいた返事をした。
 「一人はセックスがうまい男の子。もう一人は、セックスができなくて、つまりインポで、だけど縛りが妙にうまい男の子。一人だけを選ぶとすると、きみはどっちを選ぶ?」
 この質問の前に、私は彼女に、ノーマルなセックスは好きか、ときいている。
 「好きです」と彼女は明快にこたえている。
 ウーン、どっちかなあ、と彼女はちょっと考え、
 「縛りのうまい男の子のほうを選びます」
 可愛らしく微笑していった。私への媚びかな、お世辞かな、とも思ったが、そうでもないらしい。
 媚びといえば、カメラをかまえている監督に、自由に撮ってもらうために、わざと彼女から遠く離れるときがある。つまり、カメラのアングルの中から、私の体を外へ出してしまう。すると彼女は、自分の視界からはずれた私の姿を、目で探すのだ。
 スタジオの隅の暗い場所に立っている私の姿をみつけると、安心したような、うれしそうな表情を一瞬うかべるのだ(でもこれは私のうぬぼれだろうなあ。錯覚だろうなあ)。
 「どうしてこんなに縛られることが好きになったの?自分で、何が原因だかわかる?」
 私はこの質問を、縄好きの女性に対して、撮影の現場で、かならずきいている。だが、明確に答えた女性は、一人もいない。ほとんどが、しばらく考えてから、
 「ワカンナーイ」
 と答える。本当にわからないのだと思う。私自身が、自分の縄好き(私は縄を掛けるほうだが)の原因がどこにあるのか、全くわからない。私がこんな縄フェチの男になってしまったその原因に、正直、心当たりはないし、理由もわからない。遺伝子ではないかと思うこともあるが、これもはっきりした証拠がない。調べようもない。
 「縄で縛られてみたいという欲望みたいなのは、いくつ位のときからあったの?」
 という私の質問に、彼女は、
 「ウーン、小学生のころからかなあ」
 と、答える。
 「幼稚園のころにもう、快感とまではいかなくても、体をしめつけられると、なんだか気持ちがよかった、という女の子がいるよ。おれの前に現われる女の子は、そういうのが結構多いんだ」
 というと、まじめに考える顔になって、
 「ウーン、そういえば、私も幼稚園のころからかなあ」
 という。ことわっておくが、彼女は明晰な頭脳をもち(某有名大学の経済学部の学生である)一般常識をわきまえた美少女である。暗い陰のようなものはすこしもない。

 宙吊りから下ろすと、快楽にまみれて失神した肉体を、そのままコンクリートの床にねかせておく。後ろ手の縄は解いた。
 すこし休ませて意識をとりもどしたとき、私は彼女の太腿のあいだに、縄を一本くぐらせた。彼女は横になったままである。彼女の右手に縄を握らせ、後ろのお尻のほうに出した縄の端を、左手に握らせた。
 そして、この縄を自分の手でしごいてごらん、そう、前後に動かすんだ、といった。これは、私が初めてやる演出だった。
 彼女は、素直に、忠実に、私に言われたとおり、その「縄自慰」をやった。ザラザラした麻縄で、敏感な股間の部分を、前後にこすった。私は彼女の目の前で、その縄にコブを三個つくり、わざと見せた。これも私の演出だった。
 彼女はたちまち低くおさえた快楽の声をあげ、若い尻を悩ましく悶えさせた。
 「アア、気持ちいい、気持ちいい!」
 ヒクッ、ヒクッと下半身をけいれんさせ、尻の肉をすこし硬直させると、すぐにイッた。私は彼女の表情を注意ぶかく観察していたので、彼女がこの「縄自慰」によって快感のクライマックスに達していることは、はっきりとわかった。
 私はしつこくそれをくり返させた。彼女は私の命令どおりに左右の手を動かし、声をおさえながら、何度もイッた。なんという素直な女の子なんだろう、と私は思い、熱くこみあげてくるものがあった。
 「あとでその縄をあげるからね」
 と、私は彼女の耳にささやいた。
 それからすこしの休憩ののち、ラストの「浣腸」シーンに移り、彼女の初々しい反応によって、私は貴重な体験をするのだが、そのときの感動は、次回に書くことにする。

つづく

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