2010.5.28
 濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第百二十八回

 シリーズ・2「人質」台本


 濡木痴夢男・作「可愛さ余ってシリーズ・2」の映像台本を、いきなり、ここに発表させていただく。
 この台本による映像は、順調にいけば、いまから十五日後に撮影することになる。

登場人物冬子
その姉・夏子
悪い男

 はじめに――。
 全体の照明を、あくまでもうす暗いものにしよう。
 人物の表情も、全体像も、終始ぼんやりとうす暗いトーンにする。そのうす暗さが、この作品のテーマである。
 ときには、見る者をイライラさせるほどうす暗い画面。
 プロを自称するカメラマンたちの、通俗、そして低俗なライティングを、私は拒否したい。
 ヒロインの表情までもうす暗い。ことさらに美しく撮る必要はない。うす暗いことが、見る人間たちのイメージ力を豊饒に喚起させることを、私は知っている。見たくても見えないことが、見る者を欲情させる。
 このドラマのシチュエーションに沿って、あくまでもうす暗い照明で、リアルな、ナチュラルなムードの映像をつくりあげよう。
 そらぞらしく明かるい類型的な照明が、いかに見る者をシラケさせるか、私はイヤになるほど知っている。

1、空きビルの階段。
白布で目かくしをされ、同じ布でさるぐつわをされ、左右の手首を縄で前手縛りにされた女・冬子が、その縄尻を男に取られ、せまい階段を、無理やり引きずられ、上がってくる。
この悪い男は、濡木痴夢男がやる。まあ、地のままみたいなもの(笑)である。
目がみえない、口もきけない冬子は、階段の途中でおそろしさに足をすくませ、動くことができない。
男「どうした、もうすこしだ、歩け」
冬子を縛った縄尻を引く。
手首を引かれ、冬子、恐怖に首を左右にふる。ぶるぶるふるえている。
男「もうすこしだ、上がれ。上へあがったら目かくしだけは解いてやる」
男、冬子の髪の毛をわしづかみにして、むりやり階段を上らせる。
引きずられて、すこしずつ足を動かす冬子。恐怖と苦痛のうめき声。
(注)スタジオの階段は白く清潔なので、束ねた古雑誌などを置いて、雑然とした感じを出すこと。
また、男は画面に手と足だけを出すようにして、顔はなるべく写さないこと。
観客の関心は、あくまでも、捕われている女にある。男の顔なんか出すと、観客の興味は半減する。
いま女を捕えて引きずっているのは濡木ではなく、観客自身であると錯覚させるような撮り方ができれば、最高である。

2、階段の入口。そしてその中。
階段を上りきって、ようやく部屋の入口にたどりつく男と女。
どこかの空きビルの一室で、ガランとした部屋である。
目と口をふさがれたままなので、不安の表情でおびえる女。両手首はまだ縛られたままである。
女「ウ、ウウウ、ウウ……」
と、うめく。
男「目かくしだけは、はずしてやろう」
白布の目かくしをはずす。
このとき、さるぐつわの布がゆるんでいることに気づき、ここでさるぐつわをかけなおす。
丸めた布をいくつも女の口の中にねじこみ、その上から、噛ませのさるぐつわで、ぎっちりとおさえこむ。
(本格さるぐつわの魅力を、ここでていねいに、たっぷりと見せる)

男「ここまできたら、お前はもう逃げられない。ここを知っている者は、だれもいない」
見知らぬ室内を、不安と恐怖の目で見まわす女。
男「もうあきらめろ、冬子。お前は、おれと一緒になるんだ。結婚してくれなんて言わない。おれと一緒に暮らしてくれればいいんだ。おれは毎日お前の顔をみて暮らしたい」
女、首を横にふる。怒りと憎悪の目。
男「お前は、おれが嫌いか?」
女「ウン」とうなずく。
男「どうしても好きになれないのか」
女、怒りの目で、ウンとうなずく。
男「そうか、仕方がないな。それじゃ、あれを見ろ」
男が指さす片隅に、粗末なベッドが一台、置いてある。
ベッドの上に、うすい布団が、人間がねている形に盛り上がっている。
盛り上がったまま、もぞもぞと動く布団。
それをみつめる女の不安と恐怖の目。
男、ベッドのそばへ寄り、その布団をすこしずつまくりあげる。
と――
布団の下には、後ろ手に縛られてさるぐつわを噛まされた一人の女が横たわり悶えている。
この女は、冬子の姉の夏子なのである。
男「よく見ろ」
冬子、目をこらして、じいっと夏子をみる。さるぐつわをされているので、人相がよくわからないが、やがて姉だということがわかる。
冬子「ムム、ムムッ!」
と、驚愕の声をあげる。
男「そうだ。お前の姉さんの夏子だ。きのうここへ誘拐してきたんだ」
冬子「ムムッ、ムムムッ!」
男「お前たちきょうだいの母親は、お前が小さいうちに病気で死んだ。あの姉さんが、母親代わりになってお前を育てた。だからあの姉さんはお前の母親と同じだ。お前がおれの言うことをきけば、この女だけはゆるしてやる。どうだ」
男、夏子の体を起こす。
夏子、泣きながら、男に何か訴える。
さるぐつわのために、声が出ない。
男、夏子の口に、耳を寄せる。
男「(うなずいて)なんだと? トイレへ行かせてくれ? そうか。このベッドの上でしょんべんもらされても困るからな」
男、夏子をベッドから下ろし、縄尻をつかんでトイレへ引き立てる。
後ろ手に縛られたまま歩かされる、みじめな夏子の姿。
それを悲痛な目で見る哀れな妹・冬子。

3、トイレの前。
男と夏子、トイレの前へくる。
トイレのドア、こわれている(あのスタジオのトイレのドアは、本当にこわれている)。
男「このトイレのドアはこわれているんだ。こんなところでしょんべんするのは恥ずかしいだろう。そうだ、どうせだったら部屋の中でやれ」
男、夏子をふたたび部屋の中へ引き立ててくる。
縄尻を高い位置に吊り止めて、夏子をつまさき立ちの立ったままの姿で固定する。
男「そこでしろ。立ったまま、縛られたままでしょんべんするんだ。パンツをはいたままでやれ。おれと妹の前でやれ!」
夏子、首を横にふり、悲しげな目で哀願し、うめく。
男、ニタニタと非情な笑顔。そして冬子に言う。
男「いいか、冬子、お前がおれのいうことをきかないと、お姉さんはいつまでもこうやって責められることになるんだぞ」
男、細いムチの先で、夏子の体のあちこちを突きなぶり、いやらしく排尿をうながす。悶える夏子、ついにたまりかね、パンツをはいたままで失禁する。
それを見た男、バケツと雑巾を持ってきて冬子の前へ置く。
男「お前の姉さんが汚したところを拭け。掃除しろ」
冬子、両手首を前で縛られたままの姿で、姉が汚した床を雑巾で拭く。そのみじめな痛々しい姿。
男、冬子の前手縛りをいったん解く。
男「こんどは後ろ手に縛ってやる。手を背中にまわせ」
冬子、首を横にふって抵抗する。
男「いやだと言うのなら、姉さんをまた責めるぞ」
ふたたび細いムチで、夏子の体のあちこちをいやらしく突く。哀れにもがく夏子。
それを見て冬子、くやしさに悶えながら、両手を背中にまわす。
男「もっと高く手首を上げろ。もっと高く、もっと高く、もっと高く上げろ!」
男、舌なめずりする気持ちで、冬子の両手をゆっくりと縄で縛りあげていく。激しく過酷な後ろ手高手小手。
ここはクライマックスともいうべき見せ場なので、ていねいに、こまかく撮ること。
後ろ手高手小手にぎっちり縛りあげた冬子を、夏子と並べて立たせ、縄尻を高い位置に吊って固定する。
そして、夏子の左足と、冬子の右足を、縄で一つに縛り合わせる。
姉妹の膝上と、足首あたりに縄を巻き、その間に太いロウソクをはさむ。
(ロウソクの色は、かならず白。赤いロウソクは不自然である、低俗なAV風になるので使わないこと)
ロウソクに、火をつける。
恐怖の姉妹。
男はもはや、冬子を自分のものにすることよりも、この姉妹を責めることに夢中になり、没頭している。
やがて、ロウ涙がポタポタと、二人の足の指のあたりへしたたり落ちる。
悶える姉妹の姿体。それをていねいに、マニアックに撮る。
室内の照明、しだいに暗くなり、やがて、姉妹の足の間で燃えるロウソクの妖しい炎のみになる。
「つづく」という文字が画面に出て、終わる。

 企画 中原るつ
 演出 山之内幸
 撮影 KEI、山芽史図
 台本 濡木痴夢男
 出演 沢戸冬木、霞紫苑、濡木痴夢男

 以上のようなストーリーである。
 ストーリーというより、シチュエーションといったほうが正確かもしれない。
 こういう設定のもとに、縛り、あるいは責めを展開させ、進行の雰囲気に合わせて変え、発展させていく。
 途中で、布のさるぐつわは自然にゆるむ。これまでの経験で、かならずゆるむ。
 そのたびに、さるぐつわをかけなおす。
 その、さるぐつわかけ直しシーンも、きちんと撮影すること。
(こういうシーンこそ刺激的で、マニアチックでおもしろいのだ)
 あらためて断ることもないと思うが、女性の下半身は露出しない。下着は見せる。
 もちろん、バイブなどは絶対に使わない。
 男(濡木)は、つねにほの暗い照明の中に影のように怪しくうごめき、前面には出てこない。
 男の全身像が前面に出てくると、とたんに通俗的SM映像になるので、よくよく注意すること。
 タイトルは仮りに「人質」としておいたが、プランナー、ディレクター両氏の意見がききたい。

*       *       *

 追記。
 この台本を、演出の山之内幸氏にFAXで送り、読んでもらった。すると、すぐに、つぎのような返事があった。
 演出家の意気込みがわかる。せっかくなので、ここに紹介させていただく。

 濡木先生へ。
「人質」……いいタイトルだと思います。
 漢字2文字で、すっきりと、かっこいいです。追いつめられた姉妹の感情の変化がうまく表現できると、非常にいい作品になると思います。
 こんな凄いの見たことないよ、という位の出来上がりにしたいですね。
 さきほどカメラのKEIさんと打ち合わせしまして、ライティングのおもしろいアイディアなどがでましたので、当日試してみたいと思います。
 いま商品化されている映像には"ない"作品になる予感があります。
 KEIさんも、濡木先生のイメージに近づけたいと言っておりました。私は、姉のもらしたおしっこをふく妹が、かわいそうでなりません……。みじめすぎます。このシーンをうまく演出したいと思います。
 始まりのシーンで、姉がベッドの中でもぞもぞ動いているのもいいですね。ビデオカメラはここのところ、よく考えて撮らないと……考えます。

 さらに追記。(中原るつ氏へ濡木より)
 こんどの撮影も、私は例によって「縄師」と称する男がモデルを型どおりに縛って責めて、時間がきたら縄を解いて「終わり」にしようという、もはやマンネリの極致ともいうべきなりゆきでいこうと、安易に考えておりました。じつをいうと、それがいちばん楽だからです。
 それをあなたに、
「いま緊縛マニアの欲求に応えられる映像を作ることができる人は、先生しかいないではありませんか。いまこそ、いつも語り合っている、きびしい緊縛ドラマを作るべきです。なまけてはいけません」
 と言われ、ときには叱咤激励されて、こういう台本ができあがった。
「いまこそドラマを作るときだ」
 と、くり返して私を説得し、刺激してくださった中原氏の存在が、私にこの台本を書かせたのである。
 ごらんのように山之内幸氏も張り切っておられる。撮影現場においても、積極的な助言をお願いします。

つづく

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