2011.5.20
 濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第百六十八回

 てるてる坊主とヒロミを並べて


 この「おしゃべり芝居」の前回のつづきとして、早乙女宏美緊縛写真集・2「木賊の庭」の撮影メモを記しておこうと思う。
 メモなので、思いつくままに、ヒントのようなものを、順不同に書きつらねていく。
 なので、実際の撮影時には、このメモにこだわらないで、自由に変えていくことになると思う。
 この前の撮影と同じように、こんども写真集のためだけの撮影であり、ビデオの動画ではない。
「おしゃべり芝居」前回の「夕日の部屋から木賊の庭へ」を読んだ中原るつプロデューサーが、さっそく、つぎのようなヒントを寄せてくれた。
 はじめに「てるてる坊主」のシーンを出したらどうか、というのである。
 うん、それはいいね、と私はすぐに賛成して、そのヒントをもとに、ファーストシーンを思い描いてみた。

 借金をしたままどこへ消えてしまったのか、ゆくえ不明になっている夫を待つ気持ちで、ヒロミが、庭に面した縁側で、てるてる坊主をつくっている。

「てるてる坊主」は、あした天気にしておくれ、という願いと、ふりつづく長い雨がやむように、祈りをこめて、家の軒下に吊るす素朴な人形だが、ヒロミの場合は、晴天への祈りと同時に、夫の帰りを待つ気持ちもある。

 すると、そこへ、金貸しの田丸が、庭からずうずうしく入ってくる。
 田丸、ヒロミの胸中の思いを察して、
「あんたの旦那が帰ってこないと、おれのほうも困るんだよ。なにしろ、百五十万という金を貸してあるんでね。旦那が早くもどってくるように、てるてる坊主をつくるのを手伝ってやるよ」
 ヒロミ、田丸の姿を見ると、本能的に逃げようとする。
 田丸、ぐいと、そのヒロミの手首をつかんで、
「おっと、あんたに逃げられたら、旦那のゆくえがまったくわからなくなってしまう。わるいけど、また動けないようにさせてもらうよ」
 田丸、縄を取り出し、心の中で舌なめずりしながら、ヒロミを後ろ手に縛りあげようとする。
「おねがいです、私は逃げませんから、もう縛らないでください」
 みじめな姿で哀願するヒロミ。
 田丸、ニタニタ笑いながら、ヒロミの両手首を背中へねじり上げていく。
(以上は庭に面した縁側でのシーン)
 田丸、縛りあげたヒロミを、縁側から部屋の中へ引きずっていく。
 ヒロミ、思わず抵抗し、
「たすけて、だれかたすけて!」
 と大声を出す。田丸、あわてて、
「おいおい、そんなに大きな声を出すんじゃないよ。近所の人にきかれたらどうするんだ」
 言いながら、ヒロミの口に手拭いでサルグツワをする。
 口の中にしっかりとつめものをして、二重三重のていねいなサルグツワ。
(前回は、柱に縛りつけてサルグツワをかけたが、今回は畳の上におさえつけ、這わせ、横倒しにしてのサルグツワ。うつぶせのポーズで悶えるヒロミ)
 田丸、ヒロミを縛った縄尻を、柱につなぐ。
 柱の前で、不安と恐怖にもがき、蛇のように全身をくねらせて逃げようとするヒロミ。
(畳の上のすわりポーズも数種撮る)
 そのうちに、柱につないだ縄尻がゆるみ、縛られたまま這って、玄関のほうへ逃げていくヒロミ。
 縄尻をつかんで、引き寄せようとする田丸。引きずられるヒロミの痛々しい姿。
 玄関に倒れこんだヒロミの顔の前に、汚れた靴など。屈辱にまみれるヒロミの表情。
(山之内邸の玄関は、あふれんばかりに生き生きした生活感があって、縛られた女体を配するのに絶好なので、数種撮りたい)

 軒下に、てるてる坊主と一緒に吊り下げられるサルグツワのヒロミ。
 素足、つまさき立ちの哀れな姿。
(宙吊りにはしない。宙吊りにする意味がない)
 このシーン、雨がふっていれば最高なのだが、ふらなくても、どんよりくもっている暗い雰囲気が出ればよい。
(白布でつくられたてるてる坊主と、ヒロミのサルグツワの手拭いの白さが、絶妙なバランスで、印象的なつながりを生ずるような気がする。ここはクライマックスであり、このストーリーの象徴的なシーンでもあるので、被虐の情感が横溢した、いい写真にしたい)

 この「てるてる坊主」シーンから、つづいて「木賊の庭」シーンに移りたい。
(てるてる坊主を吊り下げるすぐ近くに、木賊が密生している庭があるのだ)
 異様な形状をしたこの木賊の庭に、緊縛女体を配するとき、ヒロミの全身を、ずぶぬれにしておきたいというイメージが、中原プロデューサーにある。
 それはいいなあ、それができたら最高の被虐情感写真になる。木賊が凄く生きるぞ、いいぞ、やりたいなあ、と私はもちろん賛成した。
 生地のうすい下着のような服が、水にぬれて素肌にぴったりはりついたときのエロティシズムには、全裸になった女体よりも数段上の官能味がある。
(この文章を書きながら、私は早乙女宏美のそのシーンを、すぐさま細部まで思い浮かべることができる。その想像は、実際にそのシーンを見るときよりも、数倍エロティックなのである。フツーではない人間の、これが妄想力なのである。といっても、べつに自慢するつもりはない。要するに、これがアブ感覚というものであろう)

 しかし、雨の日だったらいいけど、雨のふっていないときに、女体だけびしょぬれというのはおかしい。
 ここで田丸が、いきなりヒロミに水責めを加えるのは不自然である。
 無意味なことは、したくない。
 さて、どうしたものか。
 考える。
 緊縛女体のあれこれを、ただ、だらだら並べただけの、あまり意味のない写真集はもうやめよう、と仲間たちで話し合って船出した「ともしび」なのだ。
 ここでいきなり、必然性もなく、安易な水責めなんか、やりたくない。
 私たちがつくるものは、物語性のある緊縛写真集、というこだわりを保ちつづけたい。

 山之内邸の浴室が、またすばらしい、あまり類を見ない情感情趣が漂う絶景なので、なにかの理由があって浴室の中で水責めをやり、そのままこの木賊の庭へ引きずってくるというストーリーをつくったら、必然的なつながりが生じるのではないか、とも考える。
 そのへんの展開は、また「ともしび」のみんなで楽しく語らいながら考え、いいアイデアを出し合おうではありませんか。

つづく

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