ともしび撮影第三回「水の感触」(中原・山之内の撮影現場での補足メモ)
★導入シーンに変化をつけたい。
・これまで撮った二回とは異なる、「水の感触」ならではの、スリリングで、不穏な始まりにしたい。
・物語の中での必然の縛り。三部作として連続するそれぞれの物語の特徴を明確に。人妻ヒロミと脅迫者田丸の双方の心のせめぎあいによって異なる表情・情感、その豊かなイメージ、ドラマチックで濃密な縄の物語を丁寧にじっくりと撮る。
★今回はお金を小道具に使わないことにしたい。
水責めが、田丸の「ただの怒り」ではなく、「自白の強要」という、しっかりした目的をもたせるために、今回の小道具は、ヒロミの夫からの手紙。
――シーン・1 家の外。
「水の感触」のはじまり。
「捕らわれる」「声を封じる」その瞬間。
これまでさまざまな表情で撮ってきた「捕らわれている」「声を封じられている」状況とはちがい、三作目は「その瞬間」の緊張感・スリルを撮ってみたい。
・買物から帰ってくるヒロミ。何もしらぬげに、ささやかな日常の雰囲気。
・物陰(プロパンガスのボンベの陰)で、ヒロミを待ち伏せしている田丸。
田丸はポストから勝手に手紙を入手している(それはヒロミの夫からの手紙である)。
・ぬっと出てくる田丸。
・ハッとするヒロミ。
・とっさに背を向けて逃げようとするヒロミ。
・その瞬間、ヒロミを羽交いじめにして(あるいは背を向けて逃げるヒロミの腕をつかみ)強引なハンドギャグ(捕らわれる瞬間)。
・そのままヒロミを、ドアまで引きずるようにして歩かせる。鍵をあけさせて家に入らなければならない。
・ヒロミに鍵をあけさせる。家の外でもあり、近所の人の目もあるので騒ぐこともできず、恐ろしさと嫌悪を押し殺し、神妙なヒロミ。
・このとき、田丸は必ずヒロミの腕(あるいは手首)を放さないこと。
縄で縛ってはいないけれど、ヒロミは心理的な脅迫で手を拘束されている。
「はい、どうぞ」
では、勿論ない。
「ねじあげる」
でもない。静かだけれど、その後を予感させる「手を握られる」という行為。
じわじわと、せまりくる恐怖のイメージ。
――シーン・2 家の中に入る。
二人が話し合うシーン。
その後の水責めへとつながる田丸の怒り、それを増幅させるヒロミの表情を、きちんと撮る。
・家の中に入ったとたんに、田丸の手をふりはらうヒロミ。
・ポストの中にあった夫からの手紙を手中にしている田丸(ヒロミはこのことをまだ知らない)。
そのヒロミの態度に怒り、柱まで引きずるようにして連れていき、縛り上げる田丸。
(今回は腕を柱の後ろに回す)
「夕日の部屋」のように、放置するためではない。
これからヒロミを脅迫する(夫の隠れ場所を白状させる)ための縛り。
(郵送されてきた封筒の裏に、夫の名前はあるが住所は書いていない)
縛ってなにかする、のではなく、縛ること、そのことが、ヒロミに白状を迫る責めであるような、むごたらしい雰囲気を出したい。
・持っていた手紙を出して、ちらつかせる田丸。おどろくヒロミ。
読まれたくない。たいせつな手紙。
取り返したい。そんな気持ちでもがくヒロミ。
・「強情な女だ」と田丸。
・田丸に対するヒロミのさげすみの目。
これまでのように「居場所を教えろ」と脅すだけならば、柱に縛りつけたまま、執拗にねちねちいじめるだけでもいい。
しかし、ここで田丸に「ただ脅す」だけではおさまらないほどの「怒り」が生まれる。自白させるために、
「もっと責めてやる!」(これが水責めになる)
と思わせるほどの、男に対するヒロミの冷ややかな軽蔑の目。
――シーン・3 風呂場(水責め)
ヒロミをじっくり監禁・幽閉するためでなく、水責めにするために引きずってくる場所である。
何をされるのか、恐怖とともに、田丸への怒り、夫の隠れ場所を守る決意とが、ないまぜになって、引きずられ、抵抗するヒロミ。
抵抗むなしく、蛇口に縄をつながれてしまうヒロミ。
「すなおに言わないから、こんなことになるんだ、早く白状しないと、もっとひどい目にあうぞ」
と、田丸の水責めがはじまる。
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