濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第二百一回
たくさんの御本、ありがとう
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濡木痴夢男先生。 大田黒明良
ご丁寧なお手紙と、自筆によるお原稿、ありがとうございました。
お送りいただいた五本の短いお原稿(台本)は、後日、集中しておちついて拝読させていただき、改めて私の感想を書かせていただきます。
ですが、一つだけ。
短いコント風の台本の中の一つ「海とキビダンゴ」は、桃太郎の話ですが、奇抜なアイディア、そして、皮肉とペーソスに満ちたラストは、まさしく「新青年」の昭和初期のコントを思わせます。
「食わせてくれなければ働かない」と言う三匹のお供の発言と、「鬼を退治すれば好き放題させてやる」と、後払い(?)を押し通そうとする桃太郎の態度。このやりとりは、まさに「新青年」系コントです!!
濡木先生からお送りいただいたこの生原稿は、私にとって最もうれしい「入社祝い」でした。
こんど入社した出版社は、社員が全10名(外部スタッフ、社長も含めて)の小企業ですが、濡木先生のおっしゃるとおり、
「利益ばかり追求する出版社が多い中、地味ながら読み応えのある本を出版する企業」
であり、私は数年前から入社を希望しておりました。
このたびの新規採用は1名でしたが、無事に採用が叶い、心から喜んでおります。
私個人の技術(出版人としてのキャリアも含め)などよりも、私の熱意を汲み、採用してくださった社長に感謝し、今後は粉骨砕身の一念をもって働かせていただき、頑張ります。
濡木先生にもご心配をおかけし、またご迷惑をおかけしましたが、私の夢の実現(「裏窓」の再評価、お色気探偵文学の復刻など)に、一歩前進できました。
そのうちお目にかかれる機会に恵まれましたら、さらにくわしく弊社の話をさせていただきたく存じます。
簡単な会社案内ですが、先日、韓国のメディアで紹介された弊社の記事を同封いたしましたので、まずは、そちらにてご確認ください。
オリジナルはハングル表記でしたが、翻訳ソフトで訳文を打ち出し、文章のおかしな点や書名は、自分で修正をしました。
出版案内のパンフレット、カタログは、社内用しかないため、そちらを別便にて送付いたします。
もし濡木先生がご入用の本がございましたら、ご連絡ください。タイトル、冊数によっては個人献本をさせていただきます。
濡木先生の私へのお手紙にありました大下宇陀児の単行本(これは社内保管在庫は第2巻目のものしかありません)と、「横溝正史探偵小説選II」をお送りいたします。この本の「解題」には、協力者として私の名前も記載されております。
それと、謎の訳者による古典ポルノ文学(全5冊で中絶)を一緒にお送りします。このシリーズは、私が社長に面識を得るキッカケとなった貴重な本です。
すべてかさばるハードカバーの本ばかりで恐縮ですが、ご笑納ください。
また別送の出版物リストと併せ、私が協力した当社の「ミステリ叢書」の「解題」のコピーもお送りしましたので、入社前にこんなつながりがあったのか、と思っていただけましたら、幸いです。
濡木先生が三十数年前にお会いなされました鹿野はるお先生の単行本(もちろん貸本屋上がりのものですが)1,500円から2,000円の値段で7冊ほど、マンガ専門の古本屋に出ておりました。
来月になったら月給が入るので、そうしたら、すぐに購入する予定です。うまく入手できましたら、是非とも、濡木先生に読んでいただきたく思います。
風俗資料館でまた濡木先生にお会いして、いろいろなお話をおたずねできる日を楽しみにしております。
「続・天狗のいたずら」のご執筆、大変なこととお察しいたしますが、頑張ってください。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。
以上が大田黒明良氏から新しくいただいた手紙だが、実際の内容はこの倍ほどのある。
この肉筆の書信と同時に、宅配便によって重量感のある新刊書籍が、どさりと私の仕事部屋の入口に届けられた。
まさしくハードカバーの分厚い立派な装丁の新しい本ばかりであった。
さらに、社内用とされている出版目録も送られてきた。
先日私が偶然に発見した新聞広告欄は、小さなスペースであり、限られた新刊案内しか紹介されてなかったが、全目録を拝見して想像以上の重厚で貴重な内容の書籍が、多岐の分野にわたって発刊されていることを知った。
小さな新聞広告だけを目にして、一社の内容を軽薄に憶測したことを私は深く恥じた。堂々たる業績を有する出版社であった。
と同時に、この編集部へ入ることのできた大田黒氏に改めて祝福の手紙を書き、送っていただいた立派な御本のお礼を申しのべた。
二、三日後、再び宅配便によって、ハードカバーの立派な新しい本が届けられた。
私が少年時代から私淑している作家、川口松太郎氏の「人情馬鹿物語」の正と続。
さらに別役実氏の戯作集「やってきたゴドー」である。三冊とも送られてきた出版目録の中にあった。
この三冊には、私には特別の思いがある。
私のこの「おしゃべり芝居」は、じつは、時に川口松太郎氏の「人情馬鹿物語」を下敷きにしているのだ。
そして私は少年のころ(つまり太平洋戦争の最中)、川口松太郎脚本による「若林中隊長」の芝居に出演しているのだ。
さらに戦後、川口松太郎えがく芝居の世界に心酔して、新派の舞台に通いつめた……。
別役実氏の作品群に触れたのは、もちろん戦後も数年たって、私が中年になってから以後のことだが、川口作品同様の情感(そうなのだ、私にとっては川口作品の世界同様、別役実の不条理劇も、また情緒、情感の世界なのですよ)に酔い痴れた。
つい先日、大田黒明良氏に進呈した私の短い台本「海とキビダンゴ」も、じつは、タネをあかせば、別役実が下敷きになっている。
そのへんのことを、もっとこまかく書きたいのだが、いまの私はどうしても「続・天狗のいたずら」に精神を集中させたいのだ。
(まだ書けないでいるのだ、ああ、なさけない!)
ずいぶんあちこちに無沙汰をしてしまっているが、どうか、どうか、ゆるしていただきたい。
ああ、それにしても私という人間は、どこへいっても、何をやっても、わがままである。
(つづく)
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