濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第六十三回
「凄惨美」をめざす
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ZOU監督へ。
「夢縄」へ出演してもらえそうな、すばらしいモデルをみつけました。
清田政子といいます。
年齢とか、容貌とか、プロポーションその他のことは、あえてここには書きません。
これから私の書く文章をお読みいただいて、監督がその気になられたら、当人に会ってやってください。
ご指定くだされば、私がその場所へ彼女を連れていきます。
どこがすばらしいかといえば、まず彼女のモデルっぽくないところです。
(AVとか、そういう映像に出ておりません。そこがいいのです)
一般的にいえば、地味な感じの女性です。
押しつけがましいところは一切感じられません。
地味ですが、「M」のオーラが全身から滲み出しています。このオーラが、ホンモノなのです。
いまはメイクのテクニックが発達したおかげで、AV系の映像に出演する女の子たちは、一応は可愛らしく、美しいのですが、顔をいじられ、作られてしまっているので、どれもこれも、あまりにも類型的になっています。
画一的で、個性に乏しい。
オーバーにいえば、人形みたいな感じです。
こってりとメイクされたモデルは、表面的には美しいし、可愛らしいのですが、なまなましい女の匂いが感じられない。
「心」までが化粧品にぬりたくられてしまって、人間の匂いが感じられない。
清田政子には形だけ豊満な一般的なモデルにはない淫靡な女の官能味があります。小柄な肉体の中に青白く燃える陰火のように。
私が後ろ手に縛りあげると、彼女の被虐エロティシズムは、さらに暗い陰惨な輝きを放ちます。
表面だけではなく、女の肉体の芯から燃える被虐快楽の情念。それを生かしたい。
ホンモノの緊縛マニアが久しく待ち望んでいた官能被虐美の、演技でも誇張でもない真の姿がここにあると私は信じます。
彼女を強引にくどいて、この台本(これから台本みたいな、製作メモみたいなものを書きます)を読んでもらい、納得してもらいます。
彼女を説得する自信が私にあります。
のちの世のマニアたちの口の端に語り継がれるような緊縛ビデオドラマを、彼女の出演で作りたいのです。
ドラマといっても、ストーリーはきわめて単純です。
単純明快な話にして夾雑物は排除したいのです。
そのほうが緊縛シーンに力を入れられます。
彼女が扮した人妻を私が誘拐し、縛りまくる男を演じます。
男は、
「おれの女になれ!」
と言って偏執的に何度も縛り、責めまくります。
前回の「夢縄」とちがって、こんどはドラマですから、縄のテクニックなどは二の次ぎにして、政子扮する人妻への邪恋に狂った男を、私はリアルに演じます。
緊縛美の心構えを維持しつつも、残酷にして凄惨な迫力、暴力的な縄さばきをお見せいたしましょう。
緊縛美という言葉を作り、緊縛美を看板にしてきた濡木痴夢男が、こんなに激しい凄惨な縛りができるのかと、私を知るマニアたちが唖然となり、慄然とするようなものをご覧にいれましょう。
私は政子を相手に、縛って縛って縛って縛って縛りぬきます。
こんどこそ、緊縛マニアたちを、
(凄い!)
と、うならせます。
濡木痴夢男には、こういう縄もあるんだ、よく見ておけ!
誘拐してきた人妻を、十日間、縛り、責めつづけるという内容です。
(もちろん撮影は一日で終了させます)
その内容を、つぎにシナリオふうに書いてみます。
「人妻監禁十日間」
――その一日目。(監禁一日目という文字)
誘拐してきた人妻を、後ろ手に縛りあげている男(私つまり濡木痴夢男)。
人妻はすでに手拭いで目かくしをされ、口にはきびしいサルグツワを噛まされているので、おびえていて抵抗できない。
目かくしもサルグツワも、強烈なリアルな掛け方をすれば、それ自体が「責め」になることはご承知のとおりです。
また、政子の顔をはっきりと出さない、という狙いもあります。
(彼女は日常はごくふつうの企業につとめるOLなので、はっきりと顔を出せないのです)
カメラの前にはっきりと顔を出さないということは、けっしてマイナスにはなりません。
やたらにカメラに顔を向けさせて、モデルの美しさや可愛らしさを見せようとする映像は、リアリティを失って、マニアの興味を逆に殺ぐことになります。
「こんなにきれいな女が縛られているんだぞ、どうだ、凄いだろう!」
などと宣伝されても、そんなことでおどろくような単純なマニアはいまどきいません。
(清田政子は美人です。これはZOU監督が会えばひと目でわかります)
さて第一日目は、監禁した人妻を、男が舌なめずりしながら嗜虐的な思いをこめて、じっくりと後ろ手に縛りあげていくところを撮ります。
サルグツワがゆるんでないかどうか、ここで改めて白布でサルグツワをゆっくりとかけなおします。
人妻がはいていたストッキングなんかを剥ぎ取り、丸めて口の中にぎゅうぎゅう、ぐいぐい押しこむシーンなどを、ていねいに撮ります。
そして、人妻を蹴り倒して寝かせます。
横になった人妻の無抵抗な体を、男は嗜虐的に蹴ったり、踏んだり、足の裏でいやらしく撫でさすったりします。
――二日目。
柱を使った緊縛による放置責め。
両手両足を柱の後ろにまわして後ろ抱きに縛り、放置する残酷な責め。
柱がそのまま強烈な拘束拷問具となっている。
人妻は寸分も体を動かすことができない。
男はやや離れたところで、その人妻を眺めながら、サンドイッチなど食い、牛乳を飲んでいる。
――三日目。
このへんからすこしずつ人妻の着ているものをぬがしていく。
テーブルの上に人妻の体を縛って固定。
形を変えて凄惨なポーズを三、四種類ほどみせる。
男は椅子にすわって、雑誌なんかを読んでいる。
ときどき手をのばして、人妻の体を陰湿に責める。
このときの責め方に新しい工夫。
縛り方にも新しい工夫。
――四日目。
箝口具での責めのいろいろ。
布のサルグツワをはずしてボールギャグ。
竹筒を噛ませる。
割り箸による舌バサミ。
同時に、鼻孔責めなども加えようか。
要するに、顔面なぶりである。
この間にも、目かくしは取らない。
箝口具などのために、人相がよほど変わったときには、目かくしを取る。
(このとき人妻の目の恐怖と苦痛は、きっと効果的に撮れると思う)
――五日目。
着ているものを、さらに剥ぎ取っての残虐な縛り。
竹棒を数本使って、見た目に激しい竹棒責め。
たとえば、竹棒四本で人妻の首を囲い、首枷責めにして放置する。
このとき男は、人妻から離れて、何かべつのことをしている。
つまり、放置責めの雰囲気。
たとえば、人妻の陰惨な姿を背にして、男は折り紙で鶴を折っているとか。
ぜんぜんべつの、可愛らしいことをしていたほうがおもしろい。
――六日目。
白いタコ糸を使っての全身ぐるぐる巻き。
放置された人妻の体の上に、折り紙の鶴が乗っていたりして。
――七日目。
宙吊り責め。宙に浮いたままの姿で数ポーズ。
このときも男は、その人妻を背にして寝そべり、何か他のことをしている。要するに放置責め。
――八日目。
固いトゲトゲのある黒いシュロ縄を使った残酷縛り。このころになると人妻はかなり裸に近い状態。
柔肌を突き刺すシュロ縄の固いトゲ。
そして人妻は、声をあげ、全身をふるわせて泣き出す。このときは目かくしだけ。
泣きながら失禁したりする。
――九日目。
あぐら縛りから海老責めへと展開する過酷な拷問緊縛の描写。
ここまでくると、人妻は全裸に近い。
海老責めの形のままでの宙吊り。
その人妻の尻を、男は特製の尻打ち板で叩く。
――十日目。
男はゆっくりと人妻を宙吊りから下ろす。
そして海老責めにした縄を解く。
縄をすべて解かれ、自由になった人妻は、約三十秒間位、ぐったりして動かない。
男は解いた縄を一本一本束ね、整理している。
男に背をむけてぐったりしていた人妻、いきなりふりかえる。
人妻、立ちあがると、縄を片付けている男に飛びかかり、抱きつく。
そして、猛烈な勢いでキスをする。
人妻の目には涙。つまり、感謝の涙。
「あなた、ありがとう!とても気持ちよかったわ、ありがとう!」
人妻は男の妻であり、この十日間の出来事は、夫が妻への「愛撫」に専念した日々だったというのが、オチであり、ラストシーンなのですが、このオチはあっても無くてもよいと思います。ZOU監督のお心次第です。
と、まあ、大体こんなところですが、いざ撮影となれば、私は彼女の反応をみながら、もっとこまかく、変わった、そして大胆な責めをやるでしょう。
彼女の反応次第です。
私は「縄」だけの力で、政子を本当にいかせようと思っています。
AV系のSMビデオは、女を縛り終えたあとで、かならず男が女の性器に挿入します。
あるいは、バイブその他の性具を使い、モデルや女優のほうは、泣いたりわめいたり、大げさに悶えてのけぞったりします。
「縄」の力も「縛り」の力も、むなしい残骸となり果て、いつのまにか片隅に追いやられてしまいます。
「縛り係」の私は、なんのことはない、男にノーマルなファックをさせるための下働きにすぎません。
(下働きには下働きの快楽も、まあ、ありましたけど)
しかし、「縄」の力を信じる私は、「縄」だけで十分に、しかも激しい性的快楽を女性に与えることができるんだぞ、という事実を改めてまた示したいのです。
「雀百まで踊りを忘れず」あるいは「三つ子の魂百までも」
政子は、縄でオーガズムに達したことは、まだないと言いました。
私は政子を縛って縛って縛って縛りまくって、その縛りのテクニックだけで、いかせまくります。
政子よ。
おそらく私が政子をこのような形で縛ったり責めたりするのは、最初で、そして最後だろうと思う。
おたがいに、こういうチャンスは二度とないだろう。
だから、私が「人妻監禁十日間」などというような、こんな台本を書いたように、政子のほうからも、私に遠慮なくどんどん注文を出してもらいたい。
ああやってくれ、こうやってくれ、と。
でき得るかぎり、私はその注文に応じる。
ただし、怪我をさせるようなことはしたくない。
女の肌に傷をつけるようなことはしない。
そういうことは私は嫌いなのです。
血をみることも嫌いです。
じつをいうと、女性に痛い思いをさせることが嫌いなのです。
ですから、私の「縛り」は、どうしても「緊縛美」の方向にむかってしまいます。
この「緊縛美」に、「凄惨美」を加味したらどうなるか、というのが、こんどの私のテーマです。
政子という被虐味の濃厚な、残酷美を表現できそうな女性を発見したことをきっかけに、思いきり縛ってみようと思います。
ZOU監督。
おわかりいただけましたでしょうか。
それから、この政子が相手のときには、私はギャラはいりません。
(政子にはあげてください)
私は前回たくさんいただきました。もらい過ぎました。ですから今回はいりません。
前回のときに、今回の分までいただいたつもりでおります。本当です。
政子に会ってやってください。
と、私がいくらこんなに意気込んでも、かんじんの当人がこの台本を読んで、こんなのイヤ、私こんなのやりたくない、と言ったら、すべては消滅する、私の夢と消える。
(その可能性も、なくはない)
彼女はモデルを職業としている女性ではない。ごくふつうのOLである。
いざとなったらおじけづいて、イヤだと言うこともあり得る。
もしそうなったら、ZOU監督、ごめんなさい。
でもまあ、きっとうまく進行します。
五十年近く、こんな仕事をやってきた、これは私のカンです。
(つづく)
★以下、丸木さんからお寄せいただいたご感想をご本人の承諾を得て転載させていただきます。
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丸木さんからのcomment ★おしゃべり芝居第六十三回への感想★
2008年11月02日 22:36
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濡木さんの意気込みがひしひしと伝わってきます。きっとこれまでのビデオとは数段違った作品になるでしょう。
1日1日が無駄の無い研ぎ澄まされた映像になるでしょう。濡木さんの情念と坂田さんの情念が探り合い、せめぎあい、融合していく、そんな映像になるでしょう。
わたしの希望としては、さいごのおちは必須です。「花と蛇」のように良家の令夫人が非道な責めを受ける中でマゾに目覚めていくのではなく、責めたい男と責められたい女が、そのプレイの中でそれぞれの情念を表現し、お互いに受け入れていく、というのが私の好きな「縛り」なのです。体が精神を支配するのではあまりにも救いがありません。体も精神もお互いがお互いを必要とする対等なものだと思います。
そういう意味で最後にふたりが実は夫婦で、お互いを求めるのが理想です。
いろいろと私の好みを書いてしまいましたが、決してこの作品を規定しようとする意図はありません。濡木さんの作った10日間があまりにも私の琴線にふれたので、つい余分なことまで書いてしまいました。
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★丸木さん、ありがとうございました。
皆様もお読みになったご感想など、是非お気軽にお寄せください。
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