2009.5.8
 濡木痴夢男のおしゃべり芝居 第八十一回

 KさんとLさんへ


 いい気持ちになって、若いころ、というより少年時代の思い出話をぐだぐだ書いていると、目と鼻の先に、また刺激的な新しい出来事が、さまざまな形で現われる。
 その出来事のなかには、いま記録しておかねばならないこともあって、せっかくいい気分で浸っている懐古話を中断しなければならなくなる。
 この「おしゃべり芝居」と並行して書いている「緊縛ナイショ話」のほうも読んでくださっている方にはおわかりと思うが、「ナイショ話」の私も、いま緊美研の再開で、やたらにいそがしいことになっている。
 思い出話というのは、つまり、いってみれば「ご隠居」仕事なのであろう。
 貧乏ひまなしの私には、なかなか「ご隠居」という結構な身分になることができない。
 とはいうものの、連載している話が、毎回のようにあちこち飛んでいては、一冊の本にするとき、まとまりがなくて、どうなることやらと心配になる。
 私は、じつは長編小説を執筆しているつもりで、この「おしゃべり芝居」を書いているのです。
 と、ここまでが、今回の「前説」であります。
 つまり、六十数年前の福二郎時代の私をいったん置いておき、再び、いま現在の話になるという、弁解であります。

 Rマネージャーからの電話。
「Kさんという方から、メールが入っています。濡木先生からの返事を必要とする内容のメールです。早く書いてください。こういうたいせつな読者からの返事は、できるだけ早く、確実にしなければいけません」
 と、かなりきびしい口調である。こわい。
 返事をしてもしなくても、どうでもいいようなメール、あるいは、返事のしようのないメールがきた場合、Rマネは私に何も言わない。
 返信を必要とするメールのときには、Rマネは私に、きびしく「書きなさい」と命令する。
「はい、わかりました。すぐ書きます」
 と、私は返事をする。
 そして、ただちに実行に移る。
「ナイショ話」のほうに、いま毎回連続して書いている、緊美研再開第一回目の文章も中断して、こんどはこの「おしゃべり芝居」の現在の話に移る。
 Kさんからのメールというのを要約すると、つぎのようになる。

 過日、某誌掲載のための写真撮影で、濡木先生に緊縛をして頂いたカップルのKです。
 濡木先生の緊縛美には驚きました。
 彼女が、あれほどまでに美しい表情を見せるとは……本当に美しかった、と今でも脳裏に焼き付いて離れません。
 彼女自身、画像を見ながら、緊縛の美しさと、自分自身の表情に驚いていました。
 本当に貴重な経験をさせて頂き、有難うございました。
 大したお礼も言えずに失礼したこと、お詫びいたします。この場を借りて、感謝を申し上げます。有難うございました。
 また、来月開催されるという緊美研の例会にもお誘いを頂き、有り難く思っております。
 都合上、来月は参加できませんが、翌月、翌々月に開催予定があれば、是非、二人で参加させて頂きたいと思っております。
 濡木先生のお縄を彼女の体に頂き、また、濡木先生の緊縛美、羞美心の縛りに魅せられた者として、是非ともお誘いを頂ければ幸いです。
 また、先日の写真撮影のときの雰囲気と、濡木先生について、HPで掲載させて頂きたいので、ご了承をお願いします。
 濡木先生の今後のご活躍をご祈念いたします。
 下記のURLが、私の運営しているサイトです。
 http://〜以下略〜

 K氏からのメールは、以上のようなものである。
「下記のURL……」というのが、パソコンを持たない私には、まったくわからない。
「サイト」というのも、わからない。
 数字と英文字が暗号のように横に並んでいるが、これももちろん私にはわからない。
 こういう暗号は、Rマネに「解読」してもらうより仕方がない。
 これから先は、K氏への返事である。私はいつものように原稿紙にペンで肉筆(自筆)の文字を一字一字書き、それをRマネが一字一字パソコンに移して先方に送ってくれる、という仕掛けです。Rマネよ、いつもいつもご苦労さま。感謝しています。

 Kさん。そして、KさんとカップルでおいでになったLさん。
 先日の撮影、お疲れさまでした。
 楽しい撮影の一日でした。
 あの出版社の撮影スタッフは、Aカメラマンをはじめとして、みなさん、いつもモデルに対して礼儀正しく、やさしく、親切なので、私は毎回気分よく、楽しく一緒に仕事をさせてもらっています。
 あなた方は、いい出版社のモデル募集に応じられました。
 ここだけの話ですが、ひどい出版社もあるのです。
 モデルにマゾ性があると知った場合、わざと乱暴な言葉を使い、乱暴に扱って、
「お前はマゾだから、こんなことをされるのが好きなんだろう」
 などと見当違いな言葉を投げかけます。
 そして、へとへとになるまで、モデルを酷使します。
 モデルがへとへとになるのと同じように、私の心もへとへとになります。
 どうして私が、そういう神経の疲れる撮影現場にも行くのか、というと、その理由はこれまでに何度か書いてきました。ですが、もう一度書きます。
 撮影開始前に、私が縄をかけているとき、そして縛り終えた直後の数秒間、すばらしい被虐の反応を、彼女たちは見せてくれるからです。
 それはまさしく私の好む羞恥心に充ちた緊縛美であり、私の心をうっとりと酔わせる被虐の官能美そのものの姿です。
 この私の気持ちは、先日初めて撮影現場を経験されたKさんも、よくおわかりのことと思います。
(ああいう現場の経験がないと、実際にはわかりにくいと思います。つまり、緊縛美が最も輝きを発するのは、女性が縛られていく過程と、そして縛り終えた直後にある、ということです)
 そのすばらしい数秒間の緊縛美、羞恥美を、たちまちのうちにぶちこわし、次第に拷問我慢大会にしていくのが、カメラマンをはじめとする撮影スタッフです。
 念のために申し添えますが、KさんとLさんが体験されたあの出版社のスタッフによる撮影は、いつの場合でも、そんなことはありません。
 あのスタッフは、残酷性よりも、常に官能美を追求しています。
 私が「いいなあ、きれいだなあ!」と感嘆するとき、彼らもまた「いいですねえ、きれいですねえ!」と感じてくれて、熱心に撮ってくれます。それは、KさんもLさんも実際に現場にいて、見ていたとおりです。
 たとえ途中から、見るに耐えない拷問我慢大会撮影になろうとも、私が最初に縛り、私が皮膚で感じた鮮烈な官能被虐美は、私の脳裏から消えません。
 私が楽しむ時間はごく短いのですが、それゆえに、強烈で甘美な味わいもあり、その快楽を味わいたいために、拷問我慢大会撮影とわかっていても、私は「縛り係」として、縄を背負って出掛けていくのです。
 これも縄マニアとしての業(ごう)というやつでしょうか。
 私のこの気持ち、わからない人には絶対わからないでしょうが、先日ご一緒して撮影体験されたKさんとLさんには、わかっていただけると思います。

 おや、私はまた、いつのまにか話を横道に外らしてしまった。
 Kさんへのご返事を書かねばなりません。
 その一。緊美研の例会は、毎月一度ずつやるつもりです。
 Kさんは今回の例会日にはごつごうがつかないとのこと。それでしたら、いまのうちに次回の例会参加を申し込んでおくことをおすすめします。
 こちらからお誘いすることはありません。
 すでに次回の例会への申し込みを、数人の方からいただいております。
 定員に達したら、その段階で、翌月まわしになります。早目に申し込まれたほうが確実です。
 私は解説しながらモデル女性を縛るだけの役目(ここでもやっぱり縛り係です)で、事務的なことは一切わかりません。
 あの可愛らしいLさんとご一緒に、ぜひ例会へおいでください。
 新鮮でみずみずしいLさんを、例会の席上でまた縛ることができるかと思うと、いまから楽しみです。
 私の縄を受けて陶酔しているときのLさんの瞳の美しさは、プロのモデルにはない、また格別の味わいがありました。
 返事、その二。
 先日の出版社の写真撮影の体験記、どうぞ遠慮なくお書きください。
 私のことも、どうぞご自由にお書きください。私は過去六十年間、さまざまなところで、さまざまに書かれてきたので、何を書かれても平気です。書かれることも大切な仕事の一つです。なんにも書かれなくなったら、おしまいです。
 でも、なるべく、ほめて書いてください(笑)。
 人間、いくつになっても、ほめられるのはうれしいものです。
 Kさん、Lさん、緊美研の会場でまたお会いしましょう。お元気でいてください。

つづく

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